【完結】あなたとの離縁を目指します

たろ

文字の大きさ
27 / 156
二度目の人生にあなたは要らない。離縁しましょう。

【5】

「失礼いたします」

 仕事に集中していたらいつの間にか外は暗くなっていた。

 部屋に入ってきたのはセデンの側近のレンだった。

「何か御用かしら?」

 レンはいつも見下した目でわたしを見る。だからわたしも彼には一切笑顔を向けない。
 ーーやはり相変わらずだわ。

「セデン様からの伝言でございます」

 ーーセデン?ふうん、彼がわたしに?

「訊くわ、どうぞ話してちょうだい」

「明日の朝食はご一緒に摂れないそうです」

「わかったわ」

 ーーそんなことのために?態々?違うわよね⁈わたしの様子を窺いにきただけよね?

 今日の昼間の出来事を聞いて確認しにきただけだわ。

 チラチラ様子を窺う彼の目が不快だった。

「用がないなら出て行ってくださらない?」

「申し訳ございません」

 チッと舌打ちするのが見えた。
 レンの太々しい態度。
 以前のわたしならビクビクして彼の顔色を窺っていた。でも今世ではもう好きにすると決めたの。レンなんて怖くないわ。王妃はまだムリだけど……

 わたしは彼を無視して、テーブルに置かれた本を手に取ってページを捲り始めた。

「あなたの侍女、大丈夫ですか?」
 いきなりの言葉に驚いた。

「えっ?ミーナが何処にいるか知っているの?」

 ずっとミーナが気になっていた。いつもなら何度も部屋に顔を出しに来るのに。

「……彼女は魔獣騒動で騎士達が怪我をして治療のため人手が足りなくて今もまだ仕事をしています」

「ミーナが?どうして?」

「あなたのお気に入りの侍女ですから、あなたを気に入らない者が態と彼女を働かせているんですよ」

「………そう、わかったわ。わたしの食事を抜くだけならまだしもミーナにまで……」

 持っていた本を思わず落としてしまった。

「食事を抜くとは?」

「あなたもいつもわたしと殿下との食事の時間を無しにしているでしょう?おかげでわたしはまともに食事をさせてもらえないの。ミーナがいつもなんとか食事を手配してくれていたの。
 わたしへの嫌がらせだけなら許せるけど、ミーナにまで……許さないわ」

 わたしはレンを押し退けてミーナがいるであろう怪我人を収容している診療所へと向かった。

 まだ魔力は回復していない。明日になれば……そう思っていた。

 診療所に入るとたくさんの人たちがまだ働いていた。でもそれはここで働く人たち。ある意味当たり前。

 ミーナは違う。

 わたしはミーナを探した。

 すると必死で汚れたシーツを洗っているミーナを見つけた。

「ミーナ?」

 振り返ったミーナはニコリと笑い返す。

「イリアナ様?」

「どうしてここにいるの?」

「あっ……」
 口籠るミーナ。

 そこにやってきたのはわたしをいつも小馬鹿にしていた診療所の責任者のコザック。

 40歳を過ぎていて細目でいつもわたしをジトっと嫌らしい目で見る。

 癒しの力があまり使えないからと鼻で笑い、一応王女だったわたしなのに完全に馬鹿にされていた。

「イリアナ妃、彼女はあなたが途中で仕事を放ってしまったので代わりにここで働いているんですよ」

「ミーナは診療所のスタッフではないわ。それにわたしは自分がやれることはやったつもりよ?残りは明日するわ」

「はっ?今日少しいつもより活躍したからと言って何を強気で?まともに今まで癒しの力などなかったくせに。それとも出し惜しみをしていたんですか?みんながいる前だから今日は派手に力を使ったんですか?
 力があるならもっと早くから出せばいいものを」

 軽蔑したかのような言葉……ううん、わたしが突然力をつかえたことを、おかしいと思っているんだ。

 さっきのレンも疑っていた。

 わたしだって……突然こんなに力が使えて驚いているもの。

「わたしだって……わからないの。なぜか今までほんの僅かだった魔力が強く感じたの。どうしてかなんて説明できないしわからない……だけどわたしなりに毎回頑張ってきているわ」

「無能な出来損ないのくせに、いまさら威張りやがって」

「わたしは確かに出来損ない……だわ。だけど、わたしなりに頑張ってる、それにミーナを巻き込むのはやめてちょうだい」

「イリアナ様……いいんです。好きで仕事をしているんですから。ただお食事はされましたか?他の侍女に頼んでおいたのですが」

 ーー全く何も届いていないわ。

 でもミーナには心配かけたくない。

「ミーナ、もうそろそろ部屋に帰りましょう。ここの仕事はここで働く人たちがやればいいの。人員は足りているはずよ、コザック?セデンに尋ねてみましょうか?」

「ミーナ、もういいです。さっさとお帰りください」

「連れて帰るわ、行きましょうミーナ」

「………はい」


 ミーナは青白い顔をしていた。ずっと働かされていたのね。

 わたしはミーナの頬にそっと触れた。

「ダメです、わたしは平気です。イリアナ様こそお疲れなんです。無理はしないでください」

「ミーナ、ごめんなさい。わたしがもっとこの国で力を持てていたらあなたに心配も迷惑もかけなくてすむのにね」

 ミーナに癒しの魔法をかけて部屋に戻りゆっくり休むように伝えた。

 わたしも部屋に戻るとテーブルにパンとサラダが置かれていた。

 ーーレン?まさかね。

 毒でも入っていないかしら?

 この城でわたしに対して優しい人なんてほんのひと握りの人しかいない。

 人を疑い、人を信じることができない日々。

 この城という檻の中、なんとか逃げ出す方法を考えながら目の前にあるパンに手を出すことが怖くて、結局何も食べずに寝ることにした。

 ミーナが持ってきてくれる物以外、ここでは口にしない。セデンとの食事の時はまともな物を出されるので安心だけど。それ以外は怖くて食べられない。
 何度か毒が入っていたから。

 わたしはお腹が空いたまま眠ることにした。

感想 155

あなたにおすすめの小説

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。