冬の夢

阿良々木五男

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2, 死に目を見る女

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 真理は東京の街を歩いている――はずだった。大雪はアッという間に彼女の周囲を白く染め、気が付けばビル一つない森に出た。東京に、森? 庭園にでも紛れ込んでしまったのだろうかと思ったが、だとしても周囲にビルが無いのは不自然だ。真理は不安にかられながら森の中を歩いた。戻ろうかと後ろを振り向いては見たが、後ろは白い雪と夜の闇に包まれていて、とても戻りたいとは思えない。渋々前に向き直り、急ぎ足に歩き出す。

「ううう、寒い」

 はあ、と息を吐いて両手を温める。まさかこんなに雪が降ると思っていなかったので、手袋なんて着けてこなかった。このままでは凍傷にでもなってしまいそうだ。どんどん降り積もる雪の上を歩いていく真理。流石に命の危険を感じて、警察に電話をかけようとスマホをポケットから取り出した。だが、画面には”圏外”の文字。

「嘘でしょ……どうしよう……」

 本当に死んでしまうかもしれない。こんな東京のど真ん中で。真理は恐ろしくなり必死に周囲を見回した。黒い夜の闇、白い雪、あっちも雪、こっちも雪。雪に包まれた白い木。その向こうに、灰色の何かが見える。煙だ。木の向こうから突き出した茶色い煙突。その煙突がもくもくと灰色の煙を吐いていた。

「——家だ!」

 重い脚を動かして、雪に沈む足を持ち上げて、真理は必死に走り出す。何度も転びそうになって雪に手をつきながらも、必死の思いで煙突の方に向かった。その煙突に近づくと、やがてレンガ造りの家が雪の奥から姿を現した。東京には珍しい、赤いレンガで作られた一軒家。その三角屋根には雪が積もっているが、さっき遠くから見た煙突が天に伸びている。煙が出ているのだ、人が居るに違いない。真理は玄関前の階段を上ると、藁にも縋る思いでドアをノックした。

 家の屋根に積もった雪が落ちて、どさりと音を立てた。周囲は静まり返ったまま、家の中からも返答はない。

「すみません、誰かいませんか――!?」

 祈りを込めて、もう一度ドアをたたく。待っている間の時間が、五分にも十分にも感じた。相変わらず家の中は静まり返っていて、誰の声もしなかった。もう駄目だ。真理は諦め、その場にしゃがみ込んだ。ここなら屋根が雪を遮ってくれる。せめて屋根だけでも借りよう。そう思った。

「……誰か、居るのか?」

 完全に諦めた真理の耳に、男の声が聞こえた。最初は幻聴かと思ったが、続いて足音が聞こえたので真理は顔を上げた。続いて目の前のドアからガチャガチャと鍵が開く音がして、ゆっくりと、家のドアが開いた。
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