【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ

文字の大きさ
129 / 146

129話  最終話

 7年ぶりの王都。

 少しだけ変わった風景。

 列車が通り駅が出来てその周りにはたくさんの新しい店が出来ていた。

 道も舗装されて馬車が走りやすくなっていた。

 友人のお店も建て直して店が大きくなっていた。辺境伯領で縫った服はこのお店にも卸している。わたし達のお得意さんでもある。

 兄さんの職場も新しい場所に移転していた。

 会計事務所になり数人の従業員も雇い忙しそうに働いている。
 だけど家の場所は変わっていない。

「ラフェが遊びに来た時、帰る場所は変えたくなかったんだ」

 兄さんは照れながらそう言った。

 お義姉さんは「まだ嫁にも行ってないんだもん。ここから今度はちゃんと嫁に出さないといけないからね」と気まずそうに言う。

「2度目の嫁入りはもうないと思うけど」
 苦笑するしかなかった。

 アルバードは二人にすぐ懐いた。
 王都にはたまにグレン様に付いて来ていたので、何度か顔は出していたらしい。

 グレン様はわたしと別れてからもアルバードとの友人関係は続けてくれた。そしてわたしとも友人として接してくれている。

 次の日、アレックス様の屋敷に行く前にわたしはアルバードを連れて以前住んでいた家に向かう。

 そこには別の家族が住んでいた。

 全く知らない人達。近所の人と楽しそうに話している姿を見て懐かしさと寂しさを感じてしまった。

 まだ距離が少し離れていたわたし達を見つけた隣のおばちゃん。
「ラフェ?」と大きな声でわたしを呼んだ。

「あっ、はい!」思わずわたしも大きな声で返事した。

「隣にいるのはアルかい?」
「アル?うわぁ、大きくなったな」
「本当だ、久しぶりだな!」

 みんな覚えていてくれた。

 すぐにわたし達の周りには人溜まりができた。

 アルバードの手を握り涙ぐむ隣のおばちゃんとおじちゃん。

 ここにもアルは何度か来ているらしい。会うたびにこうして喜んでくれるとアルバードが教えてくれた。



 お世話になった人達が変わらずこの場所に居てくれた。
「あんた、あのグレン様と再婚しなかったって?」

 ズバズバとおばちゃんが言ってくる。

「あはは、なんかそんなことになってしまいました」

「おばちゃん、グレン様とは友達として仲良くしてるよ」

 アルバードが横から話に入ってきた。

「あら?別れたんじゃなくて?まぁグレン様は諦めないだろうね、あれだけあんたに惚れてたからね」

 ーーーそんなに?

「そうそう、馬鹿みたいに通ってきてたからね。まぁ最初は本人も自覚なかったみたいだけど」

「確かに。アルに会いにきてるだけってよく言ってたもんな。そのわりにラフェのこと目で追ってたけど」

「アルが変な薬を飲まされたときは、グレン様怖かった、徹底的にこの辺を調べ上げてたもんな」

「グレン様ほどラフェを思っている人はいないと思うぞ、多分今もそうなんじゃないのか?」

「………わかりません」

 ーーーそうわからない。
 7年の時が愛から友情へと変わっていったのかもしれない。もう今は互いにそんな話にはならない。

 たまにお茶を一緒に飲んだり、たわいもない話をするだけの関係。なのに周りはいまだに放っておいてくれない。

 苦笑いをしているとおばちゃんに背中をバンッと叩かれた。

「ラフェ、あんたの気持ちはあんたのものだ。だけどあんたは笑ってる方がいい。そんな顔しないでおくれ」

「…そんな顔?」

「アルの前でもそんな寂しそうな顔してたら、アルが気を遣うだろう?ねぇアル?お母さんが笑ってくれるのが一番だよね」

「うん!お母さんは……グレン様が来ると嬉しそうな顔をするのに帰る時は寂しそうな顔をしているんだ」

 ーーーうそ……わたしそんな顔してたの?

