教祖様と贄

阿良々木五男

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6, 夜明け

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 借金取りに追われていたところを謎の男に助けられた日の翌朝、酒のせいで案外ぐっすり寝ていた良子は聞きなれない声で目を覚ました。それは部屋の外から聞こえてくるもので、読経のような声だった。

「あれ……ここ、どこだっけ」

 見慣れない和室に敷かれた柔らかい布団。その上で身を起こすと、窓から差し込む日差しを手掛かりに周囲を見回した。この和室には鏡台と衣装箪笥、それから作業机が置かれており、布団横には盆に置かれたコップとポットが乗っている。自分の姿を見てみると、服は昨日のままだった。あのまま寝入ったのでシャワーも浴びれておれず気持ちが悪い。

「夢じゃ無かったんだなぁ」

 独り言をつぶやく。すると、ちょうどそのタイミングで誰かが「良子様」と部屋の外から呼んだ。女の声だった。

「は、はい」

「開けても宜しいですか?」

「大丈夫です」

 さっと襖が開けられると、その向こうから40~50代の女が現れた。老緑色の着物を着たその女は、静々と部屋に入ってくると良子の近くに座った。

「おはようございます。本日から身の回りのお世話をさせていただく、シノと申します」

「身の回り……? 本日から……? ごめんなさい、話の顛末が、よく見えないんだけど」

「あら。志々目様からお聞きでないですか」

「志々目……? その名前、どこかで――」

「志々目様はここの主様ですよ、良子様」

「主??」

 目の前の女性が言っている意味が何も理解できない。何なら二日酔いで頭が痛い。ズキズキ痛む頭を手で押さえながら、良子は”志々目”という名前を必死に思い出そうとした。

「ちなみに志々目っていうのは僕のことね」

 突然聞こえた男の声に、良子は顔を上げる。そこにはいつの間にか、昨晩良子の鎖骨を噛んだ男が立っていた。昨日は酔っていてあまり気が付かなかったが、明るい場所で見るとその整った顔立ちがよくわかる。そう、そこいらのホストよりもよっぽど――。良子は頭を振った。今はそれどころではない。

「えっと、昨日は助けてくれてありがとうございました。志々目さん?」

 そう言った時、シノがじろりとこちらを睨んだのが分かった。何か不味い事でも言っただろうか。

「志々目さんはちょっと余所余所しいな。でもまぁ、祭儀はまだだし仕方ないか」

「祭儀?」

「そ、良子ちゃんにお願いした”仕事”はその祭儀に関わるものだよ。とはいえ詳細は直前に説明すればいいから、あまり余計な事は言わないでね、シノ」

「承知いたしました」

 シノが答える。

「あの、ところで今日からシノさんがお世話をしてくれるって言ってるんですけど、どういうことですか?」

「そのままの意味だけど」

「いや、そうじゃなくて」

「三百万の肩代わりをしたんだ。今日からここで住み込みで働いてもらおうと思ってね。って言っても別に良子ちゃんは何もする必要ないけど。たまにお清めくらいはしておいてくれれば良いかな」

「お清め……?」

「あ、言ってなかったっけ? ここは僕、志々目が主を務める宗教団体、白虎宗です。よろしく~」

 そう言って志々目はヒラヒラと手を振った。良子は気絶しそうになりながら、絶句するしかできなかった。
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