トゥーリとヌーッティ<短編集>

御米恵子

文字の大きさ
23 / 163
ヌーッティと魔法のティーポット

4.ヌーッティと恐怖の大魔王

しおりを挟む
「なんでハンナがここにいるヌー?」
 怯えた形相でヌーッティはハンナを見据える。
「何でって、今日みんなでクリスマスパーティをいつするか話し合うので来たんだよ。それより、何かわたしだけ除け者みたいに言って、酷いよヌーッティ」
 アキと同じ高校に通う友人のハンナは頬を膨らませながらカウンターに沿って歩き、アキや健、ヌーッティたちのいるテーブルへやって来た。
「ちょうどいいところに来た! ハンナ、手を貸して!」
 アキはハンナを見つめた。
 ハンナは手袋を取りコートのポケットに入れ、マフラーとコートを脱ぐと空いている席の背もたれに掛けた。
「もしかして、ヌーッティがティーポットに入っていることと関係あるの?」
 ハンナの言葉にアキは頷き、これまでの仔細を話した。
「なんだ。そんなことか。もっと深刻な話かと思ったじゃん。わたしに任せて。カウンターをちょっと借りるね」
 そう言うとハンナはティーポットを両手で持ちカウンターの中へと入っていく。
 アキと健はハンナが何をするのかが気になりカウンター越しに、シンクの前に立つハンナとハンナに抱えられたヌーッティポットをまじまじと見る。カウンターの台に腰掛けているトゥーリもくるりと身体の向きを変えてハンナとヌーッティに視線を移す。
 ハンナはシンクの中にヌーッティ入りのティーポットをそっと置いた。
 がくがく震えているヌーッティは視線を上げてハンナを見る。
「痛くしないヌー? 怖いことしないヌー?」
 ハンナは怯えているヌーッティに笑顔を向ける。
「大丈夫だよ。そんなことしないよ」
 ハンナはセーターの袖を捲し上げる。
「なんで腕まくりしてるヌー?」
 首を小刻みに横に振るヌーッティ。
「ちょっと冷たくてぬるぬるするけど、すぐに楽になるからね」
 ハンナは言いながら食器用洗剤のボトルを手に取る。
「うそだヌー! 同じことアキも言ったヌー!」
 ヌーッティは上半身を捩らせ抜け出し逃げようと試みる。だが、アキや健が引っ張っても引き抜けなかったヌーッティの身体を、ヌーッティ自身が彼自身の力だけで抜け出すことはもはや無理なことであった。
 ハンナはそんな様子のヌーッティを無視して片手でティーポットをがっしりと押さえ、ヌーッティとティーポットの境目に食器用洗剤を流し込む。
「冷たいヌー! ぬるぬるしてて気持ち悪いヌー!」
「ちょっとの我慢だよ。はい、終わり」
 ティーポットにはまっているヌーッティの胴体に、ぐるりと食器用洗剤を回しかけると少しだけぬるま湯を出して泡立てた。
「そうか。滑らせて取るのか」
 アキの言葉にハンナは頷き、健は納得した。
「力押しなんてヌーッティが痛いだけで取れないよ」
 得意げに話すハンナをヌーッティは目を輝かせて見上げた。
「ハンナはただの変なひとじゃなかったヌー」
「もう、わたしをどういうふうに見てるの。失礼だなぁ」
 そう言いながらハンナはヌーッティの頭を優しく撫でると、
「さてと、そろそろいいかな。せーので抜くからね、ヌーッティ」
「りょうかいだヌー!」
 ヌーッティは元気よく返事をした。
 ハンナの右手がヌーッティの胴体を掴む。
 そして、
「せーの!」
 掛け声と同時にハンナの手がつるっと滑ってヌーッティの胴体を強く捻った。ヌーッティが例えようのない叫び声を上げた。
 ハンナはもう一度もう一度と言いながら、3、4回同じ方法を試した。けれども、ヌーッティがティーポットから抜けることはなかった。それを見かねたアキがハンナの5度目の挑戦を制止した。
「だめかー。何でだろ?」
 ハンナは首を傾げ、泡立った食器用洗剤で泡まみれになっているヌーッティを見る。
「て、訂正だヌー」
 力弱く泡を身に纏うヌーッティがハンナを恐怖を湛えた瞳で見据える。
「やっぱりハンナは変だヌー! 恐怖の大魔王だヌー!」
 それを聞いたハンナは無言で蛇口のハンドルレバーを上げるとヌーッティに水をぶっかけた。
 アキは怒っている様子のハンナをなだめ、健は身体を捩らせ笑い、トゥーリは重い溜め息をこぼした。
 そして、トゥーリが立ち上がろうとした時、再びドアベルが鳴った。
「ごめんなさい。遅れた?」
 亜麻色の緩やかなウェーブの長い髪を持つ長身の美少女がいた。
「アイノ!」
 トゥーリの声がカフェに響いた。
 アキたちの様子を一目したアイノは、
「何があったの?」
 怪訝な面持ちでアキたちの元へ歩み寄る。
 こうして、引き抜けヌーッティ大作戦に新たなな仲間が加わった。
 他方、水浸しのヌーッティはこの世の終わりがやって来たという表情で身体を震わせていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

ナナの初めてのお料理

いぬぬっこ
児童書・童話
ナナは七歳の女の子。 ある日、ナナはお母さんが仕事から帰ってくるのを待っていました。 けれど、お母さんが帰ってくる前に、ナナのお腹はペコペコになってしまいました。 もう我慢できそうにありません。 だというのに、冷蔵庫の中には、すぐ食べれるものがありません。 ーーそうだ、お母さんのマネをして、自分で作ろう! ナナは、初めて自分一人で料理をすることを決めたのでした。 これは、ある日のナナのお留守番の様子です。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

稀代の悪女は死してなお

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」 稀代の悪女は処刑されました。 しかし、彼女には思惑があるようで……? 悪女聖女物語、第2弾♪ タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……? ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

処理中です...