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じゅうご
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リーリエ様のことがあって商会のお店での仕事はお休みすることになった。
しばらくは屋敷の部屋で静かに過ごすことにした。
「ふう、ずっと部屋にこもっているのもストレスがたまってしまうわ」
最近は留学のための勉強ばかりしていたので体を動かすこともなくなっていた。
お父様が留学先を見極めてくれることになっているのでとりあえずわたしは勉強をして国内で受験する留学許可を得るための試験に向けて勉強中だ。
その試験で点数をしっかりとっていれば留学先を希望で選ぶことができる。点数が悪ければ希望校への留学は出来ない。それなりのところへ留学するしかない。
バズールのように学校である程度優秀な成績をおさめていれば優遇して推薦してもらえる。
わたしは卒業資格は取って入るけど、学校に通っていないので推薦はもちろんない。
「さあ、もう一息ついたら頑張ろう」
本当はわたしの悪い噂のことが気になっているのだけど「違います」と否定して回ることなんてできない。
誰が言い出したのか、今も言って回っているのか、リーリエ様なのか、奥様なのか……使用人の中からそんなことを言い出したのか……
まだわかっていないのでわたしの心はモヤモヤしている。友人だと思っていた同僚は連絡すら取れなくなった。シエルとももちろん連絡なんてとっていない。
もうすぐ婚約解消の書類の手続きも終わると言われていて、わたしとシエルがサインをすれば終わりになる。
シエルはその時どんな反応をするのだろう。
もうわたしのことなて何とも思っていなさそうだから喜んでサインをするのかもしれない。
婚約解消を言い出したわたしだけど平然としていられるのだろうか。
あんなに好きで、今も本当は好きなのに……あんな酷いことを言われても嫌いになれなくて忘れられない。
バズールからは「お前しつこいぞ、あんな奴いつまで好きでいるんだ?」と呆れられたけど、長年彼のことが好きだったのにそんな簡単に嫌いになんてなれない。
まぁ、以前よりは気持ちは冷めてはいるけど。
ーーーーー
「サマンサ、気分転換にお買い物にでも行かないかしら?」
「ライナ様、おやめになったほうがよろしいのでは?」
「近くのケーキ屋さんに行くだけよ?」
「わたしが買ってきますのでお待ちください」
急いでサマンサが部屋から出て行こうとしたので
「違うの!わたしが買いに行きたいの」
「でも……まだ病み上がりですし」
ーー病み上がりって、熱が下がって一週間が過ぎている。なので体調はもう万全だ。
「ハァ仕方がありませんね。わたしももちろんついて参りますが護衛騎士も数人付けましょう」
となんだか近所のお買い物なのに大事になってしまった。
「みんなごめんね。わたしの我儘につき合わせてしまって」
みんなが仕事を調整して無理やり時間を空けてくれているのがわかるので感謝しかない。
そして馬車で街へ向かい、馬車の停車場から歩いてケーキ屋さんへ向かった。
わたしの大好きなイチゴのショートケーキや、フォンダンショコラ、タルトタタン、目につくケーキを片っ端から注文した。
「サマンサ、みんなにお土産買って帰りましょうね」
かなりの数になったので
「後で配達してくださる?」とお願いした。
お店を出て少し歩いていると
「お、ライナ!久しぶりだな」
と声をかけてきたのはシエルの同期のカイゼンさんだった。
「本当にお久しぶりですね、私服だとすぐにわかりませんでした」
「制服姿でしか会ったことないからね」
「ふふ本当ですね」
カイゼンさんはとても優しくて話しやすい人。
「……ライナ………大丈夫?」
いきなりの言葉に驚いた。
「え?どうして?」
「君の悪い噂が広まってしまっているんだ。俺は否定したけど屋敷の中だけではなくて社交界にまで広がり始めたらしい」
彼も子爵家の貴族。
「……え?……そんな……わたしが仕事をサボってばかりで真面目に働いていないとかそんな話?」
「……うん、それと……君が男好きだと……」
「酷い!わたしそんな態度とったことなんてないわ」
「使用人の間では君を知っている人達はみんな嘘だってわかってる……でも君のことを知らない人や知っていて悪意を持っている人たちがわざと噂が広がるように話しているみたいなんだ……」
「誰?誰がそんなことを言っているの?わたしは真面目に仕事をしてきたわ、それにみんなと同じように仕事仲間として関わり合ってはきたけど、誰かと親しくなんてしてきていないわ。わたしにはシエルがいたのよ?」
「……シエルってモテるの知ってた?」
「…………知っているわ」
「アイツを好きな奴からはライナは敵視されていたんだと思う」
「でも婚約者であることは隠していたわ。仲の良い人しか知らないはずよ」
「そんなの隠しててもどこかでバレているさ、それにシエルは誰にでも適当に優しいけどライナに対してだけ自分から話しかけるしあんな顔して話しかければみんなシエルがライナのこと好きなんだってバレてしまうよ」
「あんな顔?」
「気づいてない?シエルのやつライナにだけ愛おしそうな顔してるだろ?」
「知らない……」
ーーそんな顔してた?
