裏切りの悪女ですが、もう二度と裏切りません

朔良 逢

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7、アルセナ帝国とこれから

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驚いた。
私が自害(未遂)してから何年かは経っているだろうとは思っていたが、まさか10年も経っていたとは思っていなかった。
驚きのあまり声は出ず、私はノアを見つめながら口をパクパク金魚のように動かす。

「………………5年位しか経ってないかと思ってた……」

ノアがここまで大きくなっているはずだ。
10年という年月は様々なものを成長させて飛躍させる。
……それは国も例外ではない。

「10年で、このアルセナ帝国もずいぶん変わりました」
「変わった?」
「はい。8年前に現皇帝が即位し、同時に皇后も誕生しました。お2人のお陰で復興も2年弱で終わりましたし、前よりより民の声を聞き、民の為に力を振るう良い国になったと思います」
「へぇ……」

アルセナ帝国は比較的平和な国だ。
国内での争いや犯罪も少なく、気候も安定していて過ごしやすい。
資源も豊富で、農作物もよく育つ。食べ物に困るような事はそうそうない。
民も明るい人柄の人が多く、思いやりの精神を持っている。
互いに助け合い、競い合い、高めていくような、そんな国だった。
前も充分いい国だと思っていたが、更により良い国になったのか。
現皇帝と皇后は素晴らしくできた人間なんだろう。

「……凄いな、今の皇帝と皇后は人格者なのね」
「そうですね、上に立つべく生まれた方々だと思いますよ、シエラ様が1番よく知っていると思いますが……」
「え?」
「現皇帝の名は、アベル・アルセナ・カルレーム。雷属性魔力を持つ元第1皇子。そして皇后の名は、エレノア・アルセナ・カルレーム。元ブランシェ侯爵家令嬢にして、稀有な光属性魔力の持ち主です」

ドッと心臓が大きく跳ねた。

『シエラ!』

記憶の中のエレノアが私を呼ぶ。
思い出すのはエレノアと過した日々。
そして、10年前のあの日の、エレノアの泣き叫ぶ顔。
後悔と罪悪感に苛まれる。
冷や汗が額から流れ、手が震え始めた。
その震えを止めるようにギュッと拳を握る。
その拳をノアの手が覆った。

「落ち着いて、深く息を吸って……ゆっくり吐いて……」

ノアに言われた通り、ゆっくり深呼吸を繰り返す。
徐々に震えも収まり、私はホッと息を吐いた。

「……迷惑かけてごめん……」
「迷惑だなんて思っていませんよ。私も配慮が足りませんでしたね、すいません……」

しゅん、と落ち込んだ顔をするノア。
私は首を横に振り、話の続きを促した。

「……お2人が即位して1年後に第1皇子、その2年後に第1皇女、そして2年前に第2皇子がお生まれになって……何度かお会いしていますが、全員幸せそうですよ」
「……そう、そう……それを知れただけで、私は……」

良かった、本当に。
彼女達が幸せに暮らしていると聞いて心底安心した。
じわりと涙が浮かんでくる。
あぁもう、この幼い身体はすぐに涙が出てきてしまう。
本当にどうにかならないだろうか。

「……それで、私もあなたにいくつか聞きたい事があるのですが……」
「うん」
「あの、ずっと気になっていたのですが、その身体は一体……?髪の色も違いますし……」
「ああー……」

私はここに至るまでの経緯を大まかに説明した。
精神世界の事とニクスとの事は隠し、森の中の氷洞でずっと眠っていた事、ノアと再開した日に目覚めた事、身体については、「知り合いに治してもらったが、損傷が激しくて身体が小さくなってしまった」と説明した。
自害した時、光の粒子となって消えたのも、身体を治すのに一時的に身を隠す為にその知り合いがやったのだと。
ノアは少し考えるように目を伏せると、神妙な面持ちで呟く。

「……それは、あなたの中にいる"何か"と関係がありますか?」
「……!!天眼で見えるの?」
「はい、詳しくはよく分かりません。靄がかっていてよく見えない……でも、あなたの中に、あなたではない魔力が……あなたとはまた別の"何か"がいるのは分かります」

