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ヌーッティ、日本へ行く!<後編>
4.アキ、危機一髪
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電車を乗り継いで着いた大学は広大なキャンパスを擁していた。
構内に入ったアキは、何棟もある校舎のうち、一番背の高い建物を目指した。
小走りに歩くアキのリュックのファスナーが小さな音を立てて、開いた。
開いた隙間から、ひょこっとヌーッティの顔が現れた。
「ヌフフフ。作戦大成功だヌー。これで、みんな、ヌーがまだキッチンにいるって思ってるヌー」
ヌーッティはひひひっと笑った。
そんなヌーッティに気づかないアキは、のっぽの校舎へ入り、階段で三階まで上がった。
さして長くもない廊下を歩くと、母の小春がいる研究室へと無事に辿り着いた。
アキはドアをノックした。すると、中から小春の声が聞こえた。
ドアノブに手をかけ、ドアを引き開けて、アキは研究室へ入った。
だが、ヌーッティは、アキが研究室に入ると同時にリュックから飛び出した。
華麗なる着地を試みたものの、ヌーッティは顔面から床に落ちた。
ややあって、起き上がったヌーッティは体をぶるると震わせた。そして、誰にも見つからないように、廊下の隅へ行き、身を潜めた。
「ここで、アキの様子を窺うヌー」
目をキラーンと光らせたヌーッティは、通り過ぎる学生たちを一人ひとり入念に見やった。
それから、二時間が経過した。
ヌーッティはというと、廊下のすみっこで寝息を立てていた。
そこへ、どんどん! と大きな振動が響いた。
床で寝ていたヌーッティは目を覚まして、周囲を警戒した。
「巨大トゥーリの襲来ヌー?!」
だが、違った。振動元はトゥーリではなく、重い荷物を抱えて小走りをする宅急便の配達員であった。
ヌーッティの目が荷物の側面を捉えた。
そこには「ういろう」という文字が、お菓子のイラストと共に、平仮名で書かれていた。
ヌーッティがそれを黙って見過ごすわけがなかった。
「平仮名のお勉強をしていて良かったヌー! ヌーはういろうを食べてみたいヌー!」
ヌーッティは廊下を走り、配達員の背後をとった。
配達員は小春の研究室の前で止まると、ドアをノックした。
ヌーッティは配達員の真後ろで立ち止まった。
少しの間を置いて、ドアが開かれると、女子学生が顔を覗かせた。
軽く会釈をした配達員が部屋の中へ入ろうとした瞬間――配達員は自身の足に足を引っ掛け、身体のバランスを大きく崩した。
荷物が宙を飛ぶ。
弧を描いて飛ぶ荷物の落下地点は座っているアキの頭上であった。
「危ないヌー!」
ヌーッティはダッシュをかけて、アキの近くに寄る。
そして、愛くるしい歌声で詩を歌う。
Terve, tuuli, minun eteeni,(テルヴェ,トゥーリ,ミヌン・エテーニ)
Tule, tuuli, lennä luokse,(トゥレ,トゥーリ,レンナ・ルオクセ)
Pyöri, pyöri, tuuli tässä!(ピョリ,ピョリ,トゥーリ・タッサ)
Auta häntä ja minua!(アウタ・ハンタ・ヤ・ミヌア)
――ようこそ、風よ。私の前に
風よ、おいで。たくさんおいで
回れ、回れ、風よ、ここで!
彼と私を守るために!
ヌーッティの詩によって風が巻き起こると、宙を飛ぶ荷物を包み込む。
不安定ながらも空中に静止する荷物を、体格のいい男子学生が両手で受け持った。
「風の精霊さん! もう大丈夫だヌー!」
ヌーッティの言葉と同時に、風が止み、荷物に本来の重さが戻る。
荷物を受け取った男子学生が腕に力を入れて、荷物を抱えるように持ち直した。それから、資料の散らばった長机の上に、静かに荷物を下ろす。
配達員は謝罪と感謝を述べ、研究室をあとにした。
研究室にいる全員の視線が、床に立つ、小さなヌーッティに集まった。
当然、その中にはアキの視線も含まれていた。
ヌーッティとアキの視線がかち合った。
「ヌーは何もしてないヌー!」
怒られると思ったヌーッティは無実を主張した。
しかし、アキはため息をつくと、ヌーッティを優しく抱え持った。
「ありがとう。ヌーッティのおかげで助かったよ」
ヌーッティは目をぱちくりと丸くした。そして、
「怒らないヌー?」
恐る恐るアキに尋ねた。
アキはヌーッティの頭をそっと撫でた。
「ついて来たのは怒る。けど、ひとまずはありがとう。それと……」
「それと?」
「みんなに紹介しなくっちゃだな」
アキは、微笑ましそうにアキとヌーッティを見守る、小春や学生たちを見やった。
