魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道

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第12話 【セフィ視点】静寂の救い手

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 私の世界は、ずっと閉ざされていた。  生まれつき魔力が不安定で、周囲の魔力を乱してしまう体質。それを危惧した長老たちは、私に『沈黙の首輪』を嵌め、里の外へと追放した。  首輪は、声を出すことを禁じるだけでなく、私の魔力を吸い続け、生きる気力すらも奪っていく枷だった。  森で死を待つだけの時間。  それが私の運命だと、諦めていた。

 けれど、彼は現れた。  相模登(さがみ のぼる)様。  彼は、私が一生背負うはずだった絶対の呪いを、まるで小石でも拾うような手つきで外し、地面に捨てた。  長老たちが数百年守ってきた掟も、恐ろしい守護獣の暴走も、彼にとっては道を塞ぐ雑草と同じだったのだろう。彼は眉一つ動かさず、ただ淡々と、物理的な力でねじ伏せてしまった。

 広場での騒動が収まった後、長老たちは掌を返したように私に歩み寄ってきた。

「セフィよ。守護獣様を鎮めた英雄を連れてくるとは、大手柄じゃ」 
「お前の追放処分は取り消そう。再び里で暮らすことを許すぞ」

 許す?  以前は「穢れた子」と石を投げて追い出した人たちが、今は媚びへつらうような笑顔を浮かべている。  サガミ様という強大な力を持つ後ろ盾ができた私を、利用価値があると判断したのだろう。  吐き気がした。  けれど、どう答えればいいのかわからず、私は俯いて唇を噛んだ。

「……行くぞ、セフィ」

 不意に、平坦な声が降ってきた。  顔を上げると、サガミ様が興味なさそうに欠伸を噛み殺しながら、出口の方を向いていた。

「え……?」 
「この森を抜けるには、案内役が必要だ。お前がいないと、またコンパスと歩測で進まなきゃならない。面倒くさい」

 彼は、長老たちの言葉を完全に無視していた。  里に戻ることを許すとか、追放を取り消すとか、そんな「エルフの事情」など、彼の耳には届いてすらいないようだった。  彼はただ、「私が必要だ」と言った。  それも、情熱的な言葉ではなく、「便利な道具として必要だ」というような、素っ気ない口調で。

 ――ああ、この人は。

 その瞬間、私の胸の奥で、冷え切っていた何かが熱く燃え上がった。  彼は私を「可哀想な被害者」としても、「利用価値のある政治の道具」としても見ていない。  ただ、この理不尽な世界で生きるための、一つの機能として見ている。  それが、どうしようもなく嬉しかった。  同情も、打算もない。ただ、私の存在そのものを、肯定してくれた気がしたから。

 私は長老たちに向き直り、掠れた声で、しかしはっきりと告げた。

「……わたしは、この方と共に行きます」 
「なっ、正気か!? 人間の下で働くなど、エルフの誇りは……!」 
「誇りなんて、あの首輪と一緒に捨てました」

 私は長老たちの呆然とする顔を背に、駆け出した。  サガミ様の背中を追う。  その背中は、決して大きくはないけれど、どんな魔法よりも頼もしく見えた。

 隣を歩くエレナさんが、私を見て微笑んだ。 

「良い顔をするようになったな」 
「……はい」

 私はサガミ様の袖を、ちょこんと摘んだ。  彼はちらりと私を見たが、何も言わずに歩き続ける。振り払おうとはしなかった。

 首に残る火傷の痕が、少し痛む。  でも、これはもう呪いの痕ではない。彼が私を救ってくれた証だ。  彼が「いい声だ」と言ってくれた、この声で。  彼が「必要だ」と言ってくれた、この知識で。  私は一生、彼の道標になろう。

 霧の晴れた森の出口。  差し込む陽光の中で、私は彼が見ていない隙に、そっと彼の影を踏んだ。  そうすれば、ずっと一緒にいられるという、古いおまじないを信じて。

 私の世界を縛っていた鎖は、もうない。  これからは、彼という新しい世界のルールに従って生きていくのだ。
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