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はあぁ。
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マックは「とりあえず婚約話は進んでいるから」と聞き入れてはくれなかった。
元々結婚には興味がなく、いずれガトラにお嫁さんが来て一緒に暮らせなくなれば領地にある離れの別荘をもらってそこで細々と暮らそうと15歳の少女は考えていた。
両親に言えば反対されるのはわかっていた。だから祖母に離れの別荘を欲しいと頼んで譲り受ける算段もしていた。
祖母は『もうそんな先のことを考えてるの?』クスクス笑いながらも『仕方がない子ね?ミルの気持ちが変わらないのならその時は離れの別荘をあげるわ』と約束を取り付けていたのだ。
「ミル、お父様はお優しい人ではあるけど一度言い出したら頑固なところがあるのよね。ほんと、ミルとマックはそう言うところが似てるのよね」
母のロザリナが困った顔をしていた。
「少し様子を見ましょう。すぐに結婚するわけではないし、婚約だってまだ解消できるわ」
ーーお母様はそう言ってるけど大丈夫かしら?
仕方なく………婚約が決まった。
ミルヒーナはリヴィと同じ学校に通わなくてよかったと今更ながらホッとした。
リヴィと婚約をしたいと思っている令嬢がたくさんいることは知っていた。
別の学校へ通っていてもリヴィは優秀なので噂は耳に入っていた。彼を狙う令嬢が多いと。
それに同じ年頃の集まりのお茶会やパーティーに出席すると、令嬢達はこぞってリヴィのところに集まる。
ミルヒーナは顔だけ出すとさっさと帰るか、こっそりその場から抜け出して適当に時間を潰して帰っていた。
もちろん仲の良い友人達とも会えば話すのだけど、あのリヴィや優良物件の令息のところへ行くパワフルな令嬢達が苦手で、できるだけ隅っこでひっそりと過ごしていた。
ーーああ、これからが大変かも。
腹痛と頭痛、吐き気、あと微熱、たまには足が痛くなるのもアリかな。これからの仮病を考えずにはいられなかった。
令嬢達に何言われるか……考えただけで頭が痛い。
学校の授業が終わり、今日は友人達と街に出てカフェに行くことになっていた。
学校から街までは歩いても10分ほど。
女の子4人でおしゃべりしながら新商品のブルーベリーとクランベリーのタルトを食べに来た。
領地では当たり前のようにたくさん採れた新鮮な果物。王都ではなかなか手に入らない。
今日は久しぶりの大好きなベリー三昧をする予定。
学校の友人は平民の子もいれば貴族の子もいる。今日も一人は平民で商人の娘。そして王城で魔道具の研究をしている父親がいる娘と男爵家の娘とケーキを食べていた。
「ねえ、ミルの婚約者ってあのアルゼン伯爵家のリヴィ様だよね?」
「……うん」
ーー黙ってたのにもう知られてる……
「そんな嫌な顔しないの」
ーー顔に出てる?
「だって結婚に興味ないもの」
「ミルは文官になりたいんだよね?」
「ええ。魔法が使えなくても事務仕事ならできるもの。せっかく頑張って勉強してきたのよ?結婚なんてしたくないわ」
ーー特に、リヴィは絶対嫌!毎日嫌味なんて言われたくないもの。
「ミルの気持ちはわかるけど、わたしなんてまだ婚約者がいないから少し焦ってる。男爵令嬢なんて伯爵子息との婚約なんて夢のまた夢だもの」
ーー喜んで代わってあげるのに!……でもこれって嫌味になっちゃうのかな……
「わたしは学校卒業したら実家の商売のお手伝いをする予定よ。婿をとってもっと大きいお店にしたいの」
「みんな色々考えてるのね。わたしは父さんが魔道具を作るのを見て育ったから、興味はあるんだけど女の子だから父さんがダメだって言うの。女の子だからって偏見だと思わない?」
「わたし、男だから女だからって言われるのやだ。ついでに魔法が使えないからって偏見持つのもやだな」
ミルヒーナ以外の3人は魔法が多少は使える。
だけど、魔法学校へ通うほどではないのでみんな「うんうん」とミルヒーナの言葉に頷いた。
するとどこからともなくクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「やだわ、魔法が使えないなんて恥ずかしいわよね?」
「王立学園ってお勉強は出来るのかもしれないけど、ねえ?みんな魔法があまり得意ではないのでしょう?わたしなら恥ずかしくてそんな学校通えないわ」
ミルヒーナ達に聞こえるように話しているのは、ミルヒーナ達の座っている席の斜め前にいた魔法学校の生徒だった。
ーーあ、あの子達……
リヴィの取巻きの令嬢達。
