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73話 あと少しだけ。
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別荘での暮らしは静かに過ぎた。
先生の薬のおかげで体はずいぶん楽になった。
「先生、わたくし、アリーゼ国へ戻ろうと思います。騎士の方達にこれ以上ご迷惑はかけたくありません」
「ダメです。もうこれ以上の長旅は無理です」
「先生……最近よくお母様の日記を読んでいたんです……そこに隠れされた手紙が入っておりました……知っていました?」
「手紙とは?」
やっぱり知らなかったのね。
偶然見つけた手紙。日記の裏表紙が少し破れかけていて糊で修繕しようと思っていたら見つけた手紙。
隠されていた手紙。
お母様はこの日記と共にこの手紙を託すのを迷われたのかもしれない。
そこには数日だけ元気になれる薬の作り方が記されていた。
ただし、そのあと、激痛とともに死に至ると書いてあった。
昔から語り継がれた手紙……。
いずれ発症した人がいたらと思い残したのだろう。だけど、お母様は隠すように手紙を残していた。
古い手紙だった。
お母様は使ったのかしら?
子供の時の記憶はあやふやでそこまで覚えていない。
これを使わないで済むならこのまま自然に死を待てばいい。
だけど、騎士のみんなのためにも先生達のためにもわたくしが屋敷に帰るのが一番いい。
お兄様に何とかサイロのことだけはお願いするつもりだ。
『サイロを助けて欲しい。そしてわたくしに手を貸してくれたみんなを処罰しないで欲しい』
最後の願いくらいなら聞いてもらえるだろう。だって一度も我儘を言ったことがないのだもの。
これくらいの我儘聞いてくださるわよね?
お父様はわたくしの言葉なんて聞く耳すら持たないから。
お兄様に頑張ってもらわないと。
「この薬をわたしに作れと言うのか?」
「はい、お願いできますか?生きて屋敷まで辿り着きたいのです。たくさんの人を巻き込んだわたくしができる唯一のことは屋敷へ帰ることです。屋敷から逃げ出しておいて今更なんですけど」
少し困った顔をしたわたくしを、辛そうに見つめる先生。
「ここでゆっくり静養したほうがいいです。あえて死期を早める必要はないと思います」
「先生……みんなが大変なことになるのがわかっているのに呑気にこの別荘で過ごすことはできませんわ。最後のお願いです、どうか旅路が楽になるように薬を作ってくださいな。お願いいたします」
頭を深々と下げた。
旅の途中で死んでしまっては迷惑をかけてしまうもの。
「……………頭をお上げください」
「はぁー」と大きな溜息が聞こえた。
「作るだけなら……しかし飲むのはお考えください。その手紙と日記、もう少ししっかりと読ませてもらってもよろしいですか?わたしは一応あなたの病気を治すためにずっと研究してきたんです。不味い薬だって症状を抑えるためには有効なんです。あなたが無理ばかりしなければこんなに体調も悪くならないのに……あの苦い薬とこの日記の薬を掛け合わせれば………」
ぶつぶつと先生は独り言を言っていた。
「先生……ありがとうございます」
「わたしはまだ諦めていないんです。この薬を改良すれば治療薬になるかもしれない……そう思ってあなたのお願いを聞いたんです!」
「いずれ、わたくしと同じ病気の人が助かる薬をぜひ作ってくださいな」
「命ある限り諦めてはいません。ブロア様、今日もわたしの不味い薬を飲んで元気にお過ごしください」
先生が部屋を出て行った。
窓から見える海をただじっと見つめるしかない日々。
事情聴取で連れて行かれたウエラが心配だった。ウエラはすぐに帰って来ると思ったのに、なかなか帰ってこれない。
せめてわたくしがもう少し動ければ……
自分ができることの少なさに歯痒さで唇を噛み締めた。
数日後、王城にいた騎士の一人が別荘へと慌ててやって来た。
サイロがアリーゼ国に連れて帰られて処罰を受けると言うのだ。
公爵家の大切なネックレスを盗んだ罪で。
「どうして?サイロが盗むはずないじゃない……」
先生の薬のおかげで体はずいぶん楽になった。
「先生、わたくし、アリーゼ国へ戻ろうと思います。騎士の方達にこれ以上ご迷惑はかけたくありません」
「ダメです。もうこれ以上の長旅は無理です」
「先生……最近よくお母様の日記を読んでいたんです……そこに隠れされた手紙が入っておりました……知っていました?」
「手紙とは?」
やっぱり知らなかったのね。
偶然見つけた手紙。日記の裏表紙が少し破れかけていて糊で修繕しようと思っていたら見つけた手紙。
隠されていた手紙。
お母様はこの日記と共にこの手紙を託すのを迷われたのかもしれない。
そこには数日だけ元気になれる薬の作り方が記されていた。
ただし、そのあと、激痛とともに死に至ると書いてあった。
昔から語り継がれた手紙……。
いずれ発症した人がいたらと思い残したのだろう。だけど、お母様は隠すように手紙を残していた。
古い手紙だった。
お母様は使ったのかしら?