わたしは最近のいつもイライラして文句しか言わない怒った顔のシエルしか知らない。
「ま、とにかく、噂のこともあるから気をつけて。誰が言い出したのかまで俺は知らない。でも人の噂ってあっという間に広がるからね、何があるかわからない。………だから、護衛がしっかりついているのか」
わたしの近くにいる護衛騎士の人達にカイゼンさんが気がついたみたいだ。
みんな私服なのでわからないようにしてくれているけどさすがカイゼンさんも騎士。
彼らの目つきや空気でわかったみたい。
「シエルはこの頃ずっと落ち込んでるみたいなんだ、あいつ単純だから職場で有る事無い事君の噂を吹き込まれているのかもしれないね」
カイゼンさんはそう言うと「じや、またな」と去って行った。
ーーシエルが落ち込んでいる?
何を言っているの?それはわたしのセリフだわ。
しばらくは屋敷の部屋で静かに過ごすことにした。
「ふう、ずっと部屋にこもっているのもストレスがたまってしまうわ」
最近は留学のための勉強ばかりしていたので体を動かすこともなくなっていた。
お父様が留学先を見極めてくれることになっているのでとりあえずわたしは勉強をして国内で受験する留学許可を得るための試験に向けて勉強中だ。
その試験で点数をしっかりとっていれば留学先を希望で選ぶことができる。点数が悪ければ希望校への留学は出来ない。それなりのところへ留学するしかない。
バズールのように学校である程度優秀な成績をおさめていれば優遇して推薦してもらえる。
わたしは卒業資格は取って入るけど、学校に通っていないので推薦はもちろんない。
「さあ、もう一息ついたら頑張ろう」
本当はわたしの悪い噂のことが気になっているのだけど「違います」と否定して回ることなんてできない。
誰が言い出したのか、今も言って回っているのか、リーリエ様なのか、奥様なのか……使用人の中からそんなことを言い出したのか……
まだわかっていないのでわたしの心はモヤモヤしている。友人だと思っていた同僚は連絡すら取れなくなった。シエルとももちろん連絡なんてとっていない。
もうすぐ婚約解消の書類の手続きも終わると言われていて、わたしとシエルがサインをすれば終わりになる。
シエルはその時どんな反応をするのだろう。
もうわたしのことなて何とも思っていなさそうだから喜んでサインをするのかもしれない。
婚約解消を言い出したわたしだけど平然としていられるのだろうか。
あんなに好きで、今も本当は好きなのに……あんな酷いことを言われても嫌いになれなくて忘れられない。
バズールからは「お前しつこいぞ、あんな奴いつまで好きでいるんだ?」と呆れられたけど、長年彼のことが好きだったのにそんな簡単に嫌いになんてなれない。
まぁ、以前よりは気持ちは冷めてはいるけど。
ーーーーー
「サマンサ、気分転換にお買い物にでも行かないかしら?」
「ライナ様、おやめになったほうがよろしいのでは?」
「近くのケーキ屋さんに行くだけよ?」
「わたしが買ってきますのでお待ちください」
急いでサマンサが部屋から出て行こうとしたので
「違うの!わたしが買いに行きたいの」
「でも……まだ病み上がりですし」
ーー病み上がりって、熱が下がって一週間が過ぎている。なので体調はもう万全だ。
「ハァ仕方がありませんね。わたしももちろんついて参りますが護衛騎士も数人付けましょう」
となんだか近所のお買い物なのに大事になってしまった。
