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番外編 エリーゼとお父様編
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今日、わたしはブラッドの花嫁になる。
巻き戻ってからのわたしは感情を取り戻し、泣いて笑って怒って過ごしてきた。
大切な人たちがたくさん出来た。
愛する人も出来た。
ブラッドはわたしなんかより大人でかっこよくて優秀で、何より私の我儘を全て許してくれる。
わたしはどうしてもブラッドと暮らしたくて、公爵家を出ることにした。
今、ブラッドは男爵家を出て、お祖父様の持っている子爵の爵位を譲ってもらい形だけの貴族になった。
そう、形だけ。
暮らしは公爵家から貰う給金と小さな領地から入る少しのお金で暮らすことになる。
わたしは孤児院で過ごした経験から料理も掃除も洗濯も得意だ。
ユンやミリアもついて来ると言ってくれたが、我が家の収入では雇うのは難しいのでお断りした。
これからは小さな家で二人で暮らす。
ブラッドもわたしの提案に難しい顔をしたが、どうしても二人で暮らしたいという私の我儘を最後は聞いてくれた。
「ユン、ミリア、これからは友人としてお付き合いしてもらえると嬉しいのだけど」
わたしの提案に二人はしばらく悩んでいたが
「エリーゼ様がわたし達とこれからもお付き合いしてくださるなら喜んで!」
「友人になっても話し方は変えられませんがそれでよろしければずっとお友達としていさせてください」
「ありがとう、わたしはずっと二人に守られてきたの、公爵家を出てもたまには遊びに来るから。会えなくなるわけではないわ……泣かないで」
二人はわたしの結婚式のためウエディングドレスを着せてくれて、化粧をして髪を結ってくれた。
仕上がると私を見て二人はずっと泣き続けている。
「エリーゼ様……やはりわたし達は貴女について行きたいです」
「ありがとう、でもね、二人にも素敵な結婚をしてもらいたいの、だからずっと使用人でいて欲しくないの……公爵家に二人とも恋人がいるでしょう?幸せになって欲しいの」
「……ずっとずっとお友達ですよ?」
「約束するわ」
カチャッ。
控え室にそっとドアを開けて入ってきたのはお父様だった。
わたしも19歳になり大人になった。
お父様との関係も少しずつ変わり、今はぎこちないながらに話すことも出来る関係にはなった。
「エリーゼ……綺麗だ………前回は君の幸せになる姿を見ることが出来なかった。今回君のこんな綺麗な姿を見れてわたしはもう何も思い残すことはない…ありがとう生きてくれて…もうそれだけでわたしは十分だ…わたしはエリーゼを幸せにすることは出来なかった……でもこれからはブラッドと幸せになって欲しい。おめでとう……」
そう言ってお父様は部屋を去って行こうとした。
「お父様、待って!」
どうして?もうこれで会うことはないみたいに言うの?
わたしは自分が何度もお父様を捨てようとしたくせに、本当に離れてしまうと思った瞬間、お父様を引き止めてしまった。
お父様は振り向かなかった。
そして黙って去っていった。
わたしが素直ではなかったからもうお父様はわたしのことを諦めてしまったの?
公爵家にとって役にも立たないわたしはもう要らないの?
わたしはせっかく綺麗にしてくれたのに涙が止まらなくて泣き続けた。
「エリーゼ様……旦那様は泣いていました。泣き顔をエリーゼ様に見せたくなかったのではないでしょうか?」
ミリアの言葉に驚いた。
「泣いていた?あのお父様が?」
わたしが居なくなって寂しいと思ってくれている……さっきの言葉を素直に受け取ってもいいのよね?
