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夢だと思っていた。
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仕事から帰って、鞄を部屋に放り投げてベッドにダイブ。
何にもやる気が出ない。
ああ、もう、田所有紗も元彼も嫌い!大っ嫌い!
そして自分自身も嫌い。
もっと上手く立ち回れれば……仕事はそれなりに出来る方だと思って頑張ってきた。
上司や先輩にもきちんと評価されてきたし、大きなミスもしたことはない。
だけど田所有紗の教育係になってからはなぜか上手くいかない。
田所有紗が絡むと何をしてもわたしがミスをしたことになるし、わたしが彼女を虐めたことになる。
取引先との約束していた時間もいつの間にか変更されていた。
もう少しで相手方を怒らせて取引が中止になるところだった。
『あ、忘れてましたぁ!伝えるの。てへっ』
なのに上司はきちんと確認していないわたしが悪いと責められた。
確かにそれも一理ある。だけど電話を受けたなら報告するのは当たり前のことではないの?
いちいち「この時間が打ち合わせですよね?」なんて確認する方が相手方に失礼だし、おかしいと思うの。
ミスは全てわたしのせい。
間違いを伝えただけですぐに涙ぐんで『酷い』『わたしだって頑張ってるんです!』と周囲の同情を誘うかのように哀しそうに声を出す。
もちろん鼻を啜りグスングスンと効果音でも聞こえてきそう。
わたしは評価はガタ落ち、周囲からは白い目で見られる。
仲の良い同期達は気付いていて同情の目で見られても助けはない。
『あの子やばい、関わらない方がいいわ』
『ごめん、無理』
わたしだって無理だわ。
彼氏は盗られるし……うん、浮気者の彼氏なんて要らない。
結婚の話も出ていたけど、早めにわかってよかった。
結婚してから浮気されたなんて目も当てられない。
あの二人のせいでバツイチなんて絶対イヤ!
明日は仕事休もうかな……有給はまだたくさん残ってるし、仕事は……かなり残ってるけど、半分は田所有紗がミスして押し付けてきた仕事だから、彼女がすればいいのよ。
それとなく休むことを先輩に伝えて本人に仕事を返すように伝えよう。
自分の仕事なんだもの。責任持ってしてもらわないと、うん。
次の日本当に仕事をサボった。いや……有給を取った。
心が疲れているのか昼間でゆっくりと寝てしまった。
スマホのランプが光っている。
仕方なくスマホを見ると、たくさんのメールがきていた。
こんな平日に誰?
『田所有紗』
この名前からのメールがずらっと並んでいた。
うわっ、こわっ。
なに?なんなの?
仕方なく開いてみると……
「仕事を押し付けられて困っている」
「なぜ自分がしなければならないのか」
「ミスばかりじゃない!どうやってやりなおせばいいの?」
わたしはすぐに先輩に電話をかけた。
「田所さん、これは自分の仕事ではないと上司に訴えているわよ」
「いやいや、あの仕事は全て彼女の仕事です。わたしに無理やり押し付けてきたけど、わたしも手が回らないから自分で最後までやりなさいと言っておいたんです。最後はチェックしてあげるからと話をしました」
そう、無理やりわたしの机に置いていった仕事。
それを返しただけ。
「あなたが代わりにすると言ったと泣いて訴えてるわよ」
「言った覚えはないです」
「知ってるわ。横で聞いていたもの」
次の日、気が重い中職場へ行った。
すぐに上司に呼ばれ事情を訊かれた。
「彼女には責任を持って仕事をしようという態度があるとは思えません」
はっきりと伝えた。
「君がきちんと教育していないのが悪いのでは?」
元彼も上司も田所有紗の方を持つのね。
渇いた笑いしか出ない。
上司とこれ以上話しても無駄だと思った。
「わたしを田所さんの教育係から外してください。もちろんこの部署で彼女と同じでは都合が悪いと思われるのなら喜んで移動届けも出します」
「そこまでは言っていないだろう?」
わたしの強固な態度に上司は不機嫌になった。
「もういい」
「もう良くありません。わたしも田所さんから毎日仕事を押し付けられ困っていました。教育係を辞めさせてもらえないならいっそ辞表を出させてもらいます」
「ほんと可愛げがないな。田所さんは笑顔が可愛らしいのに」
こいつ、いまの発言、パワハラだと思わないの?
