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第18話 聖女の独占欲と、神の御意志
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「……決めました」
聖地への巡礼を終え、街に戻ってきた俺たち『銀の牙』とソフィア、そして聖女ルナ。
打ち上げを兼ねてギルドの酒場に集まっていたのだが、突然ルナが静かに、しかし力強く宣言した。
「荷物番さん。貴方は、私と一緒に教会本部へ来てください」
酒場の喧騒が一瞬遠のいた気がした。
俺が飲んでいたエールのジョッキが止まる。
「……はい?」
「貴方は神に選ばれた『聖なる触媒』なのです。貴方がそばにいる時だけ、私の体は羽のように軽く、祈りは天に届き、指先まで清らかでいられます」
ルナは俺の手を両手で包み込み、潤んだ瞳で見つめてくる。
「これは偶然ではありません。貴方は私のために遣わされた守護天使。ならば、貴方がいるべき場所は、薄暗い冒険者の宿ではなく、光あふれる大聖堂です」
彼女の理屈は飛躍しているが、実感としては正しいのだろう。
法衣を軽くし、指輪をコーティングし、靴に滑り止めを施し、カロリーを与えているのは俺だ。俺がいなくなれば、彼女はまた重さと痛みと空腹に苦しむことになる。
彼女にとって、俺の存在はもはや生命維持装置に近い。
「ちょっと待った」
ドン、とジョッキを叩きつける音がした。
エルザだ。
「おい聖女。さらっと言ってるが、こいつはウチのパーティの荷物番だぞ。引き抜きならギルドを通せ」
「ギルドなどという俗世のルールは関係ありません。これは神の御意志なのです」
ルナは一歩も引かない。
そこに、優雅に紅茶を啜っていたソフィアも参戦する。
「あら、神様も随分と強引ね。でも残念だけど、彼は私の研究にも必要な人材なの。私の杖と眼鏡のコンディションを維持できるのは彼だけよ」
「魔術師ごときが、神の使徒を独占するつもりですか? 傲慢ですね」
「脳筋剣士と電波聖女に囲まれている彼が不憫でならないわ。私が保護してあげるのが一番よ」
三人の美女が、俺を挟んで火花を散らし始めた。
酒場の他の客たちが、遠巻きに見て見ぬふりをしている。
俺は胃が痛くなってきた。
「貴方は一生、私の荷物を持てと言ったはずだぞ!」
「いいえ、私の実験室でお茶を淹れるのが彼の使命よ!」
「神に仕える身として、彼を清らかな世界へ導くのが私の務めです!」
エルザが剣の柄に手をかけ、ソフィアが杖を構え、ルナが聖水瓶(俺が改造した劇薬入り)を取り出す。
このままではギルドが消滅する。
「ストップ! 全員ストップ!」
俺は慌てて三人の間に割って入った。
「落ち着いてくれ。俺の意思は無視か?」
「「「じゃあ、誰を選ぶの!?」」」
三人の声が重なった。
究極の選択だ。
誰を選んでも、残りの二人から恨まれ、物理的に排除される未来しか見えない。
それに、俺は特定の誰かの「専属」になって目立ちたくない。
俺が望むのは、あくまで目立たず、平穏に、安定した給料をもらう生活だ。
俺は深呼吸をして、あらかじめ用意していた妥協案を提示した。
「……俺は誰のものにもならない」
三人が息を呑む。
「俺は『銀の牙』の荷物番を続ける。これは契約だ。だが、ソフィア様の依頼があれば同行するし、ルナ様の護衛が必要なら駆けつける」
「……つまり?」
「全員の面倒を見るって言ってるんだよ。ローテーションでも何でも組めばいい」
俺は開き直った。
どうせ逃げられないなら、管理下に置きつつ、適度な距離を保つしかない。
「全員……ですって? なんと欲張りな」
ソフィアが呆れたように言うが、満更でもなさそうだ。
完全に奪われるよりはマシだと思っているのだろう。
「ふん、まあいい。本拠地がウチ(銀の牙)にあるなら文句はない」
エルザも剣から手を離した。
一番不満そうなのはルナだ。
「神の愛は唯一無二であるべきです……。ですが」
彼女は俺の顔をじっと見つめ、ふわりと微笑んだ。
「これもまた、神が私に与えた試練なのでしょう。多くの迷える子羊(ライバル)たちの中で、いかにして貴方の心を射止めるか……。その過程もまた、信仰の道」
「……ポジティブで助かります」
ルナは納得したようだ。
ただし、その目は「いつか必ず教会に連れ帰る」という決意に燃えている。
「わかりました。では、貴方が私の元に来る時まで、私は祈り続けましょう。……あ、でも」
ルナは小声で付け加えた。
「指輪の『おまじない』だけは、定期的にかけ直してくださいね? あれがないと、祈りに集中できませんから」
「……善処します」
結局、俺の仕事は三倍になっただけだった。
剣の手入れ、魔道具のメンテ、そして聖女の法衣や靴の改造。
だが、これで命の危険(ヒロイン同士の抗争による巻き添え)は回避された。
「よし、話はまとまったな! 飲むぞ! 今日は荷物番の奢りだ!」
「なんでだよ!」
エルザが笑い、ソフィアが呆れ、ルナが微笑む。
最強の三人に囲まれた俺の、平穏とは程遠い日常は、これからも続いていくらしい。
