49 / 146
49話
◇ ◇ ◇ ラフェ
馬車から降ろされて警備隊の建物の中に連れて行かれた。
ここは夫がいた騎士団とは別の部署で王都を守るため、犯罪を犯した人たちを捕らえたり犯人を探したり、町の平和を守ってくれる隊だ。
「薬を飲ませたのは貴女ですか?」
取り調べと言われ怖かったが酷いことを言われたり脅されるのかと思っていたけど、そんなことはされなかった。
わたしを連行した人達は若い人達だったので、完全に犯人だと思い込み強めの口調と態度で脅したみたいだった。
「わたしは息子にそんなことはしていません。それよりも息子の体調はどうなっているのか知ることはできませんか?あの子は今苦しんでいるんです、そばに居てあげられないのでとても寂しがっていると思うんです」
「すみません、貴女の身の潔白が証明されればすぐにでも帰してあげられるのですが、規則なので今はどうしようもありません」
警備隊の人は眉を顰めて困った顔をして、気の毒そうに言った。
「あの、どうすればいいのですか?どうしたら帰れるのですか?」
簡単には帰れない。なんとなくそう感じてはいるけど少しでも早くアルバードのところへ帰りたい。
「貴女がしていないと言う証拠があればいいのですが……」
「証拠なんてしていないのだからあるわけないじゃないですか!」
冷静でいようと思っていたのについ声を荒げてしまった。
「では最近誰か怪しい人とかいませんでしたか?何か不審に思ったこととかは?」
ここ最近のことを必死で思い出そうとした。
だけど仕事に追われて昼間はアルはわたしの近くで遊んでいるか、裏庭で一人で遊ぶか、近所のおじちゃんやおばちゃん達にお世話になるかしかない。
近所のおじちゃんやおばちゃんにアルバードを殺そうとする理由はない。
いつも通り、遊んでもらったり昼ごはんを食べさせてもらったりした。
アルバードが何か失礼なことをして怒らせたなんてなかった。3歳のなにも持たない子供を殺して何かメリットなんてあるとは思えない。
「わかりません。わたしは家で仕事をしていることが多く、アルバードも普段通りに過ごしていたと思います」
「うーん、なにか少しでも違和感を感じたこととかありませんでした?」
「違和感?」
「アルバード君が誰か知らない人と接触したとか、たとえば道を尋ねられたとか、なにかアルバードくんが熱で倒れる前に話したりはしませんでした?」
倒れる前……
「あっ、最近、家の前で遊んでいたらお兄ちゃんが話しかけてくると言っていました」
「お兄ちゃん?」
「ご近所さんとはみんな顔見知りなんです。だけどそのお兄ちゃんはアルバードが今まで知っていた人ではないみたいで、『お友達になったの』と嬉しそうに話していました」
「ラフェさんはお会いしたことは?」
「ないです。
だから『知らない人とは話しては駄目よ』と言ったら、『いっぱいお話ししたから大丈夫!」とニコニコしながら言ってたんです」
その後も何度も同じような質問を繰り返し聞かれた。そしてやっと終わったのは外が暗くなる時間だった。
ーーやっと帰れる……と、ホッとしていると
「申し訳ありませんが帰す訳にはいきません。今回の薬物は今問題になっているんです。まさかもう王都にまで持ち込まれているとは思いませんでした。だから初めての患者さんの母親である貴女も疑うしかないのです」
「……帰れない?お願いです、帰してください!
