短編。

たろ

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さよならのかわりに ブロアとセフィルの恋ーーあなたを愛していますーー

国外への追放

 殿下からの申し入れを断った次の日にはお父様が珍しく公爵家に顔を出した。

 普段は仕事が忙しくほとんど王城に与えられている私室で過ごすお父様が帰ってきたのだ。

 この三日間は慌ただしい日々だわ。

 セフィルに婚約解消を申し入れ、次の日には殿下に側妃になれと言われ、今日は、お父様に……




「ブロア!お前は殿下に対してなんて口の聞き方をしたんだ!そのせいでわたしは……」

 部屋に入ってきていきなり本を読んでいたわたくしの頬を叩いた。

 バシッ!

 勢いに任せそのまま椅子から落ちたわたくしは口の中で鉄の味がした。

 頬の痛みや口の中が切れてしまった痛み、椅子から落ちて打ちつけた体の痛み。

 どれも痛かった……だけど、心は何も感じなかった。

 ーーああ、やっぱり殿下は今回もわたくしを悪者にしたのね。婚約破棄も全てわたくしのせい、側妃を断ったのもわたくしが悪いと言ったのだろう。

『影』は見たままを報告する。そこに感情はない。わたくしの吐いた言葉にわたくしの心の中の心情は書かれることはない。

 推測されることもなく書かれていることを全て悪い方へと受け止めてわたくしが全て悪いことになったのだろう。あの人達はまたわたくしを裏切った。

 近衛騎士達も全て見て聞いて理解しているのに、わたくしが悪いと殿下が言っても否定してはくれない。

 あの人達にとってわたくしを王城に軟禁することが一番都合がいい。ひたすら仕事をさせて自分たちが楽するのだから。

 お父様だって分かっているはず、わたくしが王城にあがれば仕事が楽になることを。だけどお父様は公爵家の益を取りセフィルを婿にと選んだ。

 だけど、わたくしがセフィルとの婚約解消を願い出たことを知ってしまった。

 公爵家にとって役に立たない用無しの娘に成り果てて、殿下の側妃となることも断ればわたくしはもうここにいることは出来ない。

「お前はセフィルとの婚約を解消したいと言い出したと聞いた。何故だ?殿下はそれを聞いてお前を側妃にと言い出した。お前を悪者にして婚約破棄したと言うのに、お前はそんなことを言われて悔しくないのか?もっと上手く殿下をあしらうことすら出来ないのか?」

 ーーえっ?さっきとは違うことを言ってないかしら?

「………わたくしなりに色々考えてのことです……セフィルにはわたくしよりも愛する人がいるのです……かと言って殿下の側妃になろうとは思えません……」

「お前にはこの国から出て行ってもらう」

「………追放ですか?」

「………ああ、明日荷物をまとめて………」

 お父様が何を言っているのかもうこれ以上耳に入ってはこなかった。

 胸が痛い……ああ、何も感じないと思っていたのに……わたくしまだ少しだけ期待していたのかもしれない……この人からほんの少しでも愛情をもらえるかもしれないなんて……

 頬がズキズキ痛むし、口の中は鉄の味がするし、体は痛むけど、それ以上に今は胸が痛い……なんだかクラクラする……

 ドサッ………












「ブロア……お前はまた……ブロア?」
 公爵は、ブロアが倒れたのを気を引くためだと思い、また怒鳴ろうとした。

 しかし真っ青な顔で気を失い……口から血が流れてきたのを見て「ブ、ブロア?」と必死で声をかけた。

 自分が感情的に叩いてしまったことも忘れていた。

 勝手にセフィルとの婚約を解消しようとしたことに腹が立っていた。

 ブロアが殿下に婚約破棄され悪女に仕立て上げられ社交界に顔を出すも居づらくなっていた。

 そんなブロアが好きになったのがセフィルだった。たまたまどうしても参加しないといけない王家主催の舞踏会で、酒を呑んで酔った男に絡まれているところを護衛騎士として仕事をしていたセフィルに助けてもらったブロア。
 ブロアが少しだけ笑顔を取り戻したと聞いた時、公爵はホッと胸を撫で下ろした。

 その報告を聞いてセフィルの人となりを調べあげ、納得した上で婚約者に据えた。

 セフィル自身もブロアに好意を持っていた。

 仕事ばかりでブロアに対して父親らしいことをしてこなかった。だからこそ殿下との婚約はブロアにとってプレゼントになると思っていた。

 この国のいずれは王妃としてみんなに傅かれみんなに愛される。
 そんな姿を夢見ていた。

 それが娘の幸せなのだと……しかし殿下は思った以上に愚鈍で愚かすぎた。

 ブロアの能力を評価しうまく使いこなすどころか嫉妬してブロアに嫌味な態度しか取れない男だった。
 ロザンナ妃を愛していると言っているが、本当はブロアの気を引きたくてロザンナ妃と交際していたことはわかっていた。

 ただ一線を超えてしまいロザンナ妃のお腹に殿下の子供が……そう妊娠してしまった。

 ロザンナ妃と結婚するしか道はなくなった。彼女の身分の低さゆえ、必死で殿下の仕事もこなし、頑張ってきたブロアを悪者にして捨てるしかなかった。

 あまりにも優秀で公爵家の令嬢であるブロアにはどこにも非はない。だから無理やり非を作ったのだ。ロザンナ妃を国民に受け入れてもらえるように。

 何年も必死で王太子妃としての教育を受けてきたのに……殿下の浮気のせいでブロアの人生はパァになってしまった。

 ブロアを傷つけてまで殿下とロザンナ妃を守ることが、馬鹿馬鹿しく感じられた。
 宰相の仕事など辞めようと思ったが、ブロアを側妃にして飼い殺しにしようと言う案が今度は出始めた。

 それを阻止するためにも自分が宰相であり続けなければいけなかった。
 公爵家当主としての仕事はほぼ息子のカイランに任せっきりで、宰相として邁進してきた。

 ブロアを守るために……

 なのにブロアはセフィルとの婚約を解消しようとしている。それにまた殿下がつけ込もうとし始めた。

 ブロアの昨日の態度が気に入らない殿下はブロアが高慢で生意気だと王城内で悪口を言い回っている。

 セフィルとの婚約も解消するだろう……と。

 セフィルとリリアンナ嬢との真実の愛を邪魔するブロアがどんなに酷い女なのか。

『影』も殿下のそばにいたのに、ブロアの心情も理解しているはずなのに、見えることだけしか報告をしない。

 ブロアの殿下への態度は確かに多少は不敬だったかもしれない。

 親としては十分良くやった!と褒めたいのだが、殿下への態度はあまり褒められたものではなかった。

 今自分がブロアにできるのは、この国から逃してやることだけだ。
 あの殿下から逃げなければいつまでも追いかけてくるだろう。

 仕事漬けの毎日が続き……そして、あの男に娘の身体を……。それだけは避けたい。

 だから娘をこの国から……そう思ったのに、目の前に倒れているブロアを抱き上げると、思った以上に身体が軽かった。

 まるで病人のように……青白い顔をして体調が悪いのだろうか……

「医者を呼べ!」












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