わたしはお父様を拒絶することでなんとか今回生きてきた。
受け入れてしまえば、前回苦しんで死んだ自分があまりにも可哀想だから……自分を守るためにあの人達を受け入れることは出来なかった。
「エリーゼ、そろそろ素直になったらどうだ?」
わたしのそばにいつの間にか来ていたブラッドがハンカチでわたしの涙を拭きながら話しかけてきた。
「……涙……わたしは何故泣いているの…かしら?」
「エリーゼは自分の気持ちに疎いんだ……君はずっと父親の後ろ姿をいつも見ていたじゃないか。
愛して欲しい、わたしを見て欲しいって。
公爵も君が気づかないだけでずっと君を見守ってきていたんだ。
お互い不器用で思っていても相手に伝わらなかったんだと思うよ、公爵は君の幸せな姿を見てもうこれ以上関わらないで遠くから見守るつもりなんだと思うよ。
君が公爵家を出ていくのは君が公爵を許せないからだと公爵は思っているからね」
「違う、お父様が許せないわけではないの。
ブラッドと二人で、頑張って生きて行きたいだけ。公爵令嬢とかそんな肩書きは要らない。お嬢様と使用人ではなくて貴方と対等で生きたかったの」
「俺は分かってる…でも公爵はずっと後悔ばかりの人生だからね、君から何も聞いていないからそんな風には思えないと思うよ」
「わたし……この家を出ていくこと、その理由をお父様に話していないわ」
「君たちはもう少し会話が必要だと思うよ、それは他人から伝えることではない、君が君の口から公爵に話すべきだと俺は思うよ」
「わたしの口から……」
「式まではあと少し時間があるから、公爵のところへ行っておいで。そしてきちんと向き合って話しておいで」
ブラッドの言葉に頷くとわたしは急いでドレスの裾を持ち上げてお父様のいる部屋へ向かった。
お父様は椅子に座りただじっと下を向いて座っていた。
「お父様……素直になれなくてごめんなさい……
……わたしはブラッドと同じ場所に居たかったの。公爵令嬢と使用人ではなくて、ただの夫婦でいたくてこの屋敷を出ることにしたの……お父様には素直になれなくてごめんなさい……前回と今は違うことはわかっているの、お父様が必死で私たちとの関係を変えようとしてくれたこともわかってはいるの……ただいまさら素直になれなくて…ごめんなさい。わたしのことを諦めないで、我儘だけどわたしのことを見捨てないで…」
わたしは初めて自分の気持ちをお父様に伝えた。
今までだったら恥ずかしくて絶対に言ったりしなかったこと。
「エリーゼ……わたしはずっとお前を見守り続けるよ、君の幸せをずっと見守っていたいんだ」
「だったらどうしてわたしが待ってと言ったのに去って行ったの?」
「わたしの泣き顔を見せたくなかった……情けないだろう?君の幸せを祈っているのに寂しいと思うなんて」
「寂しい?わたしが居なくなったら寂しい?」
「当たり前だろう?お前はわたしの大切な娘なんだ」
わたしはいまやっとお父様の言葉を素直に聞くことが出来るようだ。
「お父様、わたしは家を出てもこの屋敷に帰ってきます。お父様に会いにきてもいいでしょうか?」
「待っている、いつでも帰ってきてくれ」
「はい」
そしてわたし達は教会へ行き、結婚式を挙げた。
「エリーゼ、綺麗だよ」
「ブラッド愛しているわ」
「俺も君を愛している」
巻き戻ってからのわたしは感情を取り戻し、泣いて笑って怒って過ごしてきた。
大切な人たちがたくさん出来た。
愛する人も出来た。
ブラッドはわたしなんかより大人でかっこよくて優秀で、何より私の我儘を全て許してくれる。
わたしはどうしてもブラッドと暮らしたくて、公爵家を出ることにした。
今、ブラッドは男爵家を出て、お祖父様の持っている子爵の爵位を譲ってもらい形だけの貴族になった。
そう、形だけ。
暮らしは公爵家から貰う給金と小さな領地から入る少しのお金で暮らすことになる。
わたしは孤児院で過ごした経験から料理も掃除も洗濯も得意だ。
ユンやミリアもついて来ると言ってくれたが、我が家の収入では雇うのは難しいのでお断りした。
これからは小さな家で二人で暮らす。
ブラッドもわたしの提案に難しい顔をしたが、どうしても二人で暮らしたいという私の我儘を最後は聞いてくれた。
「ユン、ミリア、これからは友人としてお付き合いしてもらえると嬉しいのだけど」
わたしの提案に二人はしばらく悩んでいたが
「エリーゼ様がわたし達とこれからもお付き合いしてくださるなら喜んで!」
「友人になっても話し方は変えられませんがそれでよろしければずっとお友達としていさせてください」
「ありがとう、わたしはずっと二人に守られてきたの、公爵家を出てもたまには遊びに来るから。会えなくなるわけではないわ……泣かないで」
二人はわたしの結婚式のためウエディングドレスを着せてくれて、化粧をして髪を結ってくれた。
仕上がると私を見て二人はずっと泣き続けている。
「エリーゼ様……やはりわたし達は貴女について行きたいです」
「ありがとう、でもね、二人にも素敵な結婚をしてもらいたいの、だからずっと使用人でいて欲しくないの……公爵家に二人とも恋人がいるでしょう?幸せになって欲しいの」
「……ずっとずっとお友達ですよ?」
「約束するわ」
カチャッ。
控え室にそっとドアを開けて入ってきたのはお父様だった。
わたしも19歳になり大人になった。
お父様との関係も少しずつ変わり、今はぎこちないながらに話すことも出来る関係にはなった。
「エリーゼ……綺麗だ………前回は君の幸せになる姿を見ることが出来なかった。今回君のこんな綺麗な姿を見れてわたしはもう何も思い残すことはない…ありがとう生きてくれて…もうそれだけでわたしは十分だ…わたしはエリーゼを幸せにすることは出来なかった……でもこれからはブラッドと幸せになって欲しい。おめでとう……」
そう言ってお父様は部屋を去って行こうとした。
「お父様、待って!」
どうして?もうこれで会うことはないみたいに言うの?