子供の時の記憶はあやふやでそこまで覚えていない。
これを使わないで済むならこのまま自然に死を待てばいい。
だけど、騎士のみんなのためにも先生達のためにもわたくしが屋敷に帰るのが一番いい。
お兄様に何とかサイロのことだけはお願いするつもりだ。
『サイロを助けて欲しい。そしてわたくしに手を貸してくれたみんなを処罰しないで欲しい』
最後の願いくらいなら聞いてもらえるだろう。だって一度も我儘を言ったことがないのだもの。
これくらいの我儘聞いてくださるわよね?
お父様はわたくしの言葉なんて聞く耳すら持たないから。
お兄様に頑張ってもらわないと。
「この薬をわたしに作れと言うのか?」
「はい、お願いできますか?生きて屋敷まで辿り着きたいのです。たくさんの人を巻き込んだわたくしができる唯一のことは屋敷へ帰ることです。屋敷から逃げ出しておいて今更なんですけど」
少し困った顔をしたわたくしを、辛そうに見つめる先生。
「ここでゆっくり静養したほうがいいです。あえて死期を早める必要はないと思います」
「先生……みんなが大変なことになるのがわかっているのに呑気にこの別荘で過ごすことはできませんわ。最後のお願いです、どうか旅路が楽になるように薬を作ってくださいな。お願いいたします」
頭を深々と下げた。
旅の途中で死んでしまっては迷惑をかけてしまうもの。
「……………頭をお上げください」
「はぁー」と大きな溜息が聞こえた。
「作るだけなら……しかし飲むのはお考えください。その手紙と日記、もう少ししっかりと読ませてもらってもよろしいですか?わたしは一応あなたの病気を治すためにずっと研究してきたんです。不味い薬だって症状を抑えるためには有効なんです。あなたが無理ばかりしなければこんなに体調も悪くならないのに……あの苦い薬とこの日記の薬を掛け合わせれば………」
ぶつぶつと先生は独り言を言っていた。
「先生……ありがとうございます」
「わたしはまだ諦めていないんです。この薬を改良すれば治療薬になるかもしれない……そう思ってあなたのお願いを聞いたんです!」
「いずれ、わたくしと同じ病気の人が助かる薬をぜひ作ってくださいな」
「命ある限り諦めてはいません。ブロア様、今日もわたしの不味い薬を飲んで元気にお過ごしください」
先生が部屋を出て行った。
窓から見える海をただじっと見つめるしかない日々。
事情聴取で連れて行かれたウエラが心配だった。ウエラはすぐに帰って来ると思ったのに、なかなか帰ってこれない。
せめてわたくしがもう少し動ければ……
自分ができることの少なさに歯痒さで唇を噛み締めた。
数日後、王城にいた騎士の一人が別荘へと慌ててやって来た。
サイロがアリーゼ国に連れて帰られて処罰を受けると言うのだ。
公爵家の大切なネックレスを盗んだ罪で。
「どうして?サイロが盗むはずないじゃない……」
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