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第9話 Re:出会い
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結論から言うと派手に転んだ女性は兎牙だった。
ファイバーからの電話は正に兎牙に関係していたのだが、思っても見ない方向へと話が変化していく。
「さっき話していた転んだ女性の話なんですが・・・・・・ あれ兎牙の事だったみたいで。さっき恥ずかしくて配信できない! 引退しますってDMがきて」
「やっぱり兎牙さんだったんだ。転んだ人と同じ反応だったから・・・・・・ それにしても引退まで考えてるなんて」
「こんなの誰も分からないですって。だから気に病まないでください」
人気配信者の兎牙を引退に追い込んだ男という誇張された悪い噂が広まればこれまでの苦労が泡と消えリインカーネーションでの活動も終焉を迎えることになる。
確かにファイバーの言う通りなのかもしれないがフォローしていたリスナーからすれば推しを引退に追い込んだ配信者でしかない。
「シャロウさんと俺、兎牙の配信ってほぼ毎日視聴しに行くじゃないですか?」
つまり暫く顔をようにすることで鎮静化を図ろうということなのだろう。そう考えると配信自体、暫くの間、開かない方が良いのかもしれない。
「分かりました。暫くアプリ開かないようにしますね」
「いやいやそうじゃなくて。シャロウさんの配信楽しみにしているリスナーに申し訳ないですし、兎牙にも配信続けて欲しいんですよ」
視聴しに行きたいと言ってくれるリスナーが居てくれることは素直に嬉しい。だが引退したいと考えさせる原因を作ったのだから何らかのペナルティを受ける必要があるんじゃないだろうか。
そう考えていたのだがファイバーから予想外の提案を受ける。
「そこで提案なんですが。今度、二人で飯行くじゃないですか。そこに兎牙も誘いましょう! 親睦会を開けばいいんですよ。転んだ時、友達と一緒だったそうだけど友達に対しては恥ずかしくなかったそうなんですよね」
友達になら目撃されても恥ずかしくないと言うのなら友達になればいい。そんな単純な問題じゃないような気もするが恥ずかしい気持ちを軽減させることは可能なのかもしれない。
それにより引退危機を回避できるのなら提案を受けてもいい。
「このままだと本当に引退しちゃうかもしれないですよ。それに二人で会うって訳じゃないじゃないから問題ないですって。調整は俺がやるんで任せてください」
ここまで親睦会を開催する方向へと話が動き始めると、謝罪の場を設けてくれるのなら渡りに船なんじゃないかという気持ちが芽生え始めてくる。
実際問題としてどんな理由があるにしろ恥ずかしい思いをさせたことの謝罪だけはしておきたいし、セッティングなどファイバーがしてくれるのも正直有難い。
「日程決まったら連絡しますね。それじゃおやすみなさい」
多分、ファイバーなら上手く話を纏めて場を設けるんじゃないだろうか。兎牙が提案を受けない可能性も十分にあるが何となく親睦会が開催されるんだろうなと思っている自分が居る。
そして一時間もせずにその考えが現実のものとなる。
送られてきたDMには「親睦会なんですが十一日の夜に決まりました。予定空けといてください。場所と時間は決まり次第連絡します」
仕事が早い、早過ぎる。そうなるだろうと思っていても心の準備の時間ぐらい欲しかった。
一月十一日
あの日から兎牙は配信を行わず視聴しに来ることもないまま親睦会当日を迎えた。
リインカーネーション内のメール機能を使って兎牙に何か謝罪メッセージを送った方が良いんじゃないかと考えたりもしたが何と言葉をかけていいか思いつかず時間だけが過ぎていった。
待ち合わせは十九時、最寄り駅でもある青坂駅までバス移動なら大して時間はかからないのだが、何となく徒歩で向かっている。
電話で何度か話したことのあるファイバーと、ある意味では面識があるといえなくもないが基本的に配信でコメントし合っている程度の兎牙、そんな二人と食事に行くというシチュエーションに緊張はピークを迎え、逃げ出したい衝動に駆られバスに乗れなかったという訳だ。
だからと言って逃げ出せるわけも無くと遅刻しないように早めに家を出て歩いているという小心者っぷりを遺憾なく発揮している。
今回の事も考えてみれば帰省していなければ、例えリインカーネーションで配信を始め二人に出会ったとしても食事に行くことには絶対にならなかった。
この経験が今後の人生に大きな意味を持つと理解しているからこそ逃げることができない。
待ち合わせ三十分前、足取り重く五分前くらいに着けばと考えていたのだが思っていたより足取りは軽かったようで想定より早く青坂駅に着いてしまった。
