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121話
◆ ◇ ◆ グレン
辺境伯領に着く前にもう一つの墓に。
俺が毎年来る場所。
幼い頃は「ここは親戚の墓なんだよ」と聞いていた。
何故か一年に一回、何か用事がありこの領地を通る。その時に手を合わせにくる場所。
幼い頃はたまたま通るので手を合わせているのだろうと思っていた。
父上が「しっかり手を合わせなさい」と言うからとりあえずしっかり手を合わせていた。
そしてこの場所が俺の母が眠る場所だと知ってからは自らここに来るようになった。
俺は陛下が嫌いだ。大っ嫌いだ。そして王妃も嫌いだ。どんなに民が王妃に感謝をしても俺にはいい人だとは思えない。
それならばこの墓で眠る母は?
記憶すらない。それでも母を知る人を探して話を聞いた。
普通の子爵令嬢だったと。
綺麗な人ではあるけど華があるタイプではなく、薔薇よりもガーベラを好む人だったらしい。
春には綺麗な花を咲かせる。そしてもう一度秋にも。そんなふうに花を愛し、本を読むのが好きだったらしい。
『おとなしいセリーヌがまさか王太子殿下と恋に落ちるなんて』と言っていた。
二人の愛はどんなに周りが反対しようとも揺るぎないものだったらしい。
ならばそのまま母だけを愛すればよかったのだ。王妃を解放して。
そんな話を聞いたのは母の幼馴染の女性からだった。
今日はアルとラフェと三人で墓に手を合わせた。
母の話を語ってくれる者はあまりいない。皆が国王に対してそして王妃に対して忠実で、母の事は居なかった者のようにされている。
王妃を苦しめた悪女。母は国では悪者なのだ。それは王妃が知らしめたわけではない、全て前国王、俺にとっての祖父がした事だ。
そしてそんな母のことを語ってくれる人はいない。親戚も皆口を固く閉じているらしい。
だから母の幼馴染もこそっと隠れるように語ってくれた。
この国では側妃や愛妾はあまりよく思われない。子供が出来なければ側妃を娶る事はあるが陛下のように結婚してすぐから愛妾だけを大切にする事は非難される。流石にそれは当たり前だと思う。
王妃は嫌いだし可哀想だとは思わないが、陛下と母がした事は人としてどうかと思う。そんなに愛し合っているのなら全てを捨ててこの国を出れば良かったのでは?
中途半端な真実の愛なんていらない。本気なら出来たはずだ。
そう思うのに母の墓の前に来ると、何故か切なくなる。顔も声も知らない。寂しい場所に一人で眠る母。
ーーー俺だけは母の生涯を「頑張った」「生きてくれてありがとう」と言ってもいいだろうか。
手を合わせていると、長く手を合わせることが出来ないアルがこちらをチラチラと見る。
俺はアルを膝の上に座らせて墓の前に座った。
「ここは俺の母が眠っている所なんだ」
「ギュレンのおかあしゃん?」
「そうだ。俺を産んでくれた母。育ててくれた母の墓は今から行く領地にある」
「ギュレンはおかあしゃん、ふたりなの?」
「そうだ、いいだろう!アル、俺はギュレンではなく『お父さん』といつか呼ばれたい。駄目か?すぐにとは言わない、少しずつ慣れてくれたらそれでいい」
「……アルのおとうしゃんいないから、ギュレンのことをおとうしゃんってよぶ」
「そうか、ありがとう。アルもそろそろその『しゃん』の癖もなおさないとな。もうすぐ4歳だ」
俺はアルの話し方が可愛くて好きだ。
だけど、貴族の子供として生きていかなければいけない。だから少しだけ……優しい話し方で厳しいことを言った。
「…………おかあしゃんはだめ?おかあさん、おとうさん………がんばる」
「少しずつアルはお兄ちゃんになって成長していくな。えらいぞ」
「ほんと?アル、がんばる!」
アルは素直だ。人の言うことをちゃんと聞いて受け入れる。この子を大事に育てたい。
俺の子供じゃないけど、俺の大切な息子。
ーーーどうか見守ってください。俺はこの二人を大切に守り暮らしていきます。
「ギュレンのおかあしゃ…さん、こんどから……おとう…さんとくらす、アルバードです。またあそびにくるね」
「また来てくれるのか?」
「うん、またこようね、……おとう…さん」
「ふふっ、アル頑張って、えらいわ」
