3 / 156
離縁してください
【3】
しおりを挟む
第二部隊の団長は陛下の従兄弟で公爵でもある。バライズ殿下と王城で遊んでいる時によく騎士団の鍛錬場へと顔を出していた。
そこでいつもメイカー団長の剣の捌きを見て目を輝かせて憧れていた。
「カッコいい!俺、バライズの騎士になる!」
メイカー団長が国王陛下の護衛騎士をしていた時、その姿に憧れた。王子のバライズの護衛騎士になりたい!
「えっ?わたしの騎士になってよ!」
ソニア殿下に「なんで兄様なの?」とぷくっと頬を膨らませて文句を言われた。
「俺はバライズが国王になった時そばで守れる騎士になりたいんだ」
「ふうん、兄様だけずるい」
「ソニアはソニアを大切に想う人が守ってくれるよ」
バライズ殿下がなんとかご機嫌を取ろうとした。
「じゃあ、アレックはやっぱりわたしを守ってくれるのね?」
「「えっ?」」俺とバライズ殿下はお互い顔を見て困った顔になった。
でもまだ6歳のソニア殿下に強く否定できなくて子供のことだからと終わらせていた。
それがいまだに続くなんて……
ソニア殿下の護衛の仕事を離れ、第二部隊に顔を出すのが最近は楽しみになっていた。
最近事務官として入ったシルビア・ウィーバーは俺に全く興味がない。
俺の顔を見ると色めき香水の匂いをぷんぷんさせてやってくる令嬢達とは全く違う。
受付で書類の中身を確認すると、団長の執務室の扉をさっと開けて「どうぞ」と通してくれる。
そして彼女が紅茶を淹れて出してくれるのだが、とにかく美味しい。
騎士団のお客用の茶葉はそれなりの値段のものを置いている。ここの隊の茶葉は上手に保管されていて、淹れた紅茶は複雑な滋味を感じさせた。心地よい渋さや苦み、甘さがくせになる。
湯を沸かし茶葉に湯を注ぎ蒸らして茶葉を濾して飲む。
それだけなのに蒸らす時間も湯の温度も絶妙なんだと思う。
彼女が近くに寄ると石鹸の匂いが微かに感じられるのも心地いい。美味しい紅茶といつも手作りのお菓子が添えられている。
「そのクッキー美味いだろう?」
メイカー団長がにこりと笑った。
凛々しい顔立ちだが少し強面の団長はシルビア嬢をとても気に入っているらしい。
「はい、優しい味で甘いものが苦手な俺でも食べれます」
「だろう?俺も甘いものは苦手なんだがシルビアの作ったお菓子は食べれるんだ。だから毎日お菓子作りを頼んでるんだ」
「それは大変じゃないんですか?」
「シルビアはかなり優秀で仕事の効率がよくて帰る前には仕事は終わっているんだ。だから暇な時間に団員用のお菓子を作ってもらってる。みんな彼女の作るお菓子に惚れ込んでる」
「優秀……確かに生真面目できちんとしているように見えますね」
「苦労してるからな」
「平民ならみんなそんなものでしょう?」
「シルビアは伯爵家のご令嬢だ。ただ、もともと領地が農作物が出来にくい土地なのにさらに干ばつで資金繰りが大変なんだ、それで成績が優秀だったシルビアが少しでも助けたいと働き始めたんだ」
「国は補助金を出していないのですか?」
「もちろんあるよ、でもそれだけじゃ足りないんだ。あそこの伯爵家は領民達に多大な税金をかけたくないと自分の懐も厳しいのに領民からもあまり税金を取ろうとしないんだ」
「いくら領民が苦しんでいるとは言え、自分たちも大変でしょう?」
「だからシルビアは働き出したんだ。彼女の才能なら大学だって行けただろうに。だが今はうちで働いてくれて助かっている。仕事もしっかりやってくれるしお菓子も美味しい。さらにこの紅茶の味、王宮で陛下に出しても喜んでくれると思う」
「俺もそう思います。実はここにお遣いに来るのが最近は楽しみなんです」
「シルビアに会えるのがか?」
「………紅茶とお菓子に会えるのがです」
ーーえっ?俺は……確かに紅茶とお菓子……だけどシルビア嬢に会うと不思議にホッとする。
普段仕事ではピリピリとして笑うことも気を緩めることもない。特にソニア殿下に振り回されて疲れることも多い。
シルビア嬢のそばにいると穏やかな気持ちになる。無駄に話しかけても来ない、だけどいつも石鹸のいい匂いがして……
ーーうわっ、何考えてるんだ。
気になり出すとつい目が追ってしまう。
少しでも姿が見えると1日が楽しい。
仕事中に会ったからと言って俺から話しかけることもない。向こうが俺に話しかけることもない。頭を下げて挨拶をする程度の関係。
なのに……第二騎士隊の奴らが馴れ馴れしく、楽しそうに、笑いながら、シルビアと話していると何故かムカムカして苛立つ。
仕事帰りにバライズ殿下に呼ばれてたまにお茶をする。
「そろそろソニアの護衛から僕の護衛に移って欲しいんだけどソニアがなかなかうんと言わないんだ。父上もソニアに甘くてソニアの我儘をすぐ聞いてしまうし、アレック、大丈夫?
