パラサイトシングル

杜乃真樹

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第8話 交差点

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 今日はいつもより早い時間に目を覚まし朝食を済ませ出かける準備を始める。

 帰省してからというもの配信の事ばかりに気を取られ外出するどころか部屋に籠りがちになっていることもあり、気分転換も兼ねて近所を散策してみることにした。

 配信方法やキャラ設定などで頭を悩ませていた昨日までと違い焦りに似た感情が消えている。だからと言ってリインカーネーションを卒業する日まで尻叩き配信だけって言うのも違う気がしてならない。

 準備を済ませ一階へ向かう途中、華純に出くわしたが何も言われることなく見送ってくれた。珍しく出かけるのかと根掘り葉掘り聞いて来るだろうと覚悟していたのだが肩透かしを食らってしまう。

 幸運なのか不吉な前兆か。何事も無いことを祈りつつ、今日どうしても行きたかった場所へと向かう。その場所とは実家から徒歩だと一時間ほど離れた場所にある桜木神社。

 この桜木神社は知る人ぞ知るパワースポットとして地元では有名な神社で、交通安全から縁結びまで御利益があると言われている。

 神頼みという訳ではないのだが散策がてら御参りに行くのも良いかもしれないと今回立ち寄ることにした。普段から初詣や御参りに行かない人間が神社に行く口実なんて何かのついでが関の山じゃないだろうか。

 バス移動であれば簡単に行ける距離なのだが歩きたい衝動に駆られ徒歩で向かうことを決めたが想像以上に体力の消費が激しい。

 バス停を通過するたびバス移動の誘惑に敗北しそうになりつつも何とか耐えぬき桜木神社へ辿り着いた。鳥居をくぐり境内へ向かうと参拝に来たと思われる人の姿をちらほら見かける。

 平日の昼間にこれだけ参拝者が訪れているところを見るとパワースポットというのも満更間違いじゃないのかもしれない。

 参道を歩いていると左手に神楽殿かぐらでん、正面に拝殿はいでんが見えてきた。思っていたより広い境内で社務所に併設された授与所には御守りや御神籤おみくじを買い求める人で賑わっている。

 御御籤ぐらいなら引いてみようかと思っていたが予想以上の混雑具合から参拝後に寄ることにした。多いと言っても十人ほどなのだが気分的に御参りを先に済ませておきたい。昨日調べておいた参拝作法を実践し今年こそ自分を変えると心の中で呟く。叶えてほしいという願望じゃなく絶対に叶えると決意を願う前に伝える。

 ただし自分の力ではどうすることも出来ない、例えば縁を結ぶこと、人との出会いと言った運を必要とすることに関しては神頼みするしかない。

 願いを心の中で呟き一礼し授与所へ御御籤を引くために移動する。先程まで賑わっていた授与所付近に人達の姿はなく閑散としていてる。

 占い同様、当たるも八卦当たらぬも八卦、参拝した後で最初にやる運試し。巫女にお金を渡し箱の中から適当に選んだ御御籤を一枚引き近くにあるベンチに腰掛けると開封し何が書かれているか確認してみる。

(どれどれ・・・・・・ おっ。大吉だ。願い・・・・・・ 首尾よく叶う。待ち人・・・・・・ すぐ近くに居る)

 大吉だけあってネガティブ要素の欠片すら書かれていない。基本的に占いの類に興味もなければ信じていないのだが今回だけは不思議と気分が高揚している。

 これだけで満足感があり散策を切り上げ実家に戻ろうかと思いベンチから立ち上がろうとした次の瞬間、目の前で女性が何かに躓き転んでしまう。

「ちょ、ちょっと。姫麗きらら、大丈夫?」

「へ、平気」

 友達らしき女性が駆け寄り心配そうに話しかけ、何事も無かったかのように返事をしているが相当痛かったんじゃないだろうか。怪我をしていなければ良いのだが。

 人通りの有る拝殿へと続く参道のど真ん中に躓くつまず原因になった障害物があるのなら撤去するなどの対策を行ってもらう必要がある。放置していると更なる被害者を生み出しかねない。

