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第14話 清廉なる拒絶
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白い炎が、俺の手首までを包み込んだ。 周囲から「ああっ!」と悲鳴が上がる。 誰もが、俺の腕が炭化して崩れ落ちる瞬間を想像しただろう。
だが、俺が感じたのは、わずかな空気の揺らぎだけだった。 熱くない。 この『聖女の法衣』が発動する迎撃魔法は、対象者の「不純な魔力」を燃料にして燃え上がる仕組みらしい。 俺には燃やすべき燃料がない。 マッチを擦ろうとしても、マッチ箱の側面(ヤスリ)がツルツルで火がつかないような状態だ。 視覚的には派手に燃え上がっているように見えるが、物理的な熱量はゼロ。ただのLEDライトの演出と変わらない。
「……ふんッ」
俺はそのまま腕に力を込め、ルネの身体を抱き上げた。 重い。 彼女自身は小柄だが、この何重にも重ねられた法衣が鉛のように重いのだ。こんなものを着て、酸素の薄い部屋で祈り続けていれば、倒れるのも当たり前だ。
「な、なぜだ……?」
「燃えない……? 聖なる炎が、彼を受け入れているのか!?」
司祭たちが目を剥き、後ずさる。 彼らの教義では、この炎に焼かれないのは「一点の曇りもない清廉潔白な魂を持つ者」だけとされているらしい。 勝手な解釈だが、今は好都合だ。
「道を空けろ。外へ連れ出す」
俺が歩き出すと、モーゼの海割れのように人垣が左右に開いた。 誰も俺に触れようとしない。 聖女を抱き抱え、聖なる炎を全身に纏いながら(実際は無害な光だが)、平然と歩く男。彼らにとって俺は、いまや聖女以上に神聖な存在に見えているのかもしれない。
「ま、待て! 聖女様をどこへ連れて行く気だ!」
正気に戻った司祭の一人が立ちはだかった。 だが、その前に銀色の影が割り込む。
「退(の)け。サガミ様の邪魔をするなら、斬る」
エレナが剣の柄に手をかけ、氷のような殺気を放つ。 隣ではセフィも、無言で司祭を睨みつけていた。 司祭がひるんだ隙に、俺は大聖堂の重い扉を足で蹴り開けた。
ガァン!
新鮮な空気が流れ込んでくる。 外はまだ曇り空だが、中の澱んだ空気よりはマシだ。 俺は中庭のベンチにルネを寝かせた。
「……う、ん……」
ルネがうっすらと目を開ける。 焦点が合っていない。 俺は彼女の額に手を当てた。高熱だ。 それに、脈が速すぎる。
「水だ。それと、この服を脱がせる」
「ぬ、脱がせる!? ここでか!?」
追いかけてきた司祭がまた喚く。 俺は冷徹に言い放った。
「見ろ。この服が彼女の体力を吸っているのがわからないか?」
法衣の布地が、ルネの肌に吸い付くように脈動している。 防御結界を維持するため、着用者の生命力(バイタル)を変換しているのだ。 本来なら交代制で着るべき装備を、一人で長時間着続けた弊害だろう。
「だ、だが、その法衣は高位の司祭でも触れるだけで火傷を……」
「俺には関係ない」
俺は躊躇なく、法衣の留め具に手をかけた。 複雑な魔力封印が施されたボタンだが、俺の指先が触れると、魔力回路が俺を認識できずにエラーを起こし、ポロリと外れた。 一番上の厚いマントを剥ぎ取る。 次に、金糸の刺繍が入った上着。 防御魔法の輝きが、俺の手の中でガラス細工のように砕け散っていく。
「あ……」
ルネの口から、安堵の吐息が漏れた。 重苦しい拘束から解放され、呼吸が深くなる。
「す、すごい……。結界の術式を、指先ひとつで解体していく……」
エレナが感嘆の声を上げる。 解体しているわけではない。単に「物理的に脱がせている」だけだ。だが、魔術師にとっては、それが神業に見えるらしい。
数枚の布を取り払い、薄手のインナー姿になったルネは、汗で濡れた肌を外気に晒した。 不敬だとか、目の保養だとか言っている場合ではない。これは冷却処置だ。 俺は持っていた水を少しずつ彼女の口に含ませた。
「……つめた、い……」
「飲めるか?」
「……はい……」
ルネがゴクリと喉を鳴らす。 顔に少し赤みが戻ってきた。 彼女はぼんやりとした瞳で、俺の顔を見上げた。
「……あなたは……天使、様……?」
「ただの人間だ」
俺は即答し、脈を再確認した。安定してきている。 だが、問題は解決していない。 彼女が回復しても、街の疫病が治るわけではないからだ。
「おい、司祭」
「は、はいっ!」
俺の「奇跡」を目の当たりにした司祭は、直立不動で返事をした。
「この街の病気の原因はなんだ? ただの流行り病じゃないな」
「そ、それは……地下水路から、異臭と共に発生したと……」
「地下水路か」
俺はエレナと視線を交わした。 地下からの異臭。湿気。そして熱。 原因は十中八九、そこにいる。
「行くぞ。元を断たないと、彼女も休まらない」
俺は立ち上がった。 ルネが、名残惜しそうに俺の袖を弱々しく掴んだ。
「……いかないで……」
「すぐに戻る。寝てろ」
