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9話
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「俺は……シェリーナにそんな酷いことをしたいなんて思っていない」
体が震えた。
それは怒り、そして悔しさから。
どうして?マーラまで?
アルトが気が付かなかったのは、マーラのせいなのか?
マーラは俺にとっては母親のような人。忙しい母様の代わりにそばにいてくれて気遣ってくれる。
病気をすればずっと看てくれるし、落ち込んでいれば優しく声をかけてくれる。
大好きなマーラ。
マーラがシェリーナの食事の用意をさせなかった?
「……お前は、シェリーナに全く食事の用意をしなかったのか?」
右手を握りしめてギュッと拳をつくった。その手に力を入れることでなんとか暴れ出したくなるのを我慢して耐えた。
「ケイン様に用意するなと言われましたので仕方なく隠れて用意していました」
「えっ?……でもシェリーナは……」
シェリーナが小さな声で俺に。
「アリナとミーネがいない時に……こっそりあの人達が食べるものをくれたの」
シェリーナが指さしたのは料理長と近くにいた料理人達だった。
よく話聞けば、あの二人がマーラに言われシェリーナに酷いことをしていた。
他の使用人達は知ってはいてもマーラが怖くて何も言えなかった。マーラは侍女長であり俺にとって母親的な大切な人だから、彼女の屋敷内での権限は絶対的で逆らうことは誰もできなかった。
それに鬱憤や不満の吐口として貴族令嬢であるシェリーナを使用人如きが酷いことをしても罰せられないと分かり、皆愉しんでいたらしい。
それがおかしいと思わない集団心理が働いていたのは、俺がシェリーナを嫌い疎み、俺を大切にするマーラが過剰に反応して、みんなを煽っていたからだろう。
ケイン様のため。
ケイン様が許可したから。
侍女長のマーラからの命令である。
そう自分たちは何も悪いことはしていない。
マーラは地下牢に入れられた。もちろんシェリーナに対して陰湿なことをしていた他の使用人達も共に。
両親が領地から帰ってくることになった。それまでに調べ上げた内容を俺は事細かく書いた書類を読んだ。
シェリーナに鞭を打っていたのはマーラとアリナとミーネ。
それ以外にもシェリーナの顔を見るたびに罵倒していたメイド達もいた。わざと転ばしたり汚れた服を着せて楽しむ者も。
逆にあまりにもシェリーナに酷いことをすると心配して隠れてシェリーナを庇って食事を持って行ったり、傷の手当てをする使用人達もいたらしい。ただ、表だってシェリーナを助けるとマーラが目を光らせているのでこっそりとしていたらしい。
じゃあ何故その者達はアルトに訴えなかったのか?
それは俺がシェリーナを嫌っていたから。
アルトは俺の忠実な執事としてそばにいてくれた。
アルトもシェリーナへの対しての態度を知っていて受け入れていると思っていたらしい。
報告書が毎日書かれていたことは他の使用人達は知らなかった。
そしてその内容が嘘だらけだったなど知らないアルトは「みんなよくやってくれている」と発言していたらしい。
そう、………「よくやっている」と。だからみんなシェリーナへの態度を容認していると思っていた。
だからシェリーナのことを心配してもこの屋敷で彼女を助け出せる人はいないとみんな思っていた。
庇う使用人達は当主である両親が領地から帰ってきてくだされば……それまで何とかシェリーナを陰で助けようと思っていたらしい。
俺は……何も知らずに、両親の代わりにここで、当主代理として踏ん反り返っていたんだ。
俺なりにこの屋敷を支えているなんて思っていた。
シェリーナがビクビクする姿に苛立ち、少し意地悪をして胸がスッとする。
そんな生活を楽しんでいた。
まさか本当に使用人達から虐待されているなんて知らずに。
「ケイン!」
父様が帰ってきてまず俺の顔を見て「執務室に来なさい」と静かに言われた。
その時は怒られなかった。
「失礼します」
部屋に入ると目に入ったのは……父様の前にアルトが……床に跪いていた。
「ケイン、お前はアルトの横に立ちなさい」
アルトは床に頭を擦り付けたまま動かない。
俺はそんなアルトの横にビクビクしながら立った。
「報告書は全て読んだ。わたしはシェリーナを大切な娘と思い迎えた。養女にしなかったのは妻がシェリーナにいずれボルト伯爵の地位を返し継いでもらいたいと願っているからだ。それまで私達が後継人となりボルト伯爵の財産管理を請け負っているんだ。あの子は大切にされるべき存在であって虐げていい存在ではない。
たくさんの愛情を受けて幸せになる権利があったのに、二人の不幸な事故のせいでシェリーナは傷つき辛い思いをしてきた」
隣に静かに立っていた母様が俺を見て残念そうに言った。その声は震えていた。
「シェリーナは引き取られた叔父の家で虐待まがいの日々の中暮らしていたわ。その報告を受け証拠を集めてなんとか助け出したの。そしてこの屋敷で幸せに暮らせるように引き取ったつもりだったの」
「シェリーナは虐待されてうまく話したり感情を言葉にするのができなくなっていた。だからケイン、お前に言ったはずだ。シェリーナに声をかけてやってくれ、妹だと思って優しく接してあげてほしいと」
「まさかケインがシェリーナを嫌っていたなんて」
二人は淡々と俺に告げた。
その言葉は叱られるより俺の心を抉った。
だって、知らなかったんだ。シェリーナが前の屋敷でも虐待されていたなんて。
優しくしろって言われたけど、シェリーナはまともに話さないし俺の顔を見るとビクビクするし。
体が震えた。
それは怒り、そして悔しさから。
どうして?マーラまで?
