神々の遊戯に巻き込まれ無双した件

杜乃真樹

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第12話 シンクロニシティ

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 狐の獣人は呆然と立ち尽くしたまま勢いを増していく炎を眺め、自分の愚かで恥ずべき言動によりルーファが自ら命を絶ったのだと悔み、後悔と謝罪の言葉呟きながらカイの喉元へ突きつけた短剣を自身の首元へ宛がう。

「愚かな俺を許してくれ・・・・・・」

 刃の接触面から血が滲み始め、そのまま短剣を手前に引くだけで簡単に命を絶つことができる。当然だが死なせる気など無く断ち切った瞬間、治癒魔法で全快させるので自刃しても意味が無い。

「【血縛鎖リストレイント】・・・・・・ 騒々しい。静かにせぬか」

 呆れたような口調で獣人に対しラミアが言い放った次の瞬間、深紅の鎖状の痣がレザーアーマーの下から首筋、顔へ向かい伸びていく。手の甲など露出している部分にも同様の痣が見えることから全身に痣が広がっているようだ。

「か、体が動かない。お前何をした!!」

「スキルで拘束しただけじゃ。最後まで見届けてから死んでも遅くあるまい」

 藻掻くたびに痣は枝分かれし植物が根を張るかのように広がっていく。苦痛に顔を歪める狐の獣人を見ているとラミアより先に自身の魔法で拘束しなかったことを申し訳なく思う。

(あれって拘束っていうより拷問なんだよな・・・・・・)

 心の中で狐の獣人に謝罪しているとルーファを包み込んでいた炎に変化が起きる。朱から黄、そして白く変化すると一瞬で炎が消失、疲弊し息を切らしたルーファが姿を現す。

 火傷どころか怪我すらしておらず服が焼けた形跡もない。何が起こったのか理解できていない狐の獣人は腑抜けた表情でルーファを見つめる。

「謝辞は必要ない。妾は颯斗様の御意志を汲んだだけじゃ」

 冷淡な表情でラミアが語り掛けると痣は少しずつ薄くなり跡形も残らず消えていった。

「叔父様・・・・・・」

 呼ばれたことで少し冷静さを取り戻したのか呼吸を整え握りしめた短剣を鞘に納めルーファに手渡すと首を垂れ姪としてではなく王女としての言葉を待つ。

 まだ幼い子供に背負わせるには重過ぎる。恣意的しいてき思考だと言われようと王女として最善の選択ができると信じているからこそ短剣を渡したのだがルーファから投げかけられた言葉は予想外のものだった。

「戦いが始まるの。天狐として責務を果たす時がきたんだよ」

「何を言って・・・・・・ そ、その尾⁉ まさか・・・・・・ ラグナロクが始まるのか?」

 ゲームにより違いはあるが天狐は九本の尾を持ち強大な力を有する妖や霊獣、神獣として竜種と同格に扱われることが多く、最大の特徴と言える尾がルーファには一本しかないため狐の獣人だと思い込んでいた。

 出会った時、感じた微かな魔力は暗闇で光る蛍、源流点から湧き出る水滴のように儚げで小さく不純物により濁っているように感じた。だが炎に包まれた後、魔力などに変化が起きている。

 一本だった尾は三本へと増え、感じる魔力はエルオードの二割と言ったところだろうか。それでも水滴が小川ほどの水量へと激変したのだから凄まじい成長力と言える。

 守護者と比べれば力不足は否めず、戦闘となれば勝利するのは難しい、だがセクレシアで生きる人々の可能性を示唆していることにもなる。それほどルーファの急激な成長の意味することは大きい。

神戯ラグナロク!? 何で知ってるんだ・・・・・・)

 同一の意味か不明だが狐の獣人は確かにラグナロクという言葉を使い、ルーファも意味を理解しているからこそ頷いた。当時、城内で遊戯神の声を聞いたのは自身を含め守護者達のみでメイド達は声を聞いていない。

