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第5話 土曜日の休日
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土曜日の朝。
窓のカーテン越しにやわらかな陽射しが差し込み、リビングにはゆったりとした休日の空気が流れていた。
朝食を済ませた麗子は、テーブルにマグカップを置くと、少し子供のように身を乗り出して一平を見つめた。
「ねぇ、一平。今日と明日、久しぶりに二人とも休みでしょ? なんだかウキウキしてきちゃう」
嬉しそうに笑いながら、麗子は指でカップの縁をなぞる。
その仕草は、普段の忙しい看護師の顔からは想像できないほど柔らかで、まるで新婚の頃に戻ったようだった。
「どこか出かけようか? それとも家でのんびりする? 映画でも観て、お菓子食べて、ゴロゴロしたっていいし……」
言葉を重ねるたびに、麗子の声は少し弾み、視線は期待に輝いていた。
一平はそんな麗子の様子を見て、胸の奥がじんわり温かくなる。
すれ違いが続いていた時間を取り戻そうとする、その小さなはしゃぎぶりが、何よりも愛おしかった。
「麗子がそんなに楽しみにしてるなら……今日は特別な日にしないとな」
冗談めかしてそう返すと、麗子は「ほんと? やったぁ!」と両手を小さく上げ、まるで子供のように喜んだ。
二人の休日が始まろうとしていた。
「ちょっとした田舎にドライブに行って、適当にラブホテルにでも泊まっちゃうか?」
コーヒーを口に運びながら、一平が軽い調子で言った。
「最近のラブホってさ、カラオケもあるし、いろんな設備がそろってて、意外とのんびりできるし楽しいらしいよ」
その言葉に、麗子は一瞬きょとんとしたあと、目をぱちぱちと瞬かせた。
「えっ……ラブホ?」
頬がほんのり赤くなり、思わず声を小さくする。
「わ、私……行ったことない……」
少し照れくさそうに視線を落とした麗子だったが、次の瞬間、好奇心を隠しきれないように顔を上げた。
大きな瞳がきらりと輝き、唇には自然と笑みが浮かんでいる。
「どんなところなの? ほんとにカラオケとかあるの?」
「あるある。映画見放題とか、岩盤浴付きの部屋もあるって聞いたぞ」
一平が肩をすくめながら説明すると、麗子は子供のように手を組み、目を輝かせて身を乗り出した。
「え~っ、面白そう! なんだか旅行みたいでワクワクするね!」
そんな麗子の反応に、一平は「ほんとに純粋だな……」と心の中で笑いながらも、嬉しそうに頷いた。
ところが........。
さっきまで子供のように輝いていた目が、じっと一平を見据える。
「……なんでそんなに詳しいのよ?」
ハッとしたように口元を押さえ、麗子の眉がピクリと動いた。
「まさか……」
頬にじわっと赤みが広がり、疑念と恥ずかしさが入り混じった表情になる。
「一平……浮気してたんじゃないでしょうね?」
一平は思わず吹き出して、慌てて両手を振った。
「ち、ちがうちがう! ネットで見ただけだって! 男の集まりでそういう話題出るだろ? だから知ってただけ!」
麗子はぷくっと頬を膨らませ、ジト目でじーっと見つめる。
「ふぅん……ほんとに? 怪しいなぁ」
「ほんとに違うって! 俺、麗子以外興味ないから!」
その慌てぶりに、つい堪えきれず麗子はケラケラ笑い出す。
「ふふっ、疑った私がバカみたいじゃん」
でもその笑みの奥に、ほんの少し安心した気配が滲んでいた。
「それじゃ、出発の準備をしよう。」
一平は、泊まりの用意をするために椅子を立つ。
一平が麗子がテーブルに座ったまま動かない様子に
「どうした?」
麗子は無言で、ちらりと一平の横顔を見ては視線を逸らし、また見ては逸らす。
やがて、頬を赤らめながらぽつりと口を開いた。
「ねぇ……もし、泊まるなら……」
「うん?」と一平が軽く返す。
麗子は声を小さくして、膝の上で手をぎゅっと握った。
「……ラバースーツ、持って行ってもいい?」
一平は思わず目を丸くし、「えっ……ラバースーツ?」
麗子は恥ずかしそうに俯き、耳まで赤くなりながら小さく頷く。
「……だって、久しぶりに二人でお泊まりなんだもん。……その、私も……楽しみたいし」
最後の言葉はかすれるように小さかったが、一平の耳にははっきり届いた。