 アルがそんなこと思っていたなんて知らなかった。




「それは本当なのか?」

 後ろから声が………

「グレン様!」アルバードが嬉しそうに走って行く。

 わたしは恥ずかしさと驚きで思わず後ろに一歩後ずさった。

「えっ?わたし………あ、あの、えっと」

「グレン様、お母さんが話があるみたい。僕はおばちゃん達と家の中に入ってお土産のお菓子でも食べてるから!」

 そう言うとさっさとおばちゃんの家に入っていった。

 残されたわたしはグレン様と二人っきり……


「………………」

「…………ラフェ、よかったら一緒に散歩でもしないか」

「…はい」



 しばらくただ歩いていた。

 昔と変わらない景色を嬉しく思いながら歩いていた。
 王都の中心の街の中とは違い、ほとんど変わっていない風景にホッと心が落ち着く。

「俺は……このままラフェとアルの近くで生きていけたらそれでいいと思ってた。それ以上は求めたらダメだと……」

「わたしもグレン様の近くにいられて嬉しかったです……でももう終わった関係だと思っていました」

「諦めたわけじゃないんだ。だけど、ラフェの気持ちも考えないで無理やり結婚を迫るのはもうやめようと思ったんだ。あの屋敷にラフェが住むのが嫌なら無理して結婚しなくてもいいんじゃないかと思った」

「覚悟がなかったんです。マキナ様の愛した貴方をそしてあの家に住む覚悟が。マキナ様の思い出が残っている大切な屋敷にわたしが簡単に入り込んではいけないと思ったし、入り込めませんでした」

「すまない、そこまで考えていなかった」

「ずるいんです、貴方と別れたはずなのに、アルで繋がっていることにいつもホッとしていました」

「ラフェが狡いのなら俺も狡い男だ。アルに『グレン様とはずっと一緒だよ、それにお母さんを守るのは僕とグレン様の仕事だから』と言われてるんだ。その言葉を今もずっと勝手に言い訳にしてる」

「アルが?」

「俺の屋敷を出たあと、アルが『もうおとうさんってよんだらダメなの?でもずっといっしょ、だよね』と言ってくれたんだ。それからもアルはそう言ってくれる」

「わたし………やっぱり意地っ張りなのかな……」

「俺はずっとラフェを愛してる……だけど無理強いはしたくない……あの屋敷が嫌なら三人だけで暮らせる家を建ててもいい。あの頃のラフェはそう言っても聞き入れてはくれなかっただろうから何も言わなかった」

「うん、無理だった。だって自信がなかっもの」

「今は?」

「わかんない……だけど、グレン様に会えると嬉しい」

「俺はずっとお前に会いたい。ずっと今も愛している」









「ねぇお母さん、あの僕たちが住んでた家、今住んでる人アーバンおじさん夫婦だって知ってた?」

「えっ、嘘?」

「アーバンのお嫁さんと娘さんなんだって!僕のいとこになるんだよね?」

「知らなかった……アーバンとは連絡を取ることもなかったから……エリサがアーバンに貸したのね」
 エリサもわたしもアーバンも同級生なので友人達だもの。そんなこともあるのか。



「僕、王都の学校に通いたい。駄目かな?」

「どうしてそう思ったの?」

「グレン様に何度か王都に連れてきてもらったでしょう?知らない事がまだたくさんあるんだ、この王都でいっぱい勉強したい。そして辺境伯領に戻ってきてグレン様やアレックス様の元で働きたいんだ」