いつもお茶会やパーティーでリヴィにベタベタ引っ付いている香水をプンプンさせてゴテゴテのドレスを着ている令嬢達だった。
ミルヒーナ達に向かって言っているのはわかっている。ここで反論できるのはミルヒーナだけだった。
相手の令嬢3人は子爵家と男爵家だ。伯爵家のミルヒーナは言える立場にある。だけど他の3人の身分は彼女達より下なので、後々何かあったら困ることになるかもしれない。
親の仕事に影響があっては困る。
「帰ろう」
ミルヒーナは悔しかったがここはさっさと退散するのが一番だと何も言わずに帰ることにした。
席を立ち歩き出した時……彼女の一人の足に何故か引っ掛かり転んでしまった。
「ミル!大丈夫?」
3人が慌てて手を差し出して立たせてくれた。
ミルヒーナが転んだ姿を見てクスクス笑う3人の令嬢に我慢できなくて「謝って!」とミルヒーナが言った。
「態とではないのにどうして謝らないといけないのかしら?」
「そうよ、勝手に躓いたのよ?わたしの方が足が痛かったわ」
「あなたが謝るべきじゃない?」
ミルヒーナは怒るのをグッと堪えた。
「ごめんなさい?そんな短い足がまさかはみ出してるなんて思わなかったわ」
ミルヒーナはクスッと笑って、3人の前を通り過ぎた。
店を出ると体の力が抜けて「こ、怖かったぁ」と涙目になっていた。
「みんなごめんね。多分あの子達、わたしのことが嫌いであんなこと言ったんだと思うの。嫌な思いさせてごめん」
ミルヒーナが3人に謝ると
「ううん、わたし達は言い返せないから助けることできなくてごめんね」
と、悔しそうに言った。
ーー絶対リヴィとの婚約の話を知って、あんなことしたんだ。
だから嫌だったんだよ!
八つ当たりだとわかっている。リヴィが悪いわけじゃない。
だけど……屋敷に帰って
「今日はお父様と口を聞かない!」と言って一日中無視し続けてやった。
マックは理由がわからずミルヒーナの部屋の前で「ミル?わたしが何かしたなら謝るから」と声をかけたが返事をしてもらえなかった。
元々結婚には興味がなく、いずれガトラにお嫁さんが来て一緒に暮らせなくなれば領地にある離れの別荘をもらってそこで細々と暮らそうと15歳の少女は考えていた。
両親に言えば反対されるのはわかっていた。だから祖母に離れの別荘を欲しいと頼んで譲り受ける算段もしていた。
祖母は『もうそんな先のことを考えてるの?』クスクス笑いながらも『仕方がない子ね?ミルの気持ちが変わらないのならその時は離れの別荘をあげるわ』と約束を取り付けていたのだ。
「ミル、お父様はお優しい人ではあるけど一度言い出したら頑固なところがあるのよね。ほんと、ミルとマックはそう言うところが似てるのよね」
母のロザリナが困った顔をしていた。
「少し様子を見ましょう。すぐに結婚するわけではないし、婚約だってまだ解消できるわ」
ーーお母様はそう言ってるけど大丈夫かしら?
仕方なく………婚約が決まった。
ミルヒーナはリヴィと同じ学校に通わなくてよかったと今更ながらホッとした。
リヴィと婚約をしたいと思っている令嬢がたくさんいることは知っていた。
別の学校へ通っていてもリヴィは優秀なので噂は耳に入っていた。彼を狙う令嬢が多いと。
それに同じ年頃の集まりのお茶会やパーティーに出席すると、令嬢達はこぞってリヴィのところに集まる。
ミルヒーナは顔だけ出すとさっさと帰るか、こっそりその場から抜け出して適当に時間を潰して帰っていた。
もちろん仲の良い友人達とも会えば話すのだけど、あのリヴィや優良物件の令息のところへ行くパワフルな令嬢達が苦手で、できるだけ隅っこでひっそりと過ごしていた。
ーーああ、これからが大変かも。
腹痛と頭痛、吐き気、あと微熱、たまには足が痛くなるのもアリかな。これからの仮病を考えずにはいられなかった。
令嬢達に何言われるか……考えただけで頭が痛い。
学校の授業が終わり、今日は友人達と街に出てカフェに行くことになっていた。
学校から街までは歩いても10分ほど。
女の子4人でおしゃべりしながら新商品のブルーベリーとクランベリーのタルトを食べに来た。
領地では当たり前のようにたくさん採れた新鮮な果物。王都ではなかなか手に入らない。
今日は久しぶりの大好きなベリー三昧をする予定。
学校の友人は平民の子もいれば貴族の子もいる。今日も一人は平民で商人の娘。そして王城で魔道具の研究をしている父親がいる娘と男爵家の娘とケーキを食べていた。
「ねえ、ミルの婚約者ってあのアルゼン伯爵家のリヴィ様だよね?」
「……うん」
ーー黙ってたのにもう知られてる……
「そんな嫌な顔しないの」
ーー顔に出てる?