一平は顔をほころばせて笑い、片手を伸ばして麗子の頭を軽く撫でた。
「持ってこいよ。俺だって……久しぶりに見たいし」
麗子はパッと顔を上げ、嬉しそうに笑ってから、恥ずかしそうにまた下を向いた。
そして一平はふと思い出したように口を開いた。
「なぁ麗子……せっかくだし、あの赤い化け物のやつがいいな」
何気ない調子で言ったつもりだったが、麗子は一瞬で耳まで真っ赤に染めた。
「なっ……なに言ってんのよ!あれ、ほんとに恥ずかしいんだから……」
視線を逸らし、キッチンの方を見ながら口を尖らせる麗子。
だが、声の震えには照れと同時に、嬉しさが隠しきれずにいた。
「……でも、そうやって言ってくれるの、ちょっと嬉しいけどね」
小さな声でそう漏らすと、また顔を隠すように前髪を弄った。
一平はその横顔をちらりと盗み見て、口元を緩める。
――やっぱり、あの赤い化け物の完成度は圧倒的だった。
あの時の麗子の姿は、自分にとって理想であり、憧れでもある。
(麗子が恥ずかしがってても……俺はもう一度、あの完成度をこの目で確かめたい)
内心でそう呟きながら、一平は握る手にわずかに力を込めた。
彼には、ただ楽しみたい以上に――自分自身が“あの姿”へ近づくためのヒントを探す狙いがあった。
部屋の中、旅行用のバッグをベッドの上に広げて、麗子はしゃがみ込みながら荷物を詰めていた。
彼女はバッグの横に小さなポーチを取り出し、中を確認しながら呟く。
「えっと……ラバースーツは入れて……それから……カラコンも忘れないようにしないと」
小瓶やケースを並べて、一本ずつ確かめていく。
「牙も……特殊メイクの接着剤も……。あの日みたいに全部揃ってないと、完成しないから」
一平はベッドに腰を下ろして、その様子を見守りながら、からかうように言った。
「まるで遠足の持ち物チェックだな。でも……そういうの、ちょっとワクワクする」
麗子は思わず吹き出し、クッションを投げつける。
「もう……ほんとに子供みたいなんだから」
だがその笑顔は、どこか誇らしげでもあった。
――自分が高揚感で溢れてしまった赤い髪の化け物にラバースーツで仕立てた姿を、一平が求めている。
その事実が、恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。
窓のカーテン越しにやわらかな陽射しが差し込み、リビングにはゆったりとした休日の空気が流れていた。
朝食を済ませた麗子は、テーブルにマグカップを置くと、少し子供のように身を乗り出して一平を見つめた。
「ねぇ、一平。今日と明日、久しぶりに二人とも休みでしょ? なんだかウキウキしてきちゃう」
嬉しそうに笑いながら、麗子は指でカップの縁をなぞる。
その仕草は、普段の忙しい看護師の顔からは想像できないほど柔らかで、まるで新婚の頃に戻ったようだった。
「どこか出かけようか? それとも家でのんびりする? 映画でも観て、お菓子食べて、ゴロゴロしたっていいし……」
言葉を重ねるたびに、麗子の声は少し弾み、視線は期待に輝いていた。
一平はそんな麗子の様子を見て、胸の奥がじんわり温かくなる。
すれ違いが続いていた時間を取り戻そうとする、その小さなはしゃぎぶりが、何よりも愛おしかった。
「麗子がそんなに楽しみにしてるなら……今日は特別な日にしないとな」
冗談めかしてそう返すと、麗子は「ほんと? やったぁ!」と両手を小さく上げ、まるで子供のように喜んだ。
二人の休日が始まろうとしていた。
「ちょっとした田舎にドライブに行って、適当にラブホテルにでも泊まっちゃうか?」
コーヒーを口に運びながら、一平が軽い調子で言った。
「最近のラブホってさ、カラオケもあるし、いろんな設備がそろってて、意外とのんびりできるし楽しいらしいよ」
その言葉に、麗子は一瞬きょとんとしたあと、目をぱちぱちと瞬かせた。
「えっ……ラブホ?」
頬がほんのり赤くなり、思わず声を小さくする。
「わ、私……行ったことない……」
少し照れくさそうに視線を落とした麗子だったが、次の瞬間、好奇心を隠しきれないように顔を上げた。
大きな瞳がきらりと輝き、唇には自然と笑みが浮かんでいる。
「どんなところなの? ほんとにカラオケとかあるの?」
「あるある。映画見放題とか、岩盤浴付きの部屋もあるって聞いたぞ」
