「真白」〜〜雪と蛇の女〜〜

まへまへ

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第27話 雪の上の撮影会

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ロッジ前、撮影準備。

外はまだ薄い雪が舞っている。

吐く息が白く溶けていく寒さの中で、スタッフがカメラとリフレクターを準備していた。

ミキは、すっと背筋を伸ばしながらスタッフに声をかける。

「一日中つき合わせたら悪いでしょ?だから最初に――真白ちゃんとのツーショットから行きましょう。」

スタッフは少し驚いたように眉を上げ、すぐに頷く。

「了解しました。では近くの場所でいきましょう。」

ミキは振り返り、柔らかい目つきで一朗と真白を見る。

「一朗さん、場所の案内頼んだわ。」

「もちろん。」

一朗はにこりと笑うが——

真白は、きゅっと口を結び、カチコチに固まっていた。
 
ミキはすぐに気づく。

「真白ちゃん、緊張してる?」

真白は、こくん、と小さく頷く。

「……だって……写真……撮られるなんて……。」

ミキはくすっと笑って、真白の腕をそっと引いた。

「じゃあ、一緒に練習しよ?」

ロッジの玄関前、雪の上に並んで立つ二人。

まだ二人とも、ラバースーツの上からダウンジャケットとニットを着ている。

ミキはまず、両手を腰にあてて胸を張る。

「はい、まずはモデルっぽい“堂々ポーズ”。ドーン!って感じで立つの!」

真白は同じように手を腰に置こうとして——

肩が上がり、肘がぎこちなく曲がり、膝が引ける。

ミキはすかさず笑いながらツッコむ。

「ちょっとちょっと!今の“すぐ逃げます!”のポーズじゃん!」

一朗も後ろで、思わず吹き出した。

「た、確かに……」

真白は耳まで真っ赤にして、両手をばたばたさせる。

「わ、わかんないの……!どうすればいいの……!」

ミキは楽しそうに、真白の背中にそっと手を添える。

「肩の力抜いて。背すじ伸ばして。胸をほんの少し前に、あごをすこーし上げて。」

真白は言われた通りにする。

ふわりと風が髪を揺らした。

ミキは満足そうに目を細める。

「そう、それそれ。すごい。真白ちゃん、綺麗な顔してるんだから、隠さなくていいんだよ。」

真白はじんわり胸が熱くなった。

「……ミキさんみたいにはできないかも。」

「できないわけないでしょ。」

ミキは真白の手をとって、軽く振った。

「だって、私の親友なんだから。一緒に写るの、すっごく楽しみなの。」

真白は目を潤ませて微笑む。

「……うん。頑張る。」
 
その光景を見ていた一朗は、気づけば歩み寄っていた。

「真白。」

真白が振り返る。

「大丈夫。俺がいるから。」

その一言で、真白の緊張は——ふっと、ほどけた。

ーーーーー

雪原 ― 撮影スポット

森とロッジの間、小さな開けた雪原。

白い地面が淡く光を返し、空気はきりりと冷たい。

一朗が振り返って言う。

「ここがいい。背景がきれいに抜けるから。」

スタッフも頷き、機材を整え始める。

ミキは息を吐き、指先を首元にかけると――迷いなく、着ていたダウンをサッと脱いだ。

つやり、と黒が光を返す。

ラバースーツは寒さをものともしないように身体に沿い、曲線も、姿勢も、すべてが引き締まって見える。

堂々と、自然に立つ。

その姿には、もう「慣れ」ではなく、自分のスタイルとしての誇りがあった。
 
真白は、その横で――小さく息を吸い込む。

「……よし。」

そう言って、ニットを脱ぐ。

下から現れたのは同じく黒いラバースーツに黒いラバーコルセットを合わせたスタイル。

光が当たるたび、やわらかいラインを思わせる反射が走る。

雪の白の上に、黒が浮かび上がる。

それだけで、絵になる。
 
スタッフの女性が、思わず声を漏らした。

「……綺麗……!真白さん、スタイル抜群……そこらへんのモデル、太刀打ちできないですよこれ……」

真白は一瞬で顔が真っ赤になる。

「え、そ、そんな……」

ミキは、ぱんっと肩を叩いて笑う。

「ほら言ったでしょ!?真白ちゃん、絶対売れるって!モデルやればいいのに!」

真白は戸惑いながら、一朗の方を見る。

「……どう? 変じゃない?」



一朗は一瞬だけ口を開きかけて、気持ちを整えるように目を細めた。

「変なわけない。…すっげぇ、綺麗。」