「だって結婚に興味ないもの」
「ミルは文官になりたいんだよね?」
「ええ。魔法が使えなくても事務仕事ならできるもの。せっかく頑張って勉強してきたのよ?結婚なんてしたくないわ」
ーー特に、リヴィは絶対嫌!毎日嫌味なんて言われたくないもの。
「ミルの気持ちはわかるけど、わたしなんてまだ婚約者がいないから少し焦ってる。男爵令嬢なんて伯爵子息との婚約なんて夢のまた夢だもの」
ーー喜んで代わってあげるのに!……でもこれって嫌味になっちゃうのかな……
「わたしは学校卒業したら実家の商売のお手伝いをする予定よ。婿をとってもっと大きいお店にしたいの」
「みんな色々考えてるのね。わたしは父さんが魔道具を作るのを見て育ったから、興味はあるんだけど女の子だから父さんがダメだって言うの。女の子だからって偏見だと思わない?」
「わたし、男だから女だからって言われるのやだ。ついでに魔法が使えないからって偏見持つのもやだな」
ミルヒーナ以外の3人は魔法が多少は使える。
だけど、魔法学校へ通うほどではないのでみんな「うんうん」とミルヒーナの言葉に頷いた。
するとどこからともなくクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「やだわ、魔法が使えないなんて恥ずかしいわよね?」
「王立学園ってお勉強は出来るのかもしれないけど、ねえ?みんな魔法があまり得意ではないのでしょう?わたしなら恥ずかしくてそんな学校通えないわ」
ミルヒーナ達に聞こえるように話しているのは、ミルヒーナ達の座っている席の斜め前にいた魔法学校の生徒だった。
ーーあ、あの子達……
リヴィの取巻きの令嬢達。
いつもお茶会やパーティーでリヴィにベタベタ引っ付いている香水をプンプンさせてゴテゴテのドレスを着ている令嬢達だった。
ミルヒーナ達に向かって言っているのはわかっている。ここで反論できるのはミルヒーナだけだった。
相手の令嬢3人は子爵家と男爵家だ。伯爵家のミルヒーナは言える立場にある。だけど他の3人の身分は彼女達より下なので、後々何かあったら困ることになるかもしれない。
親の仕事に影響があっては困る。
「帰ろう」
ミルヒーナは悔しかったがここはさっさと退散するのが一番だと何も言わずに帰ることにした。
席を立ち歩き出した時……彼女の一人の足に何故か引っ掛かり転んでしまった。
「ミル!大丈夫?」
3人が慌てて手を差し出して立たせてくれた。
ミルヒーナが転んだ姿を見てクスクス笑う3人の令嬢に我慢できなくて「謝って!」とミルヒーナが言った。
「態とではないのにどうして謝らないといけないのかしら?」
「そうよ、勝手に躓いたのよ?わたしの方が足が痛かったわ」
「あなたが謝るべきじゃない?」
ミルヒーナは怒るのをグッと堪えた。
「ごめんなさい?そんな短い足がまさかはみ出してるなんて思わなかったわ」
ミルヒーナはクスッと笑って、3人の前を通り過ぎた。
店を出ると体の力が抜けて「こ、怖かったぁ」と涙目になっていた。
「みんなごめんね。多分あの子達、わたしのことが嫌いであんなこと言ったんだと思うの。嫌な思いさせてごめん」
ミルヒーナが3人に謝ると
「ううん、わたし達は言い返せないから助けることできなくてごめんね」
と、悔しそうに言った。
ーー絶対リヴィとの婚約の話を知って、あんなことしたんだ。
だから嫌だったんだよ!
八つ当たりだとわかっている。リヴィが悪いわけじゃない。
だけど……屋敷に帰って
「今日はお父様と口を聞かない!」と言って一日中無視し続けてやった。
マックは理由がわからずミルヒーナの部屋の前で「ミル?わたしが何かしたなら謝るから」と声をかけたが返事をしてもらえなかった。
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