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番外編 シャーリー ②
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リオに対しては愛情すらなくなった。
オズワルドのことはたまに思い出す。
そうすると胸がツキンと痛くなる。
わたしだって自分が産んだ子供だもの。愛情はあるわ。会えなくなって酒に溺れて男に溺れて、毎日遊んで……家に帰るのも面倒になって行った。
そして男と駆け落ちした。
相手の男はこの国に仕事できていた。
「もうすぐ国に帰るんだ。シャーリー、一緒に暮らさないか」
「わたしでいいの?」
「大切にするよ」
彼のその言葉を信じた。
もう一度幸せになれる。
彼は金持ちで自国では子爵の地位を持っていると言っていた。
彼は夜も甘く耳元で囁いてくれる。彼ならわたしの横にいて相応しい人だわ。
お金もあるし色男で何より素敵な筋肉。
「愛してるわ、ライル」
彼との旅は楽しかった。
見たことのない景色。毎日の移動も苦にならなかった。
そして着いた国は、わたしの住んでいた国とは違う一夫多妻制の国だった。
わたしは第五夫人として迎え入れられた。
子爵家で第五夫人。
五人の妻に贅沢をさせられるほどそんなにお金があるわけがない。贅沢なんてさせて貰えなかった。
気がつけば簡素なドレスしか与えてもらえない。第一夫人をはじめ上下関係が厳しい夫人達の間でもちろんわたしは1番下。
みんなからメイドのようにこき使われた。
そして、子爵家の夫人としての書類などの仕事は全て押し付けられた。
「貴女はここに来てそんなに経っていないのだからまずは慣れるためにも仕事をしてもらうわ」
寝る間も惜しんで仕事をしないといけない。
なのに夜になっても彼はわたしに会いに来ない。
「ねえ、なんでライルは会いに来てくれないの?」
「すまない、順番があるんだ。第一夫人が優先でシャーリーは最後になるんだ。もう少し耐えてくれ、愛しているのは君だけだから」
「わかったわ。でもせめてもう少し綺麗なドレスが欲しいわ。アクセサリーだって第二夫人のお下がりなのよ?新しいものを買って欲しいわ」
「わかった執事に伝えておくから、待ってて」
そう言ってわたしのおでこに優しくキスを落として部屋を出ていくライル。
だけど待っても待っても執事が何も言ってこない。
頭に来て執事をとっ捕まえた。
「ねえ、わたしの宝石は?ドレスは?ライルが買っていいと言ってたでしょう?いつ業者の人は来てくれるの?早く選びたいのだけど」
「そんな話は聞いておりませんが?」ギロリとわたしをひと睨みする執事。
「あんたねえ、わたしは第五夫人よ?何様のつもりなの?」
「はははっ、第五夫人なんてこの国にはありませんよ」
ーーー何この生意気な話し方。
「どう言うこと?」
「この国は確かに一夫多妻制ですが妻は四人までです。貴女は旦那様の愛する奥様達の雑用係として連れてこられたのですよ」
「は?雑用係って何?」
「奥様達が閨を共にできない時の捌け口、そして奥様達がやりたくない女主人としての仕事を貴女にさせるためですよ」
ーーなんなの!そんなのおかしいわ。
ぎりっ。
思いっきり唇を噛んだ。
唇からは血が床に落ちる。
痛みなんて感じないわ。
ただあるのは悔しさと情けなさ。
「ふざけんじゃないわよ!わたしはライルに愛されてこの国に来たのよ!彼が愛しているのはわたしよ!」
ーーーそうよ!こんな執事の言葉なんて認めないわ!
「だったら何故会いにこられないのです?」
不敵に笑う執事の顔がイライラする。
「そ、それは……忙しいからでしょう?それに第一夫人から順番に優先させないといけないから……」
「旦那様は一晩で四人の奥様全てと閨を共に出来る体力をお待ちです」
「うっそ」
ーーーあっ、でも確かに彼はとても凄い人だったわ。
「じゃあ、わたしは……」
「だから貴女は雑用係でしかないのです」
「出て行くわ!こんなところ居られないわ!馬鹿にするんじゃないわよ!」
「どうぞ頑張って出て行ってください。どうして貴女が一度もここから外に出たことがないのかよくお考えになられたら分かりますよ」
「意味がわからないわ、さよなら」
部屋に戻り持って来た荷物をトランクに詰めようとしたけど、まずトランクがなかった。
宝石なんてどこにもない。お金もよく考えたら持っていないわ。
「お金ちょうだい」
執事のところへ行って手を出した。
「わたしがここで働いた分のお金ちょうだい」
恥かしいなんて思わない。
生きて行くためにはお金がいるんだもの。
「貴女にお金?ここに置いてもらって食事をして服を着せてもらったんですよ?貴女の母国でも好きなだけ旦那様に贅沢させてもらったんでしょう?まだまだ働いてもらわないと収支が合いませんよ」
「な、なに、言ってるの。あれはライルがわたしを愛してるからしてくれたことじゃない」
「愛してもいない女に無償で色々してあげる訳がないでしょう。打算しかないですよ」
「ふざけないでよ!あんなに散々わたしを抱いたくせに!愛してないなんて言わせないわ」
この執事ふざけてるわ!
頭がおかしいんじゃないの?
「ライルに会わせてちょうだい!話をさせてちょうだい!」
「会いたければお探しください。出て行きたければどうぞ、出て行ってください。外に出られるのなら」
ーーー出て行ってやろうじゃないの!