「しまったヌー!」
ヌーッティは、アキ以外の人間に自身の姿を見られてしまったことに、ようやく気づいたのであった。
構内に入ったアキは、何棟もある校舎のうち、一番背の高い建物を目指した。
小走りに歩くアキのリュックのファスナーが小さな音を立てて、開いた。
開いた隙間から、ひょこっとヌーッティの顔が現れた。
「ヌフフフ。作戦大成功だヌー。これで、みんな、ヌーがまだキッチンにいるって思ってるヌー」
ヌーッティはひひひっと笑った。
そんなヌーッティに気づかないアキは、のっぽの校舎へ入り、階段で三階まで上がった。
さして長くもない廊下を歩くと、母の小春がいる研究室へと無事に辿り着いた。
アキはドアをノックした。すると、中から小春の声が聞こえた。
ドアノブに手をかけ、ドアを引き開けて、アキは研究室へ入った。
だが、ヌーッティは、アキが研究室に入ると同時にリュックから飛び出した。
華麗なる着地を試みたものの、ヌーッティは顔面から床に落ちた。
ややあって、起き上がったヌーッティは体をぶるると震わせた。そして、誰にも見つからないように、廊下の隅へ行き、身を潜めた。
「ここで、アキの様子を窺うヌー」
目をキラーンと光らせたヌーッティは、通り過ぎる学生たちを一人ひとり入念に見やった。
それから、二時間が経過した。
ヌーッティはというと、廊下のすみっこで寝息を立てていた。
そこへ、どんどん! と大きな振動が響いた。
床で寝ていたヌーッティは目を覚まして、周囲を警戒した。
「巨大トゥーリの襲来ヌー?!」
だが、違った。振動元はトゥーリではなく、重い荷物を抱えて小走りをする宅急便の配達員であった。
ヌーッティの目が荷物の側面を捉えた。
そこには「ういろう」という文字が、お菓子のイラストと共に、平仮名で書かれていた。
ヌーッティがそれを黙って見過ごすわけがなかった。
「平仮名のお勉強をしていて良かったヌー! ヌーはういろうを食べてみたいヌー!」
ヌーッティは廊下を走り、配達員の背後をとった。
配達員は小春の研究室の前で止まると、ドアをノックした。
ヌーッティは配達員の真後ろで立ち止まった。
少しの間を置いて、ドアが開かれると、女子学生が顔を覗かせた。
軽く会釈をした配達員が部屋の中へ入ろうとした瞬間――配達員は自身の足に足を引っ掛け、身体のバランスを大きく崩した。
荷物が宙を飛ぶ。
弧を描いて飛ぶ荷物の落下地点は座っているアキの頭上であった。
「危ないヌー!」
ヌーッティはダッシュをかけて、アキの近くに寄る。
そして、愛くるしい歌声で詩を歌う。
Terve, tuuli, minun eteeni,(テルヴェ,トゥーリ,ミヌン・エテーニ)
Tule, tuuli, lennä luokse,(トゥレ,トゥーリ,レンナ・ルオクセ)
Pyöri, pyöri, tuuli tässä!(ピョリ,ピョリ,トゥーリ・タッサ)
Auta häntä ja minua!(アウタ・ハンタ・ヤ・ミヌア)
――ようこそ、風よ。私の前に
風よ、おいで。たくさんおいで
回れ、回れ、風よ、ここで!
彼と私を守るために!
ヌーッティの詩によって風が巻き起こると、宙を飛ぶ荷物を包み込む。
不安定ながらも空中に静止する荷物を、体格のいい男子学生が両手で受け持った。
「風の精霊さん! もう大丈夫だヌー!」
ヌーッティの言葉と同時に、風が止み、荷物に本来の重さが戻る。
荷物を受け取った男子学生が腕に力を入れて、荷物を抱えるように持ち直した。それから、資料の散らばった長机の上に、静かに荷物を下ろす。
配達員は謝罪と感謝を述べ、研究室をあとにした。
研究室にいる全員の視線が、床に立つ、小さなヌーッティに集まった。
当然、その中にはアキの視線も含まれていた。
ヌーッティとアキの視線がかち合った。
「ヌーは何もしてないヌー!」
怒られると思ったヌーッティは無実を主張した。
しかし、アキはため息をつくと、ヌーッティを優しく抱え持った。
「ありがとう。ヌーッティのおかげで助かったよ」
ヌーッティは目をぱちくりと丸くした。そして、
「怒らないヌー?」
恐る恐るアキに尋ねた。
アキはヌーッティの頭をそっと撫でた。
「ついて来たのは怒る。けど、ひとまずはありがとう。それと……」
「それと?」
「みんなに紹介しなくっちゃだな」
アキは、微笑ましそうにアキとヌーッティを見守る、小春や学生たちを見やった。
「しまったヌー!」
ヌーッティは、アキ以外の人間に自身の姿を見られてしまったことに、ようやく気づいたのであった。
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