一平が肩をすくめながら説明すると、麗子は子供のように手を組み、目を輝かせて身を乗り出した。
「え~っ、面白そう! なんだか旅行みたいでワクワクするね!」
そんな麗子の反応に、一平は「ほんとに純粋だな……」と心の中で笑いながらも、嬉しそうに頷いた。
ところが........。
さっきまで子供のように輝いていた目が、じっと一平を見据える。
「……なんでそんなに詳しいのよ?」
ハッとしたように口元を押さえ、麗子の眉がピクリと動いた。
「まさか……」
頬にじわっと赤みが広がり、疑念と恥ずかしさが入り混じった表情になる。
「一平……浮気してたんじゃないでしょうね?」
一平は思わず吹き出して、慌てて両手を振った。
「ち、ちがうちがう! ネットで見ただけだって! 男の集まりでそういう話題出るだろ? だから知ってただけ!」
麗子はぷくっと頬を膨らませ、ジト目でじーっと見つめる。
「ふぅん……ほんとに? 怪しいなぁ」
「ほんとに違うって! 俺、麗子以外興味ないから!」
その慌てぶりに、つい堪えきれず麗子はケラケラ笑い出す。
「ふふっ、疑った私がバカみたいじゃん」
でもその笑みの奥に、ほんの少し安心した気配が滲んでいた。
「それじゃ、出発の準備をしよう。」
一平は、泊まりの用意をするために椅子を立つ。
一平が麗子がテーブルに座ったまま動かない様子に
「どうした?」
麗子は無言で、ちらりと一平の横顔を見ては視線を逸らし、また見ては逸らす。
やがて、頬を赤らめながらぽつりと口を開いた。
「ねぇ……もし、泊まるなら……」
「うん?」と一平が軽く返す。
麗子は声を小さくして、膝の上で手をぎゅっと握った。
「……ラバースーツ、持って行ってもいい?」
一平は思わず目を丸くし、「えっ……ラバースーツ?」
麗子は恥ずかしそうに俯き、耳まで赤くなりながら小さく頷く。
「……だって、久しぶりに二人でお泊まりなんだもん。……その、私も……楽しみたいし」
最後の言葉はかすれるように小さかったが、一平の耳にははっきり届いた。
一平は顔をほころばせて笑い、片手を伸ばして麗子の頭を軽く撫でた。
「持ってこいよ。俺だって……久しぶりに見たいし」
麗子はパッと顔を上げ、嬉しそうに笑ってから、恥ずかしそうにまた下を向いた。
そして一平はふと思い出したように口を開いた。
「なぁ麗子……せっかくだし、あの赤い化け物のやつがいいな」
何気ない調子で言ったつもりだったが、麗子は一瞬で耳まで真っ赤に染めた。
「なっ……なに言ってんのよ!あれ、ほんとに恥ずかしいんだから……」
視線を逸らし、キッチンの方を見ながら口を尖らせる麗子。
だが、声の震えには照れと同時に、嬉しさが隠しきれずにいた。
「……でも、そうやって言ってくれるの、ちょっと嬉しいけどね」
小さな声でそう漏らすと、また顔を隠すように前髪を弄った。
一平はその横顔をちらりと盗み見て、口元を緩める。
――やっぱり、あの赤い化け物の完成度は圧倒的だった。
あの時の麗子の姿は、自分にとって理想であり、憧れでもある。
(麗子が恥ずかしがってても……俺はもう一度、あの完成度をこの目で確かめたい)
内心でそう呟きながら、一平は握る手にわずかに力を込めた。
彼には、ただ楽しみたい以上に――自分自身が“あの姿”へ近づくためのヒントを探す狙いがあった。
部屋の中、旅行用のバッグをベッドの上に広げて、麗子はしゃがみ込みながら荷物を詰めていた。
彼女はバッグの横に小さなポーチを取り出し、中を確認しながら呟く。
「えっと……ラバースーツは入れて……それから……カラコンも忘れないようにしないと」
小瓶やケースを並べて、一本ずつ確かめていく。
「牙も……特殊メイクの接着剤も……。あの日みたいに全部揃ってないと、完成しないから」
一平はベッドに腰を下ろして、その様子を見守りながら、からかうように言った。
「まるで遠足の持ち物チェックだな。でも……そういうの、ちょっとワクワクする」
麗子は思わず吹き出し、クッションを投げつける。
「もう……ほんとに子供みたいなんだから」
だがその笑顔は、どこか誇らしげでもあった。
――自分が高揚感で溢れてしまった赤い髪の化け物にラバースーツで仕立てた姿を、一平が求めている。
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