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85話
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ターナの体は日に日に闇にのまれているらしい。
それをイルマナ様とお祖父様がなんとか抑え込んでくれていた。
わたしもすぐに治療を始めたかったが、わたし自身の技術ではまだ無理があった。
学園を休み、イルマナ様がわたしに朝から晩まで、本当に寝る間を惜しんで鍛え上げてくれた。
夜寝る前にお祖父様が疲れたわたしの体を癒してくれたのでなんとか頑張ることができた。
わたしの魔力と光魔法ならターナを救えるらしい。
でも技術も体力もないわたしにはどこまで出来るかはわからない。
キリアン様が来るのを待ちながら少しだけでも頑張って技術を上げていった。
家族のことなんてもう捨てたはずなのに、ターナを助けたいと言う気持ちはどんどん大きくなる。
時間がない、なのにわたしの技術では間に合わない。
そのイライラにさらに焦っていた。
「アイシャ、今日は一日何もしないで休みなさい。今日は帰りなさい」
イルマナ様は大きな溜息をついてわたしに帰るように言う。
「嫌です!少しでも技術を上げなければターナを助けられません」
「……確かにわたしはそう言った。だがな、そんなに無理矢理詰め込んでも雑な技術しか覚えられない。ターナを助けるためには長時間繊細な魔法を使わないといけない。今のアイシャでは無理だ」
「………わたしは……どうしたらいいのですか?」
イルマナ様に当たっても仕方がない。
わかっているのに止められない。
「頑張っても全然上手くいかなくて、でも、わたししかターナを助けられない。どうしていいかわからなくて焦って、寝ていても失敗する夢しか見なくて……わたしはターナを殺してしまうかもしれない」
話し出したら涙が止まらない。
怖い、人を助けることがこんなに怖いことなんて考えていなかった。
だってなんとかなるんだと思っていたから……
でも頑張れば頑張るほど、出来なくて、無理だと現実を思い知らされる。
「…アイシャ、魔法も医術も完璧ではない。絶対に助けることなんて出来ない。それを踏まえて我々は人を助けてきた。アイシャにはまだ辛い現実かもしれない。だが、我々は今出来ることを精一杯するしかないんだ」
「……でもわたしのせいでターナが死ぬかもしれない」
「違うだろう?ターナはもう助からない。それを君はなんとか頑張ろうとしているだけなんだ」
頭ではわかっても感情が追いつかない。
「いいかい、アイシャ。魔法は全能ではないんだ。誰も君を責めない、今君がするべきことはターナの治療に向けて体力と心を強く持つことだ。技術はいざとなればキリアンが助ける。だけど君の心は君しか助けられない。弱気になってはダメだよ」
「……はい」
わたしは屋敷に戻り、久しぶりにミケランと庭に出た。
ミケランはいつものように庭を歩いて回ると飽きたのか、わたしの足元で寝てしまった。
わたしは庭のテーブルでお茶をメリッサとゆっくりと飲んでいた。
「こんなにゆっくりするのは久しぶりかも」
空が青いことも空気が美味しいことも、外がこんなに気持ちよく過ごせることも忘れていた。
庭に咲いた花々に目を遣ることすらなかった。
「…メリッサ、わたしずっと追われていた気がする…いつも焦って急がないとダメだと思っていたの。頑張ることしか自分にはできないと思っていたの」
「頑張り屋さんのアイシャ様がわたしは大好きですよ、でもたまには立ち止まってわたし達がそばにいることを思い出してもらえると嬉しいです」
「ごめんなさい、いつも振り回してばかりで…」
「そんなことありませんよ、アイシャ様のおかげでバナッシユ国へ行ったり、北の領地へ行ったり、わたしはいろんな旅行に行けましたから。それも夫婦揃っていつも出掛けられるので感謝しています」
