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新しい恋。
ろく
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事件が起きたのは長期休暇に入る2日前の日だった。
カイさんかオリエ様がそばに居てくれるので安心して過ごしていた。流石に寮の中にいる時は二人には帰ってもらっていた。
寮の中は簡単には無関係な人は入ってはこれない。
長期休暇日の2日前の夜、明後日の列車で実家に帰る為、出来るだけ必要なものだけを小さなかばんに詰めて荷物を減らす工夫をしていた。
「これもいらないわよね、とりあえず大切な本とハンカチ、財布に汽車の中で食べるお菓子とあとは過大で必要な教科書くらいかな……」
一人でゆっくり部屋で帰省のための用意をしていたら外はいつの間にか暗くなっていた。
「あら?マリアナまだ帰ってきてないのかしら?」
マリアナも長期休暇の間実家に帰るからお土産を買いに行くと行って昼から出掛けていた。
外が暗くなってきているのにまだ帰ってこないなんておかしいと気になって部屋を出て寮の玄関に行ってみたら、何やら騒がしい。
寮長や門番の人が暗い顔をして話をしていた。
ーーどうしたのかしら?
なんだか胸騒ぎがして「何かありましたか?」
と尋ねると、
「………ライナ様………マリアナ様が帰って来ないのです」
門番さんは必ず人の出入りをチェックしている。
誰が外出しているのかはもちろん確認をしているし、おおよその帰宅時間も申告してもらっておく事で寮生の安否を常に把握している。
大学生とは言え寮には門限もあるし、あまりにも遅れて帰ってきたり無断外泊が多い生徒は退寮させられる。
マリアナは帰宅時間予定より4時間も遅れている。全く連絡が取れないことで門番の人が心配している。寮長もどうしようかと話し合っているところだった。
マリアナは平民で特待生として通っているので、かなり真面目な生活を送っていた。
「あ、あの、マリアナが友達と会ってお泊まりになったとかではないのですか?」
「………貴女はマリアナ様と同室ですよね」
「そうです、もう帰ってきていてもおかしくない時間なのにと思い心配で玄関のところにきてみたのです」
「ここだけの話なのですが……最近寮の周辺は警備を強化していたので中に怪しい人を入れることはありません。ただ周辺では寮を伺う人がたまにいたのです…………ライナ様と同室のマリアナ様が帰ってこないと言うのが気になっていたのです」
「え?わたしに何かあるのですか?」
門番さんは黙っていた。寮長さんが重い口を開いた。
「はぁー………貴女に直接伝えていなかったのは上からの口止めがあったからです……ライナ様を狙っている人物がこの国にやって来ているらしいのです」
「え?従兄弟のバズール問題ではなくて?」
「それも勿論あります。リリアンナ殿下の暴走を止めるために貴女を警備していたのです。カイ様はリリアンナ殿下の我儘も許さないし甘やかす人ではないので彼がライナ様の警護をしていると知ればまずリリアンナ殿下は何もしません。
問題を起こす前の抑止力になります」
「カイさんは一体どんなお方なのですか?本人はただの平民だとしか言わないので、あまり深く詮索するべきではないと思っておりました」
「この国の国王の兄であり、リリアンナ殿下の異母兄でもあります」
「カイさんが……王兄?」
「はい、カイ様自らがライナ様をお守りしているのでリリアンナ殿下は手出しすることはないのです。しかし最近ライナ様を逆恨みする人物がこの国にやって来ていると報告が入っていたのです………その名前は……リーリエ・ミレガーなのですが、彼女が貴女ではなくて仲の良い友人のマリアナ様を狙っているのではないかと心配していたのです」
「そんな……リーリエ様が……その話はカイさんからの情報なのですか?」
「貴女を何も知らない状態で守るのは限界を感じております。カイ様はリリアンナ殿下の我儘や横暴をこれ以上見過ごすことはできないと言われ、殿下に罰を与える事に決めたのです。
