【完結】裏切られた私はあなたを捨てます。

たろ

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98話

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 心穏やかな日々が続く。

 街の人たちは優しく温かい。一人歩きも乗合馬車に乗ることにも慣れ、顔見知りに会えば挨拶をする。

「レインさん、帰りにちょっとうちに寄ってちょうだい。オレンジをたくさんもらったから持って帰ってね」
 メルーさんのお友達が家の前で花に水やりをしていた。

「はい!ありがとうございます!後で寄らせてもらいます」

「行ってらっしゃい!!」

 お互い手を振り頭をぺこりと下げて街へと歩いていく。

 犬の散歩をするおじさんや子供と公園で遊んでいる親子、立ち止まりペコッと頭を下げてまた歩き出す。

 こんな幸せな時間を過ごせるようになるなんて思っていなかった。
 文官や学生の時の制服、ドレスを着ることはなくなった。今はコルセットを脱ぎ捨て動きやすいワンピースやブラウスとスカートを着る日々。


 今日は街へ養父母から送られてきた私の私物の中からもう必要のないものを古物商に売りに行く。

 最近感じていた妙な視線は感じない。少しホッとしながら歩き慣れた道をのんびりと歩いた。



「うん、これはかなり良い物だ。少し上乗せしておくよ」

 古物商のおじさんは「良いものを手に入れられた」と嬉しそうな顔をして、金貨一枚を追加してくれた。

 カイさんに連れてこられた時、私は僅かなお金しか持っていなかった。慌てて逃げるように屋敷を出てしまったのもあるけど、働いて貯めたお金は銀行に入れていたので手持ちはあまりなかった。

 侯爵家にいる間、お金を使うこともなかったし、元々物欲がないのでお金を必要としていなかった。
 だけどカイさんの家で無一文で住まわせてもらい食事をして、服やいろんな物を買ってもらいお世話になるのは流石に厚かましくて、少し肩身が狭い思いをしていた。

 お母様がカイさんのところに私物を送ってくれたおかげでなんとかこの先の生活も目処が立ちそうな気がする。

 カイさんの家の近くに空き家があるのでそこを借りて暮らそうかと思い始めていた。

 オリソン国でも文官の試験を受けてみようかと考えている。受かっても孤児院の慰問は今まで通りとはいかなくても時間を作って通うつもり。

 料理も才能はないけど、まぁそれなりに食べられる物を作れるようにはなったし洗濯も……少しはできるようになった。

 お金は銀行に寄って預けるつもりで古物商のお店を出て歩き出した。

「きゃっ」

 私の後ろを体当たりしてきた。

 バランスを崩して思わず前に転んでしまった。
 膝を強く打ち付けながらもなんとか手で頭だけは庇った。だけどあまりの痛みに動けずにいると、私の持っていた鞄を引っ張った。

「あ……や、やめてっ!」

 力なく鞄を奪われて走り去ろうとする男を目で追うしかなかった。

 馬鹿だ……かなりの大金を盗まれた。やっぱりカイさんがいる時に来ればよかった。

 周囲の人は一瞬の出来事に呆然としていた。私も少しの間、地面に突っ伏していたけど男の姿が見えなくなってなんとか起きあがろうとした時。

「レイン!!」

 聞き覚えのある声が遠くから聞こえてきた。

 ……どうしてここに?

「レイン!レイン?大丈夫?」

 人混みの中から現れた。

 私の体を抱き起こし心配そうにに見つめる………キース兄様。



「…………どうして?」
 ーー兄様がここに居るの?

「………騒ぎが聞こえて……何かあったのかと思い見に来たんだ」

 キース兄様は騎士を目指している。騒ぎが聞こえたのでつい気になって来たらしい。 

 でもどうしてキース兄様がオリソン国にいるの?

 そう思っていたら、キース兄様が私を抱き起こしてそのまま横抱きで「病院はどこ?」と訊いて来た。

「す、少し先の左を曲がったところにあるわ」

「わかった」

「キース兄様……あ、あの……恥ずかしいんですが……」

「その膝……血が出てる……手のひらや肘からも……きちんと治療した方がいい。犯人は俺の護衛が捕まえに行ったから心配するな」

 キース兄様に言われて手を見てみると確かに血が……確かにズキズキと痛い。ううん、かなり痛い。

「………に、兄様……い、痛い……」
 涙目で訴える。

「ほんとお前は昔っから鈍臭いんだから。ほら、みろ!みんなに注目されてるだろう?……恥ずかしい」

 ブツブツ文句を言いながらもしっかり抱っこしておろそうとはしない。

 まぁ痛くて歩けないので助かるんだけど……恥ずかしいのは私も同じだ。

 病院へ行き止血され消毒してもらい傷薬を塗られ包帯だらけで家に帰ることになった。

 キース兄様がどこからか馬車を用意してくれていた。

「カイ殿の家に帰るんだろう?」

 そう言ってまた横抱きしようとしたので「大丈夫!」となんとか歩こうとした。

 でもやっぱり痛くて片足を引き摺る。

 足首も少し痛めてしまっていた。

「ほんと強がりのいじっぱり。馬車までだから我慢しろ」

 口は悪いのに抱き抱える時はとても優しい。

 お互いアレックス兄様のことは口には出さなかった。

「レイン、元気そうだな」

「えっ?怪我してるわ」

「ああ、そうか……まぁ……だけど……思ったより元気そうでよかった」

「うん、心配かけてごめんなさい」

「うん、だけど……仕方なかったからな」

「うん……」

 












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