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第1章~出会い
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僕が彼女に出逢ったのは遡ること20年前、まだ僕が8歳にも満たない時のこと、
「パカッ、パカッ、パカッ、トッ、ヒヒーン」
5歳の頃から馬を慣らしていた僕は、猛スピードでとあるスイスの財閥家の屋敷へ急いでいた。警備が頑丈な敷地の豪華な装飾の施された黒と金の門をくぐり、まるで森の中のような長い石畳の道を抜け、玄関前のロータリーでサッと馬から飛び降りたのは、今でも良く覚えている。それくらい僕、アレクサンダー・ベルナルド・フォン・ハイスラーは、とある知らせを聞いて無我夢中になっていた。
話を少し戻すと、この大豪邸の持ち主である「とあるスイスの財閥家」とは、世界にあらゆるジャンルの商売で名を轟かせていて、ここ、スイスでは知らぬ人はいないフラワーグループの会長の出身家である、
「エーデルワイス家」なのである。
馬をつなげに行かねばと思っていると、顔馴染みの年配のベテランメイドが若い執事を数人連れて話しかけてきた。
「アレクサンダー様、我々が馬をつけておきます。シャルロット様もお待ちかねておりますので、どうぞ、中へお急ぎ下さいまし。」
まだ8歳にも満たない僕に使いの者達は皆、深々と頭を下げた。「助かった」とは思いつつも、正直、周りからのこんな丁寧な対応を、会長の家族や特別偉いゲストでもない僕に向けられることは、少し違和感を感じていた。
とりあえず、「どうも、ありがとう。」と無難に返した。
馬を預け、執事によって開かれたままの歴史を感じさせるドアを通り、さらに大人数のメイド達が並んでいるだだっ広い玄関スペースと大理石の階段、値段のつけようのない絵画や花瓶ばかりがあちこちに飾られた長い長い廊下を渡り、人の集まるサロンへ向かった。(この場合のサロンはリビングの事。)
サロンに着くと、メイドの言葉通りに、エーデルワイス氏の長女のシャルロット嬢が近付いてきた。
「アレックス? お待ちしていましたのよ。 お母様もお父様も会いたがっておられます。」と自慢のブロンドヘアをなびかせながらシャルロット嬢が言い、僕の手を掴もうとした。
しかし、僕はそれを分からないようにかわし、
「それは申し訳ありません。直ぐにご挨拶を。」と言って、シャルロット嬢の横を小走りで通り過ぎた。
と言うのも、幼馴染みのシャルロット嬢は僕より一学年下で、正直、僕は彼女が苦手だった。なぜなら、気品高く、誰もが憧れる容姿を兼ね備えるが、我が儘で面倒な性格の持ち主なのだ。それに加え、7歳だというのに化粧をしたりと変に行動もませているのも理解し難かった。
深い赤の絨毯の敷いてある煌びやかなシャンデリア付きの廊下を通り、シャルロット嬢の母親、ナタリーさんのプチサロンのドアをノックした。部屋の中から返事があり、執事によって開けられたドアから僕は静かに部屋に入った。
「ご機嫌いかがですか?ナタリーさん。この度、ご無事な出産で何よりです。赤ちゃんの名前はもうお決まりですか?」今思えば、7歳とは思えない返事をしていた。
「いらっしゃい、アレックス。 久しぶりね。 よく顔を見せて。」とエーデルワイス夫人は宝石の様な緑がかった青の瞳を細め、柔らかく微笑み返してくれた。この絶世の美女、ナタリーヌ事、エーデルワイス夫人は、物心つく前に母親を亡くした僕にとって、本当の母親ごとく慕っている人物だった。
そして今日ここに駆けつけた最大の理由である「とある知らせ」とは、ナタリーさんの生まれたばかりの赤ん坊を一目見ることだった。僕が近付いて行くと、ソファーに座っていたナタリーさんは赤ん坊を抱えながら僕の頰に手を伸ばした。もちろん僕はそれを避けない。
「顔がまたしっかりしてきたわね、アレックス。見て、結局、男の子では無かったけど、とても可愛い赤ちゃんでしょ? 自分で言うのも恥ずかしいのだけれど。名前はフランソワ・ローズ・フォン・エーデルワイス。あなたも妹同然に可愛いがってあげてね。」そして白い布に包まれた赤ちゃんの笑顔を見せた。
