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第一章 ロードライトの令嬢
17 父の従者シギル
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兄に背負われたまま、城の廊下を進んで行く。
兄の姿を見たメイドさんたちは、一瞬だけ仕事の手を休めると、素早く廊下の端に寄って行った。
わたしたちに対して軽く頭を下げている。
その時、メイドさんたちが揃って右耳のピアスを見せるように髪をかき上げるので、いろんな耳飾りが見られて何だかちょっぴり壮観だった。
青、緑、紫、金と、それぞれの耳元がカラフルな色で彩られている。可愛い。
「みんな、何をしてんだ?」
シリウス様の問いに、兄が答えた。
「ピアスの色を見せているんだ。俺たちロードライトの者は、これで各々がどの分家に所属しているかを確認しているからな」
へぇ、そうなのか。
さすがは名門貴族様、いろんな独自のしきたりがあるなぁ。
兄の右耳にも、ピアスが嵌まっていた。
銀の、シンプルなスタッドピアスだ。確かセラは、緑色のピアスをしていたっけ。
わたしと共に兄の耳元を覗き込みながら、シリウス様は尋ねる。
「お前のそれも?」
「あぁ。本家は銀色だな。金色は第一分家、青色は第三分家、緑色は第四分家、紫色は第五分家を指す。
同級生にミラ・ロードライトがいるだろう? あいつは第一分家直系の娘だから、金色のピアスを付けているんだ。リッカの侍女たちは大体第四分家の出身だから、緑色のピアスを付けてる。ロードライトの者は基本的に皆そのルールに則ってるから、判別しやすいだろう?」
そうかな?
……とりあえず、やっぱりこのおうちは本家分家が死ぬほどややこしいってことだけは分かったよ。
ふーんと頷いたシリウス様は、ふとわたしの髪をかき上げた。
わたしの耳を確認したシリウス様は「リッカはピアスしてないけど、これはどうして?」と首を傾げる。
「十に達した子供の耳にピアスをするのが、ロードライトの通過儀礼なんだよ。リッカはまだ七つだからな」
「あ、そうなんか。……リッカ、耳薄いな。ぺらぺらしてる」
わたしの耳をむにむにと触りながら、シリウス様はなんだか楽しげだった。耳たぶを引っ張ったり、耳を軽く折ってみたりしている。
痛くはないけど、なんだか不思議な心地だ。
普段は髪に隠れているから、あまりじろじろと見られない部分でもあるし。
と、兄はわたしをシリウス様から遠ざけるように身を捩った。
自然、シリウス様の手もわたしの耳から離れて行く。
兄はジト目でシリウス様を睨みつけた。
「リッカに気安く触れるな」
「あっ、ごめん」
慌ててわたしから手を引いたシリウス様は「お兄様チェックだ……」と呟いている。
その言い方に、なんだか笑ってしまった。
全く、兄は過保護だ。
「ロードライト……お前の実家、何かマジで、すげぇよなぁ……」
シリウス様は、天井を見渡しながら言う。
「この家だってさ? 屋敷っつーか、城じゃん? ロードライト家って、何、貴族ってやつ?」
「この国に、かつての諸国のような貴族制度はないんだが……まぁ、当たらずとも遠からずといったところだ。この家は、五百年前の建国の際に活躍した『御三家』のうちの一つだからな」
むしろ誇っても良いだろうに、兄の口調には苦々しいものが混ざっている。
何か、思うところがあるのだろうか。
「お兄様、お父様に直談判しに行く……って、本気ですか?」
そう尋ねると、兄は当然とばかりに頷いてみせた。
「当たり前だろ。リッカにあんなこと言うなんて、いくら父でも許せるものか」
わたしが直接、面と向かって言われたわけではないのだが、それでも概ね同意だ。
自分の代わりに怒ってくれる人がいると、なんだか不思議とホッとする。
兄の足取りに迷いはない。父が普段どこにいるのかを把握している足取りだった。