「こぶつきの旅行でごめんなさいね」
「ほんと、産んだ覚えはありませんが、かなり大きなこぶを連れて回るのでいつも大変です」
「あら?そんなに迷惑はかけていないはずだわ」
わたしが笑いながら言うと
「自覚がないのがアイシャ様のいいところです」
と笑いながら返された。
「心が少し楽になったわ、やっぱりイライラしてばかりだと気が重たくなるわ」
「アイシャ様は顔がずっとムスッとしていましたもの。やっと笑ってくれて少し安心しました。
わたし達はアイシャ様のおそばにいます。いつでもわたし達のところに戻ってきて休んでください」
「ありがとう」
ーーーーー
そして数日後、キリアン様がイルマナ様の屋敷に来た。
わたしはすぐにキリアン様と会って、感動の再会とはならずに、ターナの治療方針を話し合った。
「アイシャがターナの治療に入ったら十数時間、あるいは数日かかるかもしれない。途中の休憩の間は俺が変わる。その間にイルマナ様に体を癒して貰って疲れをとってくれ」
「わかりました」
「どうしても魔力が枯渇しそうになったら、カイザ様がターナの時間を数時間止めてくれる。ただこれは一回しか出来ないらしい。カイザ様のこの魔力は一回使うと数日は魔力が戻らないと聞いた」
「うん、わたしの魔力は今魔法石に溜め込んでいるの。ただ、わたしの魔力は膨大だからそれを貯める魔法石を用意するのが難しくて……3個しか使えるものがなかったの」
「その膨大な魔力すら枯渇するかもしれない……黒魔法って怖いね」
キリアン様も流石に黒魔法の話をする時は嫌な顔をしていた。
「うん、ターナはそれを騙されて受け入れてしまったんです、幼い子供にそんなことをして、前王妃は本当に酷い人だと思う」
「前王妃はバナッシユ国で処刑された……全ての罪を認めることなく自分は悪くはないと言いながらね」
「そうですか……彼女はそんな人生で幸せだったのでしょうか?」
わたしには彼女の気持ちがよくわからなかった。
わたしを……ううん、前世のアイシャを嫌っていたのよね、その理由もわたしには理解できなかった。
それをイルマナ様とお祖父様がなんとか抑え込んでくれていた。
わたしもすぐに治療を始めたかったが、わたし自身の技術ではまだ無理があった。
学園を休み、イルマナ様がわたしに朝から晩まで、本当に寝る間を惜しんで鍛え上げてくれた。
夜寝る前にお祖父様が疲れたわたしの体を癒してくれたのでなんとか頑張ることができた。
わたしの魔力と光魔法ならターナを救えるらしい。
でも技術も体力もないわたしにはどこまで出来るかはわからない。
キリアン様が来るのを待ちながら少しだけでも頑張って技術を上げていった。
家族のことなんてもう捨てたはずなのに、ターナを助けたいと言う気持ちはどんどん大きくなる。
時間がない、なのにわたしの技術では間に合わない。
そのイライラにさらに焦っていた。
「アイシャ、今日は一日何もしないで休みなさい。今日は帰りなさい」
イルマナ様は大きな溜息をついてわたしに帰るように言う。
「嫌です!少しでも技術を上げなければターナを助けられません」
「……確かにわたしはそう言った。だがな、そんなに無理矢理詰め込んでも雑な技術しか覚えられない。ターナを助けるためには長時間繊細な魔法を使わないといけない。今のアイシャでは無理だ」
「………わたしは……どうしたらいいのですか?」
イルマナ様に当たっても仕方がない。
わかっているのに止められない。
「頑張っても全然上手くいかなくて、でも、わたししかターナを助けられない。どうしていいかわからなくて焦って、寝ていても失敗する夢しか見なくて……わたしはターナを殺してしまうかもしれない」
話し出したら涙が止まらない。
怖い、人を助けることがこんなに怖いことなんて考えていなかった。
だってなんとかなるんだと思っていたから……
でも頑張れば頑張るほど、出来なくて、無理だと現実を思い知らされる。
