【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ

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116話  ラフェ

 ◇ ◇ ◇  ラフェ

 エドワードのことは本音を言うと驚いた。だけど何も言うことはない。うん、もう終わったこと。

 エドワードにはエドワードの新しい人生がある。

 アルバードがいつか本当のお父さんに会いたいと言い出した時……その時考えるしかない。

 今はアルバードはグレン様が大好きだし慕っている。わたしもグレン様が好き。

 この気持ちを大切にして彼について行くと決めた。



「アル、ラフェ、一緒に湖に遊びに行こう」

 もうすぐ王都を発つので、アルに王都での思い出を作りたいと言ってくれた。
 忙しいのにわたし達のために時間を作ってくれたのだ。



「ギュレン、ふね、のるの?」

「船か?ボートだろ?」

「ふね、じゃないの?」

「ま、どっちも水に浮いてるからいいか」

「うん、ふね、たのしみだねー」

 三人だけで過ごすのは初めてかもしれない。いつも周りに誰かいた。使用人の人や騎士さん達。

 今日はわたしがお弁当を作りグレン様が馬車の御者をしてくれた。

 アルバードは馬車の中からグレン様の姿をずっと興味深く見ていた。
「ギュレンってすごい!かっこいいねっ」


 馬車を降りて湖に向かって歩いた。

 アルバードは真ん中でわたしとグレン様の手を繋ぎ嬉しそうに歩いた。
 いつもなら疲れてすぐに「抱っこ」と言うのに今日は頑張ってずっと手を繋いで歩いた。

 ボートに初めて乗った。目をキラキラさせて何度も約束を忘れて立とうとしてわたし達に怒られる。

「危ないから座りなさい!」
「アル、座れ!」

 怒られてシュンとしてもまた湖の中に魚が見えると忘れて立とうとする。

 グレン様は「こら!」と怒るけど、アルバードは平気な顔をして「ごめんね」と言って笑っていた。

 それを横でわたしはクスクス笑って見ていた。本当の親子のように仲がいい。

 優しい時間が流れる。こんな時間がずっと続いて欲しい。

 グレン様からもらった、たくさんの優しい日々の思い出。

 少し乱暴で怖そうに見えるけど、情があってとても優しい人。

 アルバードのことを実の子供のように接してくれる。悪いことをすれば本気で怒ってくれる。病気をすれば誰よりも心配してくれる。
 頑張ったアルバードを誰よりも褒めてくれる。

 わたしのこともハッキリと言ってくれるので、ちょっと傷つくこともあるけど……それ以上に信頼できる。

 本当は、辺境伯領に行くことに少し不安はある。

 だって元伯爵令嬢だったとは言え今は平民。それも子持ち。

 いくらグレン様も結婚していたことがあるとは言え反対されるかもしれない。それも本当は王族の血が流れている人。

 わたしなんかとは立場が違う。
 ほんとは釣り合わない人。

 アレックス様がわたしとアルバードの後見人になってくれた。身元は保証されているので「グレンの父親は反対はしないさ」と言ってくれた。

 そうは言ってもやっぱりドキドキする。



 アルバードは遊び疲れて木陰にマットを敷いて昼寝をしている。
 わたしとグレン様はそんなアルバードの寝顔を見ていたらお互い目が合った。

「また無駄なこと考えてるだろう?」
 いきなりの図星に驚いた。

「えっ?」

「ラフェって思ったことが顔に出やすいからな」

「そうかな?」

「俺について行くのが不安か?」
 ーーー顔に出ていたのかしら?

「不安じゃないとは……言えないかな。だって王都を離れて暮らすのは初めてなんだもの。それに……わたしが行って受け入れられるのか心配だよ。グレン様はとても有名で貴族で騎士団長でカッコよくて……」

 言っててちょっと惨めになってきた。

「わたしは……子持ちだし、綺麗なわけではないし、平民だし、なんにもないの。グレン様の横に並んでいられるだけの価値なんてないわ」

「価値ってなんだ?俺はラフェがいい。ずっとそばにいて欲しいし、アルは俺にとって大切な子だ。
 初めて会った時は亡くなった妻になんとなく似ている気がした。だけど全然違った。あいつは守ってやらなければいけなかった。
 だけどラフェは一人で立っていられる人だ。だからこそ、一人で立っているラフェの隣に俺も立っていたくなった。 
 お前は守ってやるんじゃなくて共に立って、共に歩いていける女だと思う。そんな強くて、だけど寂しがりなラフェに惹かれたんだ」

 ーーーすっごく嬉しいんだけど……恥ずかしすぎる……

「それにお前はめちゃめちゃ可愛い」

「………あ、ありがとっ」

 ーーーうっ……

 恥ずかしすぎて下を向いて顔を上げられない。

 こんな風に真っ直ぐ思いを伝えてくれる人がいるなんて……彼なら信用できる。そう思う。

「グレン様、わたしは貴方と幸せになりたいです。そしてわたしはグレン様をそれ以上に幸せにしてあげたいです」

「ははっ、ラフェらしいな。俺はお前とアルがいてくれるだけで十分幸せだよ」

「あんまり自信がないけど……少しずつ、貴方の横に居ても恥ずかしくないような人になれるように頑張りますね」

 とても天気のいいポカポカ陽気の今日。
 グレン様の手がわたしの手に重なる。

 アルバードがスヤスヤ寝ている姿をまた二人で見つめて……そして笑顔で見つめ合って……そっと唇を重ねた。





「アル!出発だ!」

「おかあしゃん、ギュレン、楽しみだねっ」







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