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わたしはあなたが大っ嫌いです。
ネルヴァン様の告白に、わたしの眉根は寄り、怒りに満ちていた。
「冗談はよしてください。あなたには二人も妻がいるでしょう?」
ーー気持ち悪い!
本当はそう言いたかった。
グッと堪えて国王であるネルヴァン様の顔を立てた。
「ああ、もう捕えられて二度と明るい場所には出てこられない妻が二人いたが離縁した」
「オリビア様はリシャ国を捨てて逃げたと聞いていますが?」
「ああ、逃げ出したから捕まえて地下牢行きさ。リシャ国に損害賠償を求めているところだ」
「そんな状態で呑気にこの国に来て、女の尻を追っかけて、心にもない告白をしているのですか?」
不愉快でイライラする。
もう顔に出るのを隠すつもりもない。
「そうだな……今はそんな暇はない」
だったらさっさと国へ帰れば!
そう言いたいのに、ネルヴァン様の顔を見たら言えなくなった。
だってよく見たら憔悴しきった顔で、かなりやつれていた。
これ以上酷い言葉を言えば、消えてしまうかもしれない。
「………国の立て直しはかなりの苦労と労力、そして時間がかかると思います。でも……今のあなたなら、踏ん張れるのではないでしょうか?」
以前のこの人なら、国は今回も滅んでしまっただろう。でも、妻をきちんと捕らえ、状況悪化を抑え、頭を下げ他国にも協力を求めることができるのなら、国は再建できるかもしれない。
前回と違い逃げなかったから。
かと言って前世のことを思い出すと、嫌悪しか湧かない。
「もうわたしに関わらないでください。あなたは、国王としてやらなければならないことがたくさんあるのですから」
冷たくそう言うと、わたしは彼を無視して家の中へ入った。
そっと窓から玄関の方へ視線を向けると、彼はしばらく空を見上げたまま立っていたが立ち去った。
わたしは彼のことを忘れ、いつもの生活へと戻る。
ルドルフとブライアンに会いにバーグル公爵家のお屋敷に久しぶりに顔を出した。
手作りの焼き菓子をお土産に渡す。
この世界にはないマカロン。
材料を手に入れるのは大変だけど、そこは公爵家。お願いして何とか入手してもらった。
珍しいお菓子の話をしていたら、公爵夫人がぜひ一度食べてみたいと頼まれ作ることになった。
たくさん作って、馬丁さん達にもお礼に持って行った。
ブライアンはわたしを見つけると、頭を擦り寄せてきた。
何か言いたそうな瞳。もしかしたら、ここにネルヴァン様も来たのだろうか?
ふとそんなことを思った。
「ソフィちゃん、この菓子うまいな」
「ああ、クッキーも美味い」
「そう言えば……知らない貴族のお方が来たんだが、ブライアンがとても懐いていたよ。気難しいのに」
「貴族の方?」
「うん、旦那様が案内して来たんだ」
「そうなんですね」
多分、公爵様にも援助を依頼したのだろう。そしてブライアンにも会ったのかもしれない。
ブライアンは本当のご主人様に会えて嬉しかったのかも。そしてもういなくなって寂しいのかもしれない。
ルドルフがブライアンを押し除けてわたしに甘えてきた。
二頭はお互い譲らずにわたしに甘えてくる。
「二人とも、順番よ?わたしはか弱い女の子なんだから!あなた達の力だと怪我してしまうわ」
順番に乗ってしばらく楽しんだ後、公爵様に呼ばれて執務室へと向かった。
「ソフィ、ルワナ国の王がこの国に来ていることは知っているか?」
「はい……オリビア様が地下牢に入れられていると……」
「ああ、そうみたいだ。あの二人の妃は国の金を私欲で使い、国の財政が圧迫したらしい。それでなくても、自然災害で農作物の不作が続き、苦しいなか、なんとか凌いできているんだ。国民はかなりの不満を王族に持っているだろう」
「そうでしょうね……見せしめに殺したくなるくらい……」
前世のわたしの時のように、全てをわたしだけが悪いと国民が責めた。
「だが、ネルヴァン王は二人の妃に好き勝手させながらもしっかり見張っていたらしい。彼女達が買い漁ったものは、ほぼ換金して国庫に返還したと聞いている。そしてリシャの国王やもう一人の妃の実家に損害賠償金を払わせたらしい」
「……リシャの王が払ったのですか?」
「ああ、王妃が払うべきだと進言したらしいぞ。国王はかなり渋っていたが、オリビアは養女とは言え王女だった。それに聖女だと言われていたのに、国を災いから守ることも人を助けることも出来なかった、そして自分に火の粉がかかりそうになると一目散に逃げようとした。
偽聖女を嫁がせたと他国からも笑われている」
「そうですか……」
地下牢に囚われただけ幸せなのかも。
わたしのように彼を信じて、国を守ろうとしたのに、彼には見捨てられ国民から殺された。
