【完結】今夜さよならをします

たろ

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新しい恋。

バズール編⑥

「リリアンナ殿下……」

 俺は彼女がこんなにか弱そうに見えたのは初めてだった。
 いつも我儘ばかりで他人を振り回しそれを面白がる人。だからと言って非情なわけでもなく意地悪なわけでもない。
 自分本位だけど憎めない人。

 何度か冗談混じりに「バズール、わたしを娶りなさい」「結婚しましょう」と言われだが、いつものからかい混じりの軽いジョークだと思って受け流していた。

 でも本気で言われた時は、「好きな人がいます。その人以外好きにはなれません」と答えた。

 それがライナを狙うことになるとは思わずに。


『自業自得』


 その言葉がリリアンナ殿下のしたことを考えればピッタリと当てはまる。

 だけど……目の前にいる彼女を見れば……

 ライナへの想いは永遠。

 その想いを持ったまま彼女と共に過ごす未来を選ぶべきなのか……

 それがリリアンナ殿下にとって一番の幸せなのだろうと俺にでもわかる。

 なのに……ライナの顔が頭の中に浮かぶ。

 いつもの「バズール!」と俺を呼ぶ笑顔。

 すぐに拗ねていじける顔。

 悲しくて落ち込んでいるくせに無理やり作る笑顔。

 泣いているくせに「泣いてなんていないわ」と言い返す可愛くない態度。

 他人に優しく困った人を見れば放って置けないライナ。

 幸せそうに微笑む姿を見るだけで俺の心は満たされる。

 その全てを心の奥にしまい込んで、目の前の哀れなリリアンナ殿下を救うために結婚を選ぶのか……

 リリアンナ殿下が一瞬……俯く時に………いつも人を嘲る時にする微笑みが見えた。

 ゾクっと体が……

 ーーこれは彼女が相手を馬鹿にしている時にする笑い。

 俺はこの人に騙される?

 俺は長い沈黙の中……リリアンナ殿下に向かって優しい声で返事をした。

「リリアンナ殿下……貴女は……俺を本当に愛していますか?俺は弟に爵位を譲る予定です。もうすぐ伯爵家の後継ではなくなります」

 ーーこれは本当のこと。

「………えっ?」
 リリアンナ殿下は俯いていた顔を上げて驚いて目を見開いた。
 その顔は俺の想像以上で不満や怒りが現れていた。

「バズール………ど、どうして?平民になる必要があるの?」

「……だと言ったら?どう思いますか?」

「わたしは王女よ?平民なんて……あり得ないわ。わたしはみんなから跪かれ愛を請われて全ての人から愛されるの。平民になんてなれるわけがない。爵位を継がないならご両親は他に爵位は持っていないの?そうよ、貴方ほど優秀なら伯爵なんかよりもっと上の爵位が貰えるはずよ。お兄様に頼んで爵位を貰いましょう」

 そう言うと陛下へ顔を向けたリリアンナ殿下は

「お兄様、バズールに爵位を与えてくださいますよね?」
 甘えるように言った。

「……リリアンナ、いい加減にしなさい」
 ギルバート様が呆れたようにリリアンナ殿下にこれ以上何も言わせないようにしようとしたが

「な、何よ!叔父様には関係ないでしょう?わ、わ、わたしはこのままでは平民として生きていくか、外国の知らないおじさんの後妻として生きていくしかないの!
 わたしは、贅沢をしたい。バズールのように見目が良くてかっこいい男性がいいの。頭もいいし将来有望、わたしの初めてを辺境伯か知らないけど汚いおじさんとするなんて嫌なの!」

「……お前の今の言葉の中にバズールを愛しているという言葉は一切ないんだな」

 ギルバート様は呆れていた。

 肝心の俺は、わかっていたことなので呆れることもショックを受けることもなかった。一瞬の同情で受け入れなくて良かったとホッとするしかなかった。

 ライナへの想いが例え叶わないとわかったとしても、同情だけで好きでもない女性と共に生きるなんて俺には無理だった。

 この人は俺を愛しているのではなく俺の爵位と見た目、そして将来性を見越して俺に寄生するつもりなんだと知ったが、どうでもいい。だって彼女の本音を聞いても腹を立てる気にもならない。

「リリアンナ、お前はバズールを愛しているのだろう?お前は平民になるのだからバズールと共に平民として生きればいいだけだ、愛を貫くにはいいのではないのか?」

 陛下の言葉に唇を噛んで悔しそうに俺を睨みつけるリリアンナ殿下。

「俺はリリアンナ殿下を受け入れる事は出来ません。俺には愛している人がいるんです」












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