【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ

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ダイアナとジャスティア①

 キース様とのデートの日、アシュア様がわたしの部屋へやってきた。

「この服はね、エレファがこの屋敷に遊びにきた時に忘れて帰ったものなの。古いから少し手を入れたのよ。ダイアナに似合うと思って、是非着てほしくて」

 それは淡いグリーンのドレスで裾には花や蝶をイメージした繊細な柄を施してあった。
 透明感のあるシルク生地でふんわり風になびくとスカートが軽やかに見えそうだ。

「………ありがとうございます。とても嬉しいです」

 言葉にできないくらい嬉しくて思わずドレスを抱きしめた。

「これはね、エレファが…あっ、うん、……とても気に入っていたの。少しお茶をこぼして汚れてしまったので我が家で着替えて、このドレスは洗濯するので置いて帰ったの。あー、ごめんなさい、ダイアナには正直に話すわね」

 何度となく話しながら言葉を詰まらせていたアシュア様が誤魔化しながら話していたことには気がついていた。

「ダニエルとのデートのあと、どんなに楽しかったかわたしに報告に来て、興奮してお茶をこぼしたの。そして仕方なく脱いで他の服に着替えて帰ったの。綺麗に洗濯してエレファに渡すつもりだったのよ?だけどエレファがそのあと長期休暇でブラン王国へ帰ったのでそのままになっちゃったの。エレファもわたしも」

「あ、余計な気を遣わせてすみません。もう公爵には何の気持ちも残っていないので大丈夫なんです」

 わたしがキッパリと伝えるとアシュア様の方が悲しそうな顔をした。

「エレファが二人のことを知ったら……だけどエレファはダイアナの意思を尊重してくれると思うわ」

「守ってくれたお母様のことは今も大切だし悲しませたくはありません。でもまだあの人を許せないのです、本当に愛しているのならお母様を裏切るなんてできないはずだし、お祖父様からだって守ってくれたはずだもの。お母様だけが辛い思いをして……絶対に許したくない」

「せっかくのデートの前に嫌なことを思い出させてごめんなさい。エレファの幸せな思い出の服を着て欲しかったの。ダニエルのことは完全に忘れてちょうだい」

「はい……ありがとうございます」

 キース様が部屋に迎えにきてくれた。

「準備はできた?」

「ええ、いつでもお出かけできます」
 わたしのドレス姿を見てにっこりと微笑んだ。

「ダイアナ、とても可愛いよ」

「ありがとうございます、、、キース様?わたし綺麗ではありませんか?」
 彼の近くに寄って顔を見上げる。

 にこりと微笑んでキース様を見た。ほんの悪戯心から。

「っん、、もちろん綺麗だ」
 頭上からキース様の笑いを堪えた声が聞こえた。

「本当にそう思ってます?可愛いとは思っても綺麗とは思えないですか?」

 ぷくっと口を膨らませると、「ダイアナそろそろ時間だよ、行くの行かないの?」

「もちろん楽しみにしていたから行きたいです」

 キース様が手を差し出した。その手をとると体を引き寄せて耳元で「ダイアナ、誰にも見せたくないくらい綺麗でそしてその怒った顔は可愛いよ」と囁かれた。

「…………!」
 顔が真っ赤になって何も言えなかった。

 わたしの髪に優しいキスをして「さあ行こう」と言ったキース様にわたしは黙ってついて行った。

 もし使用人に今見られたら顔が真っ赤っかになっていて恥ずかしすぎる。

 馬車に乗るとキース様はいろんな話をしてくれた。
 わたしの幼い頃のこと。
 お母様のこと。

 観劇のあとはレストランで食事をした。

 笑わない氷のようだと称されていたキース様。こんな優しい笑顔の人だとみんなに伝えたくなる。誤解されて嫌な思いもしただろう。

 わたしは守られてばかりで彼を守ってあげられなかった。

「どうしたんだ?」

「えっ?………キース様…いつも見守ってくれてありがとうございます。大好きです」

「いきなりで驚いたけど俺も愛しているよ」

 わたしはただ気持ちを伝えたかっただけなのに……それ以上の言葉を返してもらって……今日は顔がほてって仕方がない。




 ◇ ◇ ◇

 お義母様の屋敷を抜け出して久しぶりに街へ出て来た。

 毎日缶詰状態で勉強ばかり。
 今までお父様に泣きつけば、嫌なことはしなくて済んだのに!
 誰も助けてくれない。それどころかサボろうとすると物差しで手をバシッと叩かれる。

 誰にも怒られたことも叩かれたこともなかったのに……あ、一人いた。お義母様はいつもわたしを目の敵のように怒ってばかりだった。
 そしてお義母様の実家である侯爵家の人たちもわたしを王女として接してくれなくなった。

「早く起きなさい」
「食事中は音を立てない」
「授業中は先生の話を聞くこと」
「宿題を出されたならきちんとやること」
「その態度は授業を受ける者としてはおかしいのでは?」

 もううんざり。お義母様がこの屋敷に居なくても、伯母様やお祖父様たちがとてもうるさくわたしに注意する。

「もう嫌!今日の授業はキャンセルよ!出掛けてくるわ」

 うるさい侯爵家にもう居たくない。

「こんな家出てってあげるわ」

「ジャスティア様、だめです。勝手なことをされたことが旦那様たちにわかって仕舞えばどうなるかわかりません。お願いですから!」
 執事が必死で止めるのも聞かずに
「どうなるって言うのよ!知らないわ」
 彼を振り払い屋敷を出た。

 ーーもう本当にいや!どうして王女のわたしが勉強しないといけないの!うるさく注意ばかり!うんざりだわ。

 イライラしながら屋敷の馬車乗り場に向かい、
「早く馬車を出しなさい!」と御者に言うと
「ジャスティア様、指示がないのに勝手に馬車をお出しすることはできません」と断られた。

「わたくしが馬車に乗ると言っているのよ!黙って出しなさい。これは命令よ!」

「わ、わかりました。準備いたしますので少しお待ちください」
 御者は慌てて用意を始めた。

「ジャスティア様!」
 待っていると数人の護衛騎士が急いでわたしのところへとやって来た。

「あら?いいところに来たわね。わたくし今から出掛けるの。ついて来なさい」

「旦那様からの許可は出ておりません。屋敷にお戻りください」

「貴方?たかが護衛騎士よね?わたくしに命令できる立場なの?」

「し、しかし…」

「うるさいわね。わたくしは出掛けるの。わかったわね?」
 護衛を睨みつけ「ついて来なさい」と命令すると渋々馬車に乗り込んだ。

「ふふ、久しぶりの外出ね。楽しみだわ」







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