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番外編  シャーリー ①

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 わたしがわたしとして生きる為、家族を捨てた。

 だって、子育てなんて一人でしたことなんてないもの。
 家の掃除なんて嫌よ!洗濯なんて出来るわけがないわ!料理なんてしたこともないのよ!

 なのにリオは全てを押し付けて自分はオズワルドを置いて仕事に行ってしまう。

 そんな時街で優しい男に出会った。

 爵位を失くし平民として生きるわたしの愚痴を聞いてくれた。
 悪いことなんてしていないのに、わたしが不幸になったことを話したら、たくさん同情してくれて
「よく頑張ったね」と言ってくれたの。

 あんなに優しかったリオは、変わってしまった。優しい言葉すらかけてくれない。
 慣れないことを頑張ってしていたのに。腹が立ってオズワルドに手を挙げたらわたしが悪いみたいに言うけど、わたしの言うことを聞かないオズワルドだってダメだと思うの。2歳だから仕方がない。そうかしら?

 もうそれなりに会話もできるんだから、わたしの代わりに掃除くらい出来てもいいんじゃないかしら?早くから躾けておけば役に立つ子に育つと思ったのに。

 リオの生真面目さにはうんざりよ!僅かなお金しか稼げないくせに、無駄遣いだと怒るし、節約しろなんて言うし、ほんと、嫌な男になってしまったわ。

 それに比べて街で出会ったウィリーは優しくてかっこいいの。久しぶりに男の人と二人っきりの夜を過ごせてとっても満足して、朝家に帰ると、リオがわたしを叱ったの。

「オズワルドを置いてどこへ行ってたんだ?オズワルドは一人で夜を過ごしたんだぞ。何かあったらどうするんだ!」

「あら?一応寝かしつけてから出掛けたわ。どうせずっと寝てるんだからいいじゃない。起きないように睡眠薬を飲ませてたから大丈夫よ。ほら、今も眠ってるでしょう?」

「ふざけないでくれ!オズワルドがおかしいと思ったら睡眠薬を飲ませていたのか?どのくらいの量を飲ませたのか教えてくれ」

「えっ?そこにあった薬を一袋よ?」

「あれは、君が眠れないと言って医師に処方してもらった大人用の薬だろう?全部飲ませたのか?」

「ええそうよ、しっかり眠って欲しかったから」

「病院へ連れて行ってくる」

「そう、わたしは眠いから寝るわ。あっ、お腹が空いたから何か食べたいわ。ねえわたしの朝食は?」

「……君はオズワルドの様子を見て心配しないんだね?」

「心配?寝てるだけでしょう?」
 リオったら大袈裟なのよ!

「どう見てもおかしいと思わないのか?」

「どこが?」

「ぐったりしているし呼吸の仕方がおかしい、もういい。君は適当にしててくれ」

 ーーほんと、最近のリオはイライラし過ぎよ!それこそ節約を考えたら病院なんて連れて行くのももったいないと思わないのかしら?

 とりあえず寝ましょう。ウィリーが朝まで離してくれないから眠たくって仕方ないわ。

 わたしは一人でスヤスヤと眠った。うるさいリオも手のかかるオズワルドもいないので、久しぶりにたっぷりと眠れた。


「ふあああー、お腹が空いたわ。まだリオ達帰っていないのかしら?」

 時計を見たらもうすぐ夕方。台所には昨日作ったスープが残っていた。
 あとは一日経って固くなったパン。

「これで我慢するしかないわね」
 昨日ウィリーと宿屋に泊まるのに持っていたお金は全部使ったから買い物にすら行けない。

「早くリオ達帰ってきてくれないかしら?」



 その後もなかなか家に帰ってこないリオ。

 もういいわ。そう思ってしばらくウィリーのところへ遊びに行った。

 美味しい食事と甘い時間。楽しくて帰るのも忘れてたけど三日経ったのでとりあえず帰ることにした。

「ただいまぁ」

 明るい声でとりあえず家の中に入ったけどまだ誰もいない?