俺は彼女の手を布団(剥ぎ取った法衣だ)の中に戻し、歩き出した。 背後で、聖女と司祭たちが俺に祈りを捧げる気配がしたが、無視した。 今は、ウイルスの発生源を物理的に叩くのが先決だ。
だが、俺が感じたのは、わずかな空気の揺らぎだけだった。 熱くない。 この『聖女の法衣』が発動する迎撃魔法は、対象者の「不純な魔力」を燃料にして燃え上がる仕組みらしい。 俺には燃やすべき燃料がない。 マッチを擦ろうとしても、マッチ箱の側面(ヤスリ)がツルツルで火がつかないような状態だ。 視覚的には派手に燃え上がっているように見えるが、物理的な熱量はゼロ。ただのLEDライトの演出と変わらない。
「……ふんッ」
俺はそのまま腕に力を込め、ルネの身体を抱き上げた。 重い。 彼女自身は小柄だが、この何重にも重ねられた法衣が鉛のように重いのだ。こんなものを着て、酸素の薄い部屋で祈り続けていれば、倒れるのも当たり前だ。
「な、なぜだ……?」
「燃えない……? 聖なる炎が、彼を受け入れているのか!?」
司祭たちが目を剥き、後ずさる。 彼らの教義では、この炎に焼かれないのは「一点の曇りもない清廉潔白な魂を持つ者」だけとされているらしい。 勝手な解釈だが、今は好都合だ。
「道を空けろ。外へ連れ出す」
俺が歩き出すと、モーゼの海割れのように人垣が左右に開いた。 誰も俺に触れようとしない。 聖女を抱き抱え、聖なる炎を全身に纏いながら(実際は無害な光だが)、平然と歩く男。彼らにとって俺は、いまや聖女以上に神聖な存在に見えているのかもしれない。
「ま、待て! 聖女様をどこへ連れて行く気だ!」
正気に戻った司祭の一人が立ちはだかった。 だが、その前に銀色の影が割り込む。
「退(の)け。サガミ様の邪魔をするなら、斬る」
エレナが剣の柄に手をかけ、氷のような殺気を放つ。 隣ではセフィも、無言で司祭を睨みつけていた。 司祭がひるんだ隙に、俺は大聖堂の重い扉を足で蹴り開けた。
ガァン!
新鮮な空気が流れ込んでくる。 外はまだ曇り空だが、中の澱んだ空気よりはマシだ。 俺は中庭のベンチにルネを寝かせた。
「……う、ん……」
ルネがうっすらと目を開ける。 焦点が合っていない。 俺は彼女の額に手を当てた。高熱だ。 それに、脈が速すぎる。
「水だ。それと、この服を脱がせる」
「ぬ、脱がせる!? ここでか!?」
追いかけてきた司祭がまた喚く。 俺は冷徹に言い放った。
「見ろ。この服が彼女の体力を吸っているのがわからないか?」
法衣の布地が、ルネの肌に吸い付くように脈動している。 防御結界を維持するため、着用者の生命力(バイタル)を変換しているのだ。 本来なら交代制で着るべき装備を、一人で長時間着続けた弊害だろう。
「だ、だが、その法衣は高位の司祭でも触れるだけで火傷を……」
「俺には関係ない」
俺は躊躇なく、法衣の留め具に手をかけた。 複雑な魔力封印が施されたボタンだが、俺の指先が触れると、魔力回路が俺を認識できずにエラーを起こし、ポロリと外れた。 一番上の厚いマントを剥ぎ取る。 次に、金糸の刺繍が入った上着。 防御魔法の輝きが、俺の手の中でガラス細工のように砕け散っていく。
「あ……」
ルネの口から、安堵の吐息が漏れた。 重苦しい拘束から解放され、呼吸が深くなる。
「す、すごい……。結界の術式を、指先ひとつで解体していく……」
エレナが感嘆の声を上げる。 解体しているわけではない。単に「物理的に脱がせている」だけだ。だが、魔術師にとっては、それが神業に見えるらしい。
数枚の布を取り払い、薄手のインナー姿になったルネは、汗で濡れた肌を外気に晒した。 不敬だとか、目の保養だとか言っている場合ではない。これは冷却処置だ。 俺は持っていた水を少しずつ彼女の口に含ませた。
「……つめた、い……」
「飲めるか?」
「……はい……」
ルネがゴクリと喉を鳴らす。 顔に少し赤みが戻ってきた。 彼女はぼんやりとした瞳で、俺の顔を見上げた。
「……あなたは……天使、様……?」
「ただの人間だ」
俺は即答し、脈を再確認した。安定してきている。 だが、問題は解決していない。 彼女が回復しても、街の疫病が治るわけではないからだ。
「おい、司祭」
「は、はいっ!」
俺の「奇跡」を目の当たりにした司祭は、直立不動で返事をした。
「この街の病気の原因はなんだ? ただの流行り病じゃないな」
「そ、それは……地下水路から、異臭と共に発生したと……」
「地下水路か」
俺はエレナと視線を交わした。 地下からの異臭。湿気。そして熱。 原因は十中八九、そこにいる。
「行くぞ。元を断たないと、彼女も休まらない」
俺は立ち上がった。 ルネが、名残惜しそうに俺の袖を弱々しく掴んだ。
「……いかないで……」
「すぐに戻る。寝てろ」
俺は彼女の手を布団(剥ぎ取った法衣だ)の中に戻し、歩き出した。 背後で、聖女と司祭たちが俺に祈りを捧げる気配がしたが、無視した。 今は、ウイルスの発生源を物理的に叩くのが先決だ。
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