「失礼致します」
机に座り仕事を始めた。
とにかく昨日休んだ分、仕事をこなさなければいけない。
黙って黙々と仕事に集中していた。
すると田所有紗が、「先輩、これできないのでよろしくお願いします」と当たり前のように仕事を持ってきた。
「わたし、教育係ではなくなったの。だからその仕事はできないわ」
「えっ?じゃあわたしの教育係は誰ですかぁ?」
「さぁ?それは課長に訊いてみてちょうだい」
「この仕事、とりあえず先輩がしてください」
書類をわたしの机に置いて去って行こうとしたので突き返した。
「無理よ。わたしも今手が回らないの。自分の仕事は自分でこなさないといつまで経っても一人前にならないわよ?」
「酷い……まるでわたしが仕事ができないみたいに言うんですね?わたしだって頑張っているのに……」
はい、もうその演技飽きたから!
心の中でそう言いながらも、わたしは優しく微笑んだ。
「頑張っているのよね?だったら最後までやり遂げなさい、ね?頑張っているのだから」
わたしと田所有紗の会話を周囲はそっと聞き耳を立てていた。すると……
「田所さん、あなたいつも彼女に教育係だからと仕事を押し付けているけどたまには最後まで自分で仕事をしてみたら?頑張っているのだから出来るはずよ?」
先輩達が初めて田所さんに声をかけた。
今まで面倒で無視していたのに。
「………ヤレバイインデショ」
チッと舌打ちをしてイライラした低い声で言っているのが聞こえた。
わたしの手から書類を奪い取り、キッと睨んで自分の席へと座った。
バンッ!と音がしてみんな驚いて彼女をみた。
いつも和かに笑っている彼女が、あざとい女の仮面もつけずに素のままで「めんどくさっ」と吐き捨てながら仕事を始めた。
✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎
今日も残業をしていつものように遅い時間に会社を出た。
「うわぁもう真っ暗。早く帰ろう」
足早に駅まで向かった。
ホームで電車を待つ間メールのチェックをしようとスマホを見ていたら突然背中を押された。
「あっ」
特急電車がもうすぐホームを通過する。
わたしは線路へと落ちていく。
そう落ちて………
いつも城壁から落とされる夢を見る。
この既視感は………
あれは……王妃……そう………わたし………だったんだ………
「沙耶香ぁ!」
何にもやる気が出ない。
ああ、もう、田所有紗も元彼も嫌い!大っ嫌い!
そして自分自身も嫌い。
もっと上手く立ち回れれば……仕事はそれなりに出来る方だと思って頑張ってきた。
上司や先輩にもきちんと評価されてきたし、大きなミスもしたことはない。
だけど田所有紗の教育係になってからはなぜか上手くいかない。
田所有紗が絡むと何をしてもわたしがミスをしたことになるし、わたしが彼女を虐めたことになる。
取引先との約束していた時間もいつの間にか変更されていた。
もう少しで相手方を怒らせて取引が中止になるところだった。
『あ、忘れてましたぁ!伝えるの。てへっ』
なのに上司はきちんと確認していないわたしが悪いと責められた。
確かにそれも一理ある。だけど電話を受けたなら報告するのは当たり前のことではないの?
いちいち「この時間が打ち合わせですよね?」なんて確認する方が相手方に失礼だし、おかしいと思うの。
ミスは全てわたしのせい。
間違いを伝えただけですぐに涙ぐんで『酷い』『わたしだって頑張ってるんです!』と周囲の同情を誘うかのように哀しそうに声を出す。
もちろん鼻を啜りグスングスンと効果音でも聞こえてきそう。
わたしは評価はガタ落ち、周囲からは白い目で見られる。
仲の良い同期達は気付いていて同情の目で見られても助けはない。
『あの子やばい、関わらない方がいいわ』
『ごめん、無理』
わたしだって無理だわ。
彼氏は盗られるし……うん、浮気者の彼氏なんて要らない。
結婚の話も出ていたけど、早めにわかってよかった。
結婚してから浮気されたなんて目も当てられない。
あの二人のせいでバツイチなんて絶対イヤ!
明日は仕事休もうかな……有給はまだたくさん残ってるし、仕事は……かなり残ってるけど、半分は田所有紗がミスして押し付けてきた仕事だから、彼女がすればいいのよ。
それとなく休むことを先輩に伝えて本人に仕事を返すように伝えよう。
自分の仕事なんだもの。責任持ってしてもらわないと、うん。
次の日本当に仕事をサボった。いや……有給を取った。
心が疲れているのか昼間でゆっくりと寝てしまった。
スマホのランプが光っている。
仕方なくスマホを見ると、たくさんのメールがきていた。
こんな平日に誰?