俺はため息をつきつつ、彼女たちの装備の劣化具合をこっそりチェックした。
……やれやれ、ルナの靴底、もうすり減ってるな。
明日はゴムの張り替えからスタートか。
聖地への巡礼を終え、街に戻ってきた俺たち『銀の牙』とソフィア、そして聖女ルナ。
打ち上げを兼ねてギルドの酒場に集まっていたのだが、突然ルナが静かに、しかし力強く宣言した。
「荷物番さん。貴方は、私と一緒に教会本部へ来てください」
酒場の喧騒が一瞬遠のいた気がした。
俺が飲んでいたエールのジョッキが止まる。
「……はい?」
「貴方は神に選ばれた『聖なる触媒』なのです。貴方がそばにいる時だけ、私の体は羽のように軽く、祈りは天に届き、指先まで清らかでいられます」
ルナは俺の手を両手で包み込み、潤んだ瞳で見つめてくる。
「これは偶然ではありません。貴方は私のために遣わされた守護天使。ならば、貴方がいるべき場所は、薄暗い冒険者の宿ではなく、光あふれる大聖堂です」
彼女の理屈は飛躍しているが、実感としては正しいのだろう。
法衣を軽くし、指輪をコーティングし、靴に滑り止めを施し、カロリーを与えているのは俺だ。俺がいなくなれば、彼女はまた重さと痛みと空腹に苦しむことになる。
彼女にとって、俺の存在はもはや生命維持装置に近い。
「ちょっと待った」
ドン、とジョッキを叩きつける音がした。
エルザだ。
「おい聖女。さらっと言ってるが、こいつはウチのパーティの荷物番だぞ。引き抜きならギルドを通せ」
「ギルドなどという俗世のルールは関係ありません。これは神の御意志なのです」
ルナは一歩も引かない。
そこに、優雅に紅茶を啜っていたソフィアも参戦する。
「あら、神様も随分と強引ね。でも残念だけど、彼は私の研究にも必要な人材なの。私の杖と眼鏡のコンディションを維持できるのは彼だけよ」
「魔術師ごときが、神の使徒を独占するつもりですか? 傲慢ですね」
「脳筋剣士と電波聖女に囲まれている彼が不憫でならないわ。私が保護してあげるのが一番よ」
三人の美女が、俺を挟んで火花を散らし始めた。
酒場の他の客たちが、遠巻きに見て見ぬふりをしている。
俺は胃が痛くなってきた。
「貴方は一生、私の荷物を持てと言ったはずだぞ!」
「いいえ、私の実験室でお茶を淹れるのが彼の使命よ!」
「神に仕える身として、彼を清らかな世界へ導くのが私の務めです!」
エルザが剣の柄に手をかけ、ソフィアが杖を構え、ルナが聖水瓶(俺が改造した劇薬入り)を取り出す。
このままではギルドが消滅する。
「ストップ! 全員ストップ!」
俺は慌てて三人の間に割って入った。
「落ち着いてくれ。俺の意思は無視か?」
「「「じゃあ、誰を選ぶの!?」」」
三人の声が重なった。
究極の選択だ。
誰を選んでも、残りの二人から恨まれ、物理的に排除される未来しか見えない。
それに、俺は特定の誰かの「専属」になって目立ちたくない。
俺が望むのは、あくまで目立たず、平穏に、安定した給料をもらう生活だ。
俺は深呼吸をして、あらかじめ用意していた妥協案を提示した。
「……俺は誰のものにもならない」
三人が息を呑む。
「俺は『銀の牙』の荷物番を続ける。これは契約だ。だが、ソフィア様の依頼があれば同行するし、ルナ様の護衛が必要なら駆けつける」
「……つまり?」
「全員の面倒を見るって言ってるんだよ。ローテーションでも何でも組めばいい」
俺は開き直った。
どうせ逃げられないなら、管理下に置きつつ、適度な距離を保つしかない。
「全員……ですって? なんと欲張りな」
ソフィアが呆れたように言うが、満更でもなさそうだ。
完全に奪われるよりはマシだと思っているのだろう。
「ふん、まあいい。本拠地がウチ(銀の牙)にあるなら文句はない」
エルザも剣から手を離した。
一番不満そうなのはルナだ。
「神の愛は唯一無二であるべきです……。ですが」
彼女は俺の顔をじっと見つめ、ふわりと微笑んだ。
「これもまた、神が私に与えた試練なのでしょう。多くの迷える子羊(ライバル)たちの中で、いかにして貴方の心を射止めるか……。その過程もまた、信仰の道」
「……ポジティブで助かります」
ルナは納得したようだ。
ただし、その目は「いつか必ず教会に連れ帰る」という決意に燃えている。
「わかりました。では、貴方が私の元に来る時まで、私は祈り続けましょう。……あ、でも」
ルナは小声で付け加えた。
「指輪の『おまじない』だけは、定期的にかけ直してくださいね? あれがないと、祈りに集中できませんから」
「……善処します」
結局、俺の仕事は三倍になっただけだった。
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だが、これで命の危険(ヒロイン同士の抗争による巻き添え)は回避された。
「よし、話はまとまったな! 飲むぞ! 今日は荷物番の奢りだ!」
「なんでだよ!」
エルザが笑い、ソフィアが呆れ、ルナが微笑む。
最強の三人に囲まれた俺の、平穏とは程遠い日常は、これからも続いていくらしい。
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