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39話
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お兄様は落ち込んでいたが、わたしが手をギュッと握りしめてごめんなさいと言うと、すぐに復活してわたしの頭を撫でてくれた。
「エリーゼ、これからはもっとお前との時間を増やすよ。いっぱい話そう」
お兄様は前回、あまりわたしと関わらなかった事を後悔しているみたいだ。
でもお兄様だって、忙しいお父様に放って置かれて、寮で過ごしていた。
お父様が自殺した後一人で頑張ろうとしていたのに、貴族派の残党と戦って死んだ。
なのにお兄様はお父様を恨みもせずに、わたし達親子三人がなんとか仲良くなれるようにしてくれている。
わたしは前回、何も期待しない事で自分を守ってきた。
死ぬ前、孤児院で出会った人たちのおかげで人と関わることをどんなに自分が欲していたか知った。
そして今は、先生達や孤児院の仲間達のおかげで生きていく楽しさを知った。
怒ることも泣くことも笑うことも出来るようになった。
次は前に進むこと。
そのためには殿下とお父様の関係も変えていかないといけない。
前回のことは今のことではない。
少しずつみんなが変わっていくように、出来事も違ってきている。
わたしも変わらないといけない。
「父上は、毒を飲んだふりを続けているので少しずつ体調が悪くなる演技をする予定なんだ。向こうはマリーナに記憶が戻っただけで他はまだ誰も記憶持ちはいない。
常に影に見張らせているので今の状況はわかっている」
殿下は一旦話を区切り、悩みながら
「ただ……君の誘拐計画がある。
それにのって君が誘拐されれば一気に貴族派を叩くことが出来る」
「殿下、わたしは反対したはずです」
お父様が慌てて殿下の話を遮った。
「エリーゼ、君が嫌なら誘拐計画を阻止する事は出来る。無理にとは言わない」
「………わたしは一度死んだ人間です。死ぬのは楽しいことではありませんが、普通の令嬢よりは平気だと思います。
誘拐されることで未来が守られるのであれば、わたしは喜んで囮になります。カイラやエレン、王族派を守りたい。
でもいいのですか?貴方のお祖父様やお母様を敵に回すのですよ?」
「僕はただの人形だよ。使えなくなれば捨てられる。彼らに僕への愛情なんてないんだ。僕も君達を守りたい」
「エリーゼ、わたし達は反対だ。
計画がうまく行かなければ君に何があるかわからない」
「お父様、お兄様、わたしを守って下さいね。信じております」
わたしはここぞとばかりに二人を見て目を潤ませた。
「……そんなことを言うな。反対できなくなる…」
お兄様は辛そうに顔を顰めて頷くしかなかった。
「出来るだけの準備をしておこう」
お父様は、覚悟を決めてくれた。
こうしてわたしの誘拐計画の情報を影が集めてくれた。
決行は後18日後。
東宮の月に一回行われるお茶会の日。
わたしのお茶に少量の毒を入れて体調を悪くする。
そこに使用人が駆けつけて医務室へ連れていく。
この時に誰かが付き添うこともあるので、医務室にはちゃんと連れて行き、そこに貴族派の医師を待機させる。
解毒を行いつつベッドに寝かせて、誰もいない一人になった隙にわたしを連れ去る予定らしい。
わたしにはいつも騎士さんが付いてくれている。
その騎士さんは、部屋の外で見守っている。
まさか医師が連れ去るとは誰も思わないから医師と二人で医務室にいても心配はしないだろう。
そしてわたしを連れ去り、その間に殿下のお祖父様であるニューベル公爵が、殿下にマリーナ様との婚約の打診をして無理矢理婚約させるらしい。
わたしは、誘拐されているのではなくて体調不良で静かな田舎で療養する事になったと殿下には伝えて、その間にマリーナ様との仲をより深くして行くらしい。
お父様達とは元々仲が悪い事は知られているので、適当な理由をつけて院長先生とわたしは姿を消しても大したことではないだろうと思われている。
院長先生は、孤児院に行っている時に襲って連れ去り、わたしと一緒にしばらくは監禁する事になっているみたい。
わたしと先生なんか攫ってもなにも得になる事はないと思うが、陛下と殿下の寵愛を受けていることを知っている者もいるので、その人達からすると邪魔なのかもしれない。
まあ、その人達はニューベル公爵と皇后様なのだが。
わたしを好いている殿下では利用しづらい。
マリーナ様と結婚すれば貴族派の力がさらに強固になり、ニューベル公爵の天下になる。
わたしを連れ去る計画を実行するのがハウエル公爵だ。
彼が失敗しても、裏で操っているニューベル公爵には関係ないと突っぱねる事が出来る。
ハウエル公爵が罪を被れば、ハウエル公爵の親戚一同をニューベル公爵が守ると約束を交わしているらしい。
そんな約束なんて、ハウエル公爵が処刑されれば、意味を持たないのに。
私利私欲のために人を犠牲にして、蹴落としあって彼らはそこまでして地位や権力、お金が欲しいのだろうか?
