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Ponnu

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部屋の片隅で

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同い年のナナちゃんの1番の友達。
それがぼく、くまのぬいぐるみのポピー。

6歳のナナちゃんは今日から小学生。
友達ができなかったらどうしようと不安そうなナナちゃんがぼくをぎゅっと抱きしめる。
小学校で友達ができなくても、ぼくはいつだってナナちゃんの友達で1番の味方だよ。

7歳の誕生日。
ナナちゃんとぼくは同じ7月7日が誕生日。
毎年7月7日は雨だけど今日は晴れてくれた。
ラッキーセブンだからかな?
おめでとう、ナナちゃん。
ずっと一緒だよ。

8歳のクリスマス。
ナナちゃんとポピーに新しい友達ができた。
ハムスターのぬいぐるみ、ピッタ。
ピッタは気弱そうだけど、優しくて時々かっこいいことも言うんだよ。

9歳のナナちゃんが小学校のお友達のレイラちゃんを連れてきた。
友達のレイラちゃんと楽しく話しているナナちゃんを見ると、小学校で友達ができて良かったねと嬉しく思ったり、最近ぎゅっとしてくれないのが寂しかったりして少しだけ胸がきゅっとなって苦しい。
ぼくのこと、すき?
ぼくはナナちゃんがだいすきだよ。

10歳の2分の1成人式。
ナナちゃんは両親に感謝を伝える手紙を書いて渡して、ぼくのことをひさしぶりになでてくれた。
いつの間にかぼくたちおとなの階段の半分まで来ていたんだね。

11歳、ナナちゃんは友達のレイラちゃんと喧嘩した。
ナナちゃんが帰り道にレイラちゃんにいたずらをしたことが原因みたいだ。
ナナちゃんは謝るのが苦手で、相手が謝ってくれないと謝れない性格の持ち主だった。
ぼくをきつく抱きしめてぽろぽろと涙をこぼすナナちゃん。
今回はナナちゃんから謝れるよね。
ぼくは見守ってることしかできないけど、心の中でそっと応援してるよ。

12歳、小学校卒業。
レイラちゃんと一緒に写る笑顔のナナちゃんの写真が机の上に飾られていた。
ナナちゃんの小学校入学が昨日のことのように思い出せる。
ナナちゃんは小学校高学年から身長が大きく伸びて、ナナちゃんママをあっという間に追い抜かしてしまった。
ぼくは12歳になっても相変わらず身長伸び悩んでいるから、大きく成長したナナちゃんがちょっぴり羨ましい。
ぼくもいつかナナちゃんの身長を抜かす日が来るのだろうか?

中学校に入学した13歳のナナちゃんは部活で陸上部に入った。
毎日練習を必死で頑張ってるけど、最近は帰りが遅くてなかなかぼくに話しかけてくれなくなった。
寂しくてもぼくがそばにいるよ、とピッタが言ってくれたから少し安心できたけど、やっぱりナナちゃんが気になっちゃうんだ。

勉強も部活もますます忙しくなる14歳。
陸上部の部長になったナナちゃんは毎日朝から晩まで練習、勉強、練習。
ある日、ナナちゃんは突然立てなくなった。
精神的なプレッシャーによって身体が思うように上手く動かせなくなった。
ナナちゃんはそのことで塞ぎ込むようになり、ナナちゃんママはとても心配していた。
どんどん食が細くなって、学校にも行かなくなった。
ぼくはナナちゃんに何もしてあげられないのが悔しくて歯痒かった。

立てるようになり、少しずつ歩けるようになってきた15歳のナナちゃん。
レイラちゃんがなんとか説得して、一緒に中学校に通えるようになった。
中学3年生の1学期は全く学校に行けなかったから、2学期から入ってクラスに馴染めるのか不安そうだったけど、特別にぼくを学校に連れて行くのを許可してもらって、ぼくをきっかけに友達ができたからもう安心。
陸上部のみんなにもたくさん温かい言葉をもらえたみたいで久しぶりにナナちゃんは笑っていた。
ナナちゃんはそれから勉強をたくさん頑張って、第一志望の高校に合格したんだ。
中学を卒業したらレイラちゃんとは別々の学校に行くことになる。
2度目の卒業式の写真は2人とも目が赤く腫れていたけど、ちゃんと笑顔だった。

16歳のぼく。
ちょっと最近身体の調子がおかしい。
ぬいぐるみの外科医として幾度も手術してくれたナナちゃんのおばあちゃんは治せるけど、すぐにまた綿が出てくると思うと言った。
そんな時、ナナちゃんパパの仕事の都合で新しい家に引っ越すことになった。
ナナちゃんママはそれを期にいらないものやあっても仕方がないものを一掃する気でいるみたいで、ぼくはもうずっと前からいるから汚いし、壊れかけているなら捨てたら、とナナちゃんに言っていた。
ぼく、もしかして捨てられちゃうの?