「おかあしゃん!あっ………」
「ゆっくりでいいの、アルが少しずつ呼ぶのに慣れたらいいと思うわ」
「無理言ってすまん。アル、ゆっくり待つからな」
アルの笑顔に俺とラフェは微笑んだ。
そして数日かけて辺境伯領の中にある子爵家の屋敷に着いた。
「ここが俺の屋敷だ。と言ってもあまりここで暮らす事はなかったんだ。普段はほとんどアレックス様の屋敷に俺専用の部屋があってそこで暮らしているんだ」
ラフェとアルに屋敷の中に入ってもらい、使用人達と顔合わせをした。
うちの屋敷で働くのは退役した騎士や怪我を負って働けなくなった者達が中心に働いている。前もって二人のことは話していたので受け入れる準備をしてくれていた。
「ラフェ様、アル様、初めまして。ようこそおいで下さいました」
みんながにこやかに挨拶してくれた。
ラフェもふわっと微笑んだ。
「よろしくお願い致します。皆さんと仲良く暮らしていきたいと思っております」
だけど声は少し緊張気味だった。
「大丈夫だ、ラフェ。みんな君がくることを喜んでくれていたんだ。この屋敷の女主人として慣れないかもしれないが過ごして欲しい。頑張らなくていい、みんなに頼ってゆっくり慣れていって欲しい」
「わかりました、グレン様」
「この子がアルだ」
アルは人見知りもなくみんなのところにトコトコと行く。
「ぼく、アルバードです。もうすぐ4さいです。おとう…さんとおかあ…さんのこどもです。…よろしく…おねがいします」
「アル様、噂は聞いておりました。なんて可愛らしい」
「おやつの用意をしております」
「おやつ?くっきー?ケーキ?アルはおかしならなんでも、すき」
「手を洗ってお着替えをしましょう。それからおやつの時間です」
使用人の言葉に嬉しそうに返事をした。
「うん!」
目をキラキラさせて使用人について行った。
俺とラフェも湯浴みを済ませ、アルのいる部屋へと向かった。
アルはずっとここで暮らしていたかのように楽しそうにみんなとおしゃべりをしていた。
辺境伯領に着く前にもう一つの墓に。
俺が毎年来る場所。
幼い頃は「ここは親戚の墓なんだよ」と聞いていた。
何故か一年に一回、何か用事がありこの領地を通る。その時に手を合わせにくる場所。
幼い頃はたまたま通るので手を合わせているのだろうと思っていた。
父上が「しっかり手を合わせなさい」と言うからとりあえずしっかり手を合わせていた。
そしてこの場所が俺の母が眠る場所だと知ってからは自らここに来るようになった。
俺は陛下が嫌いだ。大っ嫌いだ。そして王妃も嫌いだ。どんなに民が王妃に感謝をしても俺にはいい人だとは思えない。
それならばこの墓で眠る母は?
記憶すらない。それでも母を知る人を探して話を聞いた。
普通の子爵令嬢だったと。
綺麗な人ではあるけど華があるタイプではなく、薔薇よりもガーベラを好む人だったらしい。
春には綺麗な花を咲かせる。そしてもう一度秋にも。そんなふうに花を愛し、本を読むのが好きだったらしい。
『おとなしいセリーヌがまさか王太子殿下と恋に落ちるなんて』と言っていた。
二人の愛はどんなに周りが反対しようとも揺るぎないものだったらしい。
ならばそのまま母だけを愛すればよかったのだ。王妃を解放して。
そんな話を聞いたのは母の幼馴染の女性からだった。
今日はアルとラフェと三人で墓に手を合わせた。
母の話を語ってくれる者はあまりいない。皆が国王に対してそして王妃に対して忠実で、母の事は居なかった者のようにされている。
王妃を苦しめた悪女。母は国では悪者なのだ。それは王妃が知らしめたわけではない、全て前国王、俺にとっての祖父がした事だ。
そしてそんな母のことを語ってくれる人はいない。親戚も皆口を固く閉じているらしい。
だから母の幼馴染もこそっと隠れるように語ってくれた。
この国では側妃や愛妾はあまりよく思われない。子供が出来なければ側妃を娶る事はあるが陛下のように結婚してすぐから愛妾だけを大切にする事は非難される。流石にそれは当たり前だと思う。
王妃は嫌いだし可哀想だとは思わないが、陛下と母がした事は人としてどうかと思う。そんなに愛し合っているのなら全てを捨ててこの国を出れば良かったのでは?
