― 閻魔庁 琥珀の備忘録 ―

- アルファード王国と黒い獅子 -

『出逢い』

チュン！

   ピチュパチュチュ…


「う、ッ此処は…」

聞いたことのない鳥の囀りに、薄っすら目を開ける。どうやら、自分は少しばかり気を失っていたようだ。ゆっくり体を起こして、パンパンと付いた土を払い、一通り見渡すと、そこは――‥ 

自分が立っているそこは草むらで、時おり、風に吹かれて木の葉がさわさわ… とざわめく。


上を見上げると、白い雲と のどかな空。時おり、白い雲が風に押されて流れていく… 
青い空と白い雲、暖かな風と、ざわめく木の葉の緑… 地獄界は赤と黒、白が主な色に対し、このカラフルで色鮮やかなこの光景は… 琥珀にとって、何もかもが新鮮で、美しく感じた。

    さわさわ…

のどかな風が琥珀の髪をそっと撫でていく。手が届きそうで届かない… 雲を掴むように空へと手を伸ばすと、

  ピチュパチュチュッ！

小鳥が飛んで来て琥珀の手に止まった。

生きた動物に初めて触れた琥珀は小さく息を呑む。けれど、小鳥はそんな琥珀を他所に毛繕いすると、今度は一声鳴いて、琥珀の肩に止まった。

ピチュチュチュッ？


首を傾げては一歩、また一歩と… 琥珀に近付き、また首を傾げる。そんな小鳥に恐る恐る手を伸ばし、触れてみると、また首を傾げた。


   ◇◇◇

「ふっ… ふふっ」

思わず笑ってしまった自分に少しばかり驚いてしまいました。笑ったのは何時ぶりでしょうか…？最近は… いえ、ずっと、仕事に追われる日々で忙しく笑い方さえ忘れてしまったと思っていた自分に思わず笑ってしまう。

「ふふっ、擽ったいですよ」

小鳥が戯れたいてくる… 地獄界にいた頃は皆、顔を合わすのは死者で、当然体温もなにも感じることはありませんでした。『小鳥』という生き物にも初めて触れ、その包み込むような羽毛、そっと触れると地獄界にいた時には考えられない… 

鼓動と共に暖かな体温を感じました。

カサリ、と草むらにまた寝転んでみる…


その、のどかな風と揺れる木の葉のざわめきが、まるで子守唄のようで… 

自然と瞼が下りた。