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29.願望
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「ロゼマリア様、今日もギルドにはいかないんですか?」
「え、ええ……」
世界樹の実のクエストから帰ってきてからというもの、ロゼマリア様はどこか上の空だった。最近日課になっていたギルドにもいかず、外出すら全くせず家の中にこもり魔術書を読んでいる。 始まりは、どうやら街で柴田様という男に会ったことらしい。見た目を気にしてか、元々昼間に街に行かなかったのに、その日から街を探し回り、彼が冒険者であることをつきとめたようだ。それ以来、クエストにも行かず、ギルドで座って1日を過ごしていたみたいだ。ギルドから帰ってくるたびに、目を輝かせながら、その男がその日何をしていたかということを、私に報告してきた。
……叶わない願望を持っても後で虚しくなるだけだとは思ったが、いつになく生き生きとしている彼女の姿を見ると、そんなことは言えなかった。
私がクエストで見た彼は、とても手の届くような存在ではないように見えた。それと同時に、ロゼマリア様がああなった理由に納得した。
「もしかして、柴田様に顔を見られたからですか?」
ロゼマリア様はわかりやすくビクッとした。
「柴田様は、ロゼマリア様を次もクエストに連れていくって言っていましたよね。それなら、また行けばいいのでは?」
「あ、あれは車の中だったし、断れなかったんじゃないかな……。あの時はああ言ったけど、もし断られたらって思うと……」
「……」
私はロゼマリア様に不満を持つことは今までなかったが、彼と会ってからは、その優柔不断さに、ずっとイライラしていた。
(普通なら、彼のような人と関わる機会なんて一生ないのに。ロゼマリア様はSランクの実力があるから関われるだけで、私みたいな人にはそんな機会はないのに)
「ロゼマリア様、彼は宿を借りて生活しているFランクの冒険者です。いっそのこと、この屋敷に住んでもらってはどうですか?」
ロゼマリア様はしばらくポカンとしていたが、顔を赤くしたと思うと、急に怒鳴りだした。
「そ、そんなこと彼が望むわけないでしょう!私が男だったら、いくら金を貰っても、私みたいな人と一緒に住みたくないわ!」
口ではそう言っているが、ロゼマリア様はキョロキョロと目を動かして、彼がいる生活を想像して迷っているのが、丸わかりだった。
「今度私が街に行ったときに、冗談のふりをして彼に聞いてみましょうか?」
「え……」
私がそういうと、彼女は何かを考えているようだった。
「今回のクエストはギルドの規定でほとんどがSランクのマリア様の報酬になりましたし、その代わりにここに住ませて贅沢な生活をさせれば、ロゼマリア様に依存するようにもなるかもしれませんよ」
「柴田様が……私に依存……」
ロゼマリア様はゴクリと唾を飲み込むと、その提案の魅力に取りつかれているようだった。
「クフ……聞くくらいなら、いいかもね」
ロゼマリア様は気持ち悪い笑い方をした。
「では、今日街に行って聞いてきます」
「ええ、よろしく、ケイト。……クフ」
私は名前を呼ばれてドキッとした。こんな風になってもまだ、私はロゼマリア様を特別に思っているのか。
ロゼマリア様は、私が誰よりも尊敬する人だった。私はメイドの教育を受けたが、見た目が悪いからか、しばらく誰にも雇ってもらえなかった。そんなときに、私の境遇を心配して、この屋敷において、優しくしてくれたのだ。
でも、彼女は柴田様と会ってから変わってしまった。気持ち悪く笑うようになったし、ギルドに通って彼を観察したり、毎日そういうストーカーみたいなこともするようになった。最近では、ベッドに彼が持ったカバンを持ち込んでいるようだ。
私は普段は心優しいロゼマリア様が悪役のような欲望に満ちた行動をとっていることに怒りを感じた。でもそれ以上に、彼女に嫉妬して、あんなに尊敬していた彼女を悪く考えている自分に、もっとイライラした。