オズワルドのことはたまに思い出す。
そうすると胸がツキンと痛くなる。
わたしだって自分が産んだ子供だもの。愛情はあるわ。会えなくなって酒に溺れて男に溺れて、毎日遊んで……家に帰るのも面倒になって行った。
そして男と駆け落ちした。
相手の男はこの国に仕事できていた。
「もうすぐ国に帰るんだ。シャーリー、一緒に暮らさないか」
「わたしでいいの?」
「大切にするよ」
彼のその言葉を信じた。
もう一度幸せになれる。
彼は金持ちで自国では子爵の地位を持っていると言っていた。
彼は夜も甘く耳元で囁いてくれる。彼ならわたしの横にいて相応しい人だわ。
お金もあるし色男で何より素敵な筋肉。
「愛してるわ、ライル」
彼との旅は楽しかった。
見たことのない景色。毎日の移動も苦にならなかった。
そして着いた国は、わたしの住んでいた国とは違う一夫多妻制の国だった。
わたしは第五夫人として迎え入れられた。
子爵家で第五夫人。
五人の妻に贅沢をさせられるほどそんなにお金があるわけがない。贅沢なんてさせて貰えなかった。
気がつけば簡素なドレスしか与えてもらえない。第一夫人をはじめ上下関係が厳しい夫人達の間でもちろんわたしは1番下。
みんなからメイドのようにこき使われた。
そして、子爵家の夫人としての書類などの仕事は全て押し付けられた。
「貴女はここに来てそんなに経っていないのだからまずは慣れるためにも仕事をしてもらうわ」
寝る間も惜しんで仕事をしないといけない。
なのに夜になっても彼はわたしに会いに来ない。
「ねえ、なんでライルは会いに来てくれないの?」
「すまない、順番があるんだ。第一夫人が優先でシャーリーは最後になるんだ。もう少し耐えてくれ、愛しているのは君だけだから」
「わかったわ。でもせめてもう少し綺麗なドレスが欲しいわ。アクセサリーだって第二夫人のお下がりなのよ?新しいものを買って欲しいわ」
「わかった執事に伝えておくから、待ってて」
そう言ってわたしのおでこに優しくキスを落として部屋を出ていくライル。
だけど待っても待っても執事が何も言ってこない。
頭に来て執事をとっ捕まえた。
「ねえ、わたしの宝石は?ドレスは?ライルが買っていいと言ってたでしょう?いつ業者の人は来てくれるの?早く選びたいのだけど」
「そんな話は聞いておりませんが?」ギロリとわたしをひと睨みする執事。
「あんたねえ、わたしは第五夫人よ?何様のつもりなの?」
「はははっ、第五夫人なんてこの国にはありませんよ」
ーーー何この生意気な話し方。
「どう言うこと?」
「この国は確かに一夫多妻制ですが妻は四人までです。貴女は旦那様の愛する奥様達の雑用係として連れてこられたのですよ」
「は?雑用係って何?」
「奥様達が閨を共にできない時の捌け口、そして奥様達がやりたくない女主人としての仕事を貴女にさせるためですよ」
ーーなんなの!そんなのおかしいわ。
ぎりっ。
思いっきり唇を噛んだ。
唇からは血が床に落ちる。
痛みなんて感じないわ。
ただあるのは悔しさと情けなさ。
「ふざけんじゃないわよ!わたしはライルに愛されてこの国に来たのよ!彼が愛しているのはわたしよ!」
ーーーそうよ!こんな執事の言葉なんて認めないわ!
「だったら何故会いにこられないのです?」
不敵に笑う執事の顔がイライラする。
「そ、それは……忙しいからでしょう?それに第一夫人から順番に優先させないといけないから……」
「旦那様は一晩で四人の奥様全てと閨を共に出来る体力をお待ちです」
「うっそ」
ーーーあっ、でも確かに彼はとても凄い人だったわ。
「じゃあ、わたしは……」
「だから貴女は雑用係でしかないのです」
「出て行くわ!こんなところ居られないわ!馬鹿にするんじゃないわよ!」
「どうぞ頑張って出て行ってください。どうして貴女が一度もここから外に出たことがないのかよくお考えになられたら分かりますよ」
「意味がわからないわ、さよなら」
部屋に戻り持って来た荷物をトランクに詰めようとしたけど、まずトランクがなかった。
宝石なんてどこにもない。お金もよく考えたら持っていないわ。
「お金ちょうだい」
執事のところへ行って手を出した。
「わたしがここで働いた分のお金ちょうだい」
恥かしいなんて思わない。
生きて行くためにはお金がいるんだもの。
「貴女にお金?ここに置いてもらって食事をして服を着せてもらったんですよ?貴女の母国でも好きなだけ旦那様に贅沢させてもらったんでしょう?まだまだ働いてもらわないと収支が合いませんよ」
「な、なに、言ってるの。あれはライルがわたしを愛してるからしてくれたことじゃない」
「愛してもいない女に無償で色々してあげる訳がないでしょう。打算しかないですよ」
「ふざけないでよ!あんなに散々わたしを抱いたくせに!愛してないなんて言わせないわ」
この執事ふざけてるわ!
頭がおかしいんじゃないの?
「ライルに会わせてちょうだい!話をさせてちょうだい!」
「会いたければお探しください。出て行きたければどうぞ、出て行ってください。外に出られるのなら」
ーーー出て行ってやろうじゃないの!
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