死んだらみんな骨になって土に還るのに。
地位も権力も死んだら持っておくことなんて出来ないのに、ほんと馬鹿だと思う。
多少のお金さえあれば、あとは生きることの楽しさを求めて生きた方が絶対に幸せなのに。
「エリーゼ、これからはもっとお前との時間を増やすよ。いっぱい話そう」
お兄様は前回、あまりわたしと関わらなかった事を後悔しているみたいだ。
でもお兄様だって、忙しいお父様に放って置かれて、寮で過ごしていた。
お父様が自殺した後一人で頑張ろうとしていたのに、貴族派の残党と戦って死んだ。
なのにお兄様はお父様を恨みもせずに、わたし達親子三人がなんとか仲良くなれるようにしてくれている。
わたしは前回、何も期待しない事で自分を守ってきた。
死ぬ前、孤児院で出会った人たちのおかげで人と関わることをどんなに自分が欲していたか知った。
そして今は、先生達や孤児院の仲間達のおかげで生きていく楽しさを知った。
怒ることも泣くことも笑うことも出来るようになった。
次は前に進むこと。
そのためには殿下とお父様の関係も変えていかないといけない。
前回のことは今のことではない。
少しずつみんなが変わっていくように、出来事も違ってきている。
わたしも変わらないといけない。
「父上は、毒を飲んだふりを続けているので少しずつ体調が悪くなる演技をする予定なんだ。向こうはマリーナに記憶が戻っただけで他はまだ誰も記憶持ちはいない。
常に影に見張らせているので今の状況はわかっている」
殿下は一旦話を区切り、悩みながら
「ただ……君の誘拐計画がある。
それにのって君が誘拐されれば一気に貴族派を叩くことが出来る」
「殿下、わたしは反対したはずです」
お父様が慌てて殿下の話を遮った。
「エリーゼ、君が嫌なら誘拐計画を阻止する事は出来る。無理にとは言わない」
「………わたしは一度死んだ人間です。死ぬのは楽しいことではありませんが、普通の令嬢よりは平気だと思います。
誘拐されることで未来が守られるのであれば、わたしは喜んで囮になります。カイラやエレン、王族派を守りたい。
でもいいのですか?貴方のお祖父様やお母様を敵に回すのですよ?」
「僕はただの人形だよ。使えなくなれば捨てられる。彼らに僕への愛情なんてないんだ。僕も君達を守りたい」
「エリーゼ、わたし達は反対だ。
計画がうまく行かなければ君に何があるかわからない」
「お父様、お兄様、わたしを守って下さいね。信じております」
わたしはここぞとばかりに二人を見て目を潤ませた。
「……そんなことを言うな。反対できなくなる…」
お兄様は辛そうに顔を顰めて頷くしかなかった。
「出来るだけの準備をしておこう」
お父様は、覚悟を決めてくれた。
こうしてわたしの誘拐計画の情報を影が集めてくれた。
決行は後18日後。
東宮の月に一回行われるお茶会の日。
わたしのお茶に少量の毒を入れて体調を悪くする。
そこに使用人が駆けつけて医務室へ連れていく。
この時に誰かが付き添うこともあるので、医務室にはちゃんと連れて行き、そこに貴族派の医師を待機させる。
解毒を行いつつベッドに寝かせて、誰もいない一人になった隙にわたしを連れ去る予定らしい。
わたしにはいつも騎士さんが付いてくれている。
その騎士さんは、部屋の外で見守っている。
まさか医師が連れ去るとは誰も思わないから医師と二人で医務室にいても心配はしないだろう。
そしてわたしを連れ去り、その間に殿下のお祖父様であるニューベル公爵が、殿下にマリーナ様との婚約の打診をして無理矢理婚約させるらしい。
わたしは、誘拐されているのではなくて体調不良で静かな田舎で療養する事になったと殿下には伝えて、その間にマリーナ様との仲をより深くして行くらしい。
お父様達とは元々仲が悪い事は知られているので、適当な理由をつけて院長先生とわたしは姿を消しても大したことではないだろうと思われている。
院長先生は、孤児院に行っている時に襲って連れ去り、わたしと一緒にしばらくは監禁する事になっているみたい。
わたしと先生なんか攫ってもなにも得になる事はないと思うが、陛下と殿下の寵愛を受けていることを知っている者もいるので、その人達からすると邪魔なのかもしれない。
まあ、その人達はニューベル公爵と皇后様なのだが。
わたしを好いている殿下では利用しづらい。
マリーナ様と結婚すれば貴族派の力がさらに強固になり、ニューベル公爵の天下になる。
わたしを連れ去る計画を実行するのがハウエル公爵だ。
彼が失敗しても、裏で操っているニューベル公爵には関係ないと突っぱねる事が出来る。
ハウエル公爵が罪を被れば、ハウエル公爵の親戚一同をニューベル公爵が守ると約束を交わしているらしい。
そんな約束なんて、ハウエル公爵が処刑されれば、意味を持たないのに。
私利私欲のために人を犠牲にして、蹴落としあって彼らはそこまでして地位や権力、お金が欲しいのだろうか?
死んだらみんな骨になって土に還るのに。
地位も権力も死んだら持っておくことなんて出来ないのに、ほんと馬鹿だと思う。
多少のお金さえあれば、あとは生きることの楽しさを求めて生きた方が絶対に幸せなのに。
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