多少の我儘なら目を瞑ってこられたのですが、いくら諭しても反省することなくさらに我儘な態度が増えてきました」
寮長はリリアンナ殿下の知り合いなのだろう。
とても苦しそうに話している。
「リリアンナ殿下は寂しいお方なのです。両親からの愛情を知らずに育たれて愛情を求めるように我儘を言い、周りに人を侍らすことで寂しさを紛らわされているのです。そんな殿下が一目惚れされたのがバズール様なのです。バズール様は殿下のことをなんとも思っておりません……殿下に気に入られようと媚をうったり機嫌をとったりしない、殿下にはっきりとものを言う珍しいお方なのです。殿下はそんなバズール様をとても欲しております」
寮長はわたしをじっと見つめた。
「バズール様はリリアンナ殿下を受け入れようとしない。だから貴女を排除しようとしています。それを阻止するためにカイ様が動かれていたのに、そこにリーリエ嬢が現れた。リーリエ嬢は伯爵の地位を奪われ両親が犯罪者になり修道院へ入れられる事になっていたのに、それを抜け出してこの国にやってきているようです。それを手助けしたのが…たぶんリリアンナ殿下だと思われます」
「リーリエ様はわたしを恨んでいるのでしょうか?」
「はいかなり恨み憎しみを抱いております。それは取り調べと裁判の時に本人が叫んでいたので確認しております」
「なんとかリーリエ嬢を捕まえようと動いていたのですが……逃げられて隠れられてしまっていたのです。
マリアナ様が連絡が取れないのはもしかしたら今回のことに巻き込まれているのではないかと思っているのです」
「わたしの所為でしょうか」
ーーリーリエ様に恨まれている。
考えないようにしていたけど……両親の犯罪を受け入れることは簡単なことではない。でもわたしの件がなくても彼女の両親の侵した罪は重い。きっかけはわたしだったけど、いずれ捕まっていたことだと思う。
でもだからと言ってマリアナを巻き込むのも、この国にやって来てわたしに復讐するのもおかしいと思う。
同情は出来ない。
それにリリアンナ殿下がバズールを好きなのはわたしには関係ない。何故かバズールが受け入れないのがわたしの所為になっているけど、それ自体の話がおかしいと思う。
……それでも、今はマリアナのことだ。
「マリアナは買い物に出かけました。外を探しに行きます」
わたしが玄関を出ようしたら、腕を掴まれた。
「大人しくしていてください。これ以上問題を大きくしたくはないのです。自分勝手なことを言っているのはわかっています。でも出来ればマリアナ様を安全に連れ帰りリーリエ嬢を捕まえてリリアンナ殿下には大人しくしていただければと考えております。リリアンナ殿下の罪が大きくなればやっと安定して来た我が国の信用が落ち国民からの信用もなくなり不安定となります。リリアンナ殿下には今回のことをきっかけにどうにか対処するつもりです」
「寮長はオリソン国の重鎮のお一人なのですね?」
「わたしはリリアンナ殿下の教育係をしておりました。宰相の補佐官をしております、ご迷惑をお掛けしますがもう少し我慢してください」
カイさんかオリエ様がそばに居てくれるので安心して過ごしていた。流石に寮の中にいる時は二人には帰ってもらっていた。
寮の中は簡単には無関係な人は入ってはこれない。
長期休暇日の2日前の夜、明後日の列車で実家に帰る為、出来るだけ必要なものだけを小さなかばんに詰めて荷物を減らす工夫をしていた。
「これもいらないわよね、とりあえず大切な本とハンカチ、財布に汽車の中で食べるお菓子とあとは過大で必要な教科書くらいかな……」
一人でゆっくり部屋で帰省のための用意をしていたら外はいつの間にか暗くなっていた。
「あら?マリアナまだ帰ってきてないのかしら?」
マリアナも長期休暇の間実家に帰るからお土産を買いに行くと行って昼から出掛けていた。
外が暗くなってきているのにまだ帰ってこないなんておかしいと気になって部屋を出て寮の玄関に行ってみたら、何やら騒がしい。
寮長や門番の人が暗い顔をして話をしていた。
ーーどうしたのかしら?
