トゥーリとヌーッティ<短編集>

御米恵子

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ヌーッティ、日本へ行く!<番外編> 精霊たちの企み

2.アレクシはムーンサルトプレスを喰らう夢を見る

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 窓辺に佇むリュリュは手に隠す鋭い爪を露わにした。
 彼女の目の前には、アキがフィンランドを立つ前に新調した淡い水色のカーテンが垂れ下がっている。
 リュリュは鋭利な爪を出した左手を大きく振りかぶり、
「いきますわよ……、それっ!」
 勢いよく腕を振り下ろす。
 カーテンにリュリュの爪が引っかかり、爪は柔い布のカーテンを真っ二つに引き裂いた。
「一気に仕上げますわ!」
 いい終えるが早いか、リュリュはカーテンをどんどん切り裂き、細長い布を何枚も生み出した。床には大量のカーテンの残骸……言い換えて、リュリュの作った布切れが山積みになっていた。
 窓辺から床へ降り立ったリュリュは懐から小さな縫い針を出した。
「さて、今度は縫製ですわね」
 針に白の糸を通して玉結びをすると、ピンと糸を張り、爪先で糸を弾いた。
 糸を弾く音が静かな夏の部屋に小さく反響した。
 音が止むやいなや、リュリュは布を縫い始めた。
 何を縫っているのかはわからない。そもそも、カーテンを裁断してまで作りたいものとは一体何か――謎は残る。
 リュリュが裁縫に夢中になっていると、コンコンとドアをノックする音が部屋に響いた。
 ぎぃと音を立てて、ドアが開いた。
「ハーブとりぼんを調達してきたよ、リュリュ――え?」
 部屋へ入ってきたアレクシは切り裂かれたカーテンを見て固まった。
 時間にして数秒、アレクシの思考は停止していた。やがて、
「あら、ちょうどよかったわ。今、縫い終えたところですの」
 リュリュの声で我に返ったアレクシは急いで彼女のもとに駆け寄った。
 すると、カーテンと同色同生地の小さな巾着が三つ、リュリュのもとに置かれていた。
「そ、その布はどこで調達したんだい?」
 まさか、いや、まさかそんなことはあるまい――そう言い聞かせながらアレクシは尋ねた。すると、リュリュは切り裂かれ、ボロボロになったカーテンを指さした。
「あそこですわ」
 アレクシの予感は的中した。同時に、トゥーリからムーンサルトプレスを喰らう場面が想起された。冷たい汗が一滴、アレクシの背筋に流れた。
「リュリュ……、何を作っているんだい?」
「サシェですわ。トゥーリ様が時差ボケをなさらないように、よく眠れる魔術をかけたサシェを作っている途中ですわ。この巾着にハーブを入れて、魔術をかければ完成よ。さあ、持ってきたハーブとりぼんを渡してくださるかしら?」
 アレクシは力なく脱力した様子でリュリュにハーブとりぼんを手渡した。
 リュリュは意気揚々と鼻歌まじりに作業を進めた。三つのサシェを作り終えると、余ったカーテンの残骸、もとい端布を器用に縫い合わせ、バラを象った大判のクロスを作った。
「これはなんだい?」
「ヌーッティを仕留める罠を隠すクロスですわ」
 にっこり微笑んでリュリュは答えた。アレクシは戦慄した。一体、どんな罠を仕掛けるつもりなのか、聞こうかと思ったが、闇深いと思ったアレクシは、尋ねるのをやめて、言葉を胸の中に押し留めた。
 リュリュの裁縫が終わり、サシェが完成すると、パーティーで出す食べ物の調達のため、リュリュとアレクシは外出した。
 ヌーッティたちが帰ってくるまで、残り二日。
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