アルトが気が付かなかったのは、マーラのせいなのか?
マーラは俺にとっては母親のような人。忙しい母様の代わりにそばにいてくれて気遣ってくれる。
病気をすればずっと看てくれるし、落ち込んでいれば優しく声をかけてくれる。
大好きなマーラ。
マーラがシェリーナの食事の用意をさせなかった?
「……お前は、シェリーナに全く食事の用意をしなかったのか?」
右手を握りしめてギュッと拳をつくった。その手に力を入れることでなんとか暴れ出したくなるのを我慢して耐えた。
「ケイン様に用意するなと言われましたので仕方なく隠れて用意していました」
「えっ?……でもシェリーナは……」
シェリーナが小さな声で俺に。
「アリナとミーネがいない時に……こっそりあの人達が食べるものをくれたの」
シェリーナが指さしたのは料理長と近くにいた料理人達だった。
よく話聞けば、あの二人がマーラに言われシェリーナに酷いことをしていた。
他の使用人達は知ってはいてもマーラが怖くて何も言えなかった。マーラは侍女長であり俺にとって母親的な大切な人だから、彼女の屋敷内での権限は絶対的で逆らうことは誰もできなかった。
それに鬱憤や不満の吐口として貴族令嬢であるシェリーナを使用人如きが酷いことをしても罰せられないと分かり、皆愉しんでいたらしい。
それがおかしいと思わない集団心理が働いていたのは、俺がシェリーナを嫌い疎み、俺を大切にするマーラが過剰に反応して、みんなを煽っていたからだろう。
ケイン様のため。
ケイン様が許可したから。
侍女長のマーラからの命令である。
そう自分たちは何も悪いことはしていない。
マーラは地下牢に入れられた。もちろんシェリーナに対して陰湿なことをしていた他の使用人達も共に。
両親が領地から帰ってくることになった。それまでに調べ上げた内容を俺は事細かく書いた書類を読んだ。
シェリーナに鞭を打っていたのはマーラとアリナとミーネ。
それ以外にもシェリーナの顔を見るたびに罵倒していたメイド達もいた。わざと転ばしたり汚れた服を着せて楽しむ者も。
逆にあまりにもシェリーナに酷いことをすると心配して隠れてシェリーナを庇って食事を持って行ったり、傷の手当てをする使用人達もいたらしい。ただ、表だってシェリーナを助けるとマーラが目を光らせているのでこっそりとしていたらしい。
じゃあ何故その者達はアルトに訴えなかったのか?
それは俺がシェリーナを嫌っていたから。
アルトは俺の忠実な執事としてそばにいてくれた。
アルトもシェリーナへの対しての態度を知っていて受け入れていると思っていたらしい。
報告書が毎日書かれていたことは他の使用人達は知らなかった。
そしてその内容が嘘だらけだったなど知らないアルトは「みんなよくやってくれている」と発言していたらしい。
そう、………「よくやっている」と。だからみんなシェリーナへの態度を容認していると思っていた。
だからシェリーナのことを心配してもこの屋敷で彼女を助け出せる人はいないとみんな思っていた。
庇う使用人達は当主である両親が領地から帰ってきてくだされば……それまで何とかシェリーナを陰で助けようと思っていたらしい。
俺は……何も知らずに、両親の代わりにここで、当主代理として踏ん反り返っていたんだ。
俺なりにこの屋敷を支えているなんて思っていた。
シェリーナがビクビクする姿に苛立ち、少し意地悪をして胸がスッとする。
そんな生活を楽しんでいた。
まさか本当に使用人達から虐待されているなんて知らずに。
「ケイン!」
父様が帰ってきてまず俺の顔を見て「執務室に来なさい」と静かに言われた。
その時は怒られなかった。
「失礼します」
部屋に入ると目に入ったのは……父様の前にアルトが……床に跪いていた。
「ケイン、お前はアルトの横に立ちなさい」
アルトは床に頭を擦り付けたまま動かない。
俺はそんなアルトの横にビクビクしながら立った。
「報告書は全て読んだ。わたしはシェリーナを大切な娘と思い迎えた。養女にしなかったのは妻がシェリーナにいずれボルト伯爵の地位を返し継いでもらいたいと願っているからだ。それまで私達が後継人となりボルト伯爵の財産管理を請け負っているんだ。あの子は大切にされるべき存在であって虐げていい存在ではない。
たくさんの愛情を受けて幸せになる権利があったのに、二人の不幸な事故のせいでシェリーナは傷つき辛い思いをしてきた」
隣に静かに立っていた母様が俺を見て残念そうに言った。その声は震えていた。
「シェリーナは引き取られた叔父の家で虐待まがいの日々の中暮らしていたわ。その報告を受け証拠を集めてなんとか助け出したの。そしてこの屋敷で幸せに暮らせるように引き取ったつもりだったの」
「シェリーナは虐待されてうまく話したり感情を言葉にするのができなくなっていた。だからケイン、お前に言ったはずだ。シェリーナに声をかけてやってくれ、妹だと思って優しく接してあげてほしいと」
「まさかケインがシェリーナを嫌っていたなんて」
二人は淡々と俺に告げた。
その言葉は叱られるより俺の心を抉った。
だって、知らなかったんだ。シェリーナが前の屋敷でも虐待されていたなんて。
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