「え、ええ……」
世界樹の実のクエストから帰ってきてからというもの、ロゼマリア様はどこか上の空だった。最近日課になっていたギルドにもいかず、外出すら全くせず家の中にこもり魔術書を読んでいる。 始まりは、どうやら街で柴田様という男に会ったことらしい。見た目を気にしてか、元々昼間に街に行かなかったのに、その日から街を探し回り、彼が冒険者であることをつきとめたようだ。それ以来、クエストにも行かず、ギルドで座って1日を過ごしていたみたいだ。ギルドから帰ってくるたびに、目を輝かせながら、その男がその日何をしていたかということを、私に報告してきた。
……叶わない願望を持っても後で虚しくなるだけだとは思ったが、いつになく生き生きとしている彼女の姿を見ると、そんなことは言えなかった。
私がクエストで見た彼は、とても手の届くような存在ではないように見えた。それと同時に、ロゼマリア様がああなった理由に納得した。
「もしかして、柴田様に顔を見られたからですか?」
ロゼマリア様はわかりやすくビクッとした。
「柴田様は、ロゼマリア様を次もクエストに連れていくって言っていましたよね。それなら、また行けばいいのでは?」
「あ、あれは車の中だったし、断れなかったんじゃないかな……。あの時はああ言ったけど、もし断られたらって思うと……」
「……」
私はロゼマリア様に不満を持つことは今までなかったが、彼と会ってからは、その優柔不断さに、ずっとイライラしていた。
(普通なら、彼のような人と関わる機会なんて一生ないのに。ロゼマリア様はSランクの実力があるから関われるだけで、私みたいな人にはそんな機会はないのに)
「ロゼマリア様、彼は宿を借りて生活しているFランクの冒険者です。いっそのこと、この屋敷に住んでもらってはどうですか?」
ロゼマリア様はしばらくポカンとしていたが、顔を赤くしたと思うと、急に怒鳴りだした。
「そ、そんなこと彼が望むわけないでしょう!私が男だったら、いくら金を貰っても、私みたいな人と一緒に住みたくないわ!」
口ではそう言っているが、ロゼマリア様はキョロキョロと目を動かして、彼がいる生活を想像して迷っているのが、丸わかりだった。
「今度私が街に行ったときに、冗談のふりをして彼に聞いてみましょうか?」
「え……」
私がそういうと、彼女は何かを考えているようだった。
「今回のクエストはギルドの規定でほとんどがSランクのマリア様の報酬になりましたし、その代わりにここに住ませて贅沢な生活をさせれば、ロゼマリア様に依存するようにもなるかもしれませんよ」
「柴田様が……私に依存……」
ロゼマリア様はゴクリと唾を飲み込むと、その提案の魅力に取りつかれているようだった。
「クフ……聞くくらいなら、いいかもね」
ロゼマリア様は気持ち悪い笑い方をした。
「では、今日街に行って聞いてきます」
「ええ、よろしく、ケイト。……クフ」
私は名前を呼ばれてドキッとした。こんな風になってもまだ、私はロゼマリア様を特別に思っているのか。
ロゼマリア様は、私が誰よりも尊敬する人だった。私はメイドの教育を受けたが、見た目が悪いからか、しばらく誰にも雇ってもらえなかった。そんなときに、私の境遇を心配して、この屋敷において、優しくしてくれたのだ。
でも、彼女は柴田様と会ってから変わってしまった。気持ち悪く笑うようになったし、ギルドに通って彼を観察したり、毎日そういうストーカーみたいなこともするようになった。最近では、ベッドに彼が持ったカバンを持ち込んでいるようだ。
私は普段は心優しいロゼマリア様が悪役のような欲望に満ちた行動をとっていることに怒りを感じた。でもそれ以上に、彼女に嫉妬して、あんなに尊敬していた彼女を悪く考えている自分に、もっとイライラした。
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