室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々

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第1章 月森ヶ丘自由学園

チャイナ服と胡散臭い二足三文は彼のトレードマーク

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「「……………」」

「…すみません。それはいつの話しですか」

シフォンは恐る恐る尋ねた。

「いつって… 今現在まで」

三人に問い詰められている岬は、段々と不安になっていく。父や兄がよく自分にやるように、シフォンに真似てみたのだが、三人の反応からして、自分の取った行動が間違っていたらしい‥。

些か眉に皺を刻むも、岬は三人に聞く


「…ちがうのか?」

その顔は、今の今までそれが当たり前だと思っていたのを覆され、少なからずショックを受けていた。

「……貴方が変なところで抜けているのは、その環境のせいですかねぇ」

ある意味、ド天然なんじゃないかとシフォンは思う

「委員長ってば、家族に愛されてんねんなぁ」


わいは、そんな家族じゃなくて良かったと、ひそかに思った幸村、

「…たまに、鬱陶しいですけど」

気を持ち直した岬は、本音を漏らしたが、シフォンは岬の機嫌が悪くなっていることに気付き、話題を変えた。

「そ、それで隊長っ スクワットの潜伏先どうするんです? 何かアテでも‥?」

「一一あるのはある。だが、会いたくないというのが本音だ」

「…会いたくないんですか(そこまで嫌うとは…一体‥)」

「貴方々も捜して下さい。見た目は‥‥‥ チャイナ服を着た怪しい男です」



「「「…………」」」

((いや、わっかんねーよ!!))

思わず、心の中で突っ込む三人だった‥。

「いやいやいや!岬、わからねぇよ!こう、もう少し特徴とか、さぁ…」

葵がその説明じゃわからないと言うのに対し、岬は顎に手をやり、捜し人の特徴を思い出す‥

顔をふと上げた岬に皆は期待するが、出た言葉は――‥

「胡散臭い奴としか、言いようがないのですが‥」

さっきとあまり変わらぬ答えだった。


「「「…………」」」

そして間もなく、


「あぁ、そういえば‥‥ 彼はやたらと金に執着していましたね。」

「………金ですか」

「えぇ。すぐに見つかりますよ。何せ彼は… とにかく、目立ちますから。

  どうせ、今頃‥‥

行商人でも装って、観光客相手に言葉巧みに二束三文の品を法外な高値で売りつけているんじゃないですか」

「ちょっと!?あんた、一体どんな人と付き合ってるんですか!?それっもう、立派な詐欺じゃないですか!あぁ!!なんてことでしょう!??マ、マコーネルさんに、もしもバレたら…ッ」

サッと青ざめるシフォンに岬は言えなかった。

(……言えない。ものすごく言いにくい。その男が中国マフィアのボスだなんて。今言ったら、シフォンの奴、本気で地面に卒倒するんじゃ…)

ひそかに溜息つく岬は、ちらりとシフォンを見て、また溜息をついたのだった‥。

「…っていうかさぁ、そんな胡散臭い奴がこんな所にいるのか?」

葵は賑わう中華街に俄に信じられないようだ。


「…そうですね」

岬は周りを見渡し、ある一点に目をやる。そこには何故か人だかりが‥。

その観光客達を相手に喋っているのは‥

「ほら、ちょうどあんな感じで身長も差ほど変わらない高さで‥。真っ黒なチャイナ服に赤いルビーの指輪をチェーンに下げてネックレスにしているところなんて、まるで、ほ……」

((( い、いたよ!!!本当に胡散臭い奴がっ!!!)))

岬が途中で言葉を途切らし、一点に見つめる先には――‥

真っ黒い髪に少し青が混じった瞳。

円形の黒サングラスをかけていて、表情は穏やかに見えるが、そのサングラスから全てを見透かすような鋭い目は牙を隠す獣に似ていた。

真っ黒なチャイナ服に赤いルビーの指輪をわざわざチェーンに下げてネックレスにしている‥

「そこのマダム!アナタ、運がいいヨ!ここでしか、見られない珍しい品々ネ!この、翡翠の首飾り!実は伝説のお宝ネ。」

カタコトの日本語で観光客の女に、言葉巧みに売りつける見るからに怪しい人物…。

「え~、これが?」

もちろん、客の女性は男に胡散臭そうに見つめる

「ウソじゃないヨ!私、中国人。中国人は皆、良い人。ウソはつかないネ!」

ぐっと客に顔を近づけて力説する男、いや見た目からして青年か。

「そ・れ・に!私、アナタの為に勧めているネ。この宝、花瓶は約600年前、特殊な土と伝説の窯で造られた特別な花瓶ヨ。

この花瓶、花を挿して‥朝日が上り、その花瓶の水を吸った花から出る朝露は『美肌』に効く秘薬ヨ!マダム、綺麗。その為にもマダムに買って貰って美肌を保ってほしいネ」

(な゛!? 明らか騙されてるよ!!詐欺だよ!?詐欺っ!!)

いくらなんでも、気付くだろ!?と内心突っ込む葵。

(こ…… こ、こんな日中に、しかも観光地で観光客相手に堂々と… し、信じられない)

そのあまりにも堂々とした犯行の手口に驚きを隠せないシフォン‥。

(き、キザや!めっちゃキザやんっ!!うぉっ…わい無理や!鳥肌が立ってしゃあないんやけど。マジで委員長、どんな人付き合いしてるんやι)

あまりの鳥肌に身体を腕で抱え込む幸村、

三人の心境は実にバラバラだった‥。

「ま!美肌なんて、もぅっ 正直者なんだからっ!それで…おいくらかしら?」

マダムは、やっぱり私って綺麗よねぇ‥と自分にうっとり。

(((し‥信じてるよっ この人!!)))

「オネーサンみたいな人に、は!超低価格で大サービス、ネ。これとこれの幻の化粧水も付け合わせて、なんと、この価格ネ!15万『バシッ!』

「あ痛ぁっ!」

「痛くて当然です。叩いたのですから。なに、二束三文の品を法外な価格で売りさばいてるんですか。詐欺もいいところです。

それに、ロンこんな何処にでもある花瓶やこの化粧水も貴方の売り付けている値段よりも遥かに安いんですが?」

「あいやぁ!ボス、久しぶりネ。会いたかったヨ」

「僕は会いたくなかったです。というより、僕が来ることをわかっていたんでしょう?」

「さぁネ、知らないヨ。中国人、正直者ヨ!」

「嘘つけ」

「むぅっ‥。時にはご婦人方に夢を見させることも大切ネ。私、いい人」

「ちがいますね。貴方の場合、金を持ってそうな観光客の女性ばかり狙ってますし、よくもまぁ‥こんな見え透いた嘘に騙されますねぇ… 毎度毎度。」

崙という男がカモにしていた女客に目をやる と、女はふるふるッ… と拳を握り締めていた。
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