【完結】今夜さよならをします

たろ

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新しい恋。

なな

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 マリアナが心配なのに探しに行けない。

 騒ぎが大きくならないように寮から出て、今は学校内にある宿泊施設にもなっている建物の中に連れてこられた。

「ライナ嬢、遅くなってすまない」
 カイさんがわたしが連れてこられた部屋にオリエ様と入って来た。

「あの……マリアナは今……」

「捜索中だ。リリアンナには今事情を聞いている。さっき話をした男、宰相補佐官のマークが問いただしているところだ。俺はリリアンナの兄としてライナ嬢に詫びるしかない、本当にすまなかった。
 だがリリアンナのしでかしたことは許されるものではないが表沙汰には出来ない。裏であいつはしっかりと罰を与えるのでもうライナに危害は加える事はない」

 そう言っているカイさんの顔は少し寂しそうだった。オリエ様はわたしのそばに来て、

「ライナ様、この国を嫌わないでください。嫌な思いをさせてすみません、でも本当はリリアンナ殿下も可愛らしいところがあるのです。
 ただ年上の兄達も父親達も彼女に目を向ける事なく寂しい思いをして育った為、人への接し方が下手でさらに我儘放題に育ってしまったのです」

「……あっは、はい」

 ーー騎士でしかないオリエ様がそんなことを言っていいのかしら?と少し不安になっていたら、カイさんがわたしの表情を見て、クッと笑った。

「オリエは他国の王太子妃だったんだ。離縁して俺がこの国に連れて来たんだ」

「ええ?二人は本当にその……あの……」

「誤解しないでください。カイさんの家に居候していますが奥様と娘さんとも仲良しなんです。ほんと、カイさんはわざとそんな話し方しかしないんだから!」

「だってライナの困った顔が面白かったからな」

 深刻な話をしているのにカイさんはどうしてこんなに気楽なのだろう。

 時計をチラッと見たカイさんは笑うのをやめた。

「……もうマリアナ嬢は見つかって保護されている頃だと思う。心配かけてすまなかった。まさかリリアンナがあんなに馬鹿だとは思っていなかったんだ。俺の目も曇って来てるな……身内に甘いなんてな……………いざとなればあいつも殺るしかないのかも知れないな」

 最後の方の声は小さくて聞き取れなかった。でもオリエ様は聞き取れたみたいで、なんとも悲しい顔をしていた。 

 ーーカイさんはなんと言ったのだろう?

 聞き返そうと思ったけど二人のピリピリした空気に話すことは出来なかった。
 わたしは二人の次の言葉をただ黙って待っていた。


「リーリエという少女はまだ16歳になったばかりだ。……だが我が国ではもう成人だ、君の国からは彼女はこちらで捕まえて処罰をどうするのか決める事を承諾してもらっている。
 彼女の罪は密入国と誘拐、そして君を殺そうと企てた殺人未遂だ。かなり重い罪になるだろう」

 わたしは思わず息を呑んだ。自分は二人に守られていてそんな大変なことが裏であっていたなんて気づかなかった。ただリリアンナ殿下からの嫌がらせ防止のため二人がいてくれたのだと軽い気持ちでいたのだ。

 ーー何故リーリエ様はそこまでわたしを恨んでいるのか……殺したいほど……

 そんなことを考えていると背筋がゾッとしてなんだか体が震えてきた。

 ーー彼女は全てわたしの所為だと思っているのかも知れない。ご両親の犯罪のことも自分が行った罪のことも。
 わたしは何度かお父様やバズールに彼らのこれからのことを聞いたけど教えてもらっていない。
 まだ裁判中だと言っていたし長引く事は仕方ないと思っていた。でもリーリエ様はその間どうしていたのだろう。
 わたしを恨んでオリソン国まで来たくらいだから、ここ最近の生活は辛いものだったのかも知れない。

 ーーわたしは自分の留学生活が忙しくてリーリエ様達のことを忘れてしまっていた。ううん、あの辛い日々を思い出したくなかったからなのかも知れない。

「……わたしは……もう少しあの事件のことを重く受け止めていないといけなかったのね……この国に来て忘れようと無意識に考えることを逃げていました」

「ライナは被害者だ。君が留学してくるとわかった時一応国として君の身元確認はしていたんだ。問題ありの人物を国にいれるのは困るからね。
 俺も簡単に書類に目は通していた。君がリーリエ嬢のことで思い悩む必要も彼女に同情する必要もない。それはリリアンナに対してもそうだ」

 わたしはコクンと小さく頷いた。

 今は心の中が重たくて……マリアナが無事に帰って来ることだけを祈った。


 部屋の外ではいろんな人たちがザワザワと慌ただしくしているのが中にいてもわかる。

 カイさんは部屋から出て行きわたしとオリエ様の二人になった。
 落ち込んで俯いているわたしにオリエ様は話しかけてこない。
 黙って見守ってくださっているのがわかる。

 そんなオリエ様の優しさにわたしは心が救われている。



「ライナ!」
 真っ青な顔をして入ってきたのはバズールだった。

「あ……バズール?」

 バズールの顔は全てを知っているのだとわかった。

「ごめん、俺の対処が悪くてまたライナが辛い思いをした。明後日からは実家に帰ってゆっくりと過ごせるはずだったのに……」
 そう言うと悔しそうに唇を噛んで顔を歪めた。

「バ…ズールは……リーリエ様のこと知っていたの?」

「ハッキリとはしていなかったんだけど、向こうで姿を消したことは聞いていた。まさか…とは思って警戒はしていたんだ。ああ言うタイプの人は自分が悪いと反省せずに逆恨みをするタイプだからね。叔父さんも警戒していたんだ」

「お父様も?」

「うん、ライナがオリソン国で楽しく過ごせるようにね。だけど逃げられてしまったんだ」

 バズールはわたしの座っているソファの横に座った。

 そしてわたしの手を握りしめて何度も「ごめんな」と謝って

「バズールが何をしたと言うの?謝る必要なんてないわ」

「だって俺がリリアンナ殿下からの求婚を受け入れてさえいればお前が狙われる事はなかったのに」

「わたしは守られていたので何もされていないわ。でも大切な友人をもう少しで失ったかも知れないと思うととても怖い。それならわたしが攫われた方がマシだったわ」

「やめてくれ。マリアナ嬢には申し訳ないことをしたと思う。でも、俺はライナに何もなくてよかった。もしライナが攫われていたらあの女のことだから何をしていたかわからない」

 バズールのその言葉に想像して……たぶんそれは正解なのだろうと頷くしかなかった。

 ーーリーリエ様はわたしを見ればすぐに痛めつけてきていただろう。でもマリアナはわたしの所為で怖い思いをしている。

 早くマリアナに会って元気な姿を見て……そして謝りたい。巻き込んでしまったことを。許してくれなくても。












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