魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道

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第15話 地下水路の決戦

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 大聖堂の地下には、都市全体に張り巡らされた巨大な水路があった。  普段なら生活排水を流すための場所だが、今のそこは地獄の窯のような有様だった。  腐った卵と、焼け焦げたような化学臭が混ざった猛烈な悪臭。  湿度はサウナ並みに高く、足元の水はドス黒く濁っている。

「……うっぷ。ひどい臭いです」

 後ろを歩くセフィが、涙目で鼻と口を布で覆っている。  エレナも険しい顔で剣を構え、油断なく周囲を警戒していた。

「サガミ様、気配が……あちこちにあります。ですが、形が定まりません」 
「水路全体が『敵』みたいなものだからな」

 俺は『暗闇の兜』のサーモグラフィー機能で、前方の闇を見据えた。  水路の奥、巨大な貯水槽のような空間に、異常な低温の塊が居座っている。  周囲の熱を奪い、湿気を撒き散らす元凶。

「あそこだ」

 俺たちが広場に出た瞬間、水面が大きく盛り上がった。  ズズズ……と不快な音を立てて現れたのは、不定形の黒い巨体。  ヘドロが集まってできたような、巨大なスライムだ。直径は十メートル近い。  表面には無数の気泡が浮かんでは弾け、そのたびに有毒なガスを噴き出している。

「こいつが、疫病の原因……!」

 エレナが叫び、即座に踏み込んだ。  魔剣グラムの黒い刃が閃く。  スパァン!  スライムの体が十字に切り裂かれる。切れ味は抜群だ。  だが――。

 ボコッ、ボコッ。  切断された断面が、液状になってすぐに融合してしまう。  物理的なダメージが通らない。

「くっ、斬撃が効かない!? なら、魔法で!」 
「風よ、裂け!」

 セフィが詠唱し、鋭い風の刃(ウィンドカッター)を放つ。  しかし、風の刃はスライムのブヨブヨした体にめり込むと、そのまま吸収されて消えてしまった。

「嘘……魔力を吸い取った?」 
「まずいです、サガミ様! こいつは『汚泥(マック)スライム』の変異種です! 物理攻撃は無効、魔法攻撃は養分にして再生します!」

 エレナが後退しながら叫ぶ。  スライムが反撃に出た。  身体の一部を鞭のように伸ばし、エレナたちを薙ぎ払おうとする。触れた石壁がジュッという音と共に溶けた。強力な酸だ。

「下がれ」

 俺は二人の前に出た。  この手の相手に、剣や単純な魔法が相性が悪いのは物理法則の常だ。  液体を斬っても意味はないし、エネルギーを与えれば活性化する。  なら、どうするか。  答えは単純だ。  蒸発するまで熱し続ければいい。

 俺は鞄から、一本の松明(たいまつ)を取り出した。  柄の部分は骨でできており、先端には赤い宝石が埋め込まれている。  以前、魔道具屋のゴミ箱から拾った『鮮血の松明』だ。

「サガミ様、それは……!?」 
「ただの火種だ」

 俺は答えたが、エレナは顔を青ざめさせた。  彼女はこの道具のいわくを知っているらしい。

「いけません! それは禁呪の道具です! 一度火をつければ、使用者の血液を全て燃料に変えて燃え尽きるまで消えない、自滅の炎です!」

 確かに、普通に使えばミイラ化して終わりだ。  だが、俺の血には魔力価がない。 

 ボッ。

 俺が柄を握りしめた瞬間、先端から紅蓮の炎が噴き上がった。  松明の火、というレベルではない。  巨大なバーナー、あるいは火炎放射器のような勢いだ。  ゴオオオオオオオッ!!  狭い地下水路が一瞬で真昼のように明るくなり、熱波が空気を震わせる。

「なっ……!?」 
「サガミ様の腕が……燃えて……いない?」

 本来なら、俺の血管から血が沸騰して吸い出されるはずだが、俺は何の痛みも感じていない。  ただ、目の前に莫大な熱量があるだけだ。

「汚物は消毒だ」

 俺は松明をスライムに向けた。  膨れ上がった炎の渦が、一直線に黒い巨体へ襲いかかる。

 ジュワァァァァァァァッ!!

 水が一瞬で沸騰する音が響く。  スライムが身をよじらせ、絶叫のような音を立てた。  酸の身体が沸騰し、気化していく。  再生? 吸収?  そんな暇は与えない。  再生速度を遥かに上回る熱量で、原子レベルまで分解してやる。

「消えろ」

 俺はさらに一歩踏み出し、松明を振るった。  炎の嵐が水路全体を舐め尽くす。  壁にこびりついたカビも、澱んだ水も、病原菌もろとも焼き払う。  スライムの巨体は、断末魔をあげる間もなく、白い蒸気となって消滅した。

 後には、乾いた石床と、すっかり綺麗になった(水分が蒸発した)水路だけが残った。  圧倒的な滅菌作業完了だ。

 俺は松明を軽く振って火を消そうとしたが、消えない。  ああ、そういえば「燃え尽きるまで消えない」んだったか。  俺は近くの水たまり(まだ残っていた綺麗な地下水)に松明を突っ込み、無理やり物理的に消火した。

 ジュッ。  煙が上がる。

「ふぅ」

 俺は松明を鞄に戻し、振り返った。  エレナとセフィが、腰を抜かして座り込んでいた。

「……信じられない」 

 エレナが震える声で呟く。 

「あれは、上位の火精霊魔法……『焦熱地獄(インフェルノ)』に匹敵する火力……。それを、己の血を一滴も代償にせず、涼しい顔で……」
「サガミ様は……炎の神様の化身なのですか……?」 

 セフィが拝むように手を合わせている。

 また誤解が加速したようだ。  だが、説明するのも面倒だ。  俺は顔の汗を拭った。

「掃除は終わった。戻るぞ」

 熱気がこもる地下水路を後にする。  これで、地上の空気も少しはマシになるはずだ。
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