息子が死ぬかもしれないのにまだ治るかわからないと言われているのです。アルバードのそばに居たいんです」
何度も訴えたのに駄目だった。
わたしは牢ではなく警備隊の建物の一室に泊まることになった。
中から鍵を閉めることはできない。逃げ出さないように外からしか鍵がかからないようになっている。
ーーまるで犯人扱いね
小さな窓、簡素なベッドと部屋の中にはトイレがついていた。
本当にそれだけ、他にはなにもなかった。
◆ ◆ ◆ エドワード
「ただいま戻りました」
王都に行って調べてもらうように頼んでいた執事見習いのジミーが疲れた顔をして帰ってきた。
今はサリナル商会の怪しい薬物のことを急ぎ調べているところで、自分の以前の王都での様子の報告を聞く余裕はなかった。
「すまない、ジミー。ゆっくりと話を聞きたいのだが今緊急でバタバタしていて話す時間が取れそうもない。申し訳ないが報告書に纏めて欲しい」
「わかりました急ぎ報告書を纏めます」
「ああ頼む、だが今日はゆっくりと休んでくれ。お疲れ様」
ジミーが執務室を出ていく後ろ姿を俺はじっと見ていた。
本当は少しなら聞く時間はあった。しかし今はシャーリーのことも絡んだ大きな問題が起きていて、自分の記憶を失う前のことを聞いても考える余裕はなかった。
怪しい薬物による中毒者が少しずつ領地の住民の中に増えていること。
ただ売る方は簡単には入手できないようにしていた。買う人を限定しているのだ。
足がつかないようにしている。
俺だけでは対処が難しい。だからシャーリーがこの問題にどこまで絡んでいるか調べて、国へ報告をすることにした。
勝手に動けば国にどう思われるかわからない。ならばこちらも被害者であることを伝えるつもりだ。隠すより商会を調査し捕まえる意向を国に示した方が得策だ。
シャーリー自身この商会の顧客ではあるが薬は飲んでいないようだし金銭の授受はしていないようだ。
とにかく少しでもこちらが悪くならないように動かないといけない。
たぶんそんな言い訳をして、現実を知る勇気が今はないのだろう。
シャーリーとオズワルドを守らなければ、この領地を守らなければ、その想いと、………現実を知って仕舞えば、揺らいでしまうかもしれないと言う気持ちが、今日話を聞くということを先延ばしにしてしまった。
馬車から降ろされて警備隊の建物の中に連れて行かれた。
ここは夫がいた騎士団とは別の部署で王都を守るため、犯罪を犯した人たちを捕らえたり犯人を探したり、町の平和を守ってくれる隊だ。
「薬を飲ませたのは貴女ですか?」
取り調べと言われ怖かったが酷いことを言われたり脅されるのかと思っていたけど、そんなことはされなかった。
わたしを連行した人達は若い人達だったので、完全に犯人だと思い込み強めの口調と態度で脅したみたいだった。
「わたしは息子にそんなことはしていません。それよりも息子の体調はどうなっているのか知ることはできませんか?あの子は今苦しんでいるんです、そばに居てあげられないのでとても寂しがっていると思うんです」
「すみません、貴女の身の潔白が証明されればすぐにでも帰してあげられるのですが、規則なので今はどうしようもありません」
警備隊の人は眉を顰めて困った顔をして、気の毒そうに言った。
「あの、どうすればいいのですか?どうしたら帰れるのですか?」
簡単には帰れない。なんとなくそう感じてはいるけど少しでも早くアルバードのところへ帰りたい。
「貴女がしていないと言う証拠があればいいのですが……」
「証拠なんてしていないのだからあるわけないじゃないですか!」
冷静でいようと思っていたのについ声を荒げてしまった。
「では最近誰か怪しい人とかいませんでしたか?何か不審に思ったこととかは?」
ここ最近のことを必死で思い出そうとした。
だけど仕事に追われて昼間はアルはわたしの近くで遊んでいるか、裏庭で一人で遊ぶか、近所のおじちゃんやおばちゃん達にお世話になるかしかない。
近所のおじちゃんやおばちゃんにアルバードを殺そうとする理由はない。
いつも通り、遊んでもらったり昼ごはんを食べさせてもらったりした。
アルバードが何か失礼なことをして怒らせたなんてなかった。3歳のなにも持たない子供を殺して何かメリットなんてあるとは思えない。
「わかりません。わたしは家で仕事をしていることが多く、アルバードも普段通りに過ごしていたと思います」
「うーん、なにか少しでも違和感を感じたこととかありませんでした?」
「違和感?」
「アルバード君が誰か知らない人と接触したとか、たとえば道を尋ねられたとか、なにかアルバードくんが熱で倒れる前に話したりはしませんでした?」
倒れる前……
「あっ、最近、家の前で遊んでいたらお兄ちゃんが話しかけてくると言っていました」
「お兄ちゃん?」
「ご近所さんとはみんな顔見知りなんです。だけどそのお兄ちゃんはアルバードが今まで知っていた人ではないみたいで、『お友達になったの』と嬉しそうに話していました」
「ラフェさんはお会いしたことは?」
「ないです。
だから『知らない人とは話しては駄目よ』と言ったら、『いっぱいお話ししたから大丈夫!」とニコニコしながら言ってたんです」
その後も何度も同じような質問を繰り返し聞かれた。そしてやっと終わったのは外が暗くなる時間だった。
ーーやっと帰れる……と、ホッとしていると
「申し訳ありませんが帰す訳にはいきません。今回の薬物は今問題になっているんです。まさかもう王都にまで持ち込まれているとは思いませんでした。だから初めての患者さんの母親である貴女も疑うしかないのです」
「……帰れない?お願いです、帰してください!