「…アイシャ、魔法も医術も完璧ではない。絶対に助けることなんて出来ない。それを踏まえて我々は人を助けてきた。アイシャにはまだ辛い現実かもしれない。だが、我々は今出来ることを精一杯するしかないんだ」
「……でもわたしのせいでターナが死ぬかもしれない」
「違うだろう?ターナはもう助からない。それを君はなんとか頑張ろうとしているだけなんだ」
頭ではわかっても感情が追いつかない。
「いいかい、アイシャ。魔法は全能ではないんだ。誰も君を責めない、今君がするべきことはターナの治療に向けて体力と心を強く持つことだ。技術はいざとなればキリアンが助ける。だけど君の心は君しか助けられない。弱気になってはダメだよ」
「……はい」
わたしは屋敷に戻り、久しぶりにミケランと庭に出た。
ミケランはいつものように庭を歩いて回ると飽きたのか、わたしの足元で寝てしまった。
わたしは庭のテーブルでお茶をメリッサとゆっくりと飲んでいた。
「こんなにゆっくりするのは久しぶりかも」
空が青いことも空気が美味しいことも、外がこんなに気持ちよく過ごせることも忘れていた。
庭に咲いた花々に目を遣ることすらなかった。
「…メリッサ、わたしずっと追われていた気がする…いつも焦って急がないとダメだと思っていたの。頑張ることしか自分にはできないと思っていたの」
「頑張り屋さんのアイシャ様がわたしは大好きですよ、でもたまには立ち止まってわたし達がそばにいることを思い出してもらえると嬉しいです」
「ごめんなさい、いつも振り回してばかりで…」
「そんなことありませんよ、アイシャ様のおかげでバナッシユ国へ行ったり、北の領地へ行ったり、わたしはいろんな旅行に行けましたから。それも夫婦揃っていつも出掛けられるので感謝しています」
「こぶつきの旅行でごめんなさいね」
「ほんと、産んだ覚えはありませんが、かなり大きなこぶを連れて回るのでいつも大変です」
「あら?そんなに迷惑はかけていないはずだわ」
わたしが笑いながら言うと
「自覚がないのがアイシャ様のいいところです」
と笑いながら返された。
「心が少し楽になったわ、やっぱりイライラしてばかりだと気が重たくなるわ」
「アイシャ様は顔がずっとムスッとしていましたもの。やっと笑ってくれて少し安心しました。
わたし達はアイシャ様のおそばにいます。いつでもわたし達のところに戻ってきて休んでください」
「ありがとう」
ーーーーー
そして数日後、キリアン様がイルマナ様の屋敷に来た。
わたしはすぐにキリアン様と会って、感動の再会とはならずに、ターナの治療方針を話し合った。
「アイシャがターナの治療に入ったら十数時間、あるいは数日かかるかもしれない。途中の休憩の間は俺が変わる。その間にイルマナ様に体を癒して貰って疲れをとってくれ」
「わかりました」
「どうしても魔力が枯渇しそうになったら、カイザ様がターナの時間を数時間止めてくれる。ただこれは一回しか出来ないらしい。カイザ様のこの魔力は一回使うと数日は魔力が戻らないと聞いた」
「うん、わたしの魔力は今魔法石に溜め込んでいるの。ただ、わたしの魔力は膨大だからそれを貯める魔法石を用意するのが難しくて……3個しか使えるものがなかったの」
「その膨大な魔力すら枯渇するかもしれない……黒魔法って怖いね」
キリアン様も流石に黒魔法の話をする時は嫌な顔をしていた。
「うん、ターナはそれを騙されて受け入れてしまったんです、幼い子供にそんなことをして、前王妃は本当に酷い人だと思う」
「前王妃はバナッシユ国で処刑された……全ての罪を認めることなく自分は悪くはないと言いながらね」
「そうですか……彼女はそんな人生で幸せだったのでしょうか?」
わたしには彼女の気持ちがよくわからなかった。
わたしを……ううん、前世のアイシャを嫌っていたのよね、その理由もわたしには理解できなかった。
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