「我が国の国王とも話し合ったのだが、民が飢えて苦しんでいるのなら、援助をしようと言うことになった。もちろん金銭的な援助はやめて支援物資を送ることにした」
「それが一番国民は嬉しいと思います」
「ああ、麦や芋など長期保存できるものや、医薬品や衣類、そして農業と土木の技術者などを送るつもりだ」
「手厚い支援ですね」
それなら貴族達が懐に入れてしまわず、国民達に行き渡るだろう。
衣類は平民向けが多いだろうから貴族達は見向きもしない。
医薬品も町や村の医者達にすぐに渡せば貴族達が取り上げることはない。
技術者達の派遣はすぐに結果は出なくても、壊れた道を直せる。馬車が通れば人の行き来も活発になる。
農業だって、先進国の技術を教えてもらえれば、天候に左右されないものも作れるし、農作物の収穫量も増える。
すぐに出ない結果だけど長い目で見ればとてもいい支援だと思う。
「君と何度か話した時に君が言った言葉をそのまま実行に移すことにしたんだ」
『君は、国民が困った時に他国はどうするべきだと思う?』
『お金を送れば貴族のものになってしまいます。国民に行き渡らせるのは難しいことですが、国民のために道を作ること、災害に強い農作物を教えてあげることなど、自分たちの力で立ち上がれるための土台を作ってあげることが支援なのではないでしょうか?もちろん目先の物資も生き抜くためには必要ですが』
これはルドーからわたしの話を聞いているからこそ、わたしに問うたのだろう。
そう思って、その時はそう答えた。
わたしが、前世で国民に殺されたことを。
そしてその記憶が、姫という立場を捨てこうしてこの国で暮らすことになった経緯も、公爵は全て知っている。
「公爵様、ルワナ国のためにありがとうございます」
これは前世の王妃としての言葉。わたしはあの国を守ることはできなかった。
そして今は守る力もない。大好きだった城の人たちを思い出し、どうか無事に元気でいてほしいと願うしかない。
「君は……恨んでいないのか?」
「恨みは前世で消えました……でも、ネルヴァン様や……二人の王妃には、もう二度と関わり合いたくないです。リシャ国の国王夫婦とも……」
苦笑いしたわたしの顔は、多分泣いているように見えたかもしれない。
◆ ◆ ◆
更新が止まってしまい申し訳ありませんでした。
作者都合でこの2ヶ月とても忙しくて、2つの作品を同時に書く時間が取れませんでした。
最後まで書きたいと思っています。
お付き合いいただければ嬉しいです。
いつも読んでいただきありがとうございます。
「冗談はよしてください。あなたには二人も妻がいるでしょう?」
ーー気持ち悪い!
本当はそう言いたかった。
グッと堪えて国王であるネルヴァン様の顔を立てた。
「ああ、もう捕えられて二度と明るい場所には出てこられない妻が二人いたが離縁した」
「オリビア様はリシャ国を捨てて逃げたと聞いていますが?」
「ああ、逃げ出したから捕まえて地下牢行きさ。リシャ国に損害賠償を求めているところだ」
「そんな状態で呑気にこの国に来て、女の尻を追っかけて、心にもない告白をしているのですか?」
不愉快でイライラする。
もう顔に出るのを隠すつもりもない。
「そうだな……今はそんな暇はない」
だったらさっさと国へ帰れば!
そう言いたいのに、ネルヴァン様の顔を見たら言えなくなった。
だってよく見たら憔悴しきった顔で、かなりやつれていた。
これ以上酷い言葉を言えば、消えてしまうかもしれない。
「………国の立て直しはかなりの苦労と労力、そして時間がかかると思います。でも……今のあなたなら、踏ん張れるのではないでしょうか?」
以前のこの人なら、国は今回も滅んでしまっただろう。でも、妻をきちんと捕らえ、状況悪化を抑え、頭を下げ他国にも協力を求めることができるのなら、国は再建できるかもしれない。
前回と違い逃げなかったから。
かと言って前世のことを思い出すと、嫌悪しか湧かない。
「もうわたしに関わらないでください。あなたは、国王としてやらなければならないことがたくさんあるのですから」
冷たくそう言うと、わたしは彼を無視して家の中へ入った。
そっと窓から玄関の方へ視線を向けると、彼はしばらく空を見上げたまま立っていたが立ち去った。
わたしは彼のことを忘れ、いつもの生活へと戻る。
ルドルフとブライアンに会いにバーグル公爵家のお屋敷に久しぶりに顔を出した。
手作りの焼き菓子をお土産に渡す。
この世界にはないマカロン。
材料を手に入れるのは大変だけど、そこは公爵家。お願いして何とか入手してもらった。
珍しいお菓子の話をしていたら、公爵夫人がぜひ一度食べてみたいと頼まれ作ることになった。
たくさん作って、馬丁さん達にもお礼に持って行った。
ブライアンはわたしを見つけると、頭を擦り寄せてきた。
何か言いたそうな瞳。もしかしたら、ここにネルヴァン様も来たのだろうか?