……そりゃそうか。父は、次期当主の兄については、わたしのように冷遇してるってわけでもないのだし。
階段を降りて、一階へ。
渡り廊下を歩くと、別棟にたどり着いたようだ。
というより、こっちの棟の方が本館なのかもしれない。
……やっぱりこのおうち広すぎるよ。家の中で迷子にだってなれちゃいそう。
そしたら、発見は死後五日後ってところかな。……なーんて。
兄におんぶされたまま、ちょっと不謹慎なジョークを考えていた時、兄はふと足を止めた。
おや? とわたしは目を瞬かせ、兄の目線の先を見る。
――簾かと、最初は思った。
ビロードのような真っ黒なカーテンが、上から垂れ下がっているようにも見えたから。
金のドアノブがついていることで、これが扉なのだとかろうじて認識できた。
扉の表面は、水面のように奇妙に揺らめいている。
その様子を見て、改めてこれが、簾でもカーテンでもないことを理解した。
兄は右腕を上げる。
兄の中指には、さっきまでは無かった銀の指輪が嵌っていた。
恐らく、先程兄は、これを取りに自室へと戻ったのだ。
兄の手が、闇をノックするように動いた。
瞬間、闇が揺らめき――
闇の奥から、螺旋階段が姿を表した。
シリウス様は、感心したように腕を組んで、現れた階段を見つめている。
「これも魔法か? さすが、ロードライト家」
「あぁ。『当主の間』には、本家の者か分家当主、あと、本家当主に認められた者しか入れないようになっているんだ」
兄は軽く右手を振り、シリウス様に嵌った指輪を示してみせた。
兄は、一度気を引き締めるようにわたしを背負い直すと、シリウス様を促す。
「よし、じゃあ――行くぞ」
兄が促す。
その後ろに、続こうとするも――。
「お待ちください」
いきなり響いた声に、わたしたちは揃って目を瞠った。
気付いた時には、その人はわたしたちの目の前にいた。
『当主の間』へと続く階段の前で、わたしたちの前に立ち塞がるように立っている。
――気配がなかった。
一体、どこから現れたのだろう。
階段から降りてきた? それとも、背後から回り込んできたのだろうか?
何にせよ、わたしたち三人の誰もが、その人の接近に全然気付けなかった。
男の人だ。それも、大人の。歳は、二十代後半と言ったところだろうか。
淡い金髪に、凍てつくような灰色の瞳が、こちらを値踏みするように見つめている。
口元には笑みが浮かんでいるものの、眼差しは冷たい。
そして――わたしは思わず首を傾げた――その右耳には、漆黒のピアスが嵌っていた。
あれ? さっき兄が話してくれたピアスの色に、黒色なんてあったっけ?
その男の人を見て、にわかに兄が身構えた。
「――シギル」
低い声で兄は呟く。
恐らくは、目の前にいるこの人の名前だろう。
シリウス様は、兄に囁き声で尋ねかけた。
「黒曜、知り合いか?」
「あぁ。……父の従者だ」
そんな兄の言葉に、わたしも思わず身を竦める。
――父の従者が、こんなところに。
ということは、わたしたちが父に直談判しに来たことも、とっくの昔に気付かれていたということだろうか。
シギルは、底の見えない微笑みを浮かべたままだ。
三対一と、わたしたちの方が数は多いものの、しかし大人と子供の差は歴然としている。
わたしにとっては兄もシリウス様も、大きくて頼りがいがある存在だが、それでもやはり大人と比べると、まだまだ全然未熟な子供だ。
シギルは慇懃に言葉を吐いた。
「オブシディアン・ロードライト様。次期当主様が、お友達を連れて、こんなところへ何用でいらっしゃったのでしょう?」
「――白々しいな」
そう吐き捨てた兄は、一度息を吐いては背筋を伸ばした。
「父に会いに来た。ここを通してくれ」
「おや。約束はされていらっしゃいます?」
「息子と娘が実の父親に会うのに、何か特別な理由が必要なのか?」