 いつの間にか自分でこれから先の未来を決めていたアルバード。

「兄さんに相談してみる。わたしは一緒に王都には住めないから」

 まだ向こうで生徒が待ってるもの。王都に住むことはできない。

「寮に入りたいと思ってるんだ。学費は成績が優秀だったら免除されると聞いたんだ。だから試験絶対頑張る!お母さんには心配かけないようにするからね」

 アルバードは父親のエドワードに似て成績優秀。
 有言実行するだろう。この子なら。



「お母さんはさっさとグレン様と結婚して幸せになりなよ」

「アル……」

「僕はもう11歳だよ。守られてばかりじゃなくお母さんを守れるようになりたい」

「やだ……アルが離れていくのは淋しいよ」

「……僕も。だから僕がいつでも帰って来れるようにグレン様と二人で待ってて欲しいんだ」





       終わり。






 読んでいただきありがとうございました。













感想 473

あなたにおすすめの小説

白い結婚のまま、旦那様は薔薇のような美人に夢中になりました

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢リディアは、美貌で有名な侯爵レオンハルトに嫁いだ。 けれど結婚して二年、夫婦は一度も結ばれないまま――白い結婚だった。 それでも旦那様は優しかった。 冷たいわけではない。気づかいの言葉も、穏やかな笑顔もくれる。 だからリディアは、愛されてはいなくても、いつか少しは夫婦になれるのではないかと信じていた。 そんなある日、彼女は知ってしまう。 旦那様が薔薇の君と呼ばれる絶世の美女に心を奪われていることを。 彼が触れなかったのは私にだけだったのだと。 都合のいい奥方として、役に立っていたと悟る 静かに離縁を決意したリディアは、実家へ戻ったあと、女子学院で働き始める。 すると侯爵夫人時代には当たり前だった実務のすべてが、外では驚くほど必要とされていた。 感謝され、認められ、自分の足で立ち始めた彼女は、少しずつ見違えるほど美しくなっていく

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

【完結】私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末

コツメカワウソ
恋愛
ローウェン王国西方騎士団で治癒師として働くソフィアには、魔導騎士の恋人アルフォンスがいる。 平民のソフィアと子爵家三男のアルフォンスは身分差があり、周囲には交際を気に入らない人間もいるが、それでも二人は幸せな生活をしていた。 そんな中、先見の家門魔法により今年が23年ぶりの厄災の年であると告げられる。 厄災に備えて準備を進めるが、そんな中アルフォンスは魔獣の呪いを受けてソフィアの事を忘れ、魔力を奪われてしまう。 アルフォンスの魔力を取り戻すために禁術である魔力回路の治癒を行うが、その代償としてソフィア自身も恋人であるアルフォンスの記憶を奪われてしまった。 お互いを忘れながらも対外的には恋人同士として過ごす事になるが…。 番外編始めました。 世界観は緩めです。 ご都合主義な所があります。 誤字脱字は随時修正していきます。

白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする

夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、 ……つもりだった。 夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。 「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」 そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。 「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」 女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。 ※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。 ヘンリック(王太子)が主役となります。 また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。

「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」 新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。 それもそのはず。 2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。 でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。 美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。 だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。 どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったレオノールに、やがてクラウディオの心は……。 すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?  焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。

夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです

藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。 理由は単純。 愛などなくても、仕事に支障はないからだという。 ──そうですか。 それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。 王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。 夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。 離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。 気づいたときにはもう遅い。 積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。 一方で私は、王妃のもとへ。 今さら引き止められても、遅いのです。

どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~

クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。 同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。 ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した… 誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。

【本編完結】初恋のその先で、私は母になる

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
第19回恋愛小説大賞にて、奨励賞を受賞いたしました。読者の皆様のおかげです!本当ありがとうございます。 王宮で12年働き、気づけば28歳。 恋も結婚も遠いものだと思っていたオリビアの人生は、憧れの年下公爵と一夜を共にしたことで大きく動き出す。 優しく守ろうとする彼。 けれどオリビアは、誰かに選ばれるだけの人生を終わらせたいと思っていた。 揺れる想いの中で、彼女が選んだのは―― 自分の足で立ち、自分の未来を選ぶこと。 これは、一人の女性が恋を通して自分を取り戻し、母として、そして一人の人間として強くなっていく物語。 ※表紙画像はAI生成イラストをつかっています。