凄い。天眼とはそんな所まで見えるのか。
私は、ノアにニクスの事を話すか悩んだ。
アルセナ帝国において、ニクスは悪神で、昔よりはましだが今も多くの人々から恐れられている。
結局私は、ノアにニクスのことを話すのはやめた。
まだその時ではない気がしたのだ。

「……何かはまだ言えない。でも、悪いことはしない……と、思う」
「……そうですか、シエラ様がそう言うなら、その言葉を信じましょう。……いつか、時が来たら教えてくださいね」
「……うん」

私は素直に頷いた。

「身体はずっとその大きさなんですか?」
「ううん、歳を重ねるにつれて成長していくみたい。……ただ、すぐに元の大きさに戻れる方法もあるみたい」
「そうなんですか?」

ノアが椅子から腰を浮かせ、私の方に身を乗り出してくる。
急に近くなった顔に少しドキドキしながら、私は精神世界でニクスに言われた事を思い出した。

『すぐに元の大きさに戻れる方法も、ある』
『足りない部分を魔力で補うのだ。これを行うには大量の魔力……それも、火、水、土、風、雷、氷、光、闇。8つ、全属性の魔力をお前の身体に注がなければならん。成功するかどうかは五分五分、失敗したら最悪お前は死ぬ』

まあ、やるかやらぬかはお前次第だ。
そう言い楽しそうに笑むニクスは、まさに悪神の顔をしていたと思う。

私はニクスの言葉をそのままノアに伝える。

「足りない部分を魔力で補うんだって。8つの魔力を大量に私に注がないといけないって」
「8つの魔力を、シエラ様に注ぐ……ですか」

なるほど、と言い、ノアは腕を組み考え込む。
最後のくだりを伝えなかったのは、少しでもで私に危険な事があると知れば、優しいこの人は絶対に止めてくると思ったから。
例え半分の確率で私に何か起こるとしても、私は早く元の身体に戻りたかった。
幼い身体では動きにくいし、出来ることが限られるからだ。
少しでも早く元の身体を取り戻さなければならない。
でなければ、私の罪滅ぼしは始まらない。

「……今すぐに、というのは難しいですね。どれほどの魔力が必要か分からないのであれば、なるべく膨大な魔力を持つ人間を探さなければなりませんから」
「そう、だよね……やっぱり今すぐは難しいか……」
「今すぐが難しいだけで、出来ない訳ではありません。少し時間はかかるでしょうが、準備は進めていきましょう。風属性は、私に任せてください」

ニッコリと爽やかな笑みを浮かべ、左の人差し指を立ててくるんと回した。
するとその場に手のひらサイズの可愛らしい竜巻が現れ、徐々に上に上がって消える。
ノアは風属性魔力の持ち主、それもかなり膨大な量の魔力を保持している、らしい。
森で魔物に遭遇して助けてもらった時も一瞬でカタをつけていたし、私なんかより全然強い魔法使いだろう。
ノアにつられて私の頬も自然に緩む。
そしてふと、ノアは何かに気付いたようにハッとした顔をした。

「大切な事を忘れていました……!シエラ様、これからの事なんですが、このまま私と一緒に帝都に行きませんか?」
「帝都に?」
「はい、元々私は、魔物が増えたとの報告を部下から貰って、森に討伐に来ていたんですよ」
「えっ、仕事中だったの!?」

驚く私を見て短く笑い声を上げる。

「ああ、討伐自体はもう終わってますので気にしないでくださいね。あの日森に行ったのは、行かなければならないと思ったからです」
「虫の知らせってやつ?」
「そうかもしれません。……でも、おかげで危ない時に助けに入ることが出来ました」
「……あの、ノアって今なにやってるの……?」
「……そういえば、まだちゃんと言ってはいませんでしたね。旧知の仲だと後回しにしてしまいました」

そう言いノアは椅子から立ち上がると、右手を左胸あたりに添えて、恭しく頭を下げた。
そうして伏せていた頭をゆっくり上げてから微笑む。

「​───改めまして、ルアクイン公爵家当主、ノア・ルアクインと申します。アルセナ帝国特殊討伐部隊隊長も兼任しています。これからよろしくお願いします、シエラ様」
「……え、えぇぇぇぇ!!?」

本日2度目の叫び声が屋敷の中に木霊した。

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