変な噂が立ってるみたいだけど」
バライズ殿下が言ったのは、『俺とソニア殿下が恋仲らしい、だけど俺が侯爵家の次男なのでソニア殿下が降嫁するのは難しいため結婚は出来ない』
と言う噂だ。
そんな噂根も葉もない、誰が言い出したのか無視していればいい。そう思っていた。
しかしその噂を流したのはソニア殿下本人だった。本人はいたって真面目にそう思い込んでいた。
婚約者に俺がならないのは侯爵家次男だから。もし長男で家督を継ぐならすぐにでも結婚できたはずだと思い込んでいた。
俺は一度もソニア殿下を好きだなんて言ったこともないし態度で示したこたもない。
「俺はソニア殿下に対して幼馴染としての感情しかありません」
「だよね?それに……シルビア嬢だっけ?」
「えっ?」
思わず口から紅茶を吹き出してしまった。
殿下はそんな俺を見てニヤニヤと笑った。
俺は夜勤で王城で夜食を食べながら、さっきのシルビアの姿を思い出す。
俺のせいで無理やり結婚させられたシルビア……困った顔で戸惑いながら「よろしくお願いします」と俺との結婚を承諾したシルビア。
さっきの夜会で裏庭でミゼルと抱き合っていたシルビア……俺はシルビアがミゼルのことを好きなのに、俺と結婚させられて辛い思いをしているのをずっとわかっていた。
なのに……王命だからと彼女と結婚した。
そこでいつもメイカー団長の剣の捌きを見て目を輝かせて憧れていた。
「カッコいい!俺、バライズの騎士になる!」
メイカー団長が国王陛下の護衛騎士をしていた時、その姿に憧れた。王子のバライズの護衛騎士になりたい!
「えっ?わたしの騎士になってよ!」
ソニア殿下に「なんで兄様なの?」とぷくっと頬を膨らませて文句を言われた。
「俺はバライズが国王になった時そばで守れる騎士になりたいんだ」
「ふうん、兄様だけずるい」
「ソニアはソニアを大切に想う人が守ってくれるよ」
バライズ殿下がなんとかご機嫌を取ろうとした。
「じゃあ、アレックはやっぱりわたしを守ってくれるのね?」
「「えっ?」」俺とバライズ殿下はお互い顔を見て困った顔になった。
でもまだ6歳のソニア殿下に強く否定できなくて子供のことだからと終わらせていた。
それがいまだに続くなんて……
ソニア殿下の護衛の仕事を離れ、第二部隊に顔を出すのが最近は楽しみになっていた。
最近事務官として入ったシルビア・ウィーバーは俺に全く興味がない。
俺の顔を見ると色めき香水の匂いをぷんぷんさせてやってくる令嬢達とは全く違う。
受付で書類の中身を確認すると、団長の執務室の扉をさっと開けて「どうぞ」と通してくれる。
そして彼女が紅茶を淹れて出してくれるのだが、とにかく美味しい。
騎士団のお客用の茶葉はそれなりの値段のものを置いている。ここの隊の茶葉は上手に保管されていて、淹れた紅茶は複雑な滋味を感じさせた。心地よい渋さや苦み、甘さがくせになる。
湯を沸かし茶葉に湯を注ぎ蒸らして茶葉を濾して飲む。
それだけなのに蒸らす時間も湯の温度も絶妙なんだと思う。
彼女が近くに寄ると石鹸の匂いが微かに感じられるのも心地いい。美味しい紅茶といつも手作りのお菓子が添えられている。
「そのクッキー美味いだろう?」
メイカー団長がにこりと笑った。
凛々しい顔立ちだが少し強面の団長はシルビア嬢をとても気に入っているらしい。
「はい、優しい味で甘いものが苦手な俺でも食べれます」
「だろう?俺も甘いものは苦手なんだがシルビアの作ったお菓子は食べれるんだ。だから毎日お菓子作りを頼んでるんだ」
「それは大変じゃないんですか?」
「シルビアはかなり優秀で仕事の効率がよくて帰る前には仕事は終わっているんだ。だから暇な時間に団員用のお菓子を作ってもらってる。みんな彼女の作るお菓子に惚れ込んでる」
「優秀……確かに生真面目できちんとしているように見えますね」
「苦労してるからな」
「平民ならみんなそんなものでしょう?」
「シルビアは伯爵家のご令嬢だ。ただ、もともと領地が農作物が出来にくい土地なのにさらに干ばつで資金繰りが大変なんだ、それで成績が優秀だったシルビアが少しでも助けたいと働き始めたんだ」
「国は補助金を出していないのですか?」
「もちろんあるよ、でもそれだけじゃ足りないんだ。あそこの伯爵家は領民達に多大な税金をかけたくないと自分の懐も厳しいのに領民からもあまり税金を取ろうとしないんだ」