そのまま待ち合わせ場所へ向かえば良いだけなのに躊躇してしまいバス停にあるベンチに腰掛け目線を落とす。
待ち合わせ場所まで一分とかからないのだからファイバーが到着するか十分前に向かえばいい。それまでの間、心を落ち着かる。
初めて配信した時とは比べ物にならない程、緊張しているのが分かるからこそ心を落ち着かせる時間が必要になる。
暫く目を閉じ心を落ち着かせ大きく息を吸いこみ吐き出す。
「はぁーーー・・・・・・ んっ?」
「はぁーーー・・・・・・ えっ?」
息を吐きだした瞬間、すぐ近くで同じように深呼吸しているような、息を吐いている音が聞こえてきた。目を閉じ考え事をしていたことでベンチに誰か座ったことに気がつかなかったみたいだ。
慌てて隣に目線を向ける。
「あっ・・・・・・」
「うそっ・・・・・・」
最悪の状況に言葉を失う。ベンチの右端に座り驚いた表情で固まっている兎牙の姿が目に飛び込んできた。そして桜木神社の境内の時同様、顔が赤く染まっていく。
何か言葉を掛けなければと思えば思うほど何も浮かんでこない。何とかしなければ走り去ってしまいそうな空気に包まれる。
「こ、こんしゃろー・・・・・・」
「・・・・・・」
完全にやってしまった。絞り出した言葉は苦し紛れにもならない。顔が燃えるように熱く鏡を見なくても兎牙並みに赤くなっていることが分かる。
「・・・・・・ ふふっ。あはははは。こんしゃろー」
兎牙の配信でよく見る光景。同じように心底楽しそうに笑っている姿を見て胸を撫で下ろす。前回の様に走り去られたら謝罪の場を設けてくれたファイバーに申し訳ない。
「あの、転んだこと配信で話してしまって、本当にごめん」
「その事なら、もう良いんです。シャロウさんも凄―く恥ずかしかったみたいですし」
苦し紛れに発した言葉に救われたのか兎牙が寛容だったのか分からないが何とか最悪の事態を乗り切り謝罪することができた。これだけで今日来て良かったと心底思う。
するとタイミングを見計らったかのようにファイバーから待ち合わせ場所に着いたという連絡が入る。
「ファイバーさん着いたみたいだから移動しましょうか」
結局、アプリ内でどんなに仲良くなろうとリアルに及ぼす影響はたかが知れている。簡単に縁を切り新たな縁を紡ぐ。
現実と仮想が入り混じった世界だからこそ常識ある言動を心掛ければならない。
きっとそうすることで自分と関りを持つ人ぐらいなら笑顔にできるのかもしれない。
ファイバーからの電話は正に兎牙に関係していたのだが、思っても見ない方向へと話が変化していく。
「さっき話していた転んだ女性の話なんですが・・・・・・ あれ兎牙の事だったみたいで。さっき恥ずかしくて配信できない! 引退しますってDMがきて」
「やっぱり兎牙さんだったんだ。転んだ人と同じ反応だったから・・・・・・ それにしても引退まで考えてるなんて」
「こんなの誰も分からないですって。だから気に病まないでください」
人気配信者の兎牙を引退に追い込んだ男という誇張された悪い噂が広まればこれまでの苦労が泡と消えリインカーネーションでの活動も終焉を迎えることになる。
確かにファイバーの言う通りなのかもしれないがフォローしていたリスナーからすれば推しを引退に追い込んだ配信者でしかない。
「シャロウさんと俺、兎牙の配信ってほぼ毎日視聴しに行くじゃないですか?」
つまり暫く顔をようにすることで鎮静化を図ろうということなのだろう。そう考えると配信自体、暫くの間、開かない方が良いのかもしれない。
「分かりました。暫くアプリ開かないようにしますね」
「いやいやそうじゃなくて。シャロウさんの配信楽しみにしているリスナーに申し訳ないですし、兎牙にも配信続けて欲しいんですよ」
視聴しに行きたいと言ってくれるリスナーが居てくれることは素直に嬉しい。だが引退したいと考えさせる原因を作ったのだから何らかのペナルティを受ける必要があるんじゃないだろうか。
そう考えていたのだがファイバーから予想外の提案を受ける。
「そこで提案なんですが。今度、二人で飯行くじゃないですか。そこに兎牙も誘いましょう! 親睦会を開けばいいんですよ。転んだ時、友達と一緒だったそうだけど友達に対しては恥ずかしくなかったそうなんですよね」
友達になら目撃されても恥ずかしくないと言うのなら友達になればいい。そんな単純な問題じゃないような気もするが恥ずかしい気持ちを軽減させることは可能なのかもしれない。
それにより引退危機を回避できるのなら提案を受けてもいい。
「このままだと本当に引退しちゃうかもしれないですよ。それに二人で会うって訳じゃないじゃないから問題ないですって。調整は俺がやるんで任せてください」