息子が死ぬかもしれないのにまだ治るかわからないと言われているのです。アルバードのそばに居たいんです」
何度も訴えたのに駄目だった。
わたしは牢ではなく警備隊の建物の一室に泊まることになった。
中から鍵を閉めることはできない。逃げ出さないように外からしか鍵がかからないようになっている。
ーーまるで犯人扱いね
小さな窓、簡素なベッドと部屋の中にはトイレがついていた。
本当にそれだけ、他にはなにもなかった。
◆ ◆ ◆ エドワード
「ただいま戻りました」
王都に行って調べてもらうように頼んでいた執事見習いのジミーが疲れた顔をして帰ってきた。
今はサリナル商会の怪しい薬物のことを急ぎ調べているところで、自分の以前の王都での様子の報告を聞く余裕はなかった。
「すまない、ジミー。ゆっくりと話を聞きたいのだが今緊急でバタバタしていて話す時間が取れそうもない。申し訳ないが報告書に纏めて欲しい」
「わかりました急ぎ報告書を纏めます」
「ああ頼む、だが今日はゆっくりと休んでくれ。お疲れ様」
ジミーが執務室を出ていく後ろ姿を俺はじっと見ていた。
本当は少しなら聞く時間はあった。しかし今はシャーリーのことも絡んだ大きな問題が起きていて、自分の記憶を失う前のことを聞いても考える余裕はなかった。
怪しい薬物による中毒者が少しずつ領地の住民の中に増えていること。
ただ売る方は簡単には入手できないようにしていた。買う人を限定しているのだ。
足がつかないようにしている。
俺だけでは対処が難しい。だからシャーリーがこの問題にどこまで絡んでいるか調べて、国へ報告をすることにした。
勝手に動けば国にどう思われるかわからない。ならばこちらも被害者であることを伝えるつもりだ。隠すより商会を調査し捕まえる意向を国に示した方が得策だ。
シャーリー自身この商会の顧客ではあるが薬は飲んでいないようだし金銭の授受はしていないようだ。
とにかく少しでもこちらが悪くならないように動かないといけない。
たぶんそんな言い訳をして、現実を知る勇気が今はないのだろう。
シャーリーとオズワルドを守らなければ、この領地を守らなければ、その想いと、………現実を知って仕舞えば、揺らいでしまうかもしれないと言う気持ちが、今日話を聞くということを先延ばしにしてしまった。
あなたにおすすめの小説
白い結婚のまま、旦那様は薔薇のような美人に夢中になりました
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢リディアは、美貌で有名な侯爵レオンハルトに嫁いだ。
けれど結婚して二年、夫婦は一度も結ばれないまま――白い結婚だった。
それでも旦那様は優しかった。
冷たいわけではない。気づかいの言葉も、穏やかな笑顔もくれる。
だからリディアは、愛されてはいなくても、いつか少しは夫婦になれるのではないかと信じていた。
そんなある日、彼女は知ってしまう。
旦那様が薔薇の君と呼ばれる絶世の美女に心を奪われていることを。
彼が触れなかったのは私にだけだったのだと。
都合のいい奥方として、役に立っていたと悟る
静かに離縁を決意したリディアは、実家へ戻ったあと、女子学院で働き始める。
すると侯爵夫人時代には当たり前だった実務のすべてが、外では驚くほど必要とされていた。
感謝され、認められ、自分の足で立ち始めた彼女は、少しずつ見違えるほど美しくなっていく
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
【完結】私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末
コツメカワウソ
恋愛
ローウェン王国西方騎士団で治癒師として働くソフィアには、魔導騎士の恋人アルフォンスがいる。
平民のソフィアと子爵家三男のアルフォンスは身分差があり、周囲には交際を気に入らない人間もいるが、それでも二人は幸せな生活をしていた。
そんな中、先見の家門魔法により今年が23年ぶりの厄災の年であると告げられる。
厄災に備えて準備を進めるが、そんな中アルフォンスは魔獣の呪いを受けてソフィアの事を忘れ、魔力を奪われてしまう。
アルフォンスの魔力を取り戻すために禁術である魔力回路の治癒を行うが、その代償としてソフィア自身も恋人であるアルフォンスの記憶を奪われてしまった。
お互いを忘れながらも対外的には恋人同士として過ごす事になるが…。
番外編始めました。
世界観は緩めです。
ご都合主義な所があります。
誤字脱字は随時修正していきます。
白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする
夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、
……つもりだった。
夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。
「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」
そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。
「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」
女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。
※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。
ヘンリック(王太子)が主役となります。
また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。
死ぬまでに叶えたい十の願い
木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」
三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。
離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する——
二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。
「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚
きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」
新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。
それもそのはず。
2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。
でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。
美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。
だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。
どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったレオノールに、やがてクラウディオの心は……。
すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?
焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。
夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです
藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。
理由は単純。
愛などなくても、仕事に支障はないからだという。
──そうですか。
それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。
王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。
夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。
離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。
気づいたときにはもう遅い。
積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。
一方で私は、王妃のもとへ。
今さら引き止められても、遅いのです。
どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~
クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。
同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。
ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した…
誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。