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冬のはじまり

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―あ、雪。

窓ガラスが曇る。
窓に添えた手が冷たくなって指の先が紅く染まる。

雪が降るのに気づいて、クラスメイトたちが窓に集まってくる。
雪?えっ、雪降ってるー!
クラスがいつも以上に賑やかだ。

騒がしい教室とは対照的に窓の向こうで、雪は静かにしんしんと降る。
少し薄暗くて静寂で神秘的な空間がそこにはあった。


帰り道、傘を差さずに歩く。
髪に雪が舞い落ちてきらきらと輝く。
緩く結んだマフラーから白い吐息が漏れる。

手のひらに雪を乗せる。
体温ですぐに溶けて形を崩す。

―今日が寒いのは


付き合ってもうすぐ半年が経とうとしていた、ついこの間。
新しく好きな人ができたから別れてほしい、と言われた。
…誰?って聞いても彼は教えてくれなかったけど、見てれば分かる。

橘アリア。
ポテンシャルが高いため、難しいことも難なくこなせる、可愛らしくて育ちの良いお嬢様というのがクラスの印象。

ただ、本人のポテンシャルが高すぎて、周りの人と一緒にやるよりも自分がやったほうが早いし、みんなのためだと考えて切り捨ててしまうところがある。

勝つために手段を選ばないところがあって、この間の体育祭で彼女がズルして勝ったことに私だけが気づいてしまった。

私は審判にこっそりとそのことを告げた。
ズルして勝っても嬉しくないし、ズルされて敗北した相手チームに友達がいた、という理由もある。

結果は反則負けで最下位。
反則しなければ準優勝は確実で、もしかすると優勝できたかもしれないらしかった。
担任の先生は匿名で、と審判から伝えられていたのに先生はわざわざ私の名前を公表し、その行動を称賛した。

アリアはクラスの前で泣いて謝罪した。
クラスの中で私のチームだけが負けていて、このままだと優勝できないと聞いて…
キャプテンだからなんとかしなきゃと思って周りからも責められるし、私、怖くて…

このことがなければ優勝できていたかもしれない。
このことがバレなければ…

アリアへの非難はだんだんと反則を申告した私へ向くようになった。
私に攻撃が向けられるたび、アリアが庇って状況がより悪化する。

クラスの外や先生から見えないように死角で集団でいじめるクラスメイトたち。
私が二度と声を上げられないように。

アリアだけじゃないのだ。
クラス全員が共犯なのだ。
私だけ異質だったんだ。

まだ救いだったのは他クラスに彼氏がいたことだ。
彼が私のことを特別だと思ってくれさえすれば私は強くいられた。

でも、別れた。

元彼として忠告しとくけど、たとえ反則したとしても橘をいじめるのは間違ってる、と彼は別れ際にそう言って、代金だけ置いて店を出ていった。

私のことを信じずに他の人の言葉を信じた。
その事実だけで十分だ。


―今日が寒いのはいつも隣で帰ってた彼がいないからだ。彼の温もりがないからだ。

手のひらに雪を乗せる。
体温ですぐに溶けて形を崩す。
今までの記憶も私も全部雪みたいに溶けてなくなればいいのに。

曇天の空から舞い落ちる粉雪。
いつまでも晴れなさそうな視界に耐え忍ぶ冬を予感した。



~余談~

アリアのズルはバレーでずっとサーブを打ち続けたこと。
本当はサーブはルーティーンで回さなきゃいけないが、アリアはサーブも上手だからその試合中ほとんど変わらずに、変わったとしてもサーブが必ず入る人に交代してました。
まぁ、だからアリアだけが悪いわけじゃなくて班全員が共犯だけど、アリアが班のキャプテンでアリアの発案だったこともあり、代表して謝るみたいに作中ではなってます。

体育祭は体育館でバレーとバスケ、運動場で目玉のリレーなどの陸上競技・遊技、そしてなぜか中庭でダーツが開催されます。

ちょうどリレーとバレーの時間帯が被っていて、目玉のリレー競技に審判が割かれ、審判の数が減ったので、気づけなかったっていうのが審判側の言い訳です。
観衆の多くはその時間リレーの方を応援しに行っていました。

「私」が気づけたのは男子バレー予選に彼氏が出るので、ついでにその前に行なわれるクラスの女子バレー予選を応援しようかな、と思ったからです。
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