 転んだ辺りの足元、周辺を見渡してみたが綺麗に整備されていて小石すら見つけられない。だとすれば女性は何故転んだのだろうか。

「何が大丈夫なのよ。てのひら、擦りむいてるし。ほんとドジ過ぎだって」

 もし自分が同じ状況に陥ったと仮定するなら派手に転んだ瞬間を目撃されたくない。せめて視線だけは外しておいてあげようと思いスマホを取り出し目線を落とす。

 ただ怪我しているらしく気になって仕方ない。大怪我していないかだけ確認しようと視線を上げた瞬間、姫麗と呼ばれる転んだ女性と視線が合ってしまう。

「あっ・・・・・・」

「あっ・・・・・・」

 恥ずかしい瞬間を見られたことで恥ずかしくなったのか見る見る内に顔が赤みを増していく。全力で見ていないアピールを繰り返すが全く伝わっていない。

 今すぐこの場から立ち去りたいのだが何故だか立ち上がることができない。だからと言って大丈夫ですかと声をかけることもできない。

「もう無理。死んじゃう」

 涙目になっているところを見ると、やはりどこか怪我をしているのかもしれない。意を決し話しかけようと立ち上がると転んだ女性も同様に立ち上がり駐車場の方へと走り去ってしまった。

 友達らしき女性は申し訳なさそうな表情で軽く会釈した後、駐車場の方へと走り出す。目の前で転んだ姫麗と呼ばれる女性に対し何か失礼なことを無意識にしてしまったのだろうか。
 
 今となっては何が起きたのか分からないが面白い出来事に遭遇したのは幸運だった。配信時に話す雑談のネタとしては十分だろう。

 その後、帰り道で鉢合わせしないように暫くベンチで休んでから帰路につく。

 帰り着くと徒歩で往復したからか、どっと疲労感と睡魔が押し寄せてきた。少し横になろうと思いベッドに寝転がり目を閉じると、いつの間にか眠ってしまっていたらしく配信三十分前を知らせるアラームで目を覚ます。

 散策という運動の効果か驚くほど熟睡していたようで何だか調子がすこぶるいい。また雑談ネタを入手したことで心の余裕ができたからか風呂場へ向かう足取りも軽い。

 いつもの様に洗髪、洗顔し体を洗い湯船に浸かれる状態にした後、配信ルームを立ち上げ配信を開始、毎回顔を出してくれる常連リスナーやファイバーや兎牙と言った相互フォローしている配信者が次々に入室してくる。

「こんしゃろー」

 入室者は五名。いつものメンバーということもあり何とも言えない安心感がある。

「皆さん今日は何して過ごしましたか? おじさんは近所にあるパワースポットとして地元で有名な神社に行ってきたんだけど、その神社で起きた出来事について話をしようと思ってます。その前に・・・・・・ 今日も来てくれてありがとう」

 パーン!! パーン!! パン!! パーン!! パーン!!

 破裂音が五度、浴室に響き渡る。尻を叩く回数が増える度、羞恥心が少しずつ消えていく気がする。

「御参りした後、御御籤(おみくじ)を引いてベンチに座って読んでたら女の人が目の前で派手に転んじゃって」

「シャロウさん!! ちょっと待って!! 死んじゃう」

 突然、兎牙の慌てたようなコメントが連続で表示される。しかもどこかで聞いたことのあるフレーズを連呼している。

「兎牙さん? どうかしました・・・・・・」

 何が起きたのか分からず問いかけてみたがコメントは返ってこない。何か問題でも起きたのだろうか。

 心配になりもう一度呼びかけようとした瞬間、類似した状況がふと脳裏をよぎる。

 それは今まさに話していた神社での出来事、思い返すと類似というより全く同じ状況。

(あれっ。あの女の人も同じこと言ってたような・・・・・・ あっ)

 偶然、同じような言動を目にしているのかもしれないが、兎牙本人に確認するまで誰かに話すのは止めておいた方が良さそうな気がしてきた。

 そもそも同郷どころか同じ県に住んでいる事すら知らなかったのだから分からなくても仕方がない。例え毎日配信を聞きに行っていたとしても目の前で派手に転んだのが兎牙本人だと気がつける人など居ないだろう。

 その後、晩御飯の時間ぎりぎりまで配信を続けたがコメント欄に兎牙が戻ることはなかった。知らなかったとはいえ大勢の前で話してしまったのだから謝罪した方が良いような気がする。

 食事を済ませ部屋に戻りベッドに腰かけた瞬間、滅多に鳴ることのないスマホの着信音が鳴り響く。

 慌ててスマホを確認してみるとファイバーと表示されている。

「もしもし。シャロウさん大変です!!」

 何か慌てているような口調、何か問題が発生したのは間違いなさそうだが何が起きたのか想像すらつかない。
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