『娘』との言葉に、シギルは兄に向けていた瞳を、そのまま背負われているわたしに向けた。
う、と思わず怯んでしまう。
「なるほど、なるほど」
灰色の瞳は、まっすぐわたしを見つめている。
「でも、困りましたねぇ。何せ、リッカ様に関しては、我が主人から――『『リッカが死んだ』以外の報は通してくれるな』と、直々に申しつけられているのですから」
きっと声音までも忠実にトレースされたのだろうその言葉に、兄とシリウス様が殺気立ったのが分かった。
二人の少年の視線を、シギルは飄々と受け流す。
「……お兄様。わたしを、下ろしてください」
硬い声で呟いた。
え、と兄は驚いた顔でわたしを振り返る。
「元はと言えば、わたしの頼み事なのです。わたしがきちんとお願いするのが筋ってもんでしょう」
「……分かった」
兄がわたしをそろそろと下ろす。
自分の両足で立ったわたしは、シギルを見上げた。
……う、角度が。
七歳の平均身長にも届いてない(多分)わたしと、大の大人であるシギル。身長差はえげつない。
だってもう、既に首が痛いもの……。
「お願いします。どうか、父に会わせてください」
そのままシギルに頭を下げた。
「わたしは、自分の身に掛けられた呪いを解きたい。そのためにも、お父様から話を聞く必要があるんです」
――兄と、未来を歩むために。
兄が、深い失意の底に沈むことのないように。
兄とシリウス様が、ずっと仲良くいられるように。
「お願いします……っ」
これが、今、わたしのできる精一杯。
何の力も持たない娘が、ただ唯一出来ること。
「……弱りましたねぇ」
シギルはそう呟くと、わたしと目線を合わせるように屈み込んだ。
「それでは、リッカ様。折り入ってお願いがございます」
「お願い、ですか?」
なんだろう。わたしに出来ることならいいんだけど。
はい、と頷いたシギルは、ふと自分の手を開くと、わたしに見せるようにした。
「リッカ様、手を出してください」
「は、はい」
とりあえず、シギルがやっているように右手を開く。
「では、その手を顔の前に立てて」
「こう……ですか?」
言われた通り、その手を顔の前へと持っていった。
……相変わらず、ちっちゃくて薄い手だなぁ……頼りなさ全開って感じ。
そんなわたしの様子を見て、シギルは満足そうに頷いている。
そのまま彼は、わたしにとんでもない提案をした。
「それでは、その手で私の頬をぶってくれませんか?」
「…………」
「あ、なるだけ強くお願いしますね」
……。
…………。
………………。
「は?」
兄の姿を見たメイドさんたちは、一瞬だけ仕事の手を休めると、素早く廊下の端に寄って行った。
わたしたちに対して軽く頭を下げている。
その時、メイドさんたちが揃って右耳のピアスを見せるように髪をかき上げるので、いろんな耳飾りが見られて何だかちょっぴり壮観だった。
青、緑、紫、金と、それぞれの耳元がカラフルな色で彩られている。可愛い。
「みんな、何をしてんだ?」
シリウス様の問いに、兄が答えた。
「ピアスの色を見せているんだ。俺たちロードライトの者は、これで各々がどの分家に所属しているかを確認しているからな」
へぇ、そうなのか。
さすがは名門貴族様、いろんな独自のしきたりがあるなぁ。
兄の右耳にも、ピアスが嵌まっていた。
銀の、シンプルなスタッドピアスだ。確かセラは、緑色のピアスをしていたっけ。
わたしと共に兄の耳元を覗き込みながら、シリウス様は尋ねる。
「お前のそれも?」
「あぁ。本家は銀色だな。金色は第一分家、青色は第三分家、緑色は第四分家、紫色は第五分家を指す。
同級生にミラ・ロードライトがいるだろう? あいつは第一分家直系の娘だから、金色のピアスを付けているんだ。リッカの侍女たちは大体第四分家の出身だから、緑色のピアスを付けてる。ロードライトの者は基本的に皆そのルールに則ってるから、判別しやすいだろう?」
そうかな?