『田所有紗』
この名前からのメールがずらっと並んでいた。
うわっ、こわっ。
なに?なんなの?
仕方なく開いてみると……
「仕事を押し付けられて困っている」
「なぜ自分がしなければならないのか」
「ミスばかりじゃない!どうやってやりなおせばいいの?」
わたしはすぐに先輩に電話をかけた。
「田所さん、これは自分の仕事ではないと上司に訴えているわよ」
「いやいや、あの仕事は全て彼女の仕事です。わたしに無理やり押し付けてきたけど、わたしも手が回らないから自分で最後までやりなさいと言っておいたんです。最後はチェックしてあげるからと話をしました」
そう、無理やりわたしの机に置いていった仕事。
それを返しただけ。
「あなたが代わりにすると言ったと泣いて訴えてるわよ」
「言った覚えはないです」
「知ってるわ。横で聞いていたもの」
次の日、気が重い中職場へ行った。
すぐに上司に呼ばれ事情を訊かれた。
「彼女には責任を持って仕事をしようという態度があるとは思えません」
はっきりと伝えた。
「君がきちんと教育していないのが悪いのでは?」
元彼も上司も田所有紗の方を持つのね。
渇いた笑いしか出ない。
上司とこれ以上話しても無駄だと思った。
「わたしを田所さんの教育係から外してください。もちろんこの部署で彼女と同じでは都合が悪いと思われるのなら喜んで移動届けも出します」
「そこまでは言っていないだろう?」
わたしの強固な態度に上司は不機嫌になった。
「もういい」
「もう良くありません。わたしも田所さんから毎日仕事を押し付けられ困っていました。教育係を辞めさせてもらえないならいっそ辞表を出させてもらいます」
「ほんと可愛げがないな。田所さんは笑顔が可愛らしいのに」
こいつ、いまの発言、パワハラだと思わないの?
「失礼致します」
机に座り仕事を始めた。
とにかく昨日休んだ分、仕事をこなさなければいけない。
黙って黙々と仕事に集中していた。
すると田所有紗が、「先輩、これできないのでよろしくお願いします」と当たり前のように仕事を持ってきた。
「わたし、教育係ではなくなったの。だからその仕事はできないわ」
「えっ?じゃあわたしの教育係は誰ですかぁ?」
「さぁ?それは課長に訊いてみてちょうだい」
「この仕事、とりあえず先輩がしてください」
書類をわたしの机に置いて去って行こうとしたので突き返した。
「無理よ。わたしも今手が回らないの。自分の仕事は自分でこなさないといつまで経っても一人前にならないわよ?」
「酷い……まるでわたしが仕事ができないみたいに言うんですね?わたしだって頑張っているのに……」
はい、もうその演技飽きたから!
心の中でそう言いながらも、わたしは優しく微笑んだ。
「頑張っているのよね?だったら最後までやり遂げなさい、ね?頑張っているのだから」
わたしと田所有紗の会話を周囲はそっと聞き耳を立てていた。すると……
「田所さん、あなたいつも彼女に教育係だからと仕事を押し付けているけどたまには最後まで自分で仕事をしてみたら?頑張っているのだから出来るはずよ?」
先輩達が初めて田所さんに声をかけた。
今まで面倒で無視していたのに。
「………ヤレバイインデショ」
チッと舌打ちをしてイライラした低い声で言っているのが聞こえた。
わたしの手から書類を奪い取り、キッと睨んで自分の席へと座った。
バンッ!と音がしてみんな驚いて彼女をみた。
いつも和かに笑っている彼女が、あざとい女の仮面もつけずに素のままで「めんどくさっ」と吐き捨てながら仕事を始めた。
✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎
今日も残業をしていつものように遅い時間に会社を出た。
「うわぁもう真っ暗。早く帰ろう」
足早に駅まで向かった。
ホームで電車を待つ間メールのチェックをしようとスマホを見ていたら突然背中を押された。
「あっ」
特急電車がもうすぐホームを通過する。
わたしは線路へと落ちていく。
そう落ちて………
いつも城壁から落とされる夢を見る。
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あれは……王妃……そう………わたし………だったんだ………
「沙耶香ぁ!」
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