ここまで親睦会を開催する方向へと話が動き始めると、謝罪の場を設けてくれるのなら渡りに船なんじゃないかという気持ちが芽生え始めてくる。
実際問題としてどんな理由があるにしろ恥ずかしい思いをさせたことの謝罪だけはしておきたいし、セッティングなどファイバーがしてくれるのも正直有難い。
「日程決まったら連絡しますね。それじゃおやすみなさい」
多分、ファイバーなら上手く話を纏めて場を設けるんじゃないだろうか。兎牙が提案を受けない可能性も十分にあるが何となく親睦会が開催されるんだろうなと思っている自分が居る。
そして一時間もせずにその考えが現実のものとなる。
送られてきたDMには「親睦会なんですが十一日の夜に決まりました。予定空けといてください。場所と時間は決まり次第連絡します」
仕事が早い、早過ぎる。そうなるだろうと思っていても心の準備の時間ぐらい欲しかった。
一月十一日
あの日から兎牙は配信を行わず視聴しに来ることもないまま親睦会当日を迎えた。
リインカーネーション内のメール機能を使って兎牙に何か謝罪メッセージを送った方が良いんじゃないかと考えたりもしたが何と言葉をかけていいか思いつかず時間だけが過ぎていった。
待ち合わせは十九時、最寄り駅でもある青坂駅までバス移動なら大して時間はかからないのだが、何となく徒歩で向かっている。
電話で何度か話したことのあるファイバーと、ある意味では面識があるといえなくもないが基本的に配信でコメントし合っている程度の兎牙、そんな二人と食事に行くというシチュエーションに緊張はピークを迎え、逃げ出したい衝動に駆られバスに乗れなかったという訳だ。
だからと言って逃げ出せるわけも無くと遅刻しないように早めに家を出て歩いているという小心者っぷりを遺憾なく発揮している。
今回の事も考えてみれば帰省していなければ、例えリインカーネーションで配信を始め二人に出会ったとしても食事に行くことには絶対にならなかった。
この経験が今後の人生に大きな意味を持つと理解しているからこそ逃げることができない。
待ち合わせ三十分前、足取り重く五分前くらいに着けばと考えていたのだが思っていたより足取りは軽かったようで想定より早く青坂駅に着いてしまった。
そのまま待ち合わせ場所へ向かえば良いだけなのに躊躇してしまいバス停にあるベンチに腰掛け目線を落とす。
待ち合わせ場所まで一分とかからないのだからファイバーが到着するか十分前に向かえばいい。それまでの間、心を落ち着かる。
初めて配信した時とは比べ物にならない程、緊張しているのが分かるからこそ心を落ち着かせる時間が必要になる。
暫く目を閉じ心を落ち着かせ大きく息を吸いこみ吐き出す。
「はぁーーー・・・・・・ んっ?」
「はぁーーー・・・・・・ えっ?」
息を吐きだした瞬間、すぐ近くで同じように深呼吸しているような、息を吐いている音が聞こえてきた。目を閉じ考え事をしていたことでベンチに誰か座ったことに気がつかなかったみたいだ。
慌てて隣に目線を向ける。
「あっ・・・・・・」
「うそっ・・・・・・」
最悪の状況に言葉を失う。ベンチの右端に座り驚いた表情で固まっている兎牙の姿が目に飛び込んできた。そして桜木神社の境内の時同様、顔が赤く染まっていく。
何か言葉を掛けなければと思えば思うほど何も浮かんでこない。何とかしなければ走り去ってしまいそうな空気に包まれる。
「こ、こんしゃろー・・・・・・」
「・・・・・・」
完全にやってしまった。絞り出した言葉は苦し紛れにもならない。顔が燃えるように熱く鏡を見なくても兎牙並みに赤くなっていることが分かる。
「・・・・・・ ふふっ。あはははは。こんしゃろー」
兎牙の配信でよく見る光景。同じように心底楽しそうに笑っている姿を見て胸を撫で下ろす。前回の様に走り去られたら謝罪の場を設けてくれたファイバーに申し訳ない。
「あの、転んだこと配信で話してしまって、本当にごめん」
「その事なら、もう良いんです。シャロウさんも凄―く恥ずかしかったみたいですし」
苦し紛れに発した言葉に救われたのか兎牙が寛容だったのか分からないが何とか最悪の事態を乗り切り謝罪することができた。これだけで今日来て良かったと心底思う。
するとタイミングを見計らったかのようにファイバーから待ち合わせ場所に着いたという連絡が入る。
「ファイバーさん着いたみたいだから移動しましょうか」
結局、アプリ内でどんなに仲良くなろうとリアルに及ぼす影響はたかが知れている。簡単に縁を切り新たな縁を紡ぐ。
現実と仮想が入り混じった世界だからこそ常識ある言動を心掛ければならない。
きっとそうすることで自分と関りを持つ人ぐらいなら笑顔にできるのかもしれない。
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