 えっ?いくらなんでも、もうオズワルドも帰ってるはずよね?確かに遊び過ぎたけど……

「オズワルド?リオ?」

 家の中から返事はない。

 オズワルドの可愛い声が聞こえない。

 夕方まで静かに過ごした。食べ物はウィリーに買ってもらったので困らない。

 一人で食べる食事は味気ない。

 考えてみたらうるさいし面倒だと思っていたオズワルドとずっと一緒だったから、この家に居ても寂しいとか退屈だとか思ったことがなかった。



 暗くなり家に明かりが灯る頃、リオが帰ってきた。

「リオ、お帰りなさい。オズワルドは?」
 彼のそばにいるはずのオズワルドがいない。

 ーーーどうして?


「オズワルドは?どこにもいないの」
 リオの腕を掴んで泣き続けた。

「オズワルドは孤児院に預けた。シャーリー、子育てはおままごとではないんだ。叩けば痛いし、無視すれば心に傷を残す、オズワルドの体は……アザだらけだった。それはどうしてなのか?君はもちろん知っているよね?」

「…………わたしではないわ、わたしはそんなことしない。リオ?ねえ、リオ。信じて!」

「君は母親失格だ。オズワルドにいったい何をしたんだ」

「あっ……あ、た、ただ、言うことを聞かないから叱っただけだわ」
 青い顔をして必死で顔を横に振った。
「わたしは悪くない、頑張ったもの、リオはずっと優しい人だったのに……なんでこんなことになるの?わたしの何がいけないの?」

「………俺はどんな境遇でも家族三人で肩寄せ合って生きていきたかった」

「がんばったわ!頑張ったの!わたしのオズワルドを返して!」

「オズワルドは君のおもちゃでもペットでもない」

「ひ、どい……」

 それから何度もリオにオズワルドの場所を聞いた。だけど彼は教えてくれなかった。




 

 最近また家を空けることが増えた。

 だってオズワルドがいないんだもの。

 酒に溺れ外に出て回っている。
 お金はリオが管理しているので飲んで回るお金はない。だから男達に奢ってもらった。


「どこで酒を飲んでいるんだ?」

「どこでもいいじゃない!オズワルドをわたしから取り上げて!わたしは淋しいの。お酒でも飲まないと生きていけないの!」

 ポロポロ涙を流すのにリオは優しくしてくれない。

「オズワルドが帰って来たら君はちゃんとするのか?」

「当たり前よ!わたしの可愛いオズワルド!返して!」

「俺が仕事に行っている間、きちんと食事をさせて世話をして風呂にも入れてやれるのか?殴ったり泣いているからと放置しない?」

「す、するわけ、ないわ」

 ーーむりよ!そんなこと出来るわけないわ。
 思わず目を逸らす。

「オズワルドは君のおもちゃではない。それにそんなに毎日外に出て酒ばかり飲んでいるのにオズワルドの世話なんて出来るわけがないだろう?」

「淋しいの。辛いのよ。何もかもなくなったの。お金も家も地位も、そして友人すら……母も弟もわたしを捨てていなくなったわ。お父様は……もうすぐ処刑されるわ。わたしはどうしたらいいの?」

「俺とオズワルドと三人で慎ましく暮らそうとは思わなかった?」

「無理よ。慎ましくなんて出来ないわ。料理も掃除もしたことがないししたいとも思えない。オズワルドは可愛いけどずっと世話をするなんて出来ないわ。
 わたしはずっとお姫様のように生きていたいの」

 わたし達は毎日のようにこんな言い合いをする日々が続いた。

 そして……わたしは帰らなくなった。

 
 リオを捨てて、金のある男とこの街から出て行くことにした。
 もうウィリーとは別れていた。

 「こんな生活なんて嫌なの!リオと離婚するわ!」と言って離婚届を置いて家出したこともあった。

 だけど、ウィリーはあまりお金もなくて数日でリオの元に帰るしかなかった。

「やっぱりリオしかいないわ」そう言って謝った。

 その時はリオも許してくれたけど、ウィリーとはそれでも続いていた。だってリオと同じでいい男だったんだもの。
 ただお金があまりなくてダメだった。
 だからオズワルドが居なくなってから別れてしまった。

 そのあとはいろんな男と遊んだ。お酒を奢ってくれる男なら誰でもよかった。

 そんなある日、「シャーリーを愛している」と何度も囁いてくれる男と知り合った。

 わたしが一番欲しい言葉を言ってくれるこの男について行こう。

 リオとの冷め切った関係にいい加減うんざりしていた。
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