62 / 76
ダイアナとジャスティア①
キース様とのデートの日、アシュア様がわたしの部屋へやってきた。
「この服はね、エレファがこの屋敷に遊びにきた時に忘れて帰ったものなの。古いから少し手を入れたのよ。ダイアナに似合うと思って、是非着てほしくて」
それは淡いグリーンのドレスで裾には花や蝶をイメージした繊細な柄を施してあった。
透明感のあるシルク生地でふんわり風になびくとスカートが軽やかに見えそうだ。
「………ありがとうございます。とても嬉しいです」
言葉にできないくらい嬉しくて思わずドレスを抱きしめた。
「これはね、エレファが…あっ、うん、……とても気に入っていたの。少しお茶をこぼして汚れてしまったので我が家で着替えて、このドレスは洗濯するので置いて帰ったの。あー、ごめんなさい、ダイアナには正直に話すわね」
何度となく話しながら言葉を詰まらせていたアシュア様が誤魔化しながら話していたことには気がついていた。
「ダニエルとのデートのあと、どんなに楽しかったかわたしに報告に来て、興奮してお茶をこぼしたの。そして仕方なく脱いで他の服に着替えて帰ったの。綺麗に洗濯してエレファに渡すつもりだったのよ?だけどエレファがそのあと長期休暇でブラン王国へ帰ったのでそのままになっちゃったの。エレファもわたしも」
「あ、余計な気を遣わせてすみません。もう公爵には何の気持ちも残っていないので大丈夫なんです」
わたしがキッパリと伝えるとアシュア様の方が悲しそうな顔をした。
「エレファが二人のことを知ったら……だけどエレファはダイアナの意思を尊重してくれると思うわ」
「守ってくれたお母様のことは今も大切だし悲しませたくはありません。でもまだあの人を許せないのです、本当に愛しているのならお母様を裏切るなんてできないはずだし、お祖父様からだって守ってくれたはずだもの。お母様だけが辛い思いをして……絶対に許したくない」
「せっかくのデートの前に嫌なことを思い出させてごめんなさい。エレファの幸せな思い出の服を着て欲しかったの。ダニエルのことは完全に忘れてちょうだい」
「はい……ありがとうございます」
キース様が部屋に迎えにきてくれた。
「準備はできた?」
「ええ、いつでもお出かけできます」
わたしのドレス姿を見てにっこりと微笑んだ。
「ダイアナ、とても可愛いよ」
「ありがとうございます、、、キース様?わたし綺麗ではありませんか?」
彼の近くに寄って顔を見上げる。
にこりと微笑んでキース様を見た。ほんの悪戯心から。
「っん、、もちろん綺麗だ」
頭上からキース様の笑いを堪えた声が聞こえた。
「本当にそう思ってます?可愛いとは思っても綺麗とは思えないですか?」
ぷくっと口を膨らませると、「ダイアナそろそろ時間だよ、行くの行かないの?」
「もちろん楽しみにしていたから行きたいです」
キース様が手を差し出した。その手をとると体を引き寄せて耳元で「ダイアナ、誰にも見せたくないくらい綺麗でそしてその怒った顔は可愛いよ」と囁かれた。
「…………!」
顔が真っ赤になって何も言えなかった。
わたしの髪に優しいキスをして「さあ行こう」と言ったキース様にわたしは黙ってついて行った。
もし使用人に今見られたら顔が真っ赤っかになっていて恥ずかしすぎる。
馬車に乗るとキース様はいろんな話をしてくれた。
わたしの幼い頃のこと。
お母様のこと。
観劇のあとはレストランで食事をした。
笑わない氷のようだと称されていたキース様。こんな優しい笑顔の人だとみんなに伝えたくなる。誤解されて嫌な思いもしただろう。
わたしは守られてばかりで彼を守ってあげられなかった。
「どうしたんだ?」
「えっ?………キース様…いつも見守ってくれてありがとうございます。大好きです」
「いきなりで驚いたけど俺も愛しているよ」
わたしはただ気持ちを伝えたかっただけなのに……それ以上の言葉を返してもらって……今日は顔がほてって仕方がない。
◇ ◇ ◇
お義母様の屋敷を抜け出して久しぶりに街へ出て来た。
毎日缶詰状態で勉強ばかり。
今までお父様に泣きつけば、嫌なことはしなくて済んだのに!
誰も助けてくれない。それどころかサボろうとすると物差しで手をバシッと叩かれる。
誰にも怒られたことも叩かれたこともなかったのに……あ、一人いた。お義母様はいつもわたしを目の敵のように怒ってばかりだった。
そしてお義母様の実家である侯爵家の人たちもわたしを王女として接してくれなくなった。
「早く起きなさい」
「食事中は音を立てない」
「授業中は先生の話を聞くこと」
「宿題を出されたならきちんとやること」
「その態度は授業を受ける者としてはおかしいのでは?」
もううんざり。お義母様がこの屋敷に居なくても、伯母様やお祖父様たちがとてもうるさくわたしに注意する。
「もう嫌!今日の授業はキャンセルよ!出掛けてくるわ」
うるさい侯爵家にもう居たくない。
「こんな家出てってあげるわ」
「ジャスティア様、だめです。勝手なことをされたことが旦那様たちにわかって仕舞えばどうなるかわかりません。お願いですから!」
執事が必死で止めるのも聞かずに
「どうなるって言うのよ!知らないわ」
彼を振り払い屋敷を出た。
ーーもう本当にいや!どうして王女のわたしが勉強しないといけないの!うるさく注意ばかり!うんざりだわ。
イライラしながら屋敷の馬車乗り場に向かい、
「早く馬車を出しなさい!」と御者に言うと
「ジャスティア様、指示がないのに勝手に馬車をお出しすることはできません」と断られた。
「わたくしが馬車に乗ると言っているのよ!黙って出しなさい。これは命令よ!」
「わ、わかりました。準備いたしますので少しお待ちください」
御者は慌てて用意を始めた。
「ジャスティア様!」
待っていると数人の護衛騎士が急いでわたしのところへとやって来た。
「あら?いいところに来たわね。わたくし今から出掛けるの。ついて来なさい」
「旦那様からの許可は出ておりません。屋敷にお戻りください」
「貴方?たかが護衛騎士よね?わたくしに命令できる立場なの?」
「し、しかし…」
「うるさいわね。わたくしは出掛けるの。わかったわね?」
護衛を睨みつけ「ついて来なさい」と命令すると渋々馬車に乗り込んだ。
「ふふ、久しぶりの外出ね。楽しみだわ」
「この服はね、エレファがこの屋敷に遊びにきた時に忘れて帰ったものなの。古いから少し手を入れたのよ。ダイアナに似合うと思って、是非着てほしくて」
それは淡いグリーンのドレスで裾には花や蝶をイメージした繊細な柄を施してあった。
透明感のあるシルク生地でふんわり風になびくとスカートが軽やかに見えそうだ。
「………ありがとうございます。とても嬉しいです」
言葉にできないくらい嬉しくて思わずドレスを抱きしめた。
「これはね、エレファが…あっ、うん、……とても気に入っていたの。少しお茶をこぼして汚れてしまったので我が家で着替えて、このドレスは洗濯するので置いて帰ったの。あー、ごめんなさい、ダイアナには正直に話すわね」
何度となく話しながら言葉を詰まらせていたアシュア様が誤魔化しながら話していたことには気がついていた。
「ダニエルとのデートのあと、どんなに楽しかったかわたしに報告に来て、興奮してお茶をこぼしたの。そして仕方なく脱いで他の服に着替えて帰ったの。綺麗に洗濯してエレファに渡すつもりだったのよ?だけどエレファがそのあと長期休暇でブラン王国へ帰ったのでそのままになっちゃったの。エレファもわたしも」
「あ、余計な気を遣わせてすみません。もう公爵には何の気持ちも残っていないので大丈夫なんです」
わたしがキッパリと伝えるとアシュア様の方が悲しそうな顔をした。
「エレファが二人のことを知ったら……だけどエレファはダイアナの意思を尊重してくれると思うわ」
「守ってくれたお母様のことは今も大切だし悲しませたくはありません。でもまだあの人を許せないのです、本当に愛しているのならお母様を裏切るなんてできないはずだし、お祖父様からだって守ってくれたはずだもの。お母様だけが辛い思いをして……絶対に許したくない」
「せっかくのデートの前に嫌なことを思い出させてごめんなさい。エレファの幸せな思い出の服を着て欲しかったの。ダニエルのことは完全に忘れてちょうだい」
「はい……ありがとうございます」
キース様が部屋に迎えにきてくれた。
「準備はできた?」
「ええ、いつでもお出かけできます」
わたしのドレス姿を見てにっこりと微笑んだ。
「ダイアナ、とても可愛いよ」
「ありがとうございます、、、キース様?わたし綺麗ではありませんか?」
彼の近くに寄って顔を見上げる。
にこりと微笑んでキース様を見た。ほんの悪戯心から。
「っん、、もちろん綺麗だ」
頭上からキース様の笑いを堪えた声が聞こえた。
「本当にそう思ってます?可愛いとは思っても綺麗とは思えないですか?」
ぷくっと口を膨らませると、「ダイアナそろそろ時間だよ、行くの行かないの?」
「もちろん楽しみにしていたから行きたいです」
キース様が手を差し出した。その手をとると体を引き寄せて耳元で「ダイアナ、誰にも見せたくないくらい綺麗でそしてその怒った顔は可愛いよ」と囁かれた。
「…………!」
顔が真っ赤になって何も言えなかった。
わたしの髪に優しいキスをして「さあ行こう」と言ったキース様にわたしは黙ってついて行った。
もし使用人に今見られたら顔が真っ赤っかになっていて恥ずかしすぎる。
馬車に乗るとキース様はいろんな話をしてくれた。
わたしの幼い頃のこと。
お母様のこと。
観劇のあとはレストランで食事をした。
笑わない氷のようだと称されていたキース様。こんな優しい笑顔の人だとみんなに伝えたくなる。誤解されて嫌な思いもしただろう。
わたしは守られてばかりで彼を守ってあげられなかった。
「どうしたんだ?」
「えっ?………キース様…いつも見守ってくれてありがとうございます。大好きです」
「いきなりで驚いたけど俺も愛しているよ」
わたしはただ気持ちを伝えたかっただけなのに……それ以上の言葉を返してもらって……今日は顔がほてって仕方がない。
◇ ◇ ◇
お義母様の屋敷を抜け出して久しぶりに街へ出て来た。
毎日缶詰状態で勉強ばかり。
今までお父様に泣きつけば、嫌なことはしなくて済んだのに!
誰も助けてくれない。それどころかサボろうとすると物差しで手をバシッと叩かれる。
誰にも怒られたことも叩かれたこともなかったのに……あ、一人いた。お義母様はいつもわたしを目の敵のように怒ってばかりだった。
そしてお義母様の実家である侯爵家の人たちもわたしを王女として接してくれなくなった。
「早く起きなさい」
「食事中は音を立てない」
「授業中は先生の話を聞くこと」
「宿題を出されたならきちんとやること」
「その態度は授業を受ける者としてはおかしいのでは?」
もううんざり。お義母様がこの屋敷に居なくても、伯母様やお祖父様たちがとてもうるさくわたしに注意する。
「もう嫌!今日の授業はキャンセルよ!出掛けてくるわ」
うるさい侯爵家にもう居たくない。
「こんな家出てってあげるわ」
「ジャスティア様、だめです。勝手なことをされたことが旦那様たちにわかって仕舞えばどうなるかわかりません。お願いですから!」
執事が必死で止めるのも聞かずに
「どうなるって言うのよ!知らないわ」
彼を振り払い屋敷を出た。
ーーもう本当にいや!どうして王女のわたしが勉強しないといけないの!うるさく注意ばかり!うんざりだわ。
イライラしながら屋敷の馬車乗り場に向かい、
「早く馬車を出しなさい!」と御者に言うと
「ジャスティア様、指示がないのに勝手に馬車をお出しすることはできません」と断られた。
「わたくしが馬車に乗ると言っているのよ!黙って出しなさい。これは命令よ!」
「わ、わかりました。準備いたしますので少しお待ちください」
御者は慌てて用意を始めた。
「ジャスティア様!」
待っていると数人の護衛騎士が急いでわたしのところへとやって来た。
「あら?いいところに来たわね。わたくし今から出掛けるの。ついて来なさい」
「旦那様からの許可は出ておりません。屋敷にお戻りください」
「貴方?たかが護衛騎士よね?わたくしに命令できる立場なの?」
「し、しかし…」
「うるさいわね。わたくしは出掛けるの。わかったわね?」
護衛を睨みつけ「ついて来なさい」と命令すると渋々馬車に乗り込んだ。
「ふふ、久しぶりの外出ね。楽しみだわ」
あなたにおすすめの小説
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!
風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。
結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。
レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。
こんな人のどこが良かったのかしら???
家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――
【完結】望んだのは、私ではなくあなたです
灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。
それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。
その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。
この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。
フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。
それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが……
ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。
他サイトでも掲載しています。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。