「みんなごめんね。わたしの我儘につき合わせてしまって」
みんなが仕事を調整して無理やり時間を空けてくれているのがわかるので感謝しかない。
そして馬車で街へ向かい、馬車の停車場から歩いてケーキ屋さんへ向かった。
わたしの大好きなイチゴのショートケーキや、フォンダンショコラ、タルトタタン、目につくケーキを片っ端から注文した。
「サマンサ、みんなにお土産買って帰りましょうね」
かなりの数になったので
「後で配達してくださる?」とお願いした。
お店を出て少し歩いていると
「お、ライナ!久しぶりだな」
と声をかけてきたのはシエルの同期のカイゼンさんだった。
「本当にお久しぶりですね、私服だとすぐにわかりませんでした」
「制服姿でしか会ったことないからね」
「ふふ本当ですね」
カイゼンさんはとても優しくて話しやすい人。
「……ライナ………大丈夫?」
いきなりの言葉に驚いた。
「え?どうして?」
「君の悪い噂が広まってしまっているんだ。俺は否定したけど屋敷の中だけではなくて社交界にまで広がり始めたらしい」
彼も子爵家の貴族。
「……え?……そんな……わたしが仕事をサボってばかりで真面目に働いていないとかそんな話?」
「……うん、それと……君が男好きだと……」
「酷い!わたしそんな態度とったことなんてないわ」
「使用人の間では君を知っている人達はみんな嘘だってわかってる……でも君のことを知らない人や知っていて悪意を持っている人たちがわざと噂が広がるように話しているみたいなんだ……」
「誰?誰がそんなことを言っているの?わたしは真面目に仕事をしてきたわ、それにみんなと同じように仕事仲間として関わり合ってはきたけど、誰かと親しくなんてしてきていないわ。わたしにはシエルがいたのよ?」
「……シエルってモテるの知ってた?」
「…………知っているわ」
「アイツを好きな奴からはライナは敵視されていたんだと思う」
「でも婚約者であることは隠していたわ。仲の良い人しか知らないはずよ」
「そんなの隠しててもどこかでバレているさ、それにシエルは誰にでも適当に優しいけどライナに対してだけ自分から話しかけるしあんな顔して話しかければみんなシエルがライナのこと好きなんだってバレてしまうよ」
「あんな顔?」
「気づいてない?シエルのやつライナにだけ愛おしそうな顔してるだろ?」
「知らない……」
ーーそんな顔してた?
わたしは最近のいつもイライラして文句しか言わない怒った顔のシエルしか知らない。
「ま、とにかく、噂のこともあるから気をつけて。誰が言い出したのかまで俺は知らない。でも人の噂ってあっという間に広がるからね、何があるかわからない。………だから、護衛がしっかりついているのか」
わたしの近くにいる護衛騎士の人達にカイゼンさんが気がついたみたいだ。
みんな私服なのでわからないようにしてくれているけどさすがカイゼンさんも騎士。
彼らの目つきや空気でわかったみたい。
「シエルはこの頃ずっと落ち込んでるみたいなんだ、あいつ単純だから職場で有る事無い事君の噂を吹き込まれているのかもしれないね」
カイゼンさんはそう言うと「じや、またな」と去って行った。
ーーシエルが落ち込んでいる?
何を言っているの?それはわたしのセリフだわ。
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