【完結】あなたとの離縁を目指します

たろ

文字の大きさ
28 / 156
二度目の人生にあなたは要らない。離縁しましょう。

【6】

「起きてください!」

 ミーナの明るい、でも優しい声が聞こえた。

「もう朝なの?」

「はい!昨日は食事食べなかったんですね?」

 昨日のまま置かれていたパンとサラダをミーナはチラッと見て溜息をついた。

「だってミーナが持ってきた食べ物以外怖くて食べられないわ」

「これは大丈夫だと思いますよ?」

「どうしてそう思うの?何が入っているかわからないわよ?」

「うーん、だって、悪意を感じないですもの」

 ミーナは魔力はないけど、勘が鋭い。

 直感で見分けてしまう。これはこれですごい特技。

 わたしもそんな能力があればいいのに……

「すぐ朝食をもらってきます!わたしもお腹が空いているんです」

「よろしくね」

 ーー今日こそはここを出る準備をしなければ。

 オーグに心の中で呼びかけてみる?

 “オーグ!ねぇ?きこえてる?”

 “…………………”

 ーーはあ、こんなことしても返事なんてないわよね?

 ミーナがいない間に自分の持ち物を調べた。

 マルワ国から持ってきたものなんてない。お父様に一つだけ欲しい物を言えと言われて、即答で『ミーナ』と答えた。

 嫁ぐことが決まってすぐにミーナがついて来てくれるとわたしに言ってくれた。だけどそんな願いは叶わないと思って諦めていた。だけど温情なのか?お父様が一つだけ望みを叶えてくれた。

 わたしの唯一のミーナ。

 この国に来てからのわたしはセデンに優しく迎え入れられた。ただ、周りはそれを良しと思っていないだけ。

 それでもミーナとセデンのおかげでここの暮らしも悪くはなかった。
 アイリーン妃が来るまでは。そしてミーナが死んでしまうまでは、それなりに幸せだった。

 二人での朝食を終えて、ミーナにどう切り出そうかと悩んでいたら、部屋に入ってきたのはコザックだった。

「朝食が終わりましたらさっさと診療所へ来てください。ったく、無能のくせに、トロくさい。まだ治療が終わってないこと忘れたんですか?」

「………わかったわ、ミーナは食器を片付けておいてくれるかしら?」

 ミーナについては来るなと、暗に伝えた。

 ミーナはこくりと頭を動かして、いそいそと食器を片付け始めた。

 わたしはミーナを置いてコザックについて行くことにした。

「さっさと歩いてください」

 ーーあなたよりわたしの方が若いし、ずっと痩せてるから早く歩けますけど?

 と言い返したいところだけど、言えば何倍にもなって返ってくるのはわかってるからそのまま黙ってついて行く。

 昨日治療した人たちはわたしの顔を見て、なんとも言えない顔をして頭を下げた。

 今まで馬鹿にしてきた無能なわたしがまさか怪我を治してくれるとは思っても見なかったのだろう。

 ーーここの国の人たちはお礼すら言えないのね。

 なんだか馬鹿馬鹿しくて笑いそうになった。

 軽い怪我の人たちはなぜか昨日は治すことが出来なかった。だから今日こそは……と思いやってきた。

 軽蔑した目でわたしを見ている騎士達。
「どうせ治らないんだろう」と呟く人もいた。

 ーーうん、わたし自身もやってみないとわからない。多分昨日は酷い怪我の人にしか癒しの魔法が効かなかった。でも今日は……

 軽く傷に手をかざす。

 ふわっと微かに光ると傷が……消えた。

「へっ?」騎士が変な声を上げた。
 ーーうん、だって昨日は全く何の反応もなかったもの。
 期待なんてしないわよね。

「あ、ありがとうございます」

 ーーうわぁ、お礼って言われると何だか照れ臭いものなのね。

 してもらって当たり前、治すのがお前の仕事だろう。
 って感じの態度しかされたことがないわたしにとって、今の言葉は何よりも嬉しくそしてくすぐったい気分。

 ーーさあ、やろう!

 気分を良くしたわたしはどんどん治療していった。

 それをなんとも言えない顔をしてコザックは見ていた。何か言い掛かりをつけたいのだろう。

 だけど今のところ何も言えずにいる。それがさらに彼の気分を損ねていた。

「ふうん、イリアナ妃、本当に癒しの力が強くなったんだ」

 振り返るとレンが腕を組んでわたしを見ていた。

 コザックはへこへことしながらレンのところへ手を擦り合わせて近寄っている。

 ーーうわぁ、20歳以上年下のレンに頭を下げてご機嫌取りするなんて、わたしなら嫌だわ。

 わたしはいくら蔑まれてもご機嫌取りだけはしない。……王妃は怖いけど……これは体に刻み込まれたからだと思う。
 蹴られたり殴られたり……は痛いもの。

 王妃のそばにいると萎縮して体が震える。

 はああ、これだけは死んで時を巻き戻しても、魔力が強くなっても変わらないわ。

 わたしはレンを無視して治療を続けた。
感想 155

あなたにおすすめの小説

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。

なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。 追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。 優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。 誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、 リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。 全てを知り、死を考えた彼女であったが、 とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。 後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

幼なじみと再会したあなたは、私を忘れてしまった。

クロユキ
恋愛
街の学校に通うルナは同じ同級生のルシアンと交際をしていた。同じクラスでもあり席も隣だったのもあってルシアンから交際を申し込まれた。 そんなある日クラスに転校生が入って来た。 幼い頃一緒に遊んだルシアンを知っている女子だった…その日からルナとルシアンの距離が離れ始めた。 誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。 更新不定期です。 よろしくお願いします。