真白の胸がふわりと温かくなる。

一朗は照れも隠さず言葉を続けた。

「今日は、ちゃんと真白だけを見るから。」

その一言で、真白の肩から緊張がすうっと落ちていった。

そして――真白はぱっとミキの腕を取る。

「ミキさん! 一緒に写真撮ろう!」

ミキはにかっと笑う。

「もちろん!相棒でしょ、私たち!」
 
二人は並んで立つ。

黒いスーツが、雪の光をうけてほんのり輝く。

カメラマンが構える。

「じゃあ、いきます――!」

シャッターの前、真白はほんの一瞬だけ横目でミキを見る。

ミキは堂々とした笑顔。

その笑顔が、真白にも伝播する。

二人の表情が――ぴたりと揃った。

カシャッ。

雪の白と、二人の黒。

そのコントラストは、冬の空気に凛と映えた。

撮影は静かに“プロの空気”へと変わっていくカメラのシャッターが数回切られたあと、スタッフが思わず息を呑んだように声を漏らした。

「……二人、本当に絵になる……」

空気が変わった。



それはただ 綺麗 とか 可愛い とか、そういう言葉よりも深く――作品として成立してしまう、そんな空気。

カメラマンが小さく手を挙げる。

「光、入れ直す。レフ板、もう少し左……雪面の反射を拾って。」

スタッフが素早く動く。

白銀の景色に、黒いスーツが浮かび、その輪郭に柔らかい光が回りはじめる。

風が弱くなった。

雪はきらきらと舞い、二人の周囲に粒のように散った。
 
ミキは軽く顎を上げ、姿勢を整える。

プロの身体だった。

体重の乗せ方、手先の角度、視線の方向――そのすべてが写真の完成形を知っている。

その横で、真白は――まだぎこちない。

けれど。

先ほどより肩の力が抜けている。

呼吸が深くなっている。

ミキがそっと囁くように言う。

「真白ちゃん、手を……こう。指は力入れないで、雪の上にそっと触れるみたいに。」

真白は首を小さく縦に振り、その通りにしてみる。

黒いスーツに雪の光がそっと乗り、白と黒の対比が、ふっ、と柔らかく美しく繋がった。

カメラマンの声が低く響く。

「……そのまま。はい、真白さん、目線こちら。」

真白はゆっくりとカメラを見た。

カシャッ。

カシャッ――

レンズの向こう、完成していく絵。


 
スタッフが小さな声で言う。

「すごい……本当に、雪の精と影の守り神みたい……」

それはたしかに、ただの例えではなくその瞬間の“真白とミキ”そのものだった。

ミキは楽しそうに微笑む。

「ね、真白ちゃん。もう緊張してないでしょ?」

真白は少し照れて笑う。

「……うん。ちょっとだけ、楽しいかも。」

ミキは、にっこり。

「そう。それでいいの。」

一朗は少し離れた場所で、その二人を見つめながら――胸の奥が、すこし熱くなるのを感じていた。

一朗は――見惚れていた。

真白とミキが、雪の上で並んで立っている。



黒い光沢の衣装が雪の反射を受けて、二人の輪郭だけが鮮明に浮きあがって見えた。

その姿は――もう、ただの撮影ではなかった。

美しいとか、似合うとか、そういう言葉では足りない。

そこに“気持ち”があった。

一朗は、気づけば息を止めていた。
(……真白、綺麗すぎるだろ……)
 
その横で、カメラアシスタントの女性スタッフがそっと一朗へ顔を寄せ、小さな声で囁いた。

「……あの、質問してもいいですか?」

「ん?なに?」

「真白ちゃんって……一朗さんの、彼女さんなんですか?」
 
一朗は一瞬で顔を真っ赤にする。

「い、いや……まあ……その……」

言葉が喉につかえた。

曖昧に笑うわけでもなく、否定するわけでもなく、ただ言葉が出ない。
 
スタッフはその反応を見て、柔らかく笑った。

「ふふ、答え言っちゃってますよ、それ。」

「……見てりゃわかります。」
 
一朗は耳まで真っ赤になりながら視線だけ真白に戻す。

真白はまだカメラに集中していて、一朗の視線に気づかない。

でも――その横にいたミキだけは、気づいていた。

ミキはカメラに向いたまま、口元だけで小さく笑う。
(……いいね。ちゃんと、見てるじゃん。)
 
カメラマンの声が響いた。

「二人とも、最後に少し寄ってください。」

ミキが真白の肩に腕を回す。

真白も自然に寄り添う。

雪が、ふわりと二人に降りそそぐ。

カシャッ。

シャッターが、その瞬間を永遠にした。

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