……とりあえず、やっぱりこのおうちは本家分家が死ぬほどややこしいってことだけは分かったよ。
ふーんと頷いたシリウス様は、ふとわたしの髪をかき上げた。
わたしの耳を確認したシリウス様は「リッカはピアスしてないけど、これはどうして?」と首を傾げる。
「十に達した子供の耳にピアスをするのが、ロードライトの通過儀礼なんだよ。リッカはまだ七つだからな」
「あ、そうなんか。……リッカ、耳薄いな。ぺらぺらしてる」
わたしの耳をむにむにと触りながら、シリウス様はなんだか楽しげだった。耳たぶを引っ張ったり、耳を軽く折ってみたりしている。
痛くはないけど、なんだか不思議な心地だ。
普段は髪に隠れているから、あまりじろじろと見られない部分でもあるし。
と、兄はわたしをシリウス様から遠ざけるように身を捩った。
自然、シリウス様の手もわたしの耳から離れて行く。
兄はジト目でシリウス様を睨みつけた。
「リッカに気安く触れるな」
「あっ、ごめん」
慌ててわたしから手を引いたシリウス様は「お兄様チェックだ……」と呟いている。
その言い方に、なんだか笑ってしまった。
全く、兄は過保護だ。
「ロードライト……お前の実家、何かマジで、すげぇよなぁ……」
シリウス様は、天井を見渡しながら言う。
「この家だってさ? 屋敷っつーか、城じゃん? ロードライト家って、何、貴族ってやつ?」
「この国に、かつての諸国のような貴族制度はないんだが……まぁ、当たらずとも遠からずといったところだ。この家は、五百年前の建国の際に活躍した『御三家』のうちの一つだからな」
むしろ誇っても良いだろうに、兄の口調には苦々しいものが混ざっている。
何か、思うところがあるのだろうか。
「お兄様、お父様に直談判しに行く……って、本気ですか?」
そう尋ねると、兄は当然とばかりに頷いてみせた。
「当たり前だろ。リッカにあんなこと言うなんて、いくら父でも許せるものか」
わたしが直接、面と向かって言われたわけではないのだが、それでも概ね同意だ。
自分の代わりに怒ってくれる人がいると、なんだか不思議とホッとする。
兄の足取りに迷いはない。父が普段どこにいるのかを把握している足取りだった。
……そりゃそうか。父は、次期当主の兄については、わたしのように冷遇してるってわけでもないのだし。
階段を降りて、一階へ。
渡り廊下を歩くと、別棟にたどり着いたようだ。
というより、こっちの棟の方が本館なのかもしれない。
……やっぱりこのおうち広すぎるよ。家の中で迷子にだってなれちゃいそう。
そしたら、発見は死後五日後ってところかな。……なーんて。
兄におんぶされたまま、ちょっと不謹慎なジョークを考えていた時、兄はふと足を止めた。
おや? とわたしは目を瞬かせ、兄の目線の先を見る。
――簾かと、最初は思った。
ビロードのような真っ黒なカーテンが、上から垂れ下がっているようにも見えたから。
金のドアノブがついていることで、これが扉なのだとかろうじて認識できた。
扉の表面は、水面のように奇妙に揺らめいている。
その様子を見て、改めてこれが、簾でもカーテンでもないことを理解した。
兄は右腕を上げる。
兄の中指には、さっきまでは無かった銀の指輪が嵌っていた。
恐らく、先程兄は、これを取りに自室へと戻ったのだ。
兄の手が、闇をノックするように動いた。
瞬間、闇が揺らめき――
闇の奥から、螺旋階段が姿を表した。
シリウス様は、感心したように腕を組んで、現れた階段を見つめている。
「これも魔法か? さすが、ロードライト家」
「あぁ。『当主の間』には、本家の者か分家当主、あと、本家当主に認められた者しか入れないようになっているんだ」
兄は軽く右手を振り、シリウス様に嵌った指輪を示してみせた。
兄は、一度気を引き締めるようにわたしを背負い直すと、シリウス様を促す。
「よし、じゃあ――行くぞ」
兄が促す。
その後ろに、続こうとするも――。
「お待ちください」
いきなり響いた声に、わたしたちは揃って目を瞠った。
気付いた時には、その人はわたしたちの目の前にいた。
『当主の間』へと続く階段の前で、わたしたちの前に立ち塞がるように立っている。
――気配がなかった。
一体、どこから現れたのだろう。
階段から降りてきた? それとも、背後から回り込んできたのだろうか?