ナタリーさんはシャルロット嬢を産む前と産んでからも何度か流産を経験していた。周りからの男世継ぎの期待が大きいせいもあっただろう。だから彼女のとても嬉しそうな顔を見れて僕も嬉しかった。
「抱っこしてあげて。」
僕の目がキラキラしていたからだろうか、ナタリーさんがすすめてくれた。僕はナタリーさんの隣に座り、遠慮がちに初めて赤ちゃんを抱っこした。
「可愛い...君はフランソワ・ローズだからリトルローズと呼ぶよ。」赤ちゃんに話しかけた。小さいバラの様に愛らしい、正にフランソワにぴったりな愛称だった。
「ふふっ。リトルローズね。下手すれば、シャルロットより可愛いかも。なんて内緒ね。」とエーデルワイス夫人は冗談めかしに、でも満更でもない様に言いました。
僕はナタリーさんが話している間も目の前の赤ちゃんに目を奪われていた。キャッキャッと可愛い声をたてて笑うリトルローズは今朝喧嘩した兄のことや嫌のことを全て忘れさせてくれる様だった。
エーデルワイス夫人と話をしていると、隣の書斎からエーデルワイス氏が速足でやって来た。
「アレックス、久しぶりだね。ミスターハイスラーには昨日会ったよ。ご兄弟も元気かね?」とふんわりと優しく笑って、僕の肩をポンポンと叩いた。ミスターハイスラーとは、僕の父のことで、2人は幼い頃からの古き良き友人だ。その甲斐あってか、息子である僕はエーデルワイス氏に気にかけてもらえる。
「はい。マーティンさん、ご無沙汰しております。この度は誠におめでとうございます。」またもや、今思えば、年齢に不似合いな対応をしていた。
「はっはっは~。君は本当に7歳かね? 実に大人の様だ。アレックス、私は「完璧な大人」を求めているわけでは無いのだよ。君は君らしくいればいいのだ。」エーデルワイス氏は優しく、しかしはっきりと言った。
「はい。」僕もはっきりと頷いた。僕にとってエーデルワイス氏はビジネスにおいても、一人の男性としてとも憧れだった。それからリトルローズのことで話が盛り上がっていた。
側で2人の会話を聞いていたナタリーさんが言った。「アレックス、もう遅いし、今夜は泊まっていってね。部屋はいつものシャルロットの隣を使ってね。用意してあるから。」
「ありがとうございます。ナタリーさん。」素直に頷き、エーデルワイス氏に言われた様に僕の年齢らしく答えた。
これから始まるディナーで運命が揺れることも知らずに。
「パカッ、パカッ、パカッ、トッ、ヒヒーン」
5歳の頃から馬を慣らしていた僕は、猛スピードでとあるスイスの財閥家の屋敷へ急いでいた。警備が頑丈な敷地の豪華な装飾の施された黒と金の門をくぐり、まるで森の中のような長い石畳の道を抜け、玄関前のロータリーでサッと馬から飛び降りたのは、今でも良く覚えている。それくらい僕、アレクサンダー・ベルナルド・フォン・ハイスラーは、とある知らせを聞いて無我夢中になっていた。
話を少し戻すと、この大豪邸の持ち主である「とあるスイスの財閥家」とは、世界にあらゆるジャンルの商売で名を轟かせていて、ここ、スイスでは知らぬ人はいないフラワーグループの会長の出身家である、
「エーデルワイス家」なのである。
馬をつなげに行かねばと思っていると、顔馴染みの年配のベテランメイドが若い執事を数人連れて話しかけてきた。
「アレクサンダー様、我々が馬をつけておきます。シャルロット様もお待ちかねておりますので、どうぞ、中へお急ぎ下さいまし。」
まだ8歳にも満たない僕に使いの者達は皆、深々と頭を下げた。「助かった」とは思いつつも、正直、周りからのこんな丁寧な対応を、会長の家族や特別偉いゲストでもない僕に向けられることは、少し違和感を感じていた。
とりあえず、「どうも、ありがとう。」と無難に返した。
馬を預け、執事によって開かれたままの歴史を感じさせるドアを通り、さらに大人数のメイド達が並んでいるだだっ広い玄関スペースと大理石の階段、値段のつけようのない絵画や花瓶ばかりがあちこちに飾られた長い長い廊下を渡り、人の集まるサロンへ向かった。(この場合のサロンはリビングの事。)
サロンに着くと、メイドの言葉通りに、エーデルワイス氏の長女のシャルロット嬢が近付いてきた。
「アレックス? お待ちしていましたのよ。 お母様もお父様も会いたがっておられます。」と自慢のブロンドヘアをなびかせながらシャルロット嬢が言い、僕の手を掴もうとした。
しかし、僕はそれを分からないようにかわし、