わたしは自分が何度もお父様を捨てようとしたくせに、本当に離れてしまうと思った瞬間、お父様を引き止めてしまった。
お父様は振り向かなかった。
そして黙って去っていった。
わたしが素直ではなかったからもうお父様はわたしのことを諦めてしまったの?
公爵家にとって役にも立たないわたしはもう要らないの?
わたしはせっかく綺麗にしてくれたのに涙が止まらなくて泣き続けた。
「エリーゼ様……旦那様は泣いていました。泣き顔をエリーゼ様に見せたくなかったのではないでしょうか?」
ミリアの言葉に驚いた。
「泣いていた?あのお父様が?」
わたしが居なくなって寂しいと思ってくれている……さっきの言葉を素直に受け取ってもいいのよね?
わたしはお父様を拒絶することでなんとか今回生きてきた。
受け入れてしまえば、前回苦しんで死んだ自分があまりにも可哀想だから……自分を守るためにあの人達を受け入れることは出来なかった。
「エリーゼ、そろそろ素直になったらどうだ?」
わたしのそばにいつの間にか来ていたブラッドがハンカチでわたしの涙を拭きながら話しかけてきた。
「……涙……わたしは何故泣いているの…かしら?」
「エリーゼは自分の気持ちに疎いんだ……君はずっと父親の後ろ姿をいつも見ていたじゃないか。
愛して欲しい、わたしを見て欲しいって。
公爵も君が気づかないだけでずっと君を見守ってきていたんだ。
お互い不器用で思っていても相手に伝わらなかったんだと思うよ、公爵は君の幸せな姿を見てもうこれ以上関わらないで遠くから見守るつもりなんだと思うよ。
君が公爵家を出ていくのは君が公爵を許せないからだと公爵は思っているからね」
「違う、お父様が許せないわけではないの。
ブラッドと二人で、頑張って生きて行きたいだけ。公爵令嬢とかそんな肩書きは要らない。お嬢様と使用人ではなくて貴方と対等で生きたかったの」
「俺は分かってる…でも公爵はずっと後悔ばかりの人生だからね、君から何も聞いていないからそんな風には思えないと思うよ」
「わたし……この家を出ていくこと、その理由をお父様に話していないわ」
「君たちはもう少し会話が必要だと思うよ、それは他人から伝えることではない、君が君の口から公爵に話すべきだと俺は思うよ」
「わたしの口から……」
「式まではあと少し時間があるから、公爵のところへ行っておいで。そしてきちんと向き合って話しておいで」
ブラッドの言葉に頷くとわたしは急いでドレスの裾を持ち上げてお父様のいる部屋へ向かった。
お父様は椅子に座りただじっと下を向いて座っていた。
「お父様……素直になれなくてごめんなさい……
……わたしはブラッドと同じ場所に居たかったの。公爵令嬢と使用人ではなくて、ただの夫婦でいたくてこの屋敷を出ることにしたの……お父様には素直になれなくてごめんなさい……前回と今は違うことはわかっているの、お父様が必死で私たちとの関係を変えようとしてくれたこともわかってはいるの……ただいまさら素直になれなくて…ごめんなさい。わたしのことを諦めないで、我儘だけどわたしのことを見捨てないで…」
わたしは初めて自分の気持ちをお父様に伝えた。
今までだったら恥ずかしくて絶対に言ったりしなかったこと。
「エリーゼ……わたしはずっとお前を見守り続けるよ、君の幸せをずっと見守っていたいんだ」
「だったらどうしてわたしが待ってと言ったのに去って行ったの?」
「わたしの泣き顔を見せたくなかった……情けないだろう?君の幸せを祈っているのに寂しいと思うなんて」
「寂しい?わたしが居なくなったら寂しい?」
「当たり前だろう?お前はわたしの大切な娘なんだ」
わたしはいまやっとお父様の言葉を素直に聞くことが出来るようだ。
「お父様、わたしは家を出てもこの屋敷に帰ってきます。お父様に会いにきてもいいでしょうか?」
「待っている、いつでも帰ってきてくれ」
「はい」
そしてわたし達は教会へ行き、結婚式を挙げた。
「エリーゼ、綺麗だよ」
「ブラッド愛しているわ」
「俺も君を愛している」
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