「真白」〜〜雪と蛇の女〜〜

まへまへ

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第8話 母に伝える準備

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翌朝、ロッジの中はまだ静かだった。

台風の名残で、外にはわずかに雪が舞い、屋根の雪が朝日を受けてキラリと光る。

一朗は台所で朝食の準備をしながら、ふと思った。

——母さんに、どう自然に話そうか。

パーカーとジャージをきれいにたたみ、裏口に置く。

 「これで、準備は完璧……かな」
 
小さく呟きながら、箸を握る手に力を入れる。
 
母は居間で新聞を広げていた。

 「おはよう、一朗。雪は思ったより少ないね」

穏やかな声。だが、一朗は胸の奥で少し緊張していた。

 「おはよう、母さん」

一朗は新聞に目を落とす母の横で、少し間を置いた。

——どうやって話そう……

 「昨日の夜、白い蛇のことなんだけど……」

母はちらりと一朗を見た。

 「……うん?」

一朗はゆっくりと、言葉を選びながら続けた。

 「……ただの蛇じゃなくて、ちょっと不思議なやつでさ……」

目の前で母の眉が少し動く。

 「不思議な……?」

 「そう。人間みたいに、意思がある感じで……」

うまく言葉にできず、一朗は口を閉じる。

——まだ全部は言わない。自然に……

母は黙って一朗を見つめる。

その穏やかな視線に、一朗は少し安心し、

 「で、今日は……山からこの子が、姿を変えて来る予定なんだ」

母は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに柔らかく頷いた。

 「そう……そうなのね」

言葉は少なかったが、どこか受け入れるような響きがあった。

一朗は心の中で小さくほっと息をつき、

 「うん、自然に見えるようにしてるから、びっくりしないと思う」

母は微笑みながら、新聞を畳んだ。

 「じゃあ、楽しみに待っていましょうか。その子のこと、あんたがちゃんと面倒見なさいね」

一朗は笑いながら頷いた。

 「もちろんだよ。母さん、心配しなくていい」

その言葉を口にした瞬間、胸の奥にあったわずかな緊張が、雪解けのようにふっと消えた。

——あとは、真白が来るのを待つだけだ。

外の雪が朝日を反射してまぶしく光る中、一朗は静かに、次の瞬間を心待ちにしていた。

パーカーとジャージは裏口にきれいに置かれている。
 
胸の奥は少し緊張しながらも、期待で温かかった。

 「そろそろかな……」

窓の外、屋根の上を雪が薄く覆う中、ふわりと白い影が滑るように現れた。

光を帯びたその影は、瞬く間に人間の少女の姿へ変わる。

――真白だった。

黒髪に整えられた長い髪、肌はほんのり人間の色。

パーカーとジャージを着こなした姿は、まるで普通の少女のようでありながら、どこか神秘的な雰囲気をまとっていた。



一朗は立ち上がり、ゆっくりと歩み寄る。

 「おはよう、真白。来てくれたんだな」

真白は小さくうなずき、少し照れたように笑った。

 「おはよう、一朗」

その微笑みは、雪の朝の光に溶けるように柔らかく、見ているだけで心がほっとする温かさを持っていた。

一朗はパーカーのフードを整えながら言った。

 「よし、これで完璧だ。……外に出ても誰も驚かないな」

真白は指先でジャージの袖をつまみ、嬉しそうに首をかしげた。

 「うん、なんだか人間みたいで楽しい!」

一朗は笑いながら、台所の方に手を振る。

 「朝ごはん食べるか? 今日は昨日の残りのササミもあるぞ」

真白は目を輝かせ、にこっと笑った。

 「わーい! 楽しみ!」

その瞬間、ロッジの中の空気は、雪と光と二人の笑い声で、静かに温かく満ちた。

——神の使いだった白蛇は、今、ここで確かに“人”として存在している。

その奇跡のような光景に、一朗は心の奥で小さくつぶやいた。

 「……これから、毎日が楽しみだな」

真白も笑顔で頷く。

 「私も、一朗と一緒にいるのが楽しみだよ」

朝の光の中、雪のロッジに二人の新しい日常が静かに始まった。
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