おしゃれに興味を持って一気に可愛くなった16歳のナナちゃん。
どうやら好きな人ができたらしい。
だけど、勇気を出して告白するも呆気なく振られてしまった。
その日、ナナちゃんは泣いて怒った勢いでぼくを遠くへ投げた。
ぼくは当然悲しかったし、とても怒った。
ナナちゃんなんて大きらいだ。

ナナちゃんとナナちゃんママが話し合った結果、ぼくはバザーで売られることに決まった。
レジャーシートの上に他のガラクタたちと並んで座る。
そのガラクタの中にピッタもいた。
ピッタとは同じ人に買われたいな。
新しい友達は優しい人がいいな。

デパートのショーケースに売られていたぼくを見つけて買った、ナナちゃんパパ。
ナナちゃんが生まれた記念に桜の木でも植えようかと言っていたときに、たまたまぼくを見つけてくれた。
この先ナナちゃんにつらいことがあっても、一緒に乗り越えてくれる1番の味方。
それがぼくに与えられた役目だった。
ナナちゃんが少し大きくなるとごっこ遊びをするようになった。
ナナちゃんがおままごとで料理を作る。
ぼくがそれをおいしそうに食べる。
さらに大きくなるとおままごとを辞め、絵を描き始めた。
壁にクレヨンで絵を描いたナナちゃんはママにすごく怒られたんだけど、その絵がパパとママとナナちゃんの絵だって分かると、その絵を消さずに残してナナちゃんをたくさん褒めた。
その絵にはちゃんとぼくもいるんだよ。
嬉しかった思い出、まだまだたくさんある。
部屋の片隅でずっとナナちゃんを見守る生活は思い返せば最高に幸せだった。
ぼくたちほんとに別れちゃうのかな?
ぼくはどうしたいんだろう。

なかなか売れなかったぼくもついに小さい子供の目に止まった。
小学校低学年くらいの小さな男の子がお母さんに「欲しい、欲しい」とおねだりをしている。
その子の持っていたペンギンのぬいぐるみはひどく泥だらけだった。
ぼくの身体は汚れていると言ってもそのぬいぐるみに比べたら少しだ。
16年間一緒にいてこれだけきれいなのはナナちゃんが大切に優しくしてくれたからだと気づいた。
ぼく、やっぱりずっとナナちゃんと一緒にいたい。
本当はナナちゃんがだいすきなんだ。

そのことに気づいた瞬間、急に男の子がぼくを掴んだ。
ナナちゃんはそれにすぐさま気づき、男の子の腕を掴んで「ポピーを離して!」と叫んだ。
男の子はびっくりして泣き出してしまった。
男の子の母親はナナちゃんに泣かせたことを怒った。
「そんな強く言わなくたっていいじゃない!どうせ買うんだから同じでしょ」
と母親は立て続けに怒ったが、ナナちゃんは動じなかった。

「ポピーのことを大事にできない子には売れません!ポピーの新しい友達は私以上に大事にしてくれる人たちじゃないと嫌だっ」

結局男の子とその母親はひどく怒って帰った。

ナナちゃんがごめんね、と何度も謝る。
この間投げちゃってごめんね。
ポピーは何も悪くなかったのに。
さっきの男の子からも守れなくて何やってるんだろうね。
やっぱり私にポピーは相応しくない。
ポピーはもっと大事にしてくれる家に行くべきだよ。

ぼくはナナちゃんとずっと一緒にいたい。
ナナちゃんもそう思ってよ。
これから先もナナちゃんの隣にいさせて。

ナナちゃん、元気?
ぼくは元気だよ。
新しいお家は病院なんだけど、なんだか穏やかな時間が過ごせてこれもこれでいいなって思う。
あの時、ぼくとピッタを買ってくれた人はレイラちゃんだったんだね。
難病を抱えている身体の弱い妹のリイナちゃんのために買ったレイラちゃんは本当に優しい人だな、って思う。
知ってて売ったんだよね?
レイラちゃんもリイナちゃんもナナちゃんに会いたがってるよ。
もちろんぼくもね。
だからまたいつか会いに来てね。
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