何にせよ、わたしたち三人の誰もが、その人の接近に全然気付けなかった。
男の人だ。それも、大人の。歳は、二十代後半と言ったところだろうか。
淡い金髪に、凍てつくような灰色の瞳が、こちらを値踏みするように見つめている。
口元には笑みが浮かんでいるものの、眼差しは冷たい。
そして――わたしは思わず首を傾げた――その右耳には、漆黒のピアスが嵌っていた。
あれ? さっき兄が話してくれたピアスの色に、黒色なんてあったっけ?
その男の人を見て、にわかに兄が身構えた。
「――シギル」
低い声で兄は呟く。
恐らくは、目の前にいるこの人の名前だろう。
シリウス様は、兄に囁き声で尋ねかけた。
「黒曜、知り合いか?」
「あぁ。……父の従者だ」
そんな兄の言葉に、わたしも思わず身を竦める。
――父の従者が、こんなところに。
ということは、わたしたちが父に直談判しに来たことも、とっくの昔に気付かれていたということだろうか。
シギルは、底の見えない微笑みを浮かべたままだ。
三対一と、わたしたちの方が数は多いものの、しかし大人と子供の差は歴然としている。
わたしにとっては兄もシリウス様も、大きくて頼りがいがある存在だが、それでもやはり大人と比べると、まだまだ全然未熟な子供だ。
シギルは慇懃に言葉を吐いた。
「オブシディアン・ロードライト様。次期当主様が、お友達を連れて、こんなところへ何用でいらっしゃったのでしょう?」
「――白々しいな」
そう吐き捨てた兄は、一度息を吐いては背筋を伸ばした。
「父に会いに来た。ここを通してくれ」
「おや。約束はされていらっしゃいます?」
「息子と娘が実の父親に会うのに、何か特別な理由が必要なのか?」
『娘』との言葉に、シギルは兄に向けていた瞳を、そのまま背負われているわたしに向けた。
う、と思わず怯んでしまう。
「なるほど、なるほど」
灰色の瞳は、まっすぐわたしを見つめている。
「でも、困りましたねぇ。何せ、リッカ様に関しては、我が主人から――『『リッカが死んだ』以外の報は通してくれるな』と、直々に申しつけられているのですから」
きっと声音までも忠実にトレースされたのだろうその言葉に、兄とシリウス様が殺気立ったのが分かった。
二人の少年の視線を、シギルは飄々と受け流す。
「……お兄様。わたしを、下ろしてください」
硬い声で呟いた。
え、と兄は驚いた顔でわたしを振り返る。
「元はと言えば、わたしの頼み事なのです。わたしがきちんとお願いするのが筋ってもんでしょう」
「……分かった」
兄がわたしをそろそろと下ろす。
自分の両足で立ったわたしは、シギルを見上げた。
……う、角度が。
七歳の平均身長にも届いてない(多分)わたしと、大の大人であるシギル。身長差はえげつない。
だってもう、既に首が痛いもの……。
「お願いします。どうか、父に会わせてください」
そのままシギルに頭を下げた。
「わたしは、自分の身に掛けられた呪いを解きたい。そのためにも、お父様から話を聞く必要があるんです」
――兄と、未来を歩むために。
兄が、深い失意の底に沈むことのないように。
兄とシリウス様が、ずっと仲良くいられるように。
「お願いします……っ」
これが、今、わたしのできる精一杯。
何の力も持たない娘が、ただ唯一出来ること。
「……弱りましたねぇ」
シギルはそう呟くと、わたしと目線を合わせるように屈み込んだ。
「それでは、リッカ様。折り入ってお願いがございます」
「お願い、ですか?」
なんだろう。わたしに出来ることならいいんだけど。
はい、と頷いたシギルは、ふと自分の手を開くと、わたしに見せるようにした。
「リッカ様、手を出してください」
「は、はい」
とりあえず、シギルがやっているように右手を開く。
「では、その手を顔の前に立てて」
「こう……ですか?」
言われた通り、その手を顔の前へと持っていった。
……相変わらず、ちっちゃくて薄い手だなぁ……頼りなさ全開って感じ。
そんなわたしの様子を見て、シギルは満足そうに頷いている。
そのまま彼は、わたしにとんでもない提案をした。
「それでは、その手で私の頬をぶってくれませんか?」
「…………」
「あ、なるだけ強くお願いしますね」
……。
…………。
………………。
「は?」
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※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
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