ふとそんなことを思った。
「ソフィちゃん、この菓子うまいな」
「ああ、クッキーも美味い」
「そう言えば……知らない貴族のお方が来たんだが、ブライアンがとても懐いていたよ。気難しいのに」
「貴族の方?」
「うん、旦那様が案内して来たんだ」
「そうなんですね」
多分、公爵様にも援助を依頼したのだろう。そしてブライアンにも会ったのかもしれない。
ブライアンは本当のご主人様に会えて嬉しかったのかも。そしてもういなくなって寂しいのかもしれない。
ルドルフがブライアンを押し除けてわたしに甘えてきた。
二頭はお互い譲らずにわたしに甘えてくる。
「二人とも、順番よ?わたしはか弱い女の子なんだから!あなた達の力だと怪我してしまうわ」
順番に乗ってしばらく楽しんだ後、公爵様に呼ばれて執務室へと向かった。
「ソフィ、ルワナ国の王がこの国に来ていることは知っているか?」
「はい……オリビア様が地下牢に入れられていると……」
「ああ、そうみたいだ。あの二人の妃は国の金を私欲で使い、国の財政が圧迫したらしい。それでなくても、自然災害で農作物の不作が続き、苦しいなか、なんとか凌いできているんだ。国民はかなりの不満を王族に持っているだろう」
「そうでしょうね……見せしめに殺したくなるくらい……」
前世のわたしの時のように、全てをわたしだけが悪いと国民が責めた。
「だが、ネルヴァン王は二人の妃に好き勝手させながらもしっかり見張っていたらしい。彼女達が買い漁ったものは、ほぼ換金して国庫に返還したと聞いている。そしてリシャの国王やもう一人の妃の実家に損害賠償金を払わせたらしい」
「……リシャの王が払ったのですか?」
「ああ、王妃が払うべきだと進言したらしいぞ。国王はかなり渋っていたが、オリビアは養女とは言え王女だった。それに聖女だと言われていたのに、国を災いから守ることも人を助けることも出来なかった、そして自分に火の粉がかかりそうになると一目散に逃げようとした。
偽聖女を嫁がせたと他国からも笑われている」
「そうですか……」
地下牢に囚われただけ幸せなのかも。
わたしのように彼を信じて、国を守ろうとしたのに、彼には見捨てられ国民から殺された。
「我が国の国王とも話し合ったのだが、民が飢えて苦しんでいるのなら、援助をしようと言うことになった。もちろん金銭的な援助はやめて支援物資を送ることにした」
「それが一番国民は嬉しいと思います」
「ああ、麦や芋など長期保存できるものや、医薬品や衣類、そして農業と土木の技術者などを送るつもりだ」
「手厚い支援ですね」
それなら貴族達が懐に入れてしまわず、国民達に行き渡るだろう。
衣類は平民向けが多いだろうから貴族達は見向きもしない。
医薬品も町や村の医者達にすぐに渡せば貴族達が取り上げることはない。
技術者達の派遣はすぐに結果は出なくても、壊れた道を直せる。馬車が通れば人の行き来も活発になる。
農業だって、先進国の技術を教えてもらえれば、天候に左右されないものも作れるし、農作物の収穫量も増える。
すぐに出ない結果だけど長い目で見ればとてもいい支援だと思う。
「君と何度か話した時に君が言った言葉をそのまま実行に移すことにしたんだ」
『君は、国民が困った時に他国はどうするべきだと思う?』
『お金を送れば貴族のものになってしまいます。国民に行き渡らせるのは難しいことですが、国民のために道を作ること、災害に強い農作物を教えてあげることなど、自分たちの力で立ち上がれるための土台を作ってあげることが支援なのではないでしょうか?もちろん目先の物資も生き抜くためには必要ですが』
これはルドーからわたしの話を聞いているからこそ、わたしに問うたのだろう。
そう思って、その時はそう答えた。
わたしが、前世で国民に殺されたことを。
そしてその記憶が、姫という立場を捨てこうしてこの国で暮らすことになった経緯も、公爵は全て知っている。
「公爵様、ルワナ国のためにありがとうございます」
これは前世の王妃としての言葉。わたしはあの国を守ることはできなかった。
そして今は守る力もない。大好きだった城の人たちを思い出し、どうか無事に元気でいてほしいと願うしかない。
「君は……恨んでいないのか?」
「恨みは前世で消えました……でも、ネルヴァン様や……二人の王妃には、もう二度と関わり合いたくないです。リシャ国の国王夫婦とも……」
苦笑いしたわたしの顔は、多分泣いているように見えたかもしれない。
◆ ◆ ◆
更新が止まってしまい申し訳ありませんでした。
作者都合でこの2ヶ月とても忙しくて、2つの作品を同時に書く時間が取れませんでした。
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お付き合いいただければ嬉しいです。
いつも読んでいただきありがとうございます。
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