中途半端な真実の愛なんていらない。本気なら出来たはずだ。
そう思うのに母の墓の前に来ると、何故か切なくなる。顔も声も知らない。寂しい場所に一人で眠る母。
ーーー俺だけは母の生涯を「頑張った」「生きてくれてありがとう」と言ってもいいだろうか。
手を合わせていると、長く手を合わせることが出来ないアルがこちらをチラチラと見る。
俺はアルを膝の上に座らせて墓の前に座った。
「ここは俺の母が眠っている所なんだ」
「ギュレンのおかあしゃん?」
「そうだ。俺を産んでくれた母。育ててくれた母の墓は今から行く領地にある」
「ギュレンはおかあしゃん、ふたりなの?」
「そうだ、いいだろう!アル、俺はギュレンではなく『お父さん』といつか呼ばれたい。駄目か?すぐにとは言わない、少しずつ慣れてくれたらそれでいい」
「……アルのおとうしゃんいないから、ギュレンのことをおとうしゃんってよぶ」
「そうか、ありがとう。アルもそろそろその『しゃん』の癖もなおさないとな。もうすぐ4歳だ」
俺はアルの話し方が可愛くて好きだ。
だけど、貴族の子供として生きていかなければいけない。だから少しだけ……優しい話し方で厳しいことを言った。
「…………おかあしゃんはだめ?おかあさん、おとうさん………がんばる」
「少しずつアルはお兄ちゃんになって成長していくな。えらいぞ」
「ほんと?アル、がんばる!」
アルは素直だ。人の言うことをちゃんと聞いて受け入れる。この子を大事に育てたい。
俺の子供じゃないけど、俺の大切な息子。
ーーーどうか見守ってください。俺はこの二人を大切に守り暮らしていきます。
「ギュレンのおかあしゃ…さん、こんどから……おとう…さんとくらす、アルバードです。またあそびにくるね」
「また来てくれるのか?」
「うん、またこようね、……おとう…さん」
「ふふっ、アル頑張って、えらいわ」
「おかあしゃん!あっ………」
「ゆっくりでいいの、アルが少しずつ呼ぶのに慣れたらいいと思うわ」
「無理言ってすまん。アル、ゆっくり待つからな」
アルの笑顔に俺とラフェは微笑んだ。
そして数日かけて辺境伯領の中にある子爵家の屋敷に着いた。
「ここが俺の屋敷だ。と言ってもあまりここで暮らす事はなかったんだ。普段はほとんどアレックス様の屋敷に俺専用の部屋があってそこで暮らしているんだ」
ラフェとアルに屋敷の中に入ってもらい、使用人達と顔合わせをした。
うちの屋敷で働くのは退役した騎士や怪我を負って働けなくなった者達が中心に働いている。前もって二人のことは話していたので受け入れる準備をしてくれていた。
「ラフェ様、アル様、初めまして。ようこそおいで下さいました」
みんながにこやかに挨拶してくれた。
ラフェもふわっと微笑んだ。
「よろしくお願い致します。皆さんと仲良く暮らしていきたいと思っております」
だけど声は少し緊張気味だった。
「大丈夫だ、ラフェ。みんな君がくることを喜んでくれていたんだ。この屋敷の女主人として慣れないかもしれないが過ごして欲しい。頑張らなくていい、みんなに頼ってゆっくり慣れていって欲しい」
「わかりました、グレン様」
「この子がアルだ」
アルは人見知りもなくみんなのところにトコトコと行く。
「ぼく、アルバードです。もうすぐ4さいです。おとう…さんとおかあ…さんのこどもです。…よろしく…おねがいします」
「アル様、噂は聞いておりました。なんて可愛らしい」
「おやつの用意をしております」
「おやつ?くっきー?ケーキ?アルはおかしならなんでも、すき」
「手を洗ってお着替えをしましょう。それからおやつの時間です」
使用人の言葉に嬉しそうに返事をした。
「うん!」
目をキラキラさせて使用人について行った。
俺とラフェも湯浴みを済ませ、アルのいる部屋へと向かった。
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