なんだか胸騒ぎがして「何かありましたか?」
と尋ねると、
「………ライナ様………マリアナ様が帰って来ないのです」
門番さんは必ず人の出入りをチェックしている。
誰が外出しているのかはもちろん確認をしているし、おおよその帰宅時間も申告してもらっておく事で寮生の安否を常に把握している。
大学生とは言え寮には門限もあるし、あまりにも遅れて帰ってきたり無断外泊が多い生徒は退寮させられる。
マリアナは帰宅時間予定より4時間も遅れている。全く連絡が取れないことで門番の人が心配している。寮長もどうしようかと話し合っているところだった。
マリアナは平民で特待生として通っているので、かなり真面目な生活を送っていた。
「あ、あの、マリアナが友達と会ってお泊まりになったとかではないのですか?」
「………貴女はマリアナ様と同室ですよね」
「そうです、もう帰ってきていてもおかしくない時間なのにと思い心配で玄関のところにきてみたのです」
「ここだけの話なのですが……最近寮の周辺は警備を強化していたので中に怪しい人を入れることはありません。ただ周辺では寮を伺う人がたまにいたのです…………ライナ様と同室のマリアナ様が帰ってこないと言うのが気になっていたのです」
「え?わたしに何かあるのですか?」
門番さんは黙っていた。寮長さんが重い口を開いた。
「はぁー………貴女に直接伝えていなかったのは上からの口止めがあったからです……ライナ様を狙っている人物がこの国にやって来ているらしいのです」
「え?従兄弟のバズール問題ではなくて?」
「それも勿論あります。リリアンナ殿下の暴走を止めるために貴女を警備していたのです。カイ様はリリアンナ殿下の我儘も許さないし甘やかす人ではないので彼がライナ様の警護をしていると知ればまずリリアンナ殿下は何もしません。
問題を起こす前の抑止力になります」
「カイさんは一体どんなお方なのですか?本人はただの平民だとしか言わないので、あまり深く詮索するべきではないと思っておりました」
「この国の国王の兄であり、リリアンナ殿下の異母兄でもあります」
「カイさんが……王兄?」
「はい、カイ様自らがライナ様をお守りしているのでリリアンナ殿下は手出しすることはないのです。しかし最近ライナ様を逆恨みする人物がこの国にやって来ていると報告が入っていたのです………その名前は……リーリエ・ミレガーなのですが、彼女が貴女ではなくて仲の良い友人のマリアナ様を狙っているのではないかと心配していたのです」
「そんな……リーリエ様が……その話はカイさんからの情報なのですか?」
「貴女を何も知らない状態で守るのは限界を感じております。カイ様はリリアンナ殿下の我儘や横暴をこれ以上見過ごすことはできないと言われ、殿下に罰を与える事に決めたのです。
多少の我儘なら目を瞑ってこられたのですが、いくら諭しても反省することなくさらに我儘な態度が増えてきました」
寮長はリリアンナ殿下の知り合いなのだろう。
とても苦しそうに話している。
「リリアンナ殿下は寂しいお方なのです。両親からの愛情を知らずに育たれて愛情を求めるように我儘を言い、周りに人を侍らすことで寂しさを紛らわされているのです。そんな殿下が一目惚れされたのがバズール様なのです。バズール様は殿下のことをなんとも思っておりません……殿下に気に入られようと媚をうったり機嫌をとったりしない、殿下にはっきりとものを言う珍しいお方なのです。殿下はそんなバズール様をとても欲しております」
寮長はわたしをじっと見つめた。
「バズール様はリリアンナ殿下を受け入れようとしない。だから貴女を排除しようとしています。それを阻止するためにカイ様が動かれていたのに、そこにリーリエ嬢が現れた。リーリエ嬢は伯爵の地位を奪われ両親が犯罪者になり修道院へ入れられる事になっていたのに、それを抜け出してこの国にやってきているようです。それを手助けしたのが…たぶんリリアンナ殿下だと思われます」
「リーリエ様はわたしを恨んでいるのでしょうか?」
「はいかなり恨み憎しみを抱いております。それは取り調べと裁判の時に本人が叫んでいたので確認しております」
「なんとかリーリエ嬢を捕まえようと動いていたのですが……逃げられて隠れられてしまっていたのです。
マリアナ様が連絡が取れないのはもしかしたら今回のことに巻き込まれているのではないかと思っているのです」
「わたしの所為でしょうか」
ーーリーリエ様に恨まれている。
考えないようにしていたけど……両親の犯罪を受け入れることは簡単なことではない。でもわたしの件がなくても彼女の両親の侵した罪は重い。きっかけはわたしだったけど、いずれ捕まっていたことだと思う。
でもだからと言ってマリアナを巻き込むのも、この国にやって来てわたしに復讐するのもおかしいと思う。
同情は出来ない。
それにリリアンナ殿下がバズールを好きなのはわたしには関係ない。何故かバズールが受け入れないのがわたしの所為になっているけど、それ自体の話がおかしいと思う。
……それでも、今はマリアナのことだ。
「マリアナは買い物に出かけました。外を探しに行きます」
わたしが玄関を出ようしたら、腕を掴まれた。
「大人しくしていてください。これ以上問題を大きくしたくはないのです。自分勝手なことを言っているのはわかっています。でも出来ればマリアナ様を安全に連れ帰りリーリエ嬢を捕まえてリリアンナ殿下には大人しくしていただければと考えております。リリアンナ殿下の罪が大きくなればやっと安定して来た我が国の信用が落ち国民からの信用もなくなり不安定となります。リリアンナ殿下には今回のことをきっかけにどうにか対処するつもりです」
「寮長はオリソン国の重鎮のお一人なのですね?」
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