 神戯ラグナロクに参加する神と守護者だけが聞こえていたのだからルーファ達が声を聞いた可能性は無いにも拘らず何故か知っている。

「ならば王女として何をすべきか分かるな?」

 涙を浮かべ頷くルーファを穏やかな表情で見つめ頭を一度撫でると立ち上がると軽く頭を下る。

「私はヴェルダー王国騎士団長ウィクス・ニア・ヴェルダー。大恩ある陛下に対し行った非礼の数々に対し私の命と幾つかの情報を持って謝罪とさせていただけないでしょうか」

 個人的にはラミアに拘束されたときの表情を思い出すと十分過ぎる罰を受けたと言え、謝罪は受け入れても罰を与えるつもりは毛頭ない。

「楽しかったし気にしてないよ。確かに悪手だったけど愛する人を護るため命を懸けるって気持ち、僕もすーっごく理解できるんだ。ですよね? 颯斗様」

 言ってることは正しく考えを代弁してくれているのだがエルオードの問い掛けに何故か言葉が詰まる。頷くだけの簡単な質問なのだが同意してはいけない気がしてならない。

「ですが・・・・・・」

「分からないのなら教えてあげる。その短剣をカイの胸に突き刺してみて。出来ないなら今すぐルーファちゃん殺しちゃうよ!! ほらぁ早くやってみてよ」

 一瞬放たれた殺気はウィクスに本気だと思わせるに十分だったようでルーファから短剣を受け取るとカイの傍に歩み寄り呼吸を整える。

「全力で突き刺さないと駄目だからね」

 突き刺さなければ本当にルーファを殺すだろうと思わせるには十分な殺気を向けられるが、無邪気で優しい口調に何か意図があるんじゃないかという考えが頭をよぎり突き刺すことを躊躇ためらわせる。

 そんなウィクスに親近感のような感情が芽生えた次の瞬間、エルオードの頭上に巨大な氷塊が出現した。

 躊躇すれば本気で命を奪うと理解させるには十分だったようでウィクスは頭を下げると短剣に魔力を込める。

「恨みはないが許してくれ」

 剣術の才に恵まれ鍛錬に鍛錬を重ね磨き上げた全ての力を乗せ短剣をカイの胸へ振り下ろす。どんな結末を迎えるのか理解していても選択肢がなく従うしかない。

 だがそれはウィクスの常識の範疇でしかなく、この場にいる者達の常識と大きく乖離かいりしているのだと理解させられることになる。

「バカな・・・・・・」

 剣先は胸を貫くどころか皮膚を傷一つ付けられず、巨大な鋼に剣を突き立てたかのよう衝撃を感じたかと思った瞬間、金属音と共に短剣は折れ剣先は弾け飛ぶ。

「体験してもらった通り君達の力じゃ僕達を害せない。でもね処罰しない一番の理由はこの世界そのものが颯斗様の庇護下にあるからなんだ。だから二度と自ら命を絶とうとしないでね。颯斗様を悲しませたくないんだ・・・・・・」

 優しい微笑みを向けるエルオードは何処か儚げで毎度訪れる誤解を生むような言動と違い心からの願いのような気がして少し照れてしまう。

「それじゃ襲撃とラグナロクについて知っていること教えてもらえるかな。それと何か国家単位で何か起きたりしていない?」

 話を聞く限りウィクスが襲撃されたのは偶然だった可能性が高い反面、ルーファに関しては偽の情報により帰国するように誘導されたと見て十中八九間違いない。

 また国内情勢は安定しており国王は健在、兄弟仲も良好、仮に王位継承権を持つ者の争いならば神の守護者がルーファの命を狙う理由が分からない。そして敵対、若しくは関係が悪化し敵対する可能性のある国も皆無。

 ここクライセル大陸にはヴェルダー王国を含め六つの国が存在し、遥か昔、とある理由から同盟を締結し現在まで軍事衝突どころか小競合いすら一度たりとも起きておらず、各国の王族とも良好な関係を築けているそうだ。

「他国の情勢で気になると言えばセルゲスト王国で国王崩御に伴い第二王妃セクメトラ様が新王に即位されるそうです」

 膝の上で静かに話を聞いていたミィが突然、飛び起きると鬼気迫る表情でウィクスに詰め寄る。

「セクメトラ? その話もっと詳しく教えるのニャ!!」

 その迫力に困惑しながらウィクスは話を続ける。半年前、国王と婚姻し第二王妃となるも流行り病で国王が崩御した。本来なら王位継承権筆頭の第一王子が即位することが慣例となっているそうだが王族全員が継承権を放棄、結果、第二王妃が即位し女王となった。

「苛烈な性格のセクメトラ様と違い宰相のセラスレーク殿は争いを好まぬ心優しき人物という話をよく耳にしますが真偽は分かりません」

「セラスレーク・・・・・・ もしかして天使族じゃニャい?」

「いえ。人族だったと思います。私の知る限り天使族という種族は存在しませんよ」

 オープニングセレモニーでも行っているかのような露骨な情報開示を行い奇襲でも仕掛けゲームを盛り上げろと遊戯神に命令され行動しているとしか思えない。

 話を聞けば聞くほど不可解な点が多く、主人公補正でも掛かっているかのように都合のいい展開が続いていることも遊戯神が言うところの演出の一つなのだろうか。

「暴走状態のサティナを無力化した天使族の名前がセラスレークですニャ。邪神が魔素を撒き散らしてなかったら対処できたのニャ!!」

 サティナの魔力が爆発的に膨れ上がり暴走状態に陥ったのは邪神の放つ魔素を取り込んだことが要因の一つとみて間違いない。

 相当強い負の力だったようで僅かだがあの場に居た全員に魔素の残滓らしきものが残っているのが見える。

 今にも消滅しそうなほど希薄、ただ残滓の奥に小さな虫のような何かがうごめいているのを見つける。

(何だあれ・・・・・・ 虫? ・・・・・・なるほどね。魔素はダミーで呪いが本体か・・・・・・ それにしても悪趣味だな。【坑呪聖光アンチカース】)

