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(まだ)離縁しません
中編 7
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「はああああ、どうしよう」
夜会から帰ってドレスを脱ぎ捨て、お風呂の中でため息。
メイドのリナがわたしの髪を洗ってくれている。
「どうなさいました?」
「うーん、わたしってこの屋敷での立ち位置ってなんだと思う?」
「えっ?」
「伯爵夫人?それとも旦那様の妻?フランの義母?それともフランの遊び相手?」
「それは……全てでしょう」
「そうかな?わたし旦那様との夫婦関係はないわよ?それはこの屋敷の人達は皆知っているでしょう?」
「まぁそれは。でも、あの旦那様がアンナ様にだけは心を開いているので私達としてはそれだけでも十分驚いております」
「最初は確かになんて表情のない人なのだろうと思ったわ。それに言い方は上から目線だし(まぁ伯爵家当主だものね)性格悪そうだし、結婚なんて面倒くさいことはしたくないと言ってたし、わたしとも白い結婚で三年したら別れると言ってたし」
「ああ、やっぱりそうだったんですね。旦那様がいきなり結婚するなんて言い出したし、若いご令嬢だったし、結婚してみれば寝室は別だし。絶対おかしいとみんな言ってるんです」
「ふふ、わたしは両親が亡くなって行き場がなくて旦那様に拾われて幸せに暮らしているから感謝してるの。フランは可愛いし、天使だし、あの笑顔をわたしに向けてくれるだけで、本当に幸せなの。三年後別れる契約になっているんだけど、旦那様にプロポーズされたのよね。本当の妻にならないかと……」
さっきのことをよく思い出してみる。
ーーうん?ううん?
なんだかおかしい。
『フランは君のことを慕っている。もし君がフランの母親になりたいと思ってくれるなら契約は解除してプロポーズしたいと思っているんだが、いやかな?』
あーーーー、旦那様、フランの母親になりたいならと言ったわ!
別にわたしのこと好きとか愛しているとか、そんな感情があるなんて一言も言われていない!
やばい!!勘違いするところだった。
「………リナ。わたし勘違いやろうだったみたい。さっきまでの話は『なし』でお願い。お風呂上がったらお茶を用意してもらってもいいかしら?ちょっとゆっくり考えてみるわ」
ソファに座り、寛ぎながら心の中はーー。
ーー勘違いもいいところだった。
あんな夜会のバルコニーのテラスでいい感じで話したのがいけないのよ!
なんだかカッコ良くプロポーズされた気分になってたわ。
恥ずかしい、恥ずかしすぎる。
旦那様はフランの母親でいないかと言ったのよ!
ふと気がついたらソファでうたた寝していた。
もうそろそろ夜が明ける。窓の外は少し薄暗いけど、気持ちがいい風が入ってきた。
よし!
わたしは寝巻きを脱ぎ捨て、ブラウスとパンツに着替えて髪の毛を高めの位置でひとつ結びにした。
外に出ると屋敷で働く護衛騎士達が何人か早朝から訓練をしていた。
「わたしも入れてください!」
「お早うございます!」
「今日もやりますか?」
「もちろん!走り込みから始めたらいい?」
「そうですね、俺たちももう少し走ります!」
騎士達も何周か走ったばかりなのにわたしに合わせて一緒に走ってくれた。
男爵家の実家でもアルバードと一緒に護衛騎士と朝から体を動かしていた。
伯爵家では一応伯爵夫人なので最初は遠慮していたけどフランと生活するにはやはり体力がないといけないと思い、無理やり彼らに混ざって体を動かすことにしている。
初めは「どうせ何もできないだろう」と適当に扱われていたのに、わたしが真面目に訓練に参加するのを分かってくれて、今では時間が許す限りわたしに付き合ってくれる。
もちろん剣の打ち合いもしてくれるし、突きや蹴りなどの相対稽古もしてくれる。
体を鍛えあげてわたし何を目指しているのだろう?たまにそう思うけど、どうせやるなら徹底的に!よね?
しっかり稽古を終えて汗を流し終えてスッキリしてから旦那様とフランと三人で朝食を摂る。
「アンナ、君に手紙が来ていた。弟のアルバード君からだよ」
旦那様の手紙と一緒に混ざっていたらしく渡してくれた。
「ありがとうございます」
「アンナ、アルバードって、だれ?」
フランが知らない名前に反応した。
「わたしの弟です」
そう答えるとフランが突然口を大きく膨らませて怒り出した。
「アンナはぼくのだよ!そのアル……はいらない!どこかにやって!」
旦那様とわたしは思わず顔を合わせて、吹き出した。
「フラン、アンナはフランだけのものじゃないよ」
旦那様が笑いを堪えながら言った。
「フランのだよ!だれにもあげない!」
「フラン……あ、ありがとう。わたし、フランのお嫁さんにこの屋敷に来たみたいな気分だわ」
わたしも笑いを堪えていた。
「アンナはフランのもの!およめさん、ならフランのもので、いいの?」
「フラン、わたしはフランのお父様のお嫁さんなんです(形だけの)。だからフランのお母様にはなれてもお嫁さんにはなれません」
「おかあさまは、もういる。アンナはアンナだもん、おかあさまじゃない!だからとうさまのおよめさんだから、ぼくのおよめさんだよ!」
「うーん、ま、それでいいかな?」
まだ4歳のフランに説明は難しいもの。
「じゃあ、アル…はもういらない、ね?」
「いやいや、アルバードはわたしの大事な弟ですから。フランのお兄ちゃんになってくれますよ?」
「おにいちゃん?こわい?いじわる?」
「どこでそんな言葉聞いたんですか?アルバードは優しくてかっこよくて頭が良くて自慢の弟なんです!フランのこともとっても大切にしてくれますよ!」
「フラン、アル…いらない!アンナはフランのだもん!」
アルバード自慢したら完全にヤキモチ妬かれた。
その後しばらくはフランはわたしから離れなかった。
可愛い、とっても可愛い。
だけど、4歳児、結構重たい。
少しでも疲れて抱っこをやめようと、下におろそうとすると、泣くわ喚くわ、とってもうるさい!!
「フラン、アンナはどこにも行きません!フランのそばにいるから、ちょっとだけおりてくださいよ!」
「やだ!やだ!」
結局、お昼寝するまで抱っこさせられた。
執務中も膝の上からおりない。
だけど寝顔は天使のように可愛い。
やっぱりフランは可愛い、天使だわ。癒される。
だけど、どうしよう。
明日、アルバードが屋敷に来るらしい。
多分結婚したこと手紙で書いて、その後の手紙がうるさかったので、ずっと放ってたんだよね。
明日、アルバード、絶対、怒ってる。
ああ、会いたい。すっごく会いたいけど、会うのが怖い。
それにフランがどうなるか……
怖すぎるわ。
夜会から帰ってドレスを脱ぎ捨て、お風呂の中でため息。
メイドのリナがわたしの髪を洗ってくれている。
「どうなさいました?」
「うーん、わたしってこの屋敷での立ち位置ってなんだと思う?」
「えっ?」
「伯爵夫人?それとも旦那様の妻?フランの義母?それともフランの遊び相手?」
「それは……全てでしょう」
「そうかな?わたし旦那様との夫婦関係はないわよ?それはこの屋敷の人達は皆知っているでしょう?」
「まぁそれは。でも、あの旦那様がアンナ様にだけは心を開いているので私達としてはそれだけでも十分驚いております」
「最初は確かになんて表情のない人なのだろうと思ったわ。それに言い方は上から目線だし(まぁ伯爵家当主だものね)性格悪そうだし、結婚なんて面倒くさいことはしたくないと言ってたし、わたしとも白い結婚で三年したら別れると言ってたし」
「ああ、やっぱりそうだったんですね。旦那様がいきなり結婚するなんて言い出したし、若いご令嬢だったし、結婚してみれば寝室は別だし。絶対おかしいとみんな言ってるんです」
「ふふ、わたしは両親が亡くなって行き場がなくて旦那様に拾われて幸せに暮らしているから感謝してるの。フランは可愛いし、天使だし、あの笑顔をわたしに向けてくれるだけで、本当に幸せなの。三年後別れる契約になっているんだけど、旦那様にプロポーズされたのよね。本当の妻にならないかと……」
さっきのことをよく思い出してみる。
ーーうん?ううん?
なんだかおかしい。
『フランは君のことを慕っている。もし君がフランの母親になりたいと思ってくれるなら契約は解除してプロポーズしたいと思っているんだが、いやかな?』
あーーーー、旦那様、フランの母親になりたいならと言ったわ!
別にわたしのこと好きとか愛しているとか、そんな感情があるなんて一言も言われていない!
やばい!!勘違いするところだった。
「………リナ。わたし勘違いやろうだったみたい。さっきまでの話は『なし』でお願い。お風呂上がったらお茶を用意してもらってもいいかしら?ちょっとゆっくり考えてみるわ」
ソファに座り、寛ぎながら心の中はーー。
ーー勘違いもいいところだった。
あんな夜会のバルコニーのテラスでいい感じで話したのがいけないのよ!
なんだかカッコ良くプロポーズされた気分になってたわ。
恥ずかしい、恥ずかしすぎる。
旦那様はフランの母親でいないかと言ったのよ!
ふと気がついたらソファでうたた寝していた。
もうそろそろ夜が明ける。窓の外は少し薄暗いけど、気持ちがいい風が入ってきた。
よし!
わたしは寝巻きを脱ぎ捨て、ブラウスとパンツに着替えて髪の毛を高めの位置でひとつ結びにした。
外に出ると屋敷で働く護衛騎士達が何人か早朝から訓練をしていた。
「わたしも入れてください!」
「お早うございます!」
「今日もやりますか?」
「もちろん!走り込みから始めたらいい?」
「そうですね、俺たちももう少し走ります!」
騎士達も何周か走ったばかりなのにわたしに合わせて一緒に走ってくれた。
男爵家の実家でもアルバードと一緒に護衛騎士と朝から体を動かしていた。
伯爵家では一応伯爵夫人なので最初は遠慮していたけどフランと生活するにはやはり体力がないといけないと思い、無理やり彼らに混ざって体を動かすことにしている。
初めは「どうせ何もできないだろう」と適当に扱われていたのに、わたしが真面目に訓練に参加するのを分かってくれて、今では時間が許す限りわたしに付き合ってくれる。
もちろん剣の打ち合いもしてくれるし、突きや蹴りなどの相対稽古もしてくれる。
体を鍛えあげてわたし何を目指しているのだろう?たまにそう思うけど、どうせやるなら徹底的に!よね?
しっかり稽古を終えて汗を流し終えてスッキリしてから旦那様とフランと三人で朝食を摂る。
「アンナ、君に手紙が来ていた。弟のアルバード君からだよ」
旦那様の手紙と一緒に混ざっていたらしく渡してくれた。
「ありがとうございます」
「アンナ、アルバードって、だれ?」
フランが知らない名前に反応した。
「わたしの弟です」
そう答えるとフランが突然口を大きく膨らませて怒り出した。
「アンナはぼくのだよ!そのアル……はいらない!どこかにやって!」
旦那様とわたしは思わず顔を合わせて、吹き出した。
「フラン、アンナはフランだけのものじゃないよ」
旦那様が笑いを堪えながら言った。
「フランのだよ!だれにもあげない!」
「フラン……あ、ありがとう。わたし、フランのお嫁さんにこの屋敷に来たみたいな気分だわ」
わたしも笑いを堪えていた。
「アンナはフランのもの!およめさん、ならフランのもので、いいの?」
「フラン、わたしはフランのお父様のお嫁さんなんです(形だけの)。だからフランのお母様にはなれてもお嫁さんにはなれません」
「おかあさまは、もういる。アンナはアンナだもん、おかあさまじゃない!だからとうさまのおよめさんだから、ぼくのおよめさんだよ!」
「うーん、ま、それでいいかな?」
まだ4歳のフランに説明は難しいもの。
「じゃあ、アル…はもういらない、ね?」
「いやいや、アルバードはわたしの大事な弟ですから。フランのお兄ちゃんになってくれますよ?」
「おにいちゃん?こわい?いじわる?」
「どこでそんな言葉聞いたんですか?アルバードは優しくてかっこよくて頭が良くて自慢の弟なんです!フランのこともとっても大切にしてくれますよ!」
「フラン、アル…いらない!アンナはフランのだもん!」
アルバード自慢したら完全にヤキモチ妬かれた。
その後しばらくはフランはわたしから離れなかった。
可愛い、とっても可愛い。
だけど、4歳児、結構重たい。
少しでも疲れて抱っこをやめようと、下におろそうとすると、泣くわ喚くわ、とってもうるさい!!
「フラン、アンナはどこにも行きません!フランのそばにいるから、ちょっとだけおりてくださいよ!」
「やだ!やだ!」
結局、お昼寝するまで抱っこさせられた。
執務中も膝の上からおりない。
だけど寝顔は天使のように可愛い。
やっぱりフランは可愛い、天使だわ。癒される。
だけど、どうしよう。
明日、アルバードが屋敷に来るらしい。
多分結婚したこと手紙で書いて、その後の手紙がうるさかったので、ずっと放ってたんだよね。
明日、アルバード、絶対、怒ってる。
ああ、会いたい。すっごく会いたいけど、会うのが怖い。
それにフランがどうなるか……
怖すぎるわ。
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