【R18】【挿絵多い】ラバーマスクガール

まへまへ

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第54話 帰路

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傾き始めた陽が、山の稜線の向こうに沈みかけていた。

車内は穏やかな沈黙に包まれていたが、それは気まずさではなく、心地よい満足感の余韻。

悟が運転席でハンドルを握り、助手席の麗子が窓の外を眺めている。

後部座席の順子は、空に浮かぶ橙の光を見つめながら、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じていた。

「……楽しかったねぇ」

麗子がふっと笑いながら呟いた。

「最高の一日だったよ。あんなに笑って、あんなに自由にいられたの、久しぶり」

順子が嬉しそうに微笑む。

「うん……私も。麗子さん、すごく綺麗だった。森の中であのラバー姿、ほんとに絵になってた」

「やだ、もう~順子までお世辞が上手くなっちゃって」

麗子は笑いながら、手をひらひらさせる。

「でもね、ほんとありがとう。今日、こんな思い出をくれたの、二人のおかげだよ」

その言葉に悟が照れたように後頭部をかいた。

「いや、俺なんてただ運転して、ちょっと料理作っただけだし」

「その“ちょっと”がすごいのよ!」

麗子がすぐさま言い返し、笑みを浮かべる。

「順子には、こんな良い彼氏がいて、ほんと羨ましい。……ねぇ、順子?」

順子は顔を真っ赤にして俯いた。

「や、やめてくださいよ麗子さん……」

悟も頬を掻きながら、ぼそりと呟く。

「……そんな、照れるって」

車内に柔らかな笑い声が広がる。

その笑いが収まったあと、麗子は少し遠くを見つめながら、静かに言葉を続けた。

「……私もね、昔はいたんだ。彼氏」

順子と悟は少し驚いたように顔を向ける。

麗子は表情を崩さず、窓の外の夕焼けを眺めながら言った。

「でもね、私が“ラバーが好き”って言ったら……笑われちゃったの。冗談だろ、そんなのって」

「……」

「怖がられたわけじゃないんだけど、引かれたのよ。目の前で、私の一部を否定された気がして。……それで、もういいやって思っちゃった」

順子は胸が締めつけられるような思いで、前の座席を見る。

「麗子さん……」

麗子は小さく笑って首を振る。

「でもね、今日見てたら思ったの。ちゃんと“理解してくれる人”って、いるんだなって。悟くんみたいに」

悟は一瞬言葉を失い、照れくさそうに笑う。

「いや、俺なんてまだまだ……。でも、順子が好きなことを好きでいたいだけですよ」

順子はその言葉を聞いて、思わず唇を結んだまま笑った。

麗子はそんな二人を見て、心底嬉しそうにため息を漏らす。

「……いいねぇ、若いって」

そう言って、夕日に照らされた頬に手を当てる。

「でも、私もいつか見つけたいな。私のラバーを笑わない王子様」

順子と悟は顔を見合わせ、同時に笑った。

「きっと見つかりますよ」

「うん、絶対」

そのとき、山の向こうに沈みきった太陽が、最後の一筋の光を車内に差し込んだ。

それはまるで、三人の絆をそっと照らすように、温かく輝いていた。

夕暮れがすっかり夜に変わるころ、大学の寮の駐車スペースに車が滑り込んだ。

昼間あれほど賑やかだった3人の声も、今は穏やかで、どこか名残惜しさが漂っていた。

「ふぅー……戻ってきちゃったね」

順子が小さく伸びをしながら、シートベルトを外す。

麗子は隣で笑みを浮かべ、荷物を抱えて車から降りた。

「ほんと、あっという間だった。……悟くん、今日はありがとうね」

「こちらこそ、麗子さん。すごく楽しかったです」

悟は丁寧に頭を下げた。

「順子、またね」

「うん。また、寮で!」

麗子は軽く手を振ると、キャリーバッグを引きながら、ゆっくりと寮の玄関へと消えていった。

その背中が見えなくなった瞬間、順子は小さく息を吐き、ぽつりと呟いた。

「……なんか、夢みたいだったね」

悟は運転席のハンドルに手を置いたまま、柔らかく笑う。

「うん。たぶん一生忘れられない日になるよ」

しばらくの沈黙。

そして順子は、少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら言った。

「ねぇ、悟……今日、このあと、ホテルに泊まっていい?」

悟は一瞬、驚いたように目を瞬かせる。

「えっ……俺のホテル?」

「うん」

順子は視線を下げ、指先でシートの端をつまむ。

「だって、せっかく来てくれたのに……このまま“またね”だけじゃ、寂しいよ」

悟は照れ隠しのように笑いながら、少し顔を赤らめた。

「……うん。もちろん。泊まって」

順子の表情がふわりとほころぶ。

「ありがとう。嬉しい」

車内の空気が、ほんの少し甘く、そして静かに満ちていく。

そんな中、順子はふと思い出したように言った。

「……あ、そうだ。ラバーどうする?」

「え?」

「今、トランクに入ってるけど……ホテルに持ってく? 干したりお手入れしないとシワになっちゃうし」

悟は思わず苦笑した。

「もう今日は十分だよ。ラバー姿は昼間、たっぷり見たし」

「……え、そうなの?」

順子はちょっと意外そうに目を丸くする。

悟は肩をすくめ、優しく笑った。

「荷物になるよ。順子の部屋に置いてこ。明日ゆっくり手入れすればいいさ」

「……そっか」

順子は、少しだけ寂しそうに頷く。

「じゃあ、そうするね」

悟はそんな順子の横顔を見て、そっと言葉を添えた。

「代わりに……今日は順子の素顔を、たっぷり見せてもらうから」

「も、もうっ……!」

順子の頬は一瞬で真っ赤になり、慌ててカバンで顔を隠した。

悟はその反応を見て、堪えきれずに笑う。

「冗談だよ」

「ぜんっぜん冗談に聞こえないんだけど!」

夜の街灯が二人の笑い声を柔らかく照らし、春の夜風が、ほんのりと甘い香りを乗せて通り抜けていった。


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