 次の瞬間、玉座を中心に光の波紋が広がっていく。

 するとセクメトラの魔素を浴びた全員の中で蠢いていた黒い虫のようなものが悲鳴を上げながら消えていった。

「にゃ⁉ 今のなんにゃ?」

「宿主の魔力を糧に成長する寄生型の呪いの一種だと思う。解呪できたみたいだから安心して」

 解呪されたことにより魔力の流れが正常化され意識を失っている者達も目を覚ますだろう。

「こ、ここは玉座の間?」

 声のする方へ視線を向けると体を起こし周囲を見渡しているサティナの姿が目に入る。力が入らないのか立ち上がることができないようだ。

 ただ坑呪聖光アンチカースより間違いなく解呪されている筈なのだがカイだけが今もまだ目を覚まさない。見た目以上に深いダメージを負っているとすれば暫く話を聞くことが出来ないかもしれない。

 カイと獣人達をオリスに任せ女神セクメトラ達との間に何が起こったのか詳しい話を聞くと興味深いことが判明する。

 邪神の魔素を吸収し闇に呑まれ暴走したサティナは側近と思われるセラスレークという天使族の男に敗北、本来なら命を奪われても何ら不思議ではない状況下だというのに解呪を試みた。

 結果的に解呪できず呪いという本質を隠すことになりはしたが高濃度の魔素を取り込んだままで居たら無事でいられなかったかもしれない。

 同族であること、セクメトラに勧誘されたことにより生かされただけという可能性も否定できないが助けられたことは事実。

 明確な理由は分からないが言い放たれた言葉からも意図的に生かした可能性を感じさせ、同時に幾つかの疑問を産み落とす。

 なぜサティナは初対面でありながら闇に呑まれるほどに激怒したのか。

 セクメトラの守護者が天使族の固有スキルを使用できたこと関しては神の力が何らかの影響を与えていたと考えられなくもないが、セクメトラの姿を見ただけで我を忘れたりするだろうか。

 理由を本人に尋ねてみたが記憶がハッキリしておらず何も思い出いそうだが、その瞬間感じた憎しみの感情は今も消えていないそうだ。

 続けてウィクスの話を聞き疑問がまた一つ増える事になった。

「白き炎はてんくうへ。諸共もろとも遊戯ゆうげ叶わぬ母の想い置き、愛しき我が子のおもいすことを願わん」

 初代国王ライオス・ニア・ヴェルダーが王位と共に継承するようにと後世に残した口伝の一節にラグナロクという言葉が使われているそうで半年前、ラグナロクという戦いについて文献や伝承、各地で起きる異変の調査を行うように王命が下った。

 伝承は解釈一つで幾つもの答えを生み出し時間の経過と共に歪曲わいきょく、本来持つ意味と乖離かいりしてしまう場合がある。

 歴代の王達はライオスが残した辞世の言葉で深い意味などないと考えていたそうだがルーファの父でもある現ヴェルダー王は異を唱え調査を開始したそうだ。 

 全文を聞いてみなければ関連が有るのか判断できないが話を聞くだけの価値はあるように思える。

「王女殿下にお願いしたいことがあります。皆さんを国までお送りするので継承されている話の全文を聞くことができないでしょうか?」

「・・・・・・ もうルーファって呼んでくれないの?」

 命を助けたと言っても一国の王女を呼び捨てにするのは何かと不味い気がする。

「申し訳ないのですがルーファの願いを聞き届けてもらえないだろうか。幼少の頃から兄への強い憧れがあるようでな。それに多少の打算的なところもありますので気になさらないでください」

「・・・・・・ 分かりました。堅苦しいのが苦手なので、そう言ってもらえると正直助かります」

 ゲーム感覚が抜けていないのか二人に対してネガティブな感情が全く沸かないどころか、信頼できると無条件で思えてしまうのはセクレシアの神になったからなのだろうか。

「今回はルーファの気持ちを尊重するけど公の場だけは我慢してくれよ」

「うん。お兄ちゃんとの約束だからルーファ絶対守るよ。それに御父様にもちゃんとお願いするから」

 国王から話を聞けるように取り計らうと嬉しそうに約束してくれたルーファを眺めながら安堵の息を漏らす。

 もしも出会うことなく謁見を申し出ていたら門前払いされていた可能性すらある。

「今日は一旦解散して明朝、ヴェルダー王国へ向け出発する。サティナ、ミィは同行してもらうから準備しておいて」

 レイスに後を頼みミィを膝の上から下ろすと玉座の間から自室へ転移すると寝室へ向かいベッドへ飛び込み目を閉じる。先程まで疲れを一切感じなかったのだが自室に戻ると、強い睡魔に襲われる。


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