「それは申し訳ありません。直ぐにご挨拶を。」と言って、シャルロット嬢の横を小走りで通り過ぎた。
と言うのも、幼馴染みのシャルロット嬢は僕より一学年下で、正直、僕は彼女が苦手だった。なぜなら、気品高く、誰もが憧れる容姿を兼ね備えるが、我が儘で面倒な性格の持ち主なのだ。それに加え、7歳だというのに化粧をしたりと変に行動もませているのも理解し難かった。
深い赤の絨毯の敷いてある煌びやかなシャンデリア付きの廊下を通り、シャルロット嬢の母親、ナタリーさんのプチサロンのドアをノックした。部屋の中から返事があり、執事によって開けられたドアから僕は静かに部屋に入った。
「ご機嫌いかがですか?ナタリーさん。この度、ご無事な出産で何よりです。赤ちゃんの名前はもうお決まりですか?」今思えば、7歳とは思えない返事をしていた。
「いらっしゃい、アレックス。 久しぶりね。 よく顔を見せて。」とエーデルワイス夫人は宝石の様な緑がかった青の瞳を細め、柔らかく微笑み返してくれた。この絶世の美女、ナタリーヌ事、エーデルワイス夫人は、物心つく前に母親を亡くした僕にとって、本当の母親ごとく慕っている人物だった。
そして今日ここに駆けつけた最大の理由である「とある知らせ」とは、ナタリーさんの生まれたばかりの赤ん坊を一目見ることだった。僕が近付いて行くと、ソファーに座っていたナタリーさんは赤ん坊を抱えながら僕の頰に手を伸ばした。もちろん僕はそれを避けない。
「顔がまたしっかりしてきたわね、アレックス。見て、結局、男の子では無かったけど、とても可愛い赤ちゃんでしょ? 自分で言うのも恥ずかしいのだけれど。名前はフランソワ・ローズ・フォン・エーデルワイス。あなたも妹同然に可愛いがってあげてね。」そして白い布に包まれた赤ちゃんの笑顔を見せた。
ナタリーさんはシャルロット嬢を産む前と産んでからも何度か流産を経験していた。周りからの男世継ぎの期待が大きいせいもあっただろう。だから彼女のとても嬉しそうな顔を見れて僕も嬉しかった。
「抱っこしてあげて。」
僕の目がキラキラしていたからだろうか、ナタリーさんがすすめてくれた。僕はナタリーさんの隣に座り、遠慮がちに初めて赤ちゃんを抱っこした。
「可愛い...君はフランソワ・ローズだからリトルローズと呼ぶよ。」赤ちゃんに話しかけた。小さいバラの様に愛らしい、正にフランソワにぴったりな愛称だった。
「ふふっ。リトルローズね。下手すれば、シャルロットより可愛いかも。なんて内緒ね。」とエーデルワイス夫人は冗談めかしに、でも満更でもない様に言いました。
僕はナタリーさんが話している間も目の前の赤ちゃんに目を奪われていた。キャッキャッと可愛い声をたてて笑うリトルローズは今朝喧嘩した兄のことや嫌のことを全て忘れさせてくれる様だった。
エーデルワイス夫人と話をしていると、隣の書斎からエーデルワイス氏が速足でやって来た。
「アレックス、久しぶりだね。ミスターハイスラーには昨日会ったよ。ご兄弟も元気かね?」とふんわりと優しく笑って、僕の肩をポンポンと叩いた。ミスターハイスラーとは、僕の父のことで、2人は幼い頃からの古き良き友人だ。その甲斐あってか、息子である僕はエーデルワイス氏に気にかけてもらえる。
「はい。マーティンさん、ご無沙汰しております。この度は誠におめでとうございます。」またもや、今思えば、年齢に不似合いな対応をしていた。
「はっはっは~。君は本当に7歳かね? 実に大人の様だ。アレックス、私は「完璧な大人」を求めているわけでは無いのだよ。君は君らしくいればいいのだ。」エーデルワイス氏は優しく、しかしはっきりと言った。
「はい。」僕もはっきりと頷いた。僕にとってエーデルワイス氏はビジネスにおいても、一人の男性としてとも憧れだった。それからリトルローズのことで話が盛り上がっていた。
側で2人の会話を聞いていたナタリーさんが言った。「アレックス、もう遅いし、今夜は泊まっていってね。部屋はいつものシャルロットの隣を使ってね。用意してあるから。」
「ありがとうございます。ナタリーさん。」素直に頷き、エーデルワイス氏に言われた様に僕の年齢らしく答えた。
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