「いくら領民が苦しんでいるとは言え、自分たちも大変でしょう?」
「だからシルビアは働き出したんだ。彼女の才能なら大学だって行けただろうに。だが今はうちで働いてくれて助かっている。仕事もしっかりやってくれるしお菓子も美味しい。さらにこの紅茶の味、王宮で陛下に出しても喜んでくれると思う」
「俺もそう思います。実はここにお遣いに来るのが最近は楽しみなんです」
「シルビアに会えるのがか?」
「………紅茶とお菓子に会えるのがです」
ーーえっ?俺は……確かに紅茶とお菓子……だけどシルビア嬢に会うと不思議にホッとする。
普段仕事ではピリピリとして笑うことも気を緩めることもない。特にソニア殿下に振り回されて疲れることも多い。
シルビア嬢のそばにいると穏やかな気持ちになる。無駄に話しかけても来ない、だけどいつも石鹸のいい匂いがして……
ーーうわっ、何考えてるんだ。
気になり出すとつい目が追ってしまう。
少しでも姿が見えると1日が楽しい。
仕事中に会ったからと言って俺から話しかけることもない。向こうが俺に話しかけることもない。頭を下げて挨拶をする程度の関係。
なのに……第二騎士隊の奴らが馴れ馴れしく、楽しそうに、笑いながら、シルビアと話していると何故かムカムカして苛立つ。
仕事帰りにバライズ殿下に呼ばれてたまにお茶をする。
「そろそろソニアの護衛から僕の護衛に移って欲しいんだけどソニアがなかなかうんと言わないんだ。父上もソニアに甘くてソニアの我儘をすぐ聞いてしまうし、アレック、大丈夫?
変な噂が立ってるみたいだけど」
バライズ殿下が言ったのは、『俺とソニア殿下が恋仲らしい、だけど俺が侯爵家の次男なのでソニア殿下が降嫁するのは難しいため結婚は出来ない』
と言う噂だ。
そんな噂根も葉もない、誰が言い出したのか無視していればいい。そう思っていた。
しかしその噂を流したのはソニア殿下本人だった。本人はいたって真面目にそう思い込んでいた。
婚約者に俺がならないのは侯爵家次男だから。もし長男で家督を継ぐならすぐにでも結婚できたはずだと思い込んでいた。
俺は一度もソニア殿下を好きだなんて言ったこともないし態度で示したこたもない。
「俺はソニア殿下に対して幼馴染としての感情しかありません」
「だよね?それに……シルビア嬢だっけ?」
「えっ?」
思わず口から紅茶を吹き出してしまった。
殿下はそんな俺を見てニヤニヤと笑った。
俺は夜勤で王城で夜食を食べながら、さっきのシルビアの姿を思い出す。
俺のせいで無理やり結婚させられたシルビア……困った顔で戸惑いながら「よろしくお願いします」と俺との結婚を承諾したシルビア。
さっきの夜会で裏庭でミゼルと抱き合っていたシルビア……俺はシルビアがミゼルのことを好きなのに、俺と結婚させられて辛い思いをしているのをずっとわかっていた。
なのに……王命だからと彼女と結婚した。
1,837
あなたにおすすめの小説
私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません
藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は
愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。
夫が愛人を持つことも、
その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。
けれど――
跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。
その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。
私は悟ったのだ。
この家では、息子を守れないと。
元々、実家との間には
「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。
ならば話は簡単だ。
役目を終えた私は、離縁を選ぶ。
息子と共に、この家を去るだけ。
後悔しているようですが――
もう、私の知るところではありません。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる