55 / 76
王城にて⑤
しおりを挟む
「そろそろバーランド前公爵のこれからを決めないといけませんね」
ずっと見届け人として話を聞いていた宰相様が言った。
「そうだな、カステル?公爵としてだけは優秀で他国にまで力をつけ巨万の富を持ち、他の貴族のトップにまでをのしあがった。我々王族でも其方には強く出ることができなかった。父上か生きている頃ならまだしもわたしの力では押さえ込むことは出来なかった。それが今や仇となった。カステルも63歳か……後何年生きられるかわからないが人のために最後は尽くしてもらおう」
陛下は淡々と表情を変えずに話していた。
まるで前公爵の罪を許してやるかのように。
「ほお、わたしに人のために生きろと?」
「楽しい余生を送っていただこう、カステルを連れて行け」
部屋に近衛兵達が入ってきた。
「おい!触るな!くそっ!わたしをどうすると言うのか?おい、国王、返事しろ!」
「カステル、貴方がこれから行くところは新薬を作っている研究室だ。貴方の最後の人生は国民のために尽くし感謝されながら死んでいってもらう。素晴らしい終わり方だろう?エレファとダイアナの名誉のために貴方の醜聞を出すことはできない。悔しいが王妃からの願いだ、存分に国民のために尽くして長く生きよ」
言っていることは優しそうな話だが、人体実験になっても簡単に死ぬことは許さない。最後まで死なさない。苦しみのたうちながら死んでいけと言っているのだ。
「わ、わたしが何をしたと言うのだ?やめろ!手を退けろ!くそっ!お前達絶対許さないぞ!」
喚き散らしながら近衛兵に引き摺られ去って行った前公爵。
部屋が静まり返ると陛下がジャスティア殿下を冷たく見つめた。
「お前は寝込むほどに体調を崩していた。そんなお前はもう王族として過ごすことはできないだろう……そうだな………「貴方……お願いです。ジャスティアをわたしに託して頂けませんか?」
「あれだけお前のことに逆らってばかりのジャスティアに何故そんなことを言うんだ?」
「貴方の無関心の愛情がこの子をこんなふうにしたとは思わないのですか?」
「な、何?わたしはジャスティアのことを可愛がっていた。早くに母を亡くしお前と言う継母が来て可哀想だからジャスティアの言うことはなんでも聞いてやった。それなのにわたしの顔に泥を塗ろうとしたのはジャスティアだ!」
陛下はすごい剣幕で怒り始めた。
「大体お前がジャスティアに厳しすぎたんだ!だからジャスティアは我儘に育って人の言葉すら聞かない傲慢な娘になったんだ!」
陛下は隣に座る王妃様に対して近くにあった銀製のタンブラーを投げつけた。
王妃様の体に紅茶がかかりドレスはびっしょりと濡れていた。タンブラーが当たっていたら怪我をするところだった。
慌ててお付きの侍女が拭きにやってきた。
「拭かなくてもいいわ、下がっていて」
王妃様は侍女に優しく伝えると陛下の顔を見た。
「ジャスティアへの処罰はわたしにお任せいただけたと思ってよろしいのかしら?」
王妃様は微笑んだ。
「…………任せる」
バツが悪かったのか陛下も怒りを抑えて王妃様にジャスティア殿下の処罰に関しては任せることにしたようだ。
「バーランド前公爵の周りにいた者たちを捕らえなければいけません。前公爵の罪は沢山ありますのでここで話したことは皆さん胸の中にしまいましょう。その他のことで罪を問い罰を下したことにします。あんな男の名誉など糞食らえです」
宰相はそう言って両陛下に頭を下げて部屋を出て行った。
ジャスティア殿下は何も言わない。
下を向き俯いたままだ。
王妃様はそんな彼女に近づくと肩に優しく手を置いた。
「ジャスティア、わたしと一緒に行きましょう。貴方の今までしたことはきちんと反省して罪は償ってもらいます。でもわたし達二人も親として反省しなければいけません。陛下、これで失礼致します」
陛下は「あ、ああ」と返事をするだけで二人を見ようともしなかった。
俺と団長は事後処理に追われることになる。
しばらくはダイアナにゆっくり会えないだろう。
そう思っていたら王妃様が振り返り俺に言った。
「キース、取り調べは明日からお願いね。今日だけはダイアナのそばにいてあげてちょうだい」
俺は頭を下げて「ありがとうございました」とお礼を言った。
ずっと見届け人として話を聞いていた宰相様が言った。
「そうだな、カステル?公爵としてだけは優秀で他国にまで力をつけ巨万の富を持ち、他の貴族のトップにまでをのしあがった。我々王族でも其方には強く出ることができなかった。父上か生きている頃ならまだしもわたしの力では押さえ込むことは出来なかった。それが今や仇となった。カステルも63歳か……後何年生きられるかわからないが人のために最後は尽くしてもらおう」
陛下は淡々と表情を変えずに話していた。
まるで前公爵の罪を許してやるかのように。
「ほお、わたしに人のために生きろと?」
「楽しい余生を送っていただこう、カステルを連れて行け」
部屋に近衛兵達が入ってきた。
「おい!触るな!くそっ!わたしをどうすると言うのか?おい、国王、返事しろ!」
「カステル、貴方がこれから行くところは新薬を作っている研究室だ。貴方の最後の人生は国民のために尽くし感謝されながら死んでいってもらう。素晴らしい終わり方だろう?エレファとダイアナの名誉のために貴方の醜聞を出すことはできない。悔しいが王妃からの願いだ、存分に国民のために尽くして長く生きよ」
言っていることは優しそうな話だが、人体実験になっても簡単に死ぬことは許さない。最後まで死なさない。苦しみのたうちながら死んでいけと言っているのだ。
「わ、わたしが何をしたと言うのだ?やめろ!手を退けろ!くそっ!お前達絶対許さないぞ!」
喚き散らしながら近衛兵に引き摺られ去って行った前公爵。
部屋が静まり返ると陛下がジャスティア殿下を冷たく見つめた。
「お前は寝込むほどに体調を崩していた。そんなお前はもう王族として過ごすことはできないだろう……そうだな………「貴方……お願いです。ジャスティアをわたしに託して頂けませんか?」
「あれだけお前のことに逆らってばかりのジャスティアに何故そんなことを言うんだ?」
「貴方の無関心の愛情がこの子をこんなふうにしたとは思わないのですか?」
「な、何?わたしはジャスティアのことを可愛がっていた。早くに母を亡くしお前と言う継母が来て可哀想だからジャスティアの言うことはなんでも聞いてやった。それなのにわたしの顔に泥を塗ろうとしたのはジャスティアだ!」
陛下はすごい剣幕で怒り始めた。
「大体お前がジャスティアに厳しすぎたんだ!だからジャスティアは我儘に育って人の言葉すら聞かない傲慢な娘になったんだ!」
陛下は隣に座る王妃様に対して近くにあった銀製のタンブラーを投げつけた。
王妃様の体に紅茶がかかりドレスはびっしょりと濡れていた。タンブラーが当たっていたら怪我をするところだった。
慌ててお付きの侍女が拭きにやってきた。
「拭かなくてもいいわ、下がっていて」
王妃様は侍女に優しく伝えると陛下の顔を見た。
「ジャスティアへの処罰はわたしにお任せいただけたと思ってよろしいのかしら?」
王妃様は微笑んだ。
「…………任せる」
バツが悪かったのか陛下も怒りを抑えて王妃様にジャスティア殿下の処罰に関しては任せることにしたようだ。
「バーランド前公爵の周りにいた者たちを捕らえなければいけません。前公爵の罪は沢山ありますのでここで話したことは皆さん胸の中にしまいましょう。その他のことで罪を問い罰を下したことにします。あんな男の名誉など糞食らえです」
宰相はそう言って両陛下に頭を下げて部屋を出て行った。
ジャスティア殿下は何も言わない。
下を向き俯いたままだ。
王妃様はそんな彼女に近づくと肩に優しく手を置いた。
「ジャスティア、わたしと一緒に行きましょう。貴方の今までしたことはきちんと反省して罪は償ってもらいます。でもわたし達二人も親として反省しなければいけません。陛下、これで失礼致します」
陛下は「あ、ああ」と返事をするだけで二人を見ようともしなかった。
俺と団長は事後処理に追われることになる。
しばらくはダイアナにゆっくり会えないだろう。
そう思っていたら王妃様が振り返り俺に言った。
「キース、取り調べは明日からお願いね。今日だけはダイアナのそばにいてあげてちょうだい」
俺は頭を下げて「ありがとうございました」とお礼を言った。
465
あなたにおすすめの小説
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!
風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。
結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。
レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。
こんな人のどこが良かったのかしら???
家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――
さようなら、私の愛したあなた。
希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。
ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。
「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」
ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。
ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。
「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」
凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。
なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。
「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」
こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。
捨てられた妻は悪魔と旅立ちます。
豆狸
恋愛
いっそ……いっそこんな風に私を想う言葉を口にしないでくれたなら、はっきりとペルブラン様のほうを選んでくれたなら捨て去ることが出来るのに、全身に絡みついた鎖のような私の恋心を。
あなたの幸せを、心からお祈りしています
たくわん
恋愛
「平民の娘ごときが、騎士の妻になれると思ったのか」
宮廷音楽家の娘リディアは、愛を誓い合った騎士エドゥアルトから、一方的に婚約破棄を告げられる。理由は「身分違い」。彼が選んだのは、爵位と持参金を持つ貴族令嬢だった。
傷ついた心を抱えながらも、リディアは決意する。
「音楽の道で、誰にも見下されない存在になってみせる」
革新的な合奏曲の創作、宮廷初の「音楽会」の開催、そして若き隣国王子との出会い——。
才能と努力だけを武器に、リディアは宮廷音楽界の頂点へと駆け上がっていく。
一方、妻の浪費と実家の圧力に苦しむエドゥアルトは、次第に転落の道を辿り始める。そして彼は気づくのだ。自分が何を失ったのかを。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
私のことはお気になさらず
みおな